「売上が頭打ちなのに、共倒れが怖くて新しい挑戦ができない」「席数の問題で利益の上限が見えてしまった」。そんな悩みを抱える飲食店経営者の方へ現状を打破するヒントをお届けします。
大衆酒場、焼肉、しゃぶしゃぶ、カフェなど多様な店舗を運営する株式会社U-MORE。代表の山﨑基史社長は、事業引き継ぎでの創業やM&AによるEC参入など、既存の仕組みを活用する「ゼロから始めない」戦略で安定成長を続けています。
本記事では、個店型多業態によるリスク分散や、実店舗・EC・イベントを掛け合わせて利益の天井を突破する仕組みなど、共倒れを防ぎながら成長するための具体的な生存戦略をインタビューから紐解きます。
U-MOREが複数のブランドを持つ多業態経営である理由は、狙って一から店舗を増やしたからではありません。同社の誕生は、多角的に事業を展開していた株式会社USENグループ内の飲食事業部門が、複数の事業会社との合併・分社を繰り返す中で多業態を持つようになり、2017年にエンタメ事業を母体とする事業会社から飲食事業部門を事業分割・分社化したことによるものでした
そのタイミングでU-MOREの代表に就任したのが山﨑社長です。つまり山﨑社長は、現場の料理人から叩き上げて1号店から独立したタイプの経営者ではなく、分社前からすでに多業態だった事業と店舗、そしてそこで働くスタッフたちをすべて引き継ぎ、最初から「経営のプロ」としてキャリアをスタートさせているのです。
山﨑社長は「今思えば、これで本当に良かった。チェーン展開はつまらない。地域に合わせて色んなお店を作る多業態だからこそ、楽しい」と当時を振り返ります。
しかし、この多業態経営を安定して維持・成長させていくには、楽しさだけでなく当然ながら相応のコストや課題も存在します。職人気質な勘ではなく、経営プロとしてのリアルな損得勘定から見えてくる、多業態の現実とメリットを順に紐解いていきます。
多業態展開、それも地域や物件に合わせてブランドを個別に変える「個店経営」に近いスタイルをとる場合、避けて通れないのが管理コストの大幅な増加です。
山﨑社長「すべての店がバラバラの業態、バラバラのデザイン、異なるオペレーションになるため、大企業のような『一括仕入れ』や『マニュアルの共通化』による効率化は一切通用しません。
具体的に言えば、メニュー表1枚すら使い回すことはできませんし、お店の内装や雰囲気も違いすぎるため、過去の店舗と同じ資材を再利用することも不可能です。
当然、各店舗の販促やデザイン、現場のオペレーションを完全に個別に管理・制作する必要が出てくるため、全体の店舗数に対してマネージャーやスーパーバイザー(SV)といった管理担当者が多く必要になります。まずはこのコストの重さを、経営者として覚悟しなければなりません」
U-MOREならではの多業態による内装の違い
では、なぜそこまでコストをかけて多業態を続けるのか。そこには、経営を守るための「一発アウトを防ぐリスク分散」という大きなメリットがあります。
トレンドに乗った単一業態は、ブームが去れば一瞬で市場から消え去るリスクをはらんでいます。山﨑社長も、現代の市場の動きを次のように見つめています。
山﨑社長「一瞬だけ流行って、すぐに消えていってしまうトレンドビジネスに手を出すのは、一番リスクが高いと考えています。流行るとみんなが一斉に真似をしてチェーンが乱立し、最終的には資金力のある数社へ集約されて他は淘汰されてしまう。 そして、そのトップ企業であっても、文化として定着しなければ最後はブームの終焉とともに共倒れしてしまうリスクを孕んでいます。」
巨大な単一チェーン店になればなるほど、このように時代が変わったときの業態転換が困難になります。さらに、現代はSNSでの一つの風評被害によって、ブランド全体が致命傷を負うリスクとも常に隣り合わせです。
だからこそU-MOREでは、会社名や共通のチェーン名を前面に出さず、カフェ、焼肉、しゃぶしゃぶなど、流行り廃りのない「生活リズムへ浸透する日常食」を地域に合わせて出店しています。万が一、どこか1つの業態が時代の変化やトラブルで打撃を受けても、他の業態が支えてくれるため、会社全体が共倒れするリスクを低く抑えることができるのです。
もう1つの大きなメリットは、出店における競合優位性(提案力の幅)です。
商業施設やビルへの出店、物件の引き合いがあった際、1つの業態しか持たない企業は「ウチの居酒屋を入れてください」としか言えません。しかし、自社の中に多様な選択肢の「型」を持っていれば、相手の要望や立地、競合の状況に合わせて、「この立地、この物件の広さなら、ウチのカフェ業態がハマります」「ここなら焼肉にしましょう」と、柔軟な提案が可能になります。結果として、良い物件を押さえやすくなり、出店の打率が劇的に上がります。
さらに、多業態の経験を積み重ねてきたことによるメリットは、リアル店舗の出店時だけに留まりません。将来、リアル店舗の売上に限界を感じて「EC(通販)事業」へ舵を切ろうとした瞬間、この多業態の経験が大きな利点へと変わるのです。
1つの業態しか持たない会社がECを始めようとすると、「売る商品の候補が1つしかない」という壁にぶつかります。例えば居酒屋なら「焼き鳥」や「おつまみ」しか選択肢がなく、それがネット市場で競合激化していれば、その時点で手詰まりになります。
しかし、社内にカフェ、焼肉、しゃぶしゃぶ、イタリアン、和食など多様な業態と専門職人が揃っていれば、ECを始める際の「商品候補」が無限に湧き出てきます。山﨑社長は、この多業態×ECのシナジーを次のように語ります。
山﨑社長「私たちが多業態を運営している強みは、ここ(EC)でも活きてきます。
例えば、私たちが15の異なる業態を持っていれば、それぞれのお店の『メイン商材』をそのままECの商品として開発・横展開することができるわけです。『焼肉セット』を作れば、『しゃぶしゃぶセット』も作れる。
これらを、私たちがすでに成功させている『もつ鍋』と同じようにECサイトで販売していく。すでに実店舗があるわけですから、新しい拠点を構える必要はなく、『今ある店舗の家賃(固定費)の範囲内』で新しいEC商品をいくらでも生み出し、売っていくことができるのです」
「今回はこのプラットフォームのターゲット層に合わせて、カフェのスイーツをEC化しよう」「次は冬に向けて、専門の肉職人が仕込むしゃぶしゃぶセットを売り出そう」といった、商品開発のバリエーションが、最初から手に入っている状態を作れるのです。
こうして多業態経営によって蓄積された豊富な商品力は、次に迎える「リアル店舗の限界」を突破するための強力な切り札となります。では、U-MOREはこの商品力の多さとECを組み合わせ、どのように店舗の壁を超えて収益を最大化させていったのでしょうか。
「店舗の売上が伸び悩んでいる」「これ以上、席数を増やせない」というリアル店舗ならではの壁。山﨑社長は、前章の最後で触れた「多業態の開発力」を活かし、EC事業を実店舗と組み合わせた収益構造へと進化させました。
飲食店というビジネスは、どんなに繁盛して行列ができても、物理的な「席数」と「営業時間」によって売上の上限が決まってしまいます。つまり、構造的に上限以上の儲けを生み出しにくい。
しかし、全国のお客様を対象とするECには、席数という概念がありません。お店が閉まっている深夜でも、地方で台風が来て客足が止まった日でも、24時間365日売上が立ち続ける「安定したインフラ」として機能します。リアル店舗の物理的な限界を、ネットの世界が補完してくれるのです。
「自社のECサイトを立ち上げたところで、最初は全然売れないのでは?」
その疑問に対して山﨑社長が実践しているのが、1つの商材を複数の販路で使い回す「相互援護射撃」の仕組みです。
山﨑社長「Web上の仮想店舗は、ただ待っているだけでは誰も来ません。だからこそ、ウチは『実店舗×EC×リアルイベント』を組み合わせます。
例えば、同社のECを牽引する看板ブランド『黄金屋』の特製もつ鍋を、①実店舗で提供し、②デリバリーやECで全国へ届け、③代々木公園などで開催される大規模なリアルイベント(毎年1位を獲得する実績)へ出店して販売します。
イベントで数万人のお客様に「美味しい!」と体験してもらうことで、その場で強烈な認知が生まれ、イベントでファンになったお客様が「また食べたい」とECサイトを検索し、実店舗にも足を運ぶ。
この3つの販路が三角形のようにお互いを支え合うことで、EC立ち上げ期にありがちな「誰も来ない、売れない壁」を飛び越えることができるのです。
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販路の種類 |
役割とメリット |
U-MOREでの具体例 |
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① 実店舗 |
体験・信頼の獲得、ベースの収益 |
もつ鍋、焼肉、カフェなどの運営 |
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② リアルイベント |
爆発的な認知拡大、短期の売上 |
代々木公園などのフードフェス(1位実績) |
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③ EC(通販) |
24時間稼働のインフラ、全国展開 |
人気店の味を全国へ配送(『黄金屋』の特製もつ鍋 ) |
イベントでの出店の様子
飲食店がECを始めるとき、最も反発の声が多いのは現場です。現場の店長やスタッフに、無理やり通販の業務を兼任させると、ただでさえ忙しい現場は反発し、クオリティも中途半端になります。
山﨑社長は、ECや商品開発、管理業務を、「現場の業務に体力的に悩みを抱えるようになった従業員や、今の業務に行き詰まりを感じているスタッフの『社内転職』の受け皿」として位置づけています。
飲食業界では、年齢とともに体力が落ち、現場に立てなくなって離職してしまうケースが後を絶ちません。しかし、彼らには長年培った「味へのこだわり」や「食材の知識」という大きな財産があります。
現場を退いたベテランをECの商品開発や工場長、物流管理の専門職へとシフトさせることで、現場経験を活かした深い商品開発ができ、従業員も65歳、70歳を過ぎても安心して働き続けられる。人手不足とECの成功を同時に解決する人材戦略です。
多業態を地域に合わせて個別に展開し、実店舗とECの強力な相乗効果を生み出す。一見するとハードルの高い経営に見えますが、山﨑社長の根底にある経営哲学を知れば、「これなら自分たちにも応用できるかもしれない」と気づくはずです。
山﨑社長が徹底しているのは、「新しい事業を、わざわざリスクを冒してゼロから生み出す必要はない」という極めて合理的なスタンスです。
前述した通り、会社の創業自体を「既存事業の引き継ぎ」からスタートさせた山﨑社長。このスタイルは「EC事業」への参入時にも徹底されていました。
ノウハウのない状態からゼロベースで通販サイトや物流網を立ち上げるのは至難の業です。そこで山﨑社長は、「すでにEC事業を運営している会社をM&Aで買い取る戦略」をとりました。
山﨑社長 「通販をやりたくてゼロから作るより、基盤があった方がいいっていうのがあって。当時はもつ鍋の店舗の売り上げは傾いていたんですけど、既にECのノウハウも人材もセンターもあったので、その会社を買い取ったんです。それこそがこの先会社に必要になっていく要素と感じていたのです。」
最初から仕組み(システムや配送ルート)が出来上がっている土台を譲り受けることで、立ち上げ期の最大の壁を、あっさりとクリアしたのです。
この「ゼロから始めない」手法は、エリアの拡大でも活かされています。新潟・神立高原でのスキー場レストラン運営や沖縄でのリゾート事業など一見特殊な挑戦も、前職で培った「グアムでのリゾート運営経験」という確かなノウハウがあったからこそ、勝算を持ってスピーディーに展開できたものでした。
M&Aで買収した会社のEC販売商品「KOGANEYAのもつ鍋」
「他人の作った仕組みや既存の店を引き継ぐだけでは、自社らしさが出ないのでは」と考える経営者もいるかもしれません。しかし、山﨑社長の思考はシンプルです。
山﨑社長 「既にあるノウハウを最大限活かしていきたい。」
山﨑社長の戦略は「入る時は型通り、入ってからオリジナルへ」というグラデーションの思考です。最初から完璧な自社ブランドを目指して博打を打つ必要はありません。まずは出来上がっているインフラをそのまま動かし、何よりも「ビジネスとして成立させること」を最優先にします。
仕組みが回り、現場が安定して利益の出し方が見えてきた段階で、徐々にオリジナルの商品開発や独自の業態へとシフトさせていく。動かしながら中身をリライトし、自分たちの武器に変えていくことで、最終的に「完全に自社のもの」へと昇華させていくのです。
新しいことを始めるのに、自分の頭の中だけでゼロから壮大なビジネスを生み出す必要はありません。
すでにある仕組みや過去の経験を形を変えて引き継ぎ、現代に合わせて磨き上げていくこと。リアルな管理コストを認めながらも、1つの商材や仕組みを多角的に応用し、働くスタッフの未来のキャリアへ繋げていくことこそが、共倒れしない多角化経営の正解です。
「失敗して共倒れする恐怖」を、緻密なリスク分散と仕組み化で「持続可能な経営」へと変えたU-MOREの戦略。
あなたの周りにも、まだ活かされていない「すでにある仕組みやリソース」が眠っていませんか? ゼロから一人で悩むのをやめ、まずは身近にある土台を探すことから、新しい一歩を踏み出してみましょう。