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油そば雷神の加藤裕之氏にインタビュー!オリジナル餃子を600店舗に卸売り、そのノウハウで「油そば」の展開も進める

作成者: 千葉 哲幸|Oct 20, 2025 10:19:43 AM

9月1日、JR総武線・市川駅北口から徒歩で2分程度、国道14号沿いの路面に「油そば雷神(アブラソバライジン)」がオープンした。同店は、以前も同じ店名によってここで営業していたが、これから店舗を拡大することを狙いとしてリニューアルしたという。

 

同店を展開するのは、株式会社雷神(本社/千葉県松戸市、代表/加藤裕之)。同社はファミリーによる経営で、アイキャッチの中央が代表取締役社長の加藤裕之氏、右側が店舗・業販部最高責任者の加藤悟空氏(加藤氏の長男)、左側がCOOの加藤陸王氏(同次男)である。

 

同社が主力とする事業は、業務用餃子の卸売りで、現在約600店舗の顧客を擁している。この相当な数の卸売り先をどのように開拓してきたのだろうか。そして、「油そば」の事業に新しく踏み出そうとしている構想はどのようなことであろうか。

「パートナー」の形で多店化することを目指し、千葉・市川の直営店は、モデル店舗として活かされていく

「ラーメン店は消耗戦になる」と、業態替えを決意

まず、雷神代表の加藤裕之氏(53歳)のプロフィルを紹介しよう。

加藤氏は、20歳の当時スノーボードに魅入られて、長野県の志賀高原を自身のフィールドとするようになった。

 

こうして、雪のある季節は、スノーボード関連の仕事を行い、雪がない季節は長野の中野市に下りて、ラーメン店で働いた。このような過ごし方を3年間ほど継続していた。

 

「そろそろ、東京に戻ろう」と考えていたとき、浅草に本拠を置くラーメンの名店が、ラーメン職人の一般募集をしていることを知った。加藤氏は、同店に入社することが出来た。そして、同店で先輩にあたる女性のラーメン職人と巡り合い、その後、伴侶となり、二人力を合わせてラーメン店の事業を育てていった。

 

二人が独立起業したのは1999年で、東京・小岩に7坪のラーメン店を開業した。それ以前に、加藤氏は実家で祖母と餃子の試作を繰り返し、絶品のレシピが出来上がった。それを起業したラーメ店のメニューに入れた。これが、後に大きな事業に育っていく「雷神餃子」の原点である。

「雷神」の餃子は、下味が整っていて、食べるときに醤油は不要。また、水餃子としても、茹でることでスープが出来上がる

ラーメン店を継続していて、加藤氏は漠然としながらも「いま、ラーメン店は大きな過渡期を迎えているのではないか」と考えるようになった。2000年代の半ばのことである。

 

「ラーメンは、醤油、塩、味噌、こってり、さっぱり、つけ麺等々。種類は出尽くしてしまったのでは。そして、お客様の嗜好のレベルがどんどん高くなっていって、いくらおいしいラーメンをつくっても、すぐに飽きられてしまう。これからのラーメン店は、消耗戦になるな、と」

 

自社での製造キャパを超えて、すべてOEMで対応

こうして、小岩のラーメン店は閉じることにして、新しい事業に挑むことを決断した。一つは、小岩のラーメン店で人気を博していた「餃子」の専門店をつくり、ここの製造機能を充実させて、餃子のイートイン、テイクアウト、そして業務用卸しへと広げるという構想である。

 

もう一つは、「油そば」の専門店を営業すること。スープのない油そばは、スープのラーメンとは異なり、スープを炊くといった体力勝負で、時間がかかる作業を必要としないためスタッフにも優しい。また、スープを炊く必要がないことから、光熱費も抑えられる。

 

こうして、「餃子専門店」と「油そば店」を1店舗ずつオープンした。「餃子」は「雷神餃子」と名付け、販促用のハガキを作成して、八方手を尽くしてラーメン店や居酒屋の連絡先を収集しDMを送り続けた。

 

DM作戦は、思いのほか反響があった。餃子の卸売り先が増えていったことから、その工場を新たに松戸市内のロードサイドに設けた。ここでは、延べ24人のパートタイマーが3交代制で餃子の製造を行っていた。しかし、卸売り先は次々と増えていき、この工場での製造は限界に達したと判断し、餃子の製造を外部に委託することにした。

 

現在、餃子の製造は2社がOEMを担当、松戸の工場は、OEMの1社が製造した冷凍餃子のセンターの役割を担い、全国への発送をここから行っている。もう1社のOEMは、メーカーのセンターから直接配送されている。

 

同社の餃子を仕入れる場合、最低ロットは300個である。かなりの量に思われるが、この冷凍餃子は賞味期限が365日で、餃子の焼き方は冷凍の段階から行う。商品の特徴が際立っていて、管理も調理も簡便なことから、卸売り先に需要は安定していると思われる。

「餃子」の卸し先が急激に増えたことで、餃子の製造はすべてOEM対応にしている。工場は、現在「油そば」の材料を製造している。

加盟金、ロイヤリティが存在しない「パートナーシップ」

さてもう一つ、新しく動き出した「油そば」のビジネスは、このようになっている。加藤氏はこう語る。

「これは、フランチャイズではなく、パートナーシップの形。キャンペーン期間中は加盟金、ロイヤリティといったものが一切不要です。当社がパートナー様に果たす役割は、油そば店を営業する上で必要な商材を卸すということ」

 

パートナーに供給する麺は、雷神が製造委託している製麺業者のレシピで、パートナーの近くの製麺業者につくってもらう。それ以外に必要な、油や調味料などは、松戸の工場から全国に配送するという。

 

そこで、同社がパートナーとして想定している事業者は、「全国の小料理店やスナックなどを含めたすべての飲食事業者の方々」(加藤氏)だという。

 

「これらの店舗は、例えば夜のみ営業のお店もあります。しかしながら、現状の商売だと夜の営業しか成り立たず、売上が低い。売り物が油そばであれば、ランチどきからディナー、そして深夜までの営業までが想定できます」

 

「既存の商売から、油そばのお店に業態転換するためには、例えば、市販で8万円ほどの茹で麺機を入れる。油そばや餃子の調理法は簡単で、50代60代の人でも、働く意欲があれば十分に営業ができます」

 

この事業の本部である雷神とパートナーとの関係は、「商材を届ける」「それを仕入れる」という関係のみである。

雷神では、「雷神餃子」をメニューに取り入れているところに「3個売り」を推奨している。これによって、販売ロスをなくすという考え方

「『油そば雷神』というブランドがありますが、パートナー様はそれを名乗ってもいいし、ご自分で店名を決めてもいい。そこで、ある経営者様が『油そば雷神』のパートナー様になってくださって、そのお店が安定してくると、経営者仲間の方に『加盟金もロイヤリティもいらない、安定した商売があるよ』と宣伝してくださるのでは。このような緩い関係で、商売を広げて行きたい」

 

ラーメン職人の加藤氏は「業務用餃子の卸売り」に転じて、OEMによる全国600店舗のネットワークをつくり上げた。そして、そのノウハウをパートナーシップによる「油そば」店舗の展開に活かそうとしている。売り物をしっかりと持っていれば、リスクの無い経営を維持できるという、ビジネスモデルを展開している。