ここ数年徐々に耳にするようになったSDGs(持続可能な開発目標)。SDGsとは、貧困や飢餓、ジェンダー、環境問題など世界的に取り組まなければならない課題について定めた国際目標です。SDGsで扱う問題の一つが気候変動です。実は飲食店を運営する中で、ある行為が気候変動の加速につながっています。今回は、その行為に関連する「目標13.気候変動に具体的な対策を」について考えていきます。
目標13は「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」というテーマのもと、「全ての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する」など気候変動に関する5つの指標が定められてます。
以前紹介した目標12でも環境保護について触れられていますが、目標13はとりわけ気候変動についてピックアップしています。環境を守り気候変動を抑えることは、地球の未来、そして私たちの生活にも大きな影響を及ぼすため急務の課題となっています。
現在、地球は温暖化の傾向にあり、環境省によると世界平均地上気温は1880年から2012年の間に0.85度も上昇しました。このままだと21世紀末にはさらに2.6~4.8度上昇すると予測されています(出典:環境省「地球温暖化の現状」)。
地球温暖化は、すでに私たちの生活にも大きな影響を与え始めています。
例えば、地球温暖化によって海水の温度が上昇したことによる水の膨張や、氷河などが溶けて海面水位が上昇します。すると、沿岸部や低地、小さな島などが水没し、そこで暮らす人々の生活の場所が奪われてしまいます。小さな島で構成される島国の中には最も高いところで標高が数mしかない場合もあり、海面水位が上がることは深刻な被害をもたらします。日本国内でも記録的な大雨が続いたり、台風の際に高潮や河川の氾濫などを起こしやすくなります。
気候変動は食物にも影響を与えています。気温が体温以上の高温になると、家畜は人間同様、体調を崩し最悪死亡してしまうこともあります。野菜や果物も発育不良になり、品質と収穫量の低下につながります。「目標2.飢餓をゼロに」についての記事で紹介したように、世界中で約6億9000万人が飢餓状態にあります(2019年時点。出典:UNICEF「世界の食料安全保障と栄養の現状報告書」2020年)。温暖化が進むと穀物や畜産物などの食料の生産減少につながり、今以上に世界中の人が十分な食事をとることが難しくなってしまいます。気候変動は、世界全体で取り組むべき課題の改善を妨げる要因でもあるのです。
目標2に関して詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができること -目標2.飢餓をゼロに-
私たちの暮らしにも多大な影響を与える地球温暖化ですが、最大の原因は二酸化炭素の排出と言われています。1970年以降の世界的な経済成長とともに、人類は大量の二酸化炭素を排出し、温暖化を急激に加速させました(参考:環境省「STOP THE 温暖化2017」)。
二酸化炭素が排出されるタイミングは多々あるのですが、その一つが前回の記事で紹介したプラスチックの製造時です。
詳しくはこちら→SDGs達成にむけて飲食業界ができること-目標12.つくる責任つかう責任-
プラスチックは石油を原料としているのですが、製造時や償却処分を行う際に大量の二酸化炭素を排出します。石油を含む、石炭や天然ガスなど化石燃料は、燃焼時に二酸化炭素を発生するという特徴があります。
振り返ってみれば、私たちの生活のあらゆるシーンで化石燃料を消費しています。前述のプラスチックはもちろん、発電時、移動や輸送などで利用する交通機関の燃料、食事を作る際のガスなど、化石燃料による恩恵を受けずに生活することはできないほどです。日本の発電量の8割が化石燃料を燃やして発電する火力発電という事実からも、いかに多くの二酸化炭素を消費しているかが想像できます。
この化石燃料の使用を控えることは、大幅に二酸化炭素の排出量の削減につながります。温暖化を食い止めるために、私たちには化石燃料の使用量を減らす努力が求められています。
それでは、飲食業界が二酸化炭素の排出量を削減するために、どのような対応をするべきでしょうか。なかなか意識する機会はないかもしれませんが、二酸化炭素の排出を減らすために飲食店が大きく関わっていることがあります。それは海外から輸入した食材を使用することです。
海外からの輸送手段である船や飛行機、自動車などは化石燃料を動力源としています。そのため、遠ければ遠いほど、輸入量を増やせば増やすほど、二酸化炭素排出量が多くなるのです。
日本では食料自給率の低さが社会問題として取り上げられているように、食べ物に関しては国外からの輸入品が多いです。例えば、各食材の輸入国と量から考慮すると、店舗で使用している食材の内、ブロッコリーは米国産、アスパラガスはメキシコ産、かぼちゃはニュージーランド産などということもありそうです。
それらの食材が店舗に届くまでにどれほどの二酸化炭素を排出し地球に負荷を与えているかを意識すると、人類や将来にとってどのような選択をするべきなのか、安さから輸入食材を大量に使っていいのか、非常に考えさせられます。
日本の輸入食料による環境への負荷の深刻さは、フードマイレージからも分かります。フードマイレージとは、「生産地から食卓までの距離が短い食料を食べた方が、輸送に伴う環境への負荷が少ないであろう」という考え方を前提に、食料の輸送量に輸送距離をかけることで算出される指標です。食料の輸入が地球環境にどれほど負荷を与えているかを数値で確認できます。
日本の人口一人当たりのフードマイレージは最新データである2010年時点で6,770t・kmとなっています。
さらに10年前のデータにはなりますが、日本7093t・km、アメリカ1,051t・km、イギリス3,195t・km、フランス1,738t・km、ドイツ2,090t・km(2001年時点)と、日本は諸外国と比較しても際立って高い値です(出典:農林水産省「(3)環境保全に向けた食料分野での取組」)。日本人は特にフードマイレージの削減に取り組む必要があると言えます。
フードマイレージを減らすにはできるだけ国産、しかもできるだけ近隣の食材を用いること、つまり「地産地消」が重要となります。近年、地域の食文化を知るということからも、地産地消は注目を集めています。地元産の野菜を使用しているとPRすることで、集客につながる場合もあるほどです。日本の農業の発展にも寄与できるかもしれませんね。
地元の生産者から直接仕入れ、コミュニケーションを取ることで、それまで以上に食材を大切に感じたり、新たな調理方法の発見になったりする可能性もあります。食材の仕入れ先を変更するだけで継続的に温暖化対策に貢献できるうえに、集客の見込みも増えるとあれば、飲食店にとっては一石二鳥と言える取り組みになりそうですが、そう簡単なものではありません。
コスト面での問題や食材の仕入れ先などを再選定する必要があるため、今すぐ変更とはいかないと思います。まずは一つの食材を変更するなど、輸入が与える影響を意識することから初めてみましょう。併せて、節電による二酸化炭素排出量の削減なども取り組めるといいですね。
人類は経済成長と同時に、大量の化石燃料を使用し地球の気候を変化させてきました。その弊害が海面水位の上昇や農作物の収穫量減少など、すでにさまざまな形で表れています。地球に生きている以上、地球温暖化の加速を抑えることは人類全員で行うべき取り組みです。地産地消や節電など、飲食業界でも貢献できる取り組みがあります。日本の飲食業界から意識・行動を変化させて、地球の未来を明るくしていきましょう。
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