株式会社ゴールデンマジック(本社/東京都港区、代表/山本勇太、以下GM)は株式会社ダイヤモンドダイニング(現・株式会社DDホールディングス:本社/東京都港区、代表/松村厚久、以下DD)の子会社として2009年5月に設立された。以来10年が経過し、設立当初のゴールとなっていた100店舗体制を2017年に達成。現在は95店舗でうち主力業態の「熱中屋」は70店舗となっている。1978年生まれで、設立当時に31歳だった代表取締役社長の山本勇太氏は40代となった。経営者として新しいステージに入っていることを実感していることであろう。
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同社では8月2日、東京・新橋に新業態の「博多かわ串・高知餃子 酒場フタマタ」をオープンした。これは「高知餃子」と「博多かわ串」という二つのキラーコンテンツを持つ客単価2800円の業態である。「熱中屋」は客単価4000円であるが、これよりも1000円以上低い「酒場フタマタ」を開発したのは、GMにとっての新しい決意が託されているようだ。
これについて山本氏はこのように解説する。
「当社の母体ともなる熱中屋の立地は駅前、繁華街に近いところ。地下1階か2階、専用階段がある。30坪程度。客単価4000円。こういうビジネスモデルで展開してきたのですが、最近はこのような物件が取りづらくなってきました。一方、上がってくる物件は、20坪くらいで都心から少し離れた郊外。これだと熱中屋ではなかなかうまくいかない。そこで3000円アンダーで、小箱における有効なビジネスモデルの業態をつくらないと、第二成長期をスピード感をもって迎えることができない、と考えるようになりました」
その業態とは、GMが得意とする居酒屋にまとまり、ご当地の居酒屋メニューとして強烈な魅力を放つ博多のかわ串と、高知の屋台の餃子を想定するようになった。これまで別々に開発してきて、「いいものが出来上がってきた」と感じるようになり、この二つを組み合わせるとさらに強い業態になると考えた。店名も「二股をかける」ということから「フタマタ」とした。開発にかけた時間は3カ月である。
DDグループはFLコストを抑えた経営をするのが最大の特徴で、これによって都心でダイナミックに展開し高い生産性を誇っている。GMの会社全体でのFLコストは52~53%となっているが、フタマタでは45%と設定した。内訳はFが20%、Lが25%である。
メニューの二つのキラーコンテンツの一つ、博多かわ串はフィリピンの協力工場で多くの課題をクリアし、仕込んでおり、現地でひと串に50g弱の鶏皮を刺して5回焼き、冷凍で輸入し店舗に配送、オーダーがあってから焼いている。このような工程を経て鶏皮を串にさした段階から串の重さは3分の1の1本15gとなっているが、旨味が濃く香ばしい商品に仕上がっている。1本170円(税込、以下同)、10本の場合1650円となっている。
高知餃子は専用の餃子製造マシンを導入し、オーダーがあってからこのマシンによって薄皮で包み、従業員がフライパンで蒸して焼き上げる。商品は「高知餃子」450円、「トリュフ餃子」550円となっている。
これまでも「都心から離れた立地」「20坪」「客単価3000円アンダー」という条件でいくつか業態開発を行ってきたが、軌道に乗らなかったという経緯がある。その要因は「仕込み段階の作業が重かった」(山本氏)という反省がある。上記の通り、フタマタでは過去経験してきたことを解消している。
フタマタの新橋店はファサードにキラーコンテンツの二つが書かれた大きな暖簾の注視効果が高い、店舗は20坪でこの中に55席を構成した。しかしながら詰め込んだ印象の感じさせないデザインである。ランチタイムも営業して、ディナーの客単価は2800円、現状日商が30万円を少し超えるような状態。月商1000万円のペースであるが「700万円あたりで落ち着くのがベスト」(山本氏)と考えている。
9月1日に東京・小岩駅(総武本線)近くの熱中屋を業態転換してフタマタをオープン、さらに浜松町でのオープンも控えている。小岩の店ではテイクアウトにも積極的に取り組んでいく方針で、「ここでどのような売れ方を示すかによって、これからの出店戦略を考えていく」(山本氏)という。
近く整うこれらの3店舗は一つのユニットとなっていて、これらを4人の社員が運営するというモデルを組んでいる。3人はそれぞれの店長でもう一人の社員はこれらの管理者となる。これによって常に社員がいる状態にする。店舗がなかなか増えない環境にあって、1人を管理者とすることでモチベーションも給料も上げる。
残業時間は45時間超えないように、3店舗のうち一つは通常営業、もう一つはランチ営業を行う。さらにもう一つは深夜2時まで営業という具合に、営業体制のバランスもとるようにするという。
「1店舗の月商500万円で利益17~18%と想定しています。たくさん売れることがいいということではない。1000万円を超えるようになると、店の中に社員が2人必要になる」と山本氏は実にロジカルに酒場フタマタを捉えている。
フタマタを開発したポイントとして、DDグループ特有の背景も挙げられる。
熱中屋は山本氏がDDに在籍していた当時に取り組んできたビジネスモデルの延長戦上にあり、客単価4000円程度、都心の立地でFLコストが50%ちょっとというもの。しかしながら、そのこれまで得意としてきた立地で物件が出てこない。
また、グループ会社が増えて、みな同じような立地を目指している。狙いにかなった物件が出てくると、物件を取り合うことになる。そこでGMはこのような物件を狙わず、また客単価2000円台という業態はグループの中にないことから、グループにない物件をつくろうということで、このような条件の業態を開発する必要性もあった。
さて、GMとってこれまでの2~3年の間で大きく転換を図った。100店舗の達成を目前にしたとき、社内的に求心力が弱くなっていることを実感した。そこで2016年から新卒生の採用と教育に力を入れ、従業員満足度を調査してその向上に努めた。
さらに2018年は今年4月からの「働き方改革」に沿うようするために、労務対策の大ナタを振るった。従業員の労働時間数を整えて、それにかなった商品設計や仕込み時間、営業時間もコンパクトなものにしていった。
労働時間はかつて月間270時間であったものが、現在は200時間となっている。給料が上がり、原材料も上がっている。月間270時間当時に繁盛した店は、それを維持できないようになってきた。GMの場合で具体的に述べると、月商400万円がFLコスト52~53%で収まり利益が15%だったものが、働き方改革によってFLコストが57~59%となり、営業時間が短くなることによって売上高も下がるという現象がみられた。このような環境から新しい業態をつくる必要性を感じるようになったという。同時にGWの企業文化を変えることにも努めた。
これらによって2018年は店舗数が若干減少し売上も減ったが、今年に入り軌道が整ったことから売上が前年比をクリアするようになり、FLコストも安定することによって利益が出るようになった。
熱中屋は1号店オープン以来10年が経過した。10年で70店舗という状況にある。このように堅実に店舗網を築くことができたのは、無理に広げようとしなかったからだと考えている。得意な立地を外さずに出店してきた。
今日郊外立地では業績のいい店、そうではない店も存在して、そうではない店の場合、これからは例えば「餃子の熱中屋」という具合に熱中屋をスピンオフした業態も検討できるのではないかと考えている。
これまで述べてきた通り、GMは新しい立地を求める必要を感じているが、山本氏にとって経営者が同世代の「串カツ田中」「博多劇場」「ダンダダン酒場」という果敢に新立地に挑戦している業態の展開状況がGMにとって絶好の指標となっているようだ。
まず、「串カツ田中」は郊外ロードサイドに出店するなど、既存の立地から外へ出ていこうとしている。それより、もう少し都心よりで展開していているのが「博多劇場」「ダンダダン酒場」である。これらはどれも客単価2000台の居酒屋で、フタマタを始めとしたGWが考える新業態の新しいエリアを考える上で大いに参考になる。
山本氏はこう語る。
「今年に入って再び『攻めて行くぞ!」という気分になっています。『5年で100店舗』というスローガンにもう一度チャレンジしようと思い、社内でも『5年で100店舗』という言葉を言い合うようにしている』
創業当時の「5年で100店舗」は居抜き物件で実現させることであった。理由は資金的に乏しいという現実があった。そして、これからスピード感を上げて出店するためには「スケルトンも必要になってくる」と山本氏は考えている。その点、第二成長期のスタートに位置付けられる酒場フタマタ新橋店は大衆居酒屋とすぐに分かる白と木材を基調としたデザインで、これらの思いが強く込められていることが伝わってくる。