「東京相撲部屋娯楽」を手掛けるクロノスガイヤ代表の橋本順彦氏。インバウンド誘致に情熱を傾ける
8月12日、東京・港区の東京タワーフットタウン(東京タワーの下の商業施設)5階に「東京相撲部屋娯楽」がオープンした。これは、相撲の土俵と観覧席を設けた施設の中で、日本舞踊に象徴される日本の芸能から、相撲の取組などを日本文化のエンターテインメントとして披露する施設である。施設の中央には、実際の土俵の土と同じものでつくられた土俵が構成され、それを囲む形で観覧席が設けられている。入口にはグッズショップが設けられて、テーマパークの様相を呈している。ずばり、インバウンドを想定した施設であるが、ここに凝集された仕掛けは、インバウンド需要の持続可能性を追求しているものとして注目される。アイキャッチの人物が同施設を経営するクロノスガイヤ株式会社(本社/北海道・栗山町)の代表、橋本順彦(ゆきひこ)氏である。
両国国技館と比べると小ぶりとはいえ、十分に臨場感があって、ショーを楽しませる
クロノスガイヤは、ホテル運営をはじめ、建設事業やLED照明事業など多様な事業を展開している。同社が「東京相撲部屋娯楽」を営むことになったきっかけについて、代表の橋本氏はこのように語る。
「当社は、札幌市の東側でクルマで50分、またトマムスキー場の西側に在ります。北海道では観光のコンテンツがたくさんありますが、昨今は天候不順であることから、この分野は困っていました。そこで、なんとか全天候型の観光コンテンツをつくることが出来ないかと考えてきました。そこで、弊社の会長が第63代横綱・旭富士の後援をするなど、長らく相撲の世界に関わってきたことから、相撲にちなんだエンターテインメントに取り組もうと、昨年8月、札幌市内に『札幌相撲部屋娯楽』をつくりました。この施設が思いのほかうまくいきました」
東京タワーの商業施設5階、エレベーターの扉が開くと、「相撲」のテーマパークが始まる
「札幌相撲部屋娯楽」は78席の規模。第63代横綱・旭富士と第70代横綱・日馬富士と歴代2名の横綱から公認を得ていて、食事付きで1回2時間の相撲ショーを1日に4回行うというもの。インバウンドだけではなく、北海道を訪れる日本人観光客からも良く知られるようになった。
「そこで、日本の文化発信を意識して、首都圏でやってみたいと考えるようになりました。ずっと場所を探していたところ、東京タワーとご縁が出来きました。東京タワーは東京のランドマークであり、圧倒的な存在感があります。そこで、相撲に加えて、日本のあらゆる芸能・文化を詰め込んだエンターテインメントの構成にしました」
「東京相撲部屋娯楽」を公認した第63代横綱、旭富士より、ビデオメッセージが届いた
「東京相撲部屋娯楽」は375坪・177席。ショーは1回90分間で1日4回行う。開宴すると、すぐに和食の御膳が配られる(第63代横綱・旭富士公認ちゃんこ鍋付き)。ここからショーは、和楽器演奏・日本舞踊、獅子舞・餅つき、花魁道中・歌舞伎「鏡獅子」、元力士による土俵入り・稽古・真剣勝負、塩巻き・質問コーナー、元力士と対戦できる」チャレンジ相撲」、出演者紹介・盆踊り、三本締めで終了となる。芸能のショーは、一つのストーリーで構成され、英語を操るタレントがMCをコミカルに行い、エンターテインメントとしての完成度を高めている。
お客が席に着くと、すぐに食事が提供される。こちらは「STANDARD」大人1万6000円(税込、以下同)、子ども1万2000円のメニュー
日本芸能のショーは、熟練のプロフェッショナルが演じている。それぞれの演者が次々とショーをつないでいき、会場にいる人を飽きさせない。
ショーの最後に位置づけられた相撲ショーでは、土俵入りから、稽古、決まり手、真剣勝負と披露されて、相撲文化の奥深さを披露。最後の方では、会場から、元力士と対戦できる「チャレンジ相撲」の挑戦者を募り、挑戦者は力士の着ぐるみを着て、元力士と対戦するという、参加型のエンターテインメントも取り入れている。最後には、すべての出演者がそろい、全員で盆踊りを楽しむ、という趣向。会場の全体が大団円となり、盛り上がって終了となる。
三味線と日本舞踊からショーが始まる
料金は3タイプで構成。すべて食事付きで、STANDARDが大人1万6000円(税込、以下同)・子ども1万2000円、VIPが大人2万円・子ども1万4000円、V-VIPが2万5000円となっている。また、全コースともに追加料金なしで、「ヴィーガンメニュー」に変更することが出来る(予約時に連絡)。
「東京相撲部屋娯楽」のショーが、全体90分間で総花的に日本の芸能を詰め込んでいる背景について、橋本氏はこのように語る。
「日本に初めて訪れるインバウンドにとって、日本の文化や芸能はたくさんあり過ぎてよく分からないのではないか。しかし、ここに来れば、その全体を把握することが出来ます。そこで、これらの一つひとつを深く知りたいと思うようになって、カスタマージャーニーを楽しみ、リピーターになっていきます」
花魁道中、歌舞伎の「鏡獅子」と演目が続き、ストーリーが一貫している
ショーの途中に、来場のお客が参加する餅つきが行われる
「相撲」の世界のしきたりや、稽古、決まり手、真剣勝負と続く
つまり、「東京相撲部屋娯楽」は、日本観光のゲートウエイ(玄関口)で、日本の芸能・文化のショールームの役割を担っている、ということだ。
さて、日本のインバウンドの状況を、ここで記しておきたい。日本政府観光局、観光庁の発表によると、2025年のインバウンドは4268万人で、消費金額は9.5兆円(1人当たり22.9万円)、いずれも過去最高であった。そして、2030年として政府が掲げる数字は「6000万人・15兆円・1人当たり25万円」である。そこで観光庁では、令和8年3月27日閣議決定として、「観光立国推進基本計画」を発表。「持続可能な観光」「消費額の拡大」「観光地・韓国産業の強靭化」を目標に掲げている。
目指すところは、量の拡大から「質の向上」である。このために「高付加価値な体験型コンテンツの充実」「大都市の文化的観光資源の活用」「訪日旅行者の受入環境の整備」の3つを重点施策としている。
これらを受けて、クロノスガイヤでは「東京相撲部屋娯楽」を「民間による新たな文化体験施設」と位置付けて、同社の事業ビジョンをこのように描いている。
1.高付加価値な文化体験プログラムの企画
・伝統芸能・工芸・食文化・祭礼を横断する体験を、アッパー層からエントリー層まで一貫して届ける。政府の「質の高い観光」戦略と直結。
2.東京タワーから発信し、地方14観光地へ導く
・東京タワーで触れた本物への予感を、京都・北陸・熊野・せとうちなどの産地・現場に動線化。単発の観覧を地方送客の起点に変える。
3.MICE(ビジネスイベントへの総称)受入と、海外プロモーション連携
・国際会議・企業招聘・レセプションの「場」を設計。日本文化を発信力に変え、JNTOとのプロモーション連携で15兆円市場に貢献。
これらは、とても力強いメッセージである。「東京相撲部屋娯楽」に込められたクロノスガイヤの想いは、発信力となって日本の観光をより活気あるものに導いていくことであろう。
一連のショーの最後は、出演者が全員そろって、盆踊りで盛り上がる