飲食店の店舗展開には「あえて、都心に出ない」という戦略は当然存在する。では、どのような店づくりがそれを可能にするか。筆者は、今回「ピアンタ」というカジュアルイタリアンの取材をして、そのポイントを分かりかけたような気がしている。
「ピアンタ」の主力メニューはパスタとピッツァ。客単価はランチ1500円、ディナーで3500円から4000円あたり。店舗は30坪前後が標準で、板橋駅前店、仲宿店、志村坂上店、中野南口店、十条店、王子店、日暮里店、町屋店と、板橋区、北区、荒川区のドミナントである。アイキャッチの人物が、同店を展開する会社、ピアンタカンパニー(本社/東京都北区)代表の伊藤秀樹氏(47歳)である。
同店のことで筆者が最も推したい部分は、接客担当者が若い女性で、みなフレンドリーで言葉遣いが丁寧で「おもてなし」を感じさせる、ということだ。内装は、清潔感があり可愛らしく整ったダイニング。お店の多くは住宅地の入口にあって、小さな子供連れのファミリーも多い。
伊藤氏は、調理師専門学校を卒業後、都市ホテルの調理部門で働き、その職場の先輩に誘われて、先輩が立ち上げたフレンチで働いた。同店では2年間務め、ナンバー2になっていた。そして、同店は銀座に移転することになり、2カ月間の空白が出来た。
その銀座にお店が出来るまでの間、伊藤氏がつなぎでアルバイトしたのが、現在「ピアンタ」の本店である「板橋駅前店」であった。
このとき、伊藤氏は21歳。当時の同店は旅行会社が副業として営業していて、若いとはいえ、レストランのナンバー2の実力がある伊藤氏にとっては物足りないものがあった。伊藤氏の実力は、お店の中にたちまち見違えるように活気をもたらした。そして、欠かせない存在になった。
先輩のお店が銀座でオープンすることになったが、先輩に詫びを伝えて、「ピアンタ」の料理人を続けることになった。
伊藤氏はチームづくりに才を発揮した。一緒に働くメンバーは、自分と同世代の大学生アルバイトたちで、「サークルのような雰囲気で、お店が回っていて」(伊藤さん)という。
そして、2号店を出店する計画が立ち上がった。20坪の2階立てで月商1200万円をただき出した。伊藤氏は専門学校時代の同級生を招いて、お店の刷新を図り、そして、3号店、4号店と、店舗を展開していった。
そして、伊藤氏は2017年12月に株式会社ピアンタカンパニーを設立。ここより、伊藤氏が代表の飲食業経営が始まった。
会社をつくった翌年にピアンタカンパニーの4店舗目となる「中野南口店」をオープンした。この店舗を軌道にのせるために半年間を要したという。この当時、一緒に奮闘してくれたメンバーが、いま同社の幹部として会社を支えている。これ以降、同社の現在のコンセプトである「板橋区・北区・荒川区エリア」ドミナントにシフトしていく。
ここでまず、オープンしたのが「十条店」。十条の名所と言える「十条銀座商店街」にあるが、メインの通りから50mほど路地に入った場所。率直に述べて、地元の人しか知らないお店である。この立地こそ、「ピアンタ・コンセプト」と言える。
しかしながら、コロナが直撃した。従業員のトレーニングが始まっているが、お店を営業するめどが立たない。家賃が毎月出ていくが、国からの連絡が無い。経営に焦る日々が続いたが、「従業員を守る」という信念を貫いた。伊藤さんは、自分の想いと将来のビジョンを毎日A4一枚に綴って、メールで従業員に発信し続けた。そして、コロナが終息して、従業員は誰一人とも辞めることなく、今日に至っている。
「十条店」に続いて、「王子店」を2021年2月にオープンした。JR王子駅から徒歩で3分程度の立地で、地元の人が行き交う商店街の路面にある。
「十条店」「王子店」ともに、大きなターミナルではない。むしろ生活感が漂っていて、年配者、若いファミリーと多様な世代が同居している。伊藤氏は、「このような立地で、スーパーに子ども用の椅子を付けた電動自転車が多いところが、『ピアンタ』が求められている立地だ」と語る。
今回、筆者は「ピアンタ」の記事を書くために、板橋駅前店、十条店、王子店、日暮里店を訪ねた。そして、地元密着を成立させる要件というものを感じ取った。それは、客層が限定されないこと。若い女性の二人連れ、幼児を連れた若いファミリー、職場の中高年の食事会、という具合に、どのお店も客層は多様であった。
「ピアンタ」の店舗デザインは全店とも同じデザイナーが担当してブランディングされている
では、「ピアンタ」のどのような存在感が、このような多様な客層を引き付けるのだろうか。
筆者は、冒頭で「接客担当者が若い女性で、みなフレンドリーで言葉遣いが丁寧で『おもてなし』を感じさせる」と述べた。伊藤氏は、同社の接客担当者の就労パターンをこのように解説する。
「フロアスタッフは、4年生の大学生女子が多い。大学卒業と同時に『ピアンタ』も卒業して、ほかの企業に就職するが、後に『ピアンタ』に戻って、社員として就労する人が多増えている。現在30人が在籍する社員のうち7人が、このパターンだ」
彼女たちが学生時代に体験した「接客」とは、前述した多様な顧客である。特に、年配者や、若いファミリーからは「感謝」されることも多かったことであろう。このような「ピアンタ」での接客体験が、居心地のよさとして記憶に残って、「また、働きたい」と動機をもたらし、フレンドリーでかつレベルの高いおもてなしに活かされていくのであろう
ちなみに、「ピアンタ」の既存店はすべての店舗で対前年売上をクリアしている。この10月より、ランチタイム営業をこれまでの11時~15時から、11時~14時30分に短縮した。また、板橋駅前店では23時30分まで営業していたが、21時30分ラストオーダー、22時閉店と、営業時間を1時間30分短縮した。そのような状態にあっても、板橋駅前店は売上を伸ばし続けている。
「スターバックスコーヒー」が日本に登場したのは、1996年のこと。そのときのキャッチフレーズは「サードプレイス」。「自宅でも、職場や学校でもない、第三の場所」ということであった。当時の日本の外食産業は「急成長」が収まっていた。「お腹を満たす」から「心が癒される」という存在感に変化していった。
「では『ピアンタ』の存在感を示すキャッチフレーズとは何か」と考える。客層が限定されない、高齢者も若いファミリーもやって来る。これにふさわしい言葉はこれから考えていきたいが、この世界観こそは「地元密着」の根幹を捉えている。