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得意のメニュー“天ぷら”をブラッシュアップして発信力のある店に成長 - e店舗 produced by G-FACTORY

作成者: tetsuyuki_chiba|Apr 30, 2022 6:32:47 PM

JR御徒町駅の周辺は、上野駅近くのアメ横の延長線上にあって飲食店が立ち並んでいる。駅前の「おかちまちパンダ広場」が整備されてから、ここの一帯はゆったりとした雰囲気になっているが、路地裏に入ると“昭和”のイメージの飲食店街となる。

 

この中にひときわ目を引く店構えの飲食店がある。それは「串焼きと天ぷら 春子屋」(経営/テンミリオン)。看板、のれんとも、店名より、メインのメニュー名の方が大きい。“派手”というのではなく、なんとなく入ってみたくなる風情がある。アイキャッチの人物で同店店主の羽毛田誠(はけたまこと)氏は「2021年10月にリニューアルオープンして、それ以来20代、30代のお客様が増えてきた。うちに来た理由を尋ねると『入ってみたくなったから』という。それは当店に発信力がついてきたのだと思っています」と語る。

「春子屋」の店名よりも、得意とするメニューの「串焼きと天ぷら」をアピールしている

 

コロナ禍の動向を見据えて創業の店をリロケーション

羽毛田氏は1976年10月生まれ、東京都板橋区出身。大学卒業後、事務機器の営業マンを務めていたが、父から「一緒に飲食店をはじめよう」と誘いを受けたことが飲食業に進むきっかけとなった。

 

それに向けてほかの飲食店でトレーニングを始めたところ、そのタイミングで店舗展開をしていた居酒屋経営者と知り合い、父がFCとして営業することになった。場所は現在の「春子屋」があるJR御徒町駅近くである。メニューは、低価格の居酒屋チェーンに対抗して客単価2500円の大衆路線に徹した。ランチは500円で提供した。

 

羽毛田氏は同店で十数年間雇われ店長を務めていたが、その会社を買い取って株式会社テンミリオンを設立した。2014年3月のことである。ここで羽毛田氏は実質的に独立を果たした。同店は「まつうら」として再スタートを切った。鮮魚・串焼き・釜めしをメニューの柱として、客単価を以前より上げる方針を採った。

 

2号店として、2018年3月「まつうら」から50mほど離れた場所に「春子屋」をオープンした。至近距離に新規出店したのはオペレーション上の効率化を考えたからであったが、羽毛田氏自身もこのエリアに長く親しんでいて、客層の傾向を把握しており、下町情緒のある街の雰囲気に愛着を感じるようになっていたから。

 

「春子屋」の店名はJR御徒町駅前にオープンした「PARCO_ya(パルコヤ)」に由来している。この商業施設は1973年の「渋谷PARCO」オープン以来、PARCOとして44年ぶりの東京23区内での新店舗で、オープンしてからは大層話題となった。ちなみに「春子屋」のオープンに先行する「まつうら」は「松坂屋の“裏”」ということが店名の由来で、それを改めて伺うと、遊び心を感じて、そこはかとなく印象に残る理由が分かる。

 

さて、2020年に入りコロナ禍となった。「まつうら」は2020年9月に閉店した。その理由は、店舗が地下にあったこと。そして、主要な客層が年配であったことから「コロナが落ち着いてからもお客さんは戻ってこないだろう」(羽毛田氏)と判断した。その代わりの店舗として、2021年3月「春子屋」より100mほど秋葉原寄りに「おでんと焼売 まつうら食堂」をオープンした。同店は17坪34席。「おでんと焼売」という二つのコンテンツによって来店動機を広げ、2021年終わり頃には月商400万円程度となった。

「おでんと焼売 まつうら食堂」は、「春子屋」に対して得意とするメニューを変えて、相乗効果をもたらしている

天ぷらメニューの再編によって利便性が高まる

「春子屋」と「まつうら」という二つの店舗は、テンミリオンにとって相乗効果をもたらしてきた。「まつうら」が鮮魚・串焼き・釜めしの三本柱で客単価3000円の商売をしていた当時、2018年3月にオープンした「春子屋」は「酒場 春子屋」という店名で、いわゆる“ネオ大衆居酒屋”として営業していた。この業態は当時のトレンドでもあった。

 

客席はカウンターがメインで、メニューはスモールポーション。しかし、「オープン当初、お客さんがなかなか来なくて。まつうらが何とか利益が出ていたことからプラス・マイナス・ゼロという状態」(羽毛田氏)だった。そこで、コンセプトを変えようと動き出した。

 

「春子屋」のリニューアルに際しては、これまでメニューの中でも定評があった“天ぷら”と“串焼き”に着眼し、これらの調理のレベルを上げるなど改善に努めた。

 

ここから少し具体的に述べよう(一部『近代食堂』1月号の記事を参考にした)。

まず“天ぷら”について。リニューアル前は看板商品ではなく脇を固めるメニューの位置付けで、商品は単品が10種類、価格も380円と480円の2プライス(以下税抜き価格)。それを単品13種に増やし、季節の天ぷらも数種類ラインアップし、いろいろな天ぷらを食べることができるようにポーションを小さくし、280円、380円の手ごろな価格に改めた。新たに5品、10品の「おまかせ天ぷら」も導入し、さらにお好み天ぷらにプラス300円で天丼にできる「お好み天丼」を加えた。天ぷらのスモールポーション化とバラエティを豊かにすることで、天ぷらを軸としたメニューに広がりをつくることができた。

 

さらに食味を向上させるために、揚げ油の配分を変更。油を汚す要因となる種類の揚げ物は、メニューから削除。揚げる前に食材をきちんとキッチンペーパーで拭き取ることを徹底。その他、さまざまな改善点を「おいしい天ぷら七カ条」にまとめて、従業員全員で共有するようにした。

 

店名は「酒場 春子屋」から「串焼きと天ぷら 春子屋」に変更。看板の横には「晩めし処 お一人様歓迎」と掲げて食事客へもアピールした。こうして2021年10月より再スタートを切った。

 

リニューアル前の客単価は3200円程度であったが、今回のリニューアルで1割程度アップして3600円あたりとなった。売上は400万円あたりだったものが1.5倍の600万円あたりに伸びた。

羽毛田氏はこう語る。

「今回のリニューアルで意図的にメニューの値上げも行いました。原材料や人件費が上がるということを想定して、売上を上げるということよりも、収益性を改善することが狙いです」

昨年の段階でこれらにいち早く備えることができたのは慧眼である。羽毛田氏が日ごろ経営者の仲間と交流し、同社のブレーンよりアドバイスを得てそれを素直に受け止めていることが十二分に発揮されている。

 

さて、同店では2月16日よりランチ営業を開始した。メニューは「昼から本気の天ぷら定食」1品目のみ。平日は天ぷらが8品で1298円(税込、以下同)、土日祝はアルコールOKのドリンク付き、天ぷら9品で1738円となっている。

ランチタイムには暖簾を変えて「天ぷら定食一本」で商売していることをアピール。それが同店の自信を感じさせる

「春子屋」がある界隈は、平日は近隣のオフィスワーカーでランチもディナーもにぎわう。土日祝は、ディナーは平日ほどではないが昼飲みを楽しむお客が増えて、平日と様相が一変する。このような需要傾向にある中で、同店の「昼から本気の天ぷら定食」は特徴がはっきりとしていて、目的来店につながっている。

 

同店で食事をしていて気付くことは、従業員同士が醸し出す雰囲気に同店ならではの温かさがあることだ。従業員は20代の女性から中高年の男性までさまざまだが、ファミリーに似た空気感がある。この度の「春子屋」のリニューアルがお客からの大きな反響を得ていることは、従業員のモチベーションに大きな効果をもたらしているものと感じられる。