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「2時間、食べ放題飲み放題2200円」で予約客9割の仕組みをつくる - e店舗 produced by G-FACTORY

作成者: tetsuyuki_chiba|Aug 19, 2024 12:00:46 PM

「2時間、食べ放題飲み放題」が2200円(税込)という居酒屋が、いまとても元気である。同店のメニューにはアラカルトがなく、「食べ放題飲み放題」のみ。フード、ドリンクともに70品目ずつをラインアップ。食べるもの飲むものは何でもある、という感じだ。店名は「おすすめ屋」。場所は、東京は新宿・歌舞伎町、上野、渋谷、池袋とか。名古屋は名駅、京都は河原町、大阪は梅田となんば。いずれも大きなターミナルで、誰もが知る地名である。

 

ただし、店はほとんどが空中階にある。だから道路を歩いているだけでは店の存在は分からない。後に詳しく紹介するが、同店のお客は9割が予約で7割がウェブ、3割が電話。だから、ブラリと立ち寄っても大抵別の時間での来店をお願いされることになる。店の中は見事に満席である。

 

現在の業態のモデルとなった店をオープンしたのは2015年、東京・八王子。それが2024年3月末現在18店舗となっている。この業態はいかにして店舗展開の道を歩んでいるだろうか。

飲食ビルの8階にある池袋店の様子。路上にいては分からないが、空中階にありながら予約で満席

 

アルバイト先にウェブによる集客を提案

「おすすめ屋」を展開しているのは株式会社おすすめ屋(本社/東京都目黒区、代表/加藤誠庸〈みのり〉)。アイキャッチの人物が代表の加藤氏である(40歳)。加藤氏は高校卒業後、東京理科大学に進学、統計工学や生産管理を学びつつ、ホームページの作成やプログラミングを得意としていた。そして、飲食店でアルバイトをしていた。

 

当時、『ホットペーパー』が紙媒体からウェブ媒体に切り替わる時期であった。加藤氏は、飲食店のプロモーションは『ホットペッパー』の営業マンがつくった紙のページではなくて、これからはポータルサイトの中で競合他社と戦うために、自分たちで工夫してつくらないといけないということに気づき。このようなことをアルバイト先に提案した。

 

「このままだとお客様の来店が厳しくなる。私がこちらの店のウェブのページを編集するので、ウェブ経由で入ってきたコースのお客様の売上の10%をください」と。

このような営業をするようになり、取引先は100店舗近くに広がった。

 

飲食店経営にリアルに取り組むようになったのは東日本大震災がきっかけであった。同社の横浜のクライアントが片手間で営んでいた焼鳥店から撤退して本業に専念するという。その店は空中階にあって利益を出していた。

「そんな店をたたむのはもったいない」と、加藤氏の会社がその店を継承することになった。加藤氏の会社では、その店の集客をウェブで行うようになり、ここでの取り組みが同社のノウハウとなっていった。

 

2015年に八王子の居酒屋チェーンが撤退した物件と出合った。八王子は学生が多く「飲み放題文化」が存在することを知っていた。八王子にある居酒屋大手では「食べ放題飲み放題」をメニューに入れていて、自分たちが片手間でこれに取り組んだところで無理があると考えた。そこで、アラカルトを止めて「食べ放題飲み放題」1本で戦っていこうと考えた。

それが「おすすめ屋」の原型となった。

 

飲む人も飲まない人も平等なメニュー構成

当初「食べ放題飲み放題」は、「税込2時間2000円」とした。この価格にしたのは「競合他社に圧倒的に勝つため」にほかならない。加藤氏はこう語る。

 

「店をウェブ上で選ぶ人は、まず価格設定から入ります。このとき、2000円以下の価格設定にしていると『こんな居酒屋、あるわけないよな』と考えて検索されることはない。そこで検索をする人にとっては『2000円~3000円』が一番下の価格になって、その中でも『2000円』は最も低い価格となるから、目について選ばれやすくなる」

 

この価格設定でメニューのバラエティは、どのように考えて組み立てたのだろうか。

「前提としては『いいものをお出しして、圧倒的に満足していただいて、リピートしていただこう』と考えた」

 

「例えば大学生のサークルの飲み会で、お酒をたくさん飲む人がいて、会計のときにお酒を飲まない人と割り勘にするというのは、飲まない人に対して申し訳ないとか。このような感覚を取っ払いたかった」

 

「そこで、ある程度の品数は必要ではないかと。飲む人にはアテ系の塩辛いフードも必要だろうし、飲まない人はしっかりとご飯を食べたいだろうし。そんなことを勘案して、2000円で平等に楽しむことができるという仕組みにした」

 

このような考え方をもとにして、厨房の配置を変えるなど効率化を進めていったところ、人件費がガクッと下がるなどの経験をした。このような積み重ねから、現在の「フード70品ドリング70種」にまとまっていった。

 

「とにかく『リピート』が重要。そこで『圧倒的な感動』を追求していった」と加藤氏は語る。

フード70品の表面。人気メニューはソースなどを変えてバラエティを豊富にしている

「おすすめ屋」では、店のあらゆることを定量的に把握して、これらを検証することで最も効率の良い提供の仕方を追求することに余念がない。

 

その一例として、「おすすめ屋」のハイボールについての検証を紹介しよう。

 

ハイボールを提供するジョッキに360㎖のものを使用していた。これだとお客はすぐに飲み干してしまい、従業員はお客の席に何回もいかないといけない。このジョッキでのウイスキーは30㎖ワンプッシュである。

 

では、400㎖のジョッキにしたらどう変化するだろうと考え検証してみた。この場合、ウイスキーは40㎖ワンプッシュである。そして、400㎖に対し360㎖の方が出数が0.5回多いことが分かった。この場合、人件費にかかわるテーマになる。しかしながら、40㎖が30㎖と少なくなっていることから、原価的には360㎖の方にメリットがあると判断。こうして「おすすめ屋」のハイボールのジョッキは360㎖となっている。

飲まない人にも配慮して、食事メニューやデザートを豊富にしている

 

また、予約の受付方法にも工夫をしている。「おすすめ屋」では平日の営業時間を17時~23時30分が標準となっている。この中で、2時間制のサービスで1日に2回転することを目標としている。

 

この中で予約は「19時から」に集中することになるが、これをその通り受け入れていると1日2回転はできなくなる。そこで、店ごとに予約の取り方を変えて、どのような効果をもたらすのかデータを取っているという。

 

「9割が予約」ということは、ほとんどが目的客ということだ。だから、空中階であっても、また同じビルで営業している店がほとんど風俗店という環境であっても、お客は同店を求めてやってくる。

 

店舗展開に関して、現状では50店舗体制を目指している。これまで東京圏での出店は山手線の拠点駅だけで展開していたが、これからはこのエリアを広げていく方針とのこと。

また、東海や関西の店舗が実績をつくっていることから、地方都市でも展開できると手応えを得ているという。この場合は、地元の市場性に詳しい外食企業とパートナーシップを結んで展開をしていく方針である。