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アイドルタイムに「かき氷専門店」をはじめ、新規事業の手応えつかむ - e店舗 produced by G-FACTORY

作成者: tetsuyuki_chiba|Jul 8, 2020 3:27:20 PM

筆者がKUURAKU GROUP(以下、くふ楽)のことを初めて知ったのは、2007年3月13日に開催された第2回「居酒屋甲子園」全国大会のことであった。ファイナリストである各チームのプレゼンテーションの開始前にチームが作成した映像が投影されるのだが、くふ楽の場合は、真っ暗な画像で若者たちが声を潜めて何かを待ち望んでいる様子のものから始まった。その真っ暗な映像の中にオレンジ色の閃光が現れ、それがだんだんと映像全体を明るくしていき、若者たちの声は大きな歓声に変わった。

この映像は富士山のご来光の様子であった。くふ楽が新入社員研修として例年行っているものだという。

これに続くチームのプレゼンテーションは、実にはつらつとしていた。会社が立ち上がって8年(当時)、社業とともに自分が成長していることを実感している社員一人一人の発表が輝いていた。

「インバウンド」「アウトバウンド」にいち早く取り組む

くふ楽代表の福原裕一氏は、1965年生まれ、横浜市出身。くふ楽は1999年4月、千葉・本八幡の民家を改造した焼鳥居酒屋からスタートした。福原氏は高校時代に野球部キャプテンを務め、卒業後は花王に就職。同社勤務時に日本マクドナルドの創業者、藤田田氏の著作を読み感銘を受け、21歳の時に同社に入社した。ここで「自分で事業を起こそう」と夢を追い続けた。

25歳の時に留学生の友人と貿易の事業で起業。この他の事業も手掛けたが、軌道に乗らず、2年間で会社が機能しなくなり、500万円の借金をかかえることになった。以来、アルバイトを掛け持ちし、寝る間も惜しんで働く2年間を過ごすと、借金も200万円まで減り、精神的にも立ち直っていった。

ちょうどそのころ、1995年3月、地下鉄サリン事件が起きた。「人生はいつ何が起こるか分からない、もう一度自分の可能性に挑戦したい」という強い思いに突き動かされた。マクドナルドで感じた充実感を思い出し、外食産業での起業を決意した。

株式会社KUURAKU GROUP、代表取締役の福原裕一氏

 

現在の業容は、飲食事業が国内17店舗、海外17店舗(インド7、カナダ7、インドネシア1、スリランカ1、アメリカ1)、国内での教育事業が5事業所、そして海外進出支援も行っている。

飲食業の業種は焼鳥店が多いが、これは企業としての基盤を早期につくり上げるために選択したことだ。焼鳥という商品は利益率が高い。炭火で焼くことによって素材の持ち味が生かされた継続性の高い商売ができること。さらに、お客さまは老若男女と幅広い。念願の銀座出店は創業した翌年に3号店として達成している。

 

海外進出も創業当時から目標としていた。海外1号店は2004年のカナダであるが、インド在住の日本人事業家とパートナーシップを結ぶことによって、インド国内での店舗展開の他、東南アジア地区でのFC展開も行うようになった。

 

このようなくふ楽にとっての「アウトバウンド」は「インバウンド」の可能性も切り開いた。

まず、古くからの中国人の友人と交流を重ね、他に先駆けてキャッシュレス決済「Take me pay」を導入し、中国からのインバウンドを受け入れるようになった。特にくふ楽を代表する銀座1号店の「串焼BISTRO 福みみ 銀座店」ではコロナ禍以前の売上の6割がインバウンドによるもので、過去最高のセールスを獲得していた。

また、外国籍の人材を積極的に採用している。現在は、中国、ベトナム、バングラデシュ、ネパールという外国籍の社員が全55人のうち2割を占めている。彼らはみな語学力が秀逸で、インバウンドの顧客満足度向上に大いに役立っている。

 

居酒屋のアイドルタイムを活用し「かき氷」に挑戦

さて、くふ楽ではこのコロナ禍にあってどのように動いているのだろうか。

福原氏は、「大打撃です。過去の返済分を含めて、4月5月で1億円がキャッシュアウトしました」と語るが、この間に新しい挑戦を展開している。

まず、給与は社員、アルバイト共に全額保証している。約2カ月間の休業中には、週に1回社内でのオンライン飲み会を行った。ここで、オフラインとの違いを把握して、オンライン飲み会では味わえない飲食店の強みを把握した。また、コロナ禍での会社の方針等を共有するために全社員によるオンラインのミーティングを行った。

 

そして売上をつくるために「かき氷業態」を新たに開発した。実施店舗は、入り口が路面にある本八幡店、銀座店、町屋店、北千住店が対象となった。この間、多くの飲食店はテイクアウト・デリバリーに取り組む事例が増えたが、夏場に向かいまた店前の人通りが増えるようになって、居酒屋のアイドルタイムの12時から16時にかき氷を販売するアイデアは、特に下町の店で実績を挙げている。

 

福原氏は「日本式かき氷でチェーン展開をしているところは見当たらず、これから当社の今回の試みがかき氷チェーンとしての位置を確立する可能性を秘めている」と手応えを感じている。

日中にかき氷を販売している店では、専用の水色の暖簾を掲げて、ファサードの上の部分にたくさんの風鈴を付けている。いかにも涼しげである。

 

商品は、イートインとテイクアウトに分かれている。ちなみに銀座の「純氷かき氷 大吉」の場合、イートインは期間限定商品の「まるごとメロン」1280円(税込、以下同)、「まるごとメロンミルク」1350円を強くアピールしている。糖度の高いメロンを半分使用して、果肉をスプーンで丸くすくい取り、それを器にしたかき氷だ。かき氷の側面には、すくい取った丸いメロンの果肉を張り付けている。いかにもインスタ映えのする形状である。

 フルーツを使用したインスタ映えする期間限定商品をアピールしている 「かき氷専門店」を始めるにあたり、ロゴやイラストを新しくした

 

この他、「いちご」880円、「いちごミルク」950円、「マンゴー」880円、「マンゴーミルク」950円、「宇治金時(わらび餅入り)」950円、「宇治金時(同)」1050円をラインアップしている(他の3店とは価格は異なっている)。

テイクアウトの商品に「まるごとメロン」はなく、「いちご」「マンゴー」「宇治金時」がイートインの商品よりもポーションを小さくし、2割安程度で販売している。

 

氷は「純氷」(じゅんぴょう)を使用。これは水をろ過することで純度を高くし、ゆっくりと凍らせているもの。この氷はそれぞれの製氷業者で作られていて、製氷業者が異なっていてもクオリティは共通している。

 

4店舗でのかき氷販売が6月6日にスタートして、取材をした6月24日の前日時点、開始18日間で、4店舗合計の販売食数が4000杯となった。この間のテレビ等のメディア露出広告費換算が3000万円と概算される。

初期投資は1店舗あたり20万円。ランニングコストとしては、家賃、かき氷の原価、人件費で、4店舗合計の8月度の売上を1000万円と想定しており、これで300万円の利益が見込まれるという。

くふ楽では、この間に築き上げたかき氷店のノウハウを整えてライセンス販売のパッケージ化を進めている。かき氷販売は労働負荷が高くないことから働き方改革に大きく役立つものであろう。

銀座の「純氷かき氷 大吉」では、かき氷のテイクアウトを路面でアピールしている

 

ITが浸透する分野に果敢に挑戦する

この間、DX(Digtal Transformation/ITを活用して業務の効率化や変革を行うこと)にも取り組んだ。まず、EC(通信販売)、さらにモバイルオーダー、キャッシュレス決済、デリバリーサービス、Googleマイビジネスを活用するようになった。

 

ECでは高級焼鳥店「銀座かしわ」で、冷凍の親子丼セット、つくねなどのミールキットの拡販に努めている。

キャッシュレス決済ではTakeMeを活用しているが、アジア系の100種のペイメントシステムに対応できる「TakeMe Pay」を導入し、最終的には世界1000種のペイメントシステムに対応できるようにしている。

さらに同社のTakeMe Orderというオーダーから決済までをこなすオーダリングシステムを導入してデリバリーで活用していく予定だ。

 

さらに、新規事業として「キッチンカー」を始めた。キッチンカーでお客さまにより近づくことによって、お客さまとの会話から生まれる発想などを取り入れ、次のビジネスにつなげていきたいとしている。現状は取引をしている精肉工場の駐車場で週に2回、都内のオフィス街で週に2回販売している。今後はホームセンターと提携するなどして、販売場所を確保していく計画だ。

 

新型コロナの蔓延は大きな打撃をもたらしたが、それを乗り越えるものは前向きな挑戦である。これまで飲食事業の成長を牽引してきたくふ楽の「焼鳥」の生産性とノウハウが、この間の挑戦と共に活かされていくことであろう。

近隣のオフィスワーカーのリピーターも増えてきた