さる7月15日、JR目黒駅より雅叙園側へ徒歩3分あたりのビル2階に「八丈島郷土料理 源八船頭」(源八船頭)目黒店がオープンした。同店は、初代オーナーが1980年に東京・小岩に創業した居酒屋。初代オーナーは東京・八丈島の出身で、八丈島の食材を使用した郷土愛にあふれた料理を提供することで、地域のお客に加えて遠方からも来店するという根強いファンに支えられて営業してきた。それを、株式会社源八船頭(本社/東京都江戸川区、代表/黒田俵伍)が2019年に事業承継した。現在は、新店を加えて、東京と千葉に7店舗、ベトナム・ホーチミンに1店舗を展開している。
アイキャッチの人物は、源八船頭を立ち上げたメンバーの一人で、現在同社取締役の牧田雄成氏である。「源八船頭」は、同社が事業承継をしてから主に居抜きで店舗展開をしてきたが、今回の目黒の店舗は初めてオリジナルの造作を施し、また家具や調度品などもオリジナル品で「八丈島」の伝統的な民家のイメージを創り出している。店舗規模は40坪・68席と広く、「八丈島郷土料理」をうたう「源八船頭」の存在感を強く発信している。
これまで居抜きで出店してきたが、今回の新店では店舗デザインから調度品に至るまで「
八丈島」を深掘りしている
ずばり「源八船頭」の特徴ははっきりとしている。それは、メニューを見ると一目瞭然、八丈島の食材をふんだんにアピールしている。
まず、「八丈島」を象徴する食材は「明日葉(あしたば)」という野菜。名前の由来からして「今日新芽を摘んでも、翌日にはまた新しい芽が出てくる」といわれるほどの強い生命力を持っていることが特徴。別名「八丈草」とも言われて、独特の苦みを持つセリ科の多年草である。
同社では、明日葉を八丈島の契約農家を中心に仕入れを行っていて、クオリティが高く安定した明日葉によって、「源八船頭」を象徴する食材として活用している。明日葉には、香りや、茎の太さ、葉っぱの柔らかさ、といったさまざまな特徴が存在して、それぞれの持ち味を多様なメニューに活かしている。
同店が推しているメニューを挙げると、まず「明日葉の天ぷら」913円。大きな葉っぱをカリカリの食感で楽しむことが出来る。また、「明日葉クサヤマヨネーズ」880円もよく考えられたメニューだ。クサヤは、強烈な食味が持ち味であるが、明日葉と一緒にマヨネーズと和えることで、親しみやすい珍味に仕上げている。
また、明日葉を漬け込んだウイスキーでつくる「明日葉ハイボール」660円は、口当たりがマイルドで薬用のような感覚、これを飲むことが目的来店につながるのではないか。
このほか、フードメニューの一部を紹介するが、いわゆる一般的な居酒屋と一線を画していることが自明である。
まず、燻製にした八丈島産のムロアジをポテトサラダに仕上げた「燻製むろあじのポテトサラダ」693円。ひき肉の替わりに魚を使った「魚ロッケ」748円。明日葉ピクルスが入った特製タルタルの「げんぱちのチキン南蛮」968円。トビウオの出汁を効かせた「美桜鶏あごだし唐揚げ」858円等々。
いわゆる居酒屋メニューの品目をすべて八丈島の食材や調理方法でラインアップしている
酒類にも「八丈島」のこだわりが満載されている。八丈島でつくられている焼酎は「八丈焼酎」や「島酒」と呼ばれ、島民から長く愛されてきたもの。同店では、八丈島のメーカーから直接仕入れていて、バラエティを豊富にしている。
マイルドな口当たりになる「明日葉ハイボール」のことを前述したが、明日葉をペースト状にしてりんごと合わせた「明日葉チューハイ」や「明日葉茶ハイ」、さらにハブ酒を使ったオリジナル酎ハイ「ビンビンハイ」をラインアップしている。
酒類のほとんどを八丈島のメーカーから直に仕入れて、バラエティを豊富にしている
締めの食事は「島寿司」1320円をラインアップ。すしのタネに醬油ベースのタレに漬けてヅケにしている、ご飯はやや甘めの酢飯で握り、ワサビの替わりにカラシをのせている。
「源八船頭」の店づくりやメニュー構成には、同社の強烈な「八丈島愛」を感じる。このようなコンセプトが、これらを一度体験した顧客の記憶にしっかりと刻まれていくことだろう。
同社は目黒店で計8店舗となっているが、直近では2023年4月に中目黒店、24年8月に湯島店と急ピッチで店舗展開を行っている。
取締役に牧田氏によると「ベトナムでの出店は、東南アジアでの店舗展開を視野に入れているから」と述べるが、これからの店舗展開を見据える上で、海外も想定していることは、企業成長の原動力をつくっていく上で重要なことではないか。
「八丈島」といった豊かな食文化を掘り下げて、商品力を育て、事業のビジョンは世界に広げる。これまでの飲食業の在り方から一歩抜け出した形の企業文化を感じた。
店内の入口近くにコの字型のカウンター席を設けて、調理風景をショーアップしている