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インバウンド向け「すし握り体験専門店」をオープンし「おもてなし」を伝える

作成者: tetsuyuki_chiba|Oct 23, 2024 7:45:22 AM

 

株式会社玉寿司の代表取締役社長の中野里陽平氏。職人による調理と握りにこだわったすし店を展開している

 

日本の観光スポットではインバウンドで再び大きく盛り上がっている。そこでインバウンドに日本での体験を楽しんでいただこうというアイデアがさまざまに展開されている。今年創業100年を迎える株式会社玉寿司(本社/東京都中央区、代表/中野里陽平)では、東京・浅草に本格すし握り体験を提供する専門店の「寿司にぎり体験 浅草道場」(以下、浅草道場)を9月20日オープンし、インバウンドの日本体験に寄与しようと動き出している。アイキャッチは同社代表の中野里氏(玉寿司4代目)で、中野里氏が語った同店を開業するに至った経緯と展望について、ここでまとめておきたい。

 

 

「インバウンドに異文化体験が人気」

まず、玉寿司の沿革に触れておきたい。

玉寿司は1924年(大正13年)に、現在の「築地玉寿司 本店」が構える築地・平成通りで創業した。1965年(昭和40年)に3代目の中野里孝正氏が株式会社玉寿司を設立、この支店1号店を東京・渋谷の渋谷東急プラザ9階に出店した。

1970年代に入り、当時斬新な「均一価格」を導入したり、オリジナル手巻きの「末広手巻き」を開発するなど、時代のニーズに応える戦略を打ち出し、出店を加速していった。

2005年(平成17年)に、中野里陽平氏が4代目として代表取締役社長に就任。現在は「築地玉寿司」「すし きたろう」などのブランドで、首都圏を中心に札幌や名古屋を含めて30店舗を展開している(2024年9月18日現在)。

同社では、自社で「すし文化」を継承していくことを目指し2017年(平成29年)に「玉寿司大学」を開校。次代を担う職人を独自に育成している。

 

この度オープンした「浅草道場」は、このような同社が創業以来大切にしてきた「すし文化の継承」を背景にしている。これらの狙いについて4代目の中野里氏はこのように語った。

 

「当社の創業100年を振り返って、当社が積み重ねてきた職人技の『すし』こそが、素晴らしい食文化であり、日本が誇れるコンテンツの一つではないかと考えています。そこで、海外から日本にいらっしゃるお客様に向けて、日本での楽しい思い出に残る価値をご提供しようと、『すし握り体験』を始めました。これが2010年のこと。ここから、当社における『日本食文化の発信』が始まりました」

 

2013年に、東京で2020年にオリンピックが開催されることが決まり、政府では海外のお客様を日本に招き入れようという方針を打ち出した。そして、玉寿司としてインバウンド対策を本格的に考えるようになった。

 

インバウンドはコロナ禍にあって少なくなるが、2022年の10月以降から復活するようになった。この頃からのインバウンドは、リピーターが多くなり、観光よりも「体験」のニーズが増えるようになった。中野里氏によると「このころメディアで発表された統計のまとめとして『インバウンドにとって最も人気が高いのは『異文化体験』とありました。なるほどなと。そこで、玉寿司がインバウンドに提供できる異文化体験とは何か。それは『すし握り体験』だと」。こうして、築地の店2店舗、銀座1店舗で「すし握り体験」を行うようになった。

 

言語対応を内製化することで企画が進展

浅草の「浅草道場」は、地下鉄銀座線の浅草駅とつながる東武鉄道の浅草駅の上「EKIMISE」の7階、飲食店フロアの中にある。今年の2月までは「築地玉寿司」として営業していた。

中野里氏としては「浅草はインバウンドに人気のエリアであり、この店でも『すし握り体験』をやってみたい」と常々思っていたという。

 

そこで「片手間に『すし握り体験』を行うのではなく、『すし握り体験の専門店』にしようと思い立った。当面は完全予約制となるが、いずれは、当日のお問い合わせにも柔軟に応じることが出来るような体制を整える。

 

これに向けたリニューアルに際して、最大6人のカウンターエリアと、最大16人までが参加可能な着席型のテーブルエリアを構成した。

 

この営業体制に向けた言語対応で、社内に「英語を使って仕事をしてみませんか」と呼び掛けたところ、手を挙げてくれた優秀なスタッフがいた。そして、同社の社員には海外留学経験があり英語が堪能なスタッフが多く、また日本語が堪能な中国人スタッフも在籍している。現状対応する海外の言語は英語だけだが、ゆくゆくは中国語をはじめ多言語対応が可能な仕組みをつくっていきたいと語る。

 

また、アメリカで活躍しているユーチューバーにも取材をしてもらい、現地での拡散に期待している。

少人数での「すし握り体験」はカウンターの中で行い、社員が通訳を行う。

 

「すし握り体験」のコースの概要と料金は以下の通り。

【コースの概要と料金】

■プライベートカウンターコース(90分)

・開始時間:11:00/13:00/15:00/17:00

・席数:2~6人

・料金:1万1000円(税込)、2人以上から受付

■気軽な合同開催型テーブルコース(60分)

・開始時間:11:00/12:30/14:00/17:00

・席数:2~16人

・料金:9900円(税込)、2人以上から受付

*予約サイト:

https://www.byfood.com/experiences/sushi-making-asakusa-restaurant-1290 

グループ等の「すし握り体験」の様子(イメージ)。インストラクターが客席を巡回して楽しませる。

おもてなしのアイデアのヒントとなる

これらの特徴は、単に「すし握り体験」を行ってもらうのではなく。エンターテインメントの要素を加えている。

 

まず、参加者には必ず同店の職人が着用している白衣を身に着けてもらう。これまでの経験では、参加者は白衣を身に着けた瞬間「ワオ」となり、全員に「すし握り体験」の機運が高まっていくという。

特に今回の「90分コース」では、1時間30分というゆったりとした時間の中で、「日本酒のペアリング」(1人3000円オプション)や、「職人の包丁技術ショー」(同上)、「寿司屋の本格玉子焼きショー」、「本わさび味わい体験」(本わさびをすって、味見/60分コースにもあり)といった多様な体験プランを設けて、「すし文化」の全体を楽しんでいただくという意図で構成されている。

 

これらのコースを体験すると「認定証」が授与されて、お土産の浮世絵コースターもプレゼントされる。日本での「すし文化」体験を満喫するという趣向と言える。

 

4代目の中野里氏はこう語る。

「当社がこの企画で大事にしたいことは、『日本のおもてなし』です。丁寧におもてなしをして、それを楽しんでいただくこと。海外のお客様が日本にいらして、日本の文化を体験して、ファンになっていただきたい。そして『日本に行ってみたけど、いい国だった』と自国の方々に伝えていただきたい。当社は、このような日本の価値を伝えることができる存在でありたい」

 

このように、日本の食文化を背景とした飲食店が、それをエンターテインメントとしてインバウンドに伝えることによって、この事例がインバウンドをおもてなしするアイデアのヒントとなってさまざまな企画が誕生していくことであろう。