先の見えない時代と言われている昨今、注目を集めているのがSDGsです。SDGsとは、貧困や飢餓、環境問題など世界全体として考えていく必要がある課題に関して定めた国際目標で、将来にわたって地球や社会の環境が維持されることを目指しています。
そんなSDGs達成に向けた取り組みを実施している飲食店が、神奈川・藤沢にあります。新鮮な魚介や地酒が楽しめる居酒屋「酒とめし たくを」です。今回は、プラスチック排出量削減など、同店が行う取り組みに関して株式会社naturals 代表取締役 佐々木嘉大氏にお話を伺いました。
―環境や社会へ配慮した取り組みを行うようになったきっかけを教えてください。
飲食店を出店した当時から、環境や社会に良いことをしたい、社会の力になりたいという思いがありました。商売をする以上、利益を追求することは重要ですが、それだけではなく、地域社会に貢献していくことが会社を構える意味だと考えていたのです。飲食店の運営を通じて、私たちが行うことが地域やもっと広いエリアの誰かのためになればという気持ちがあります。
―SDGsは以前からご存知だったのでしょうか?
初めて知ったのは2019年夏頃でした。カラフルな同じバッジを着けているお客様が多くいらっしゃって、「何のグループなんだろう?」と疑問に思い、調べたことがきっかけでした。そこからSDGsを達成するために飲食店からできることがたくさんあり、むしろ、既に取り組んでいることもある、と気付きました。
―既に実施していたのは、どのような取り組みでしょうか?
フードロス削減などです。調理の際に型崩れしてしまうなど、商品として提供できないことがあります。そのような料理をアルバイトスタッフが捨てようとするのですが、値段を下げて販売したり、賄いにしたりと捨てずに済む方法は他にもたくさんあるということを伝えています。賄いなどで食べきれずに余ってしまっても、せっかく作った料理なのだから、捨てるよりは誰かに無償で食べてもらった方がいいよね、と話しています。
小さなことかもしれませんが、食品の大切さをスタッフに伝えることで、彼らの友人や家族など周囲の意識も変化し、資源を大切にするという大きな波が生まれると考えています。地球にも人にも優しい気持ちを持って行動すれば、SDGs達成にもつながります。
フードロス削減について詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができること -目標2.飢餓をゼロに-
―SDGsについて知った上で開始されたことはありますか?
いくつかあるのですが、例えば「廃プラ割」です。これは、テイクアウトの際にお客様がお弁当箱を持参されると、50円割り引くというものです。使い捨てのプラスチック容器を使用する必要がなくなるため、プラスチック廃棄量を減らすことができます。プラスチックごみは環境への負担が大きいため、当店でもプラスチックの廃棄量削減に貢献できればと思い開始しました。
また、ご持参いただくお弁当箱は、ご自身が食べきれるサイズのはずなので、フードロス削減につながるとも考えています。お弁当箱の大きさによって価格が変わることはありません。
プラスチック排出量削減について詳しくはこちら→SDGs達成にむけて飲食業界ができること-目標12.つくる責任つかう責任-
―素晴らしい取り組みですね。どのような経緯で「廃プラ割」を開始されたのですか?
新型コロナウイルスの流行により、2020年3月頃から当店でも来店客が減少しました。対応策として、テイクアウトを開始することにしたのですが、容器をどうするか迷いました。機能やコスト面からプラスチック容器が最適なのですが、来店客が減った今、容器の費用は大きな負担になります。プラスチックを削減することは上記で述べたような効果もある上に、容器のコストを削減できるため店にとってもメリットとなると感じ、お弁当箱の持参を促進させるという意味で「廃プラ割」を開始しました。
―その他に実施されている取り組みはございますか?
地域の木材店、印刷会社、野菜直売所の方と協力して、「おはこ弁当」というのを作りました。
「おはこ弁当」ではプラスチック排出量の削減という観点から、地元の木材店の方に依頼して木製の容器を作成しました。ただし、この箱が使い捨てになってしまっては意味がないため、食後に“箱庭づくり”(※)で遊んでもらえるように提案をしています。“箱庭づくり”のきっかけになるように、地元の印刷会社の方に頼んで、お弁当の掛け紙を箱庭の背景として使えるようなデザインにしてもらいました。
食材に関してもこだわり、地元の神奈川・藤沢の野菜直売所にご協力いただいた野菜を使用しています。地産地消に取り組むことで地域経済の活性化や輸送による二酸化炭素排出削減という環境問題にアプローチできます。地元の飲食店として出店したのだから、地域に貢献する取り組みに尽力していきます。
地産地消について詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができること-目標13.気候変動に具体的な対策を-
(※)箱庭:小さな箱の中に、土やミニチュアサイズの模型などを並べて風景などを模したもの。
―飲食店がSDGsに取り組む意義とはどのようなことであると感じていますか?
私が気付いて行動すること自体は、確かに小さな砂粒程の力にしかならないかもしれません。ですが、砂粒も集まれば土砂や岩となり、さらに島や大陸といった大きな規模に発展します。全国に星の数ほどある飲食店が実践できるのは、砂粒のような小さな取り組みかもしれませんが、日本や世界規模で見れば、とてつもなく大きな影響を与え、世の中を変えることができるほどのエネルギーにだってなります。
みんな意識していないけどできていることはあると思います。それをもっと意識していけばいいだけなのです。字を覚えるときのように、一度始めて何度も繰り返せば、いつしかそれが普通のこととなります。みんなが普通にやれるようになってはじめて、今後もずっと続く、持続可能な社会にすることができます。
社会にその意識が浸透するには、気付いた人間が常に発信していく必要があります。国連や政府などが発信はしていますが、それだけでは、なかなか一人一人に浸透するのは難しいでしょう。いろいろな方が出入りする飲食店だからこそ、アプローチの仕方次第で地域のさまざまな方の行動に影響を与えられると考えています。
―今後はどのようにお考えでしょうか?
持続可能な社会への取り組みが本当に浸透していくためには、子どもの頃から考え方を根付かせる必要がありますよね。例えば、「おはこ弁当」で食後の容器を遊びに使うなど、物を大切にして無駄にしないことを意識することも一つだと思いますが、子どもの頃から楽しんでSDGsの考え方に触れることができるイベントがもっと身近にあると、より身に付きやすいです。そのようなイベントをたくさん行い、地域の飲食店として、地球や人に優しい気持ちを広げていきたいです。
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