全国で多くの飲食店が「売上の伸び悩み」や「人手不足」に直面しています。順調に見える店舗でも、時代の急激な変化によって業績停滞のリスクを孕んでいるのが現代の飲食経営です。
そんな中、試練に直面しながらも独自のロジカルな戦略で鮮やかなV字回復を果たしたのが、今回お話を伺った和田社長です。かつての成功の先で直面した経営の迷路から脱出し、「純利益2億」を掲げる最強の組織を作り上げた大逆転劇の舞台裏に迫ります。
和田社長の経営の根底には、独立前に在籍していた畜産メーカーでの6年間のキャリア(営業4年、本社企画2年)があります。ここで「安く仕入れて高く売る」という商売の基本と数値管理のコツを学んだ和田社長は、当時ブームだった唐揚げ専門店で独立。飲食未経験ながら快進撃を続けました。
その後、2店舗目の出店時に「安易な業態選び」から両店舗の売上が右肩下がりになる最初の挫折を味わうも、接客マニュアルの見直しと看板メニューの考案により、月商を200万円から700万円へと爆発させて見事に復活。さらに、メーカー時代の情報感度から「武漢で新型ウイルス」の報道が出た時点で業界の危機を察知し、コロナ直前にデリバリー事業へ先んじて参入。1業態で400万円を売り上げるパイオニアとなり、そのノウハウでフランチャイズ(FC)展開まで成功させました。しかし、実店舗もデリバリーも軌道に乗り、すべてが順調に進んでいた2020年頃、和田社長は一つの転換期を迎えます。起業当初に自身が掲げていた目標を、すべて達成してしまったのです。
「自分が本当に何が欲しいのかを考えた時に、僕は『仲間』が欲しかったんですよね。その仲間と一緒にやっていくっていうのを思い描いていて、自分の中でそれが達成できたと思った時に、『もういいかな』という風になっちゃったんですよね。」
目標をクリアしたことに加え、当時はコロナ禍による制限でウーバーイーツをはじめとするデリバリー主体の営業しか行えなかったことも相まって、和田社長は自分でも驚くほど燃え尽きてしまい、経営へのモチベーションが大幅に低下してしまったといいます。
ちょうどその時期、世間はコロナ禍の渦中。本来であれば時代の変化に合わせて素早く実店舗の舵を切るべきタイミングでしたが、次なるビジョンを失っていた和田社長は、変化にうまく対応することなく、ただ日々を過ごしてしまいました。トップの目標がブレて「なあなあ」になっている雰囲気は恐ろしいほどスタッフにも伝染し、現場のやる気や方向性をも見失う結果に。当然、世間のスピードと経営の間には大きな乖離が生まれ、実店舗の業績は坂道を転がり落ちるように悪化していったのです。
お店の売上が落ち込んだとき、多くの経営者は「一発逆転のイベント」や「スタッフへの励まし」といった、過去の成功体験や感情に頼ろうとしがちです。しかし、それがかえって傷口を広げることがあります。和田社長が自身の「感覚」や「情」に頼った結果、大きな赤字を招いてしまった失敗の経緯と、そこからの手痛い学びを明かしていただきました。
さらに追い打ちをかけたのが、「店舗とスタッフへの情」でした。 コロナ禍が徐々に収束へ向かう中で、悪い雰囲気が引き金となり売上はさらに低下。ついに、グループ内で最も家賃が高い店舗の撤退を視野に入れざるを得ない状況に追い込まれます。しかし、そこは一番長くやってきた、創業期からの愛着が詰まった店舗でした。それは和田社長だけでなく、共に歩んできた幹部メンバーにとっても同様であり、組織全体で「情」が邪魔をして手放したくない気持ちが勝ってしまったといいます。その結果、和田社長は店舗の撤退を踏みとどまり、
「業態チェンジをすればなんとかなるだろう」という軽い気持ちで存続を選択してしまいます。
しかし、この情による判断が大失敗を招きました。「なんとなくやっても300万円はいくだろう」という予想を大幅に下回り、初月の売上は今まで経験したことのないわずか150万円。モチベーションを失っていた当時の和田社長の想定と、世間のニーズは大きく乖離していたのです。甘い希望的観測は完全に裏切られる結果となりました。
「さすがにこれはまずい」と立ち上がった和田社長は、かつてのプライドをすべて捨て、現場のスタッフとともに「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」といった基本的な挨拶(QSCA)を一から見直しました。この初心に帰るプロセスをきっかけに、和田社長はYouTubeなどで現代のマーケティングを1から猛勉強し直し、地道に基礎を積み上げる「コツコツ型」の数値管理へと経営の舵を完全に切り替えました。
「良くも悪くも、感情ではなく『事実』や『数字』のみでシビアに判断したほうが、経営において成功する確率論は圧倒的に高くなります。スタッフの為にも情を残すところは残し、一方で経営判断の主軸はそうした客観的なデータ基準に重きをおき、会社の生存確率を確実に上げにいったという感覚ですね。」
1から経営を立て直そうとする中で、和田社長自身は「自分にはもう次の目標がない」という壁にぶつかり、焦りを感じていました。同世代で全国展開や海外展開を成功させている経営者たちが常に貪欲な目標を持っているのに対し、多店舗展開やデリバリーでの成功を経験した自分には新しい目的がなくなっていたのです。
そんな時、知り合いの飲食店経営者に相談したところ、「俺だって目標なんてないよ。目標がないならスタッフの目標に乗っかっちゃえばいいんじゃない?」という予想外のアドバイスをもらいました。ここから、幹部メンバー4人と徹底的に向き合う、組織改革が始まりました。
和田社長は幹部たちを集め、彼らが人生で本当にやりたいこと、欲しい給料、必要な休日を徹底的にヒアリングしました。抽象的でも具体的でも良いので率直に自分達が考える希望を改めて伝えてもらいました。そうすると「地域1番のお店を作りたい!」「みんなで幸せになりたい!」 「年収1000万ほしい」「月収30万円くらいで良いでワークライフバランスを優先したい」といった様々な希望が出てきました。和田社長たちはそれを「単なる憧れ」で終わらせず、細分化して具体的に壁打ちしていきました。
「地域1番のお店は具体的には何が足りないのだろう?」
「みんなで幸せとはそれぞれ何が幸せと感じるのだろう?」
「年収1000万になるには何を得れば達成できるのだろう?」
「今ある週休3日制度で、例えば月収30万のままで移行できたらどうだろう?」
「逆に家賃、食費、交際費、もし将来家族ができたら、本当に30万円で足りるかな?」
といった、それぞれのスタッフに、1つ1つ細分化して一緒に考えていきました。
そうすることで、それぞれが、なんとなく思っていた希望が、現実的に叶えられるのだと気付いてきてくれるのだそうです。
和田社長が問いかけ、スタッフ達に逆算して相談してもらった結果、彼らの口から出た答えが「3年で純利益2億」という具体的な目標でした。会社の利益目標が、経営者から押し付けられたノルマではなく、スタッフ自身の「夢を叶えるための必須条件」へと変わった瞬間です。これにより、組織のベクトルは完全に一つにまとまったと和田社長は語ります。
面談を行った11月から、翌年の3月以降、全店舗とも売上は着実に伸びていき、直近では過去最高売上を更新し続ける店舗も発生し始めるという最高の結果を叩き出しました。
数値をベースに経営を立て直す中で、最初に見えた最大の課題が「新規顧客の不在」でした。当時の和田社長のお店は、毎日見慣れた常連のお客様しかいない状態になっていたそうです。
飲食店経営において多くの人が陥る状況ではありますが、和田社長はその原因を当時の状況と自社のデータとを照らし合わせてこう分析します。
「お店の客層って『自分がその店を作った時の年齢』に寄ってくるんですよね。30代の時に作ったら30代が集まるし、40代の時に作ったら40代が集まるんです。自分が良いと思う店を作るわけですから、どうしても同世代にウケが良くなる。だから、うちの店も気づけば40〜50代の常連さんばかりという状態になっていたんです。」
しかし、店を存続させるためには、新規顧客の獲得も絶対に不可欠です。そこで和田社長たちは、若年層を取り込むためにTikTokの運用を開始しました。
もともと和田社長は、かつてのテレビ取材の時のように、一部の層に圧倒的な支持を得る尖った企画を打ち出すのは得意な反面、SNSのように不特定多数の大衆に刺さるコンセプトを作るのは苦手だったという背景がありました。
いざ運用を始めてみたものの、最初はなかなか再生数が伸びず空回りする日々が続いたそうです。当初はTikTokの性質を勘違いし、ラーメン店がX(旧Twitter)で発信しているような内容に倣って「本日空いてます!」といったリアルタイムのお知らせ投稿を続けてみたものの、反応は全滅。若い新規客を呼び込むためには、TikTok特有の「トレンド」を的確に掴む必要がありました。
そこから他社の動画を猛リサーチし、泥臭く試行錯誤を重ね見つけたのが、当時TikTok上でバズっていた「助けてください」「本当にお客様が来ません」と、すがるようにリアルな困窮を訴える動画でした。
同時期に、新規集客に困って赤字続きで悩んでいた店舗があったことから、この状況をそのまま発信すれば良いのでは?と思い、投稿してみたところ、再生数が一気に上がり、これをきっかけに、それまで接点のなかった若い新規客がお店に足を運んでくれるようになりました。
動画のヒットにより、40〜50代の大人のお客様に加えて若い世代も巻き込んだ、幅広い層のハイブリッドな集客が実現しました。常連さんしかいなかったお店の客層は、SNSをきっかけに劇的に生まれ変わったのです。
この経験を通じて和田社長が実感したのは、「SNS運用も、店舗経営と全く同じだ」ということでした。ただ流行りに乗ってなんとなく投稿するのではなく、ターゲットの心理に深く刺さるように、きちんと市場をリサーチして分析する。その泥臭いプロセスこそが、SNS集客を成功させる唯一の鍵なのだと、具体的な実績をもって教えてくれました。
組織がまとまり、過去最高売上を更新するほど業績も回復してくると、「次の一手として多店舗展開」に進む企業も多いです。一方で、ここで和田社長があえて選んだのは、さらなる拡大を急ぐことではなく、スクラップ&ビルド(不採算店舗の撤退や業務委託化)を経て構築した「増やしも減らしもしない状態で、内部を徹底的に強くする」という、次なる未来に向けた戦略的ステイの選択でした。ここには、海外の市場トレンドから日本の飲食業界の未来を逆算した、独自の「先読み戦略」があるそうです。
現在、日本の飲食業界は深刻な人手不足ですが、和田社長は「アメリカの市場トレンドから逆算すれば、日本にも遅くとも2年ほどで人が余る時代がやってくる」と先読みしています。その確固たる根拠は、常にアメリカの後を追うという歴史の法則にあります。
「日本という国は、常にアメリカの後を追っている部分がありますよね。僕が小さい頃から、ずっとアメリカで起きていたトレンドが、数年後には日本に来ているんです。そして今、アメリカの労働市場が既にその転換を迎えている。だから数年後の日本もそうなりますよね、という本当にシンプルな推測なんです。」
このトレンドを見据える中で、今後の労働市場を激変させる最大の要因として挙げるのが、AIの普及(シンギュラリティ)です。今後、AIによってホワイトカラーの雇用が流動化する流れは避けられないと言います。
「当社のアルバイトの子も含め、若い子たちの間でいま『ギュラル』って言葉が流行っているそうなんです。シンギュラリティの略で、要は『AIに仕事を奪われる(=ギュラれる)』という意味なのだそうですが、そうなると、これまでホワイトカラーだった人材が、我々の業界にも流れてくると見ています。」
AIの影響でホワイトカラーの仕事が変化すれば、飲食業界にも大量に流入してくることになります。
「そうすると飲食業界の人材採用も今とは状況がガラリと変わるので、様々なタイプの仲間が入ってきた時に全員が輝ける職場になっているよう、今は着実に内部をしっかり作り込んでいってます。」
飲食業界で一気に店舗を増やして急成長したものの、その後崩壊してしまった企業を、私たちは何度も目にしてきました。和田社長は、自身の「焼き鳥店での甘い拡大」や「古い店舗での情による撤退遅れ」という過去の苦い経験からも、失敗する企業に共通する原因の多くが、店舗数の拡大スピードに対して社内の「人財育成力」がまったく追いついていないことにあると考えています。
一瞬のヒット企画や勢いだけで「一時的な急成長を遂げる」ことはできても、中身の仕組みが空っぽのままでは、増えた店舗のクオリティを維持できずに自滅してしまうのが飲食経営のリアルな罠なのです。
では、逆に一過性のブームで終わらず、何店舗、何十店舗と拡大してもびくともしない成功企業は何が違うのでしょうか。和田社長は、長く勝ち続ける企業が持つ「圧倒的な差」についてこう語ります。
「長く成長を維持して、そのままチェーン展開までグーッと進んでいく企業というのは、やっぱり『内部の作り方』が圧倒的に上手なんですよね。中身の育成力のレベルが全く違うのだなと、すごく実感しています。一瞬の勢いでぶち抜けるのはいいのですが、その後の土台を作れないケースが非常に多い。そこいかに作り込めるかが、一番大変であり、経営の本質なんだと思います。」
成功する企業は、他社が簡単に真似できない「中身の育成力」や、どこに行っても高いクオリティを出せる「内部の作り方の巧さ」という仕組みを必ず持っています。
こう考えるからこそ、最高売上を更新した今であっても、闇雲に店舗を増やすことはしません。人がいない今、無理にエネルギーを分散させて拡大に走るのではなく、成功企業と同じように「誰がやっても高い基準を維持できる内部の仕組み」を社内で徹底的に作り上げるのです。
2年後に必ずやってくる「人余り時代」という大きなチャンスが来たときに、流入してくる優秀な人材を活かして一気に、そして確実に勝つ。現在は無理な拡大をピタリと止め、そのための強い組織の土台を磨き上げる、戦略的な準備段階(仕込みの期間)なのだそうです。
最後に、今回の数々の紆余曲折から得た、すべての飲食店経営者さんに伝えたい「共通の本質」を和田社長は語ってくれました。
「売上が落ち込んだり、周りの店が拡大を続けていたりすると、焦って『次の一手』を急ぎたくなる気持ちは痛いほど分かります。しかし、中身の仕組みや組織が伴わない拡大は、砂の城を作るようなものです。まずは感情や過去の成功体験を脇に置き、徹底的に数字と事実に向き合うこと。そして、スタッフの夢と会社の利益をロジカルに繋ぐこと。」
一見、遠回りに見える「中身を強くする」作業こそが、激変する飲食業界を生き抜き、次のチャンスで大きく飛躍するための唯一 の正攻法なのだと、和田社長の強い眼差しが証明していました。