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地方創成をバックアップする居酒屋で海外にも躍進 - e店舗 produced by G-FACTORY

作成者: tetsuyuki_chiba|Feb 3, 2020 4:23:11 PM

 

地方創成の試みが日本各地で推進されているが、その一つに東京の飲食業が地方産の食 材を使用した飲食店を展開するという形がある。その先鞭をつけたところが株式会社 funfunction(本社/東京都中央区、代表/合掌智宏)である。このような同社の活動が評価 されて同社代表の合掌智宏氏は「外食アワード 2014」を受賞した。

株式会社funfunction代表取締役の合掌智宏氏

 

「全国各地の市町村と連携した〝アンテナショップ居酒屋″が大ヒット。さまざまな食材が眠る地方の町に着眼し、『ご当地酒場 北海道八雲町』、『カキ酒場 北海道厚岸』、『佐賀県 三瀬村ふもと赤鶏』など、市町村名を店名に冠する大胆かつユニークなコンセプトで全 14 店舗(当時)を展開。地方自治体と飲食業の新しい結びつきの形を示した。」――これが表彰理由である。

 

主要エリアでのドミナントでメリットを享受

同社の会社設立は 2006 年 11 月、現在は 32 店舗となり社員独立支援の「社内オーナー制度」の店はうち 9 店舗となった。このような陣容で、国内の店舗展開は新しい生産地の開拓を進めていながらも既存店を増やしていくことを優先している。それは、1つのブランドの 店数が増えることによって、既存の生産者から仕入れる量が増えていくからだ。これがまた、 同社の「アンテナショップ路線」の理にかなっている。

 

その象徴的な例は「佐賀県三瀬村ふもと赤鶏」である。昨年10 月に秋葉原にオープンして計9店舗となった。生産者のそれぞれには「ふもと赤鶏」の生産量を増やしてもらっている。うち FCは東京、大阪と2店舗ある。

「佐賀県三瀬村ふもと赤鶏」秋葉原店。食材の力で差別化する

 

同社の主な展開エリアは三越前、日本橋、八重洲であることから、店舗数が増えることに よって多くのメリットを享受するようになった。

まず、同社の店舗のロゴは筆文字でブランドが変わっても同じ書体で、系列店であること が容易に分かる。そこでこれらを訪れる人の認知度が高まった。ドミナントであることから 人材面でのメリットが出てきた。 特に「コレド」ブランドの商業施設が整っている三越前エリアは同社にとって得意とするところだ。

かつての土日はさみしい街であったが、コレドの中の映画館が充実することによって土日に人が集まる街に変わっていった経緯も知っている。この店の売上も平日より土日の方が高くなった。 コレドができる以前からこのエリアで「北海道八雲町」を営業、2014 年 3 月にオープンしたコレド室町2に「北海道厚岸」を出店。日本橋にある「北海道厚岸」の日本橋本店は、『ミシュラン』のビブグルマンにも選ばれた。これによって知名度は格段に上がり、グループ店舗も注目されるようになった。

コレド室町2の「北海道厚岸」はビブグルマンに選出された

 

一方で、メリットにつながらない部分もある。それは物流だ。少量多品種であるために物 流センターをつくったとしても有効に機能しない。その点、「しかしながら」と前置きして 合掌氏はこう語る。

「それが当社の業態の特徴です。ですから、その面では苦労をしようと思っています。物流で苦労をすることがわれわれがお客さまに喜んでいただくためのフックとなっています。さまざまなところから食材を引っ張ってくる会社の事例は他にはない。これが差別化のポイントで、ここにはとことん頑張ろうと思っています」

コレド室町テラスの入り口近くにある「鮨の与志喜」は海外展開の可能性を拓く

東京以外で展開する場合は FCでは想定できるが、同社の業態は都市型と認識しており、 「田舎の良いものを東京に持ってくることが当社の仕事であり、田舎をPR する役割があ る」(合掌氏)ということから、東京以外で展開することに関しては積極的ではない。

 

「インバウンド対策は全く意識していない」という。

「当社の店は日本のことをよく知っている日本の人たちに受け入れられる店です。『こんな 街にこんな食材があるんだ』という形で喜んでいただく。それが当社の店の面白さです」と 合掌氏は語るが、最近は外国人のお客さまが増えているという。これは日本観光のリピータ ーが増えていることから、ディープな日本を楽しもうとする傾向の表れであろう。

 

技術レベルの高い江戸前のすし店を事業継承

funfunctionでは昨年9月に、日本橋室町にある「鮨の与志喜」を事業継承した。場所は 再開発を終えたばかりのコレド室町テラスの入り口近くにあり、土日も人通りがにぎやか な絶好の立地である。

 

事業継承をすることになったきっかけは、「現状はすし店」という物件情報と巡り合った こと。同店は 23 年間継続した店で、ここで育った 70 歳少し手前と 30 代半ばの職人が二人いる。可能であればこの二人も引き継いで、現状のすし店をそのまま継承してほしいということであった。客単価は 1 万 3000 円。

 

合掌氏は、同店に何度か食事に訪れて、昔ながらの江戸前の仕事をきちんとしているすし 店であることに感銘を受けて、これがなくなってしまうことは大変惜しいことだと思うよ うになった。そして、「自分が店を買い取って、自分流のすし店につくり変える、というこ ともできたが、このまま運営を続けた方がいいだろうなと思った」(合掌氏)という。

 

事業継承した後には、同社の社員も加わって同店のノウハウを習得していくことを考えた。 これは、海外展開を視野に入れていることだ。海外ではすしはキラーコンテンツである。 同社の海外展開は「北海道酒場」というブランドでシンガポールに直営で1店舗、他に FC でシンガポール、ジャカルタ、クアラルンプール、香港、深圳と5店舗展開している。

 

合掌氏に「海外展開でこの間どのようなことを学んだか」と尋ねた。それに対して「それ は日本食への関心度の高さ、一方でビジネスとしての難しさということです」と答えてくれ た。「難しさ」とは、ビザ、物流、人材マネジメント等々、このようなことは日本で営業す ることよりもはるかに煩雑な部分が多い。しかしながら、海外では「日本食」が待望されて いて人気を博すチャンスがある。合掌氏はこう語る。

「例えば日本で、日本人が経営しているナポリピザの店に、ナポリの職人がやってきたとい えば、それはとてもありがたいことだと思ってその店に食べに行くでしょう。それと同じよ うに、現地の人が経営している日本料理店に、日本人の職人がいるということになればそれ をありがたいことで、さらに、日本人が経営していて日本人の職人がいる日本料理店とは、 とても貴重な存在なのです」

 

海外展開での新しいステージを迎える

ベトナムのホーチミン市で急成長している日本料理店に「HOOKAIDO SACHI」という すしをメインにした店がある。筆者はここの幹部に、「どうして店名がホッカイドウなの か?ハカタでないのはなぜか?」と尋ねた。すると返ってことは「ホッカイドウは食材が新 鮮でおいしいというイメージがある」という。 このような意味で既存の「北海道酒場」に「鮨の与志喜」が加わることは海外展開において新しいステージを切り拓くことであろう。

 

ただし、これからは新興国での展開を進めていくのか、ロンドンのような先進国にチャン スがあるのかを見極めようとしている。 いずれにしても、海外では「日本食」への注目が高まっている。同社が日本においては食材を通じて地方創成をバックアップする役目を果たし、独自に少量多品種の物流を育ててきて「地方」や「郷土」をアピールする飲食店としては強烈なノウハウを培った。

 

「そのような意味では海外でわれわれのような会社が活躍する舞台は整ってきたと思って いる」と合掌氏は語る。日本にいて日本の地方の良さを追求していくことは、グローバルな道を拓いていくことを感じさせた。