ビルの11階という「空中階」立地でありながらお客さまが途絶えない「Matcha cafe 侘び寂び-wabisabi-東銀座築地店(以下 侘び寂びカフェ)」。そして、観光地の路面に出店するやいなや行列を作り出した「Matcha stand IPPUKU-wabisabi- 築地店(以下 IPPUKU)」。
この2店舗を運営する株式会社WaveOne代表の佐藤竣哉氏は、店舗・SNS・独自のプロダクトという3つの方向から仕掛けることで強力な集客を生み出しています。
特に、世界初となる「竹で飲む抹茶ラテ」のSNS動画は総再生回数1.5億回を突破。インパクト抜群の竹カップやお茶を点てるシズル感のある投稿は、多くの観光客やSNSユーザーを惹きつけています。
今回は、立ち寄り客が見込めない立地 からのスタートから行列を生むまでのプロモーション戦略、失敗談から辿り着いたSNS・プロダクト設計術、そして「お茶の日常化」を目指すブランド経営の裏側について詳しくお聞きしました。
現在でこそ連日多くのお客さまで賑わう同社ですが、1店舗目である「侘び寂びカフェ」のオープン当初は集客に大きく苦戦しました。店舗が位置するのはビルの11階。通りを歩く人の目に留まることはなく、看板による集客も期待できないため、立ち寄り客はゼロからのスタートでした。
開業からの約3か月間はSNS経由の来店もほとんど見られず、マップや検索で事前に調べたお茶好き層による「Google検索からの目的来店」のみで凌ぐ日々が続いたといいます。
この状況を打破しようと、佐藤氏は手探りでさまざまな集客施策を試みました。しかし、その多くは期待したような成果を生みませんでした。
「最初の3か月は店頭でのビラ配りや直接のお声がけ、Instagramストーリーズでの割引クーポン配布など手探りで試しました。ですが、クーポン利用での来店はゼロ。特に効果がなかったのが夜間の大量ポスティングです。
近隣8km圏内へ毎日何千枚も配布したものの実際の来店には繋がらず、労力に対するリターンを見ても自店の業態やターゲティングには不向きだったと実感しました」
ビルの11階という「空中階」立地でありながらお客さまが途絶えない「Matcha cafe 侘び寂び-wabisabi-東銀座築地店
開業初期の苦戦を経てトライアンドエラーを重ねた同社は、多額の広告費に頼らず「人が人を呼ぶ仕組み」を確立しました。
そのアプローチは、「店舗(人に話したくなる体験)」「SNS(投稿による拡散)」「プロダクト(歩く広告塔)」という独立した3つの軸から成り立っています。
口コミ、SNS投稿、街中の竹カップという異なる角度からの仕掛けがそれぞれ機能し、人が集まり続ける好循環を生み出しています。
店舗における「人が人を呼ぶ」仕組みの核となっているのが、スタッフによる知識の提供と感動体験です。「侘び寂びカフェ」では、店舗で得た驚きやお茶の知識をお客さま自身が周囲に披露したくなり、それを聞いた人が「自分も行ってみたい!」と足を運ぶ連鎖が生まれています。
これらを支えているのが、徹底したスタッフ教育とオペレーション設計です。
こうした教育体制やオペレーションのおかげでお客さまが人に話したくなり、それを聞いた人が「自分も行ってみたい」と来店することで、さらにお客さまを呼ぶ好循環が生まれているのです。
同社では有料のSNS広告を打っていません。その代わり、訪れたお客さまが思わずストーリーズやフィードに投稿したくなる演出に注力されたそうです。
特に効果を発揮しているのが、「侘び寂びカフェ」「IPPUKU」の両店で徹底している目の前でお茶を点てるシズル感の演出です。お茶を点てる鮮やかな所作や、緑色が広がる瞬間を目の前で見せることで、自然とスマートフォンを向けて動画を撮影し、SNSにアップします。
SNS上で第三者が投稿したシズル感あふれる動画を目にしたユーザーは、「自分もこの美味しさを味わってみたい」「この特別な空間を体験したい」という強い来店動機を抱きます。
さらに、SNSへの感度が高い層に対しては、「自分もこの美しい映像を撮影したい」「SNSに投稿して誰かに見せたい」という気持ちを直接刺激する仕掛けとして機能しており、体験と撮影の両面から足を運ばせる強力な集客動線となっています。
2店舗目となる「IPPUKU」の出店を構想した際、佐藤氏はより強力に街中の認知を獲得できる集客施策を模索しました。
「発想の原点は、テーマパークで誰もが首から下げているポップコーンバケツでした。街中で『あれは何だろう?』『どこで買えるんだろう?』と視線を集める、歩く広告塔のようなプロダクトを作りたいと考えたのです」
お茶文化との親和性が高く、ブランドの雰囲気に合致する素材として「竹」に着目した佐藤氏は、全国の農家に直接アプローチを行い、岩手県の農家との提携を取り付けました。素材の仕入れから加工、店舗への配送までを一元化することで中間マージンをカットし、1個あたり約600円かかる原価と同額の「利益を乗せない価格」で提供しています。
佐藤氏がこの「歩く広告塔」の手応えを実感したのは、ある暑い日のことでした。
「築地の街を歩いていたら、ベンチや日陰で休んでいる観光客のほぼ全員が、うちの竹カップを持っていたんですよね(笑)。『あ、街ジャックできてるわ』って、本当に鳥肌が立ちました。それを見た周りの人が『それどこで買ったの?』となって、お店に人が流れてくる。まさに『歩く広告塔』として爆発的に機能してくれた瞬間でしたね」
広告費をかけなくても、人の目を引くプロダクトが街に出れば、それ自体が次のお客さまを呼ぶ導線になるのです。
これほどまでに多様な仕掛けで集客を成功させている同社ですが、実は来店客のリピート率はわずか1%程度にとどまります。一見すると課題のようにも思えますが、これも佐藤氏があらかじめ計算し、意図的に設計したビジネスモデルの結果なのです。
というのも、同社が掲げる真の目的は「お茶の日常化(誰もが日常的にお茶を飲む文化をつくること)」そのものにあるからです。佐藤氏は「お茶をワインやコーヒーのように世界中の人々が自然に楽しむ文化へ育てていきたいと考えています」と語ります。
日常の中でお茶を楽しんでもらうことこそが目的であるため、店舗へ何度も足を運んでもらうリピートモデルに頼る必要がありません。リピーター獲得をメインに据えるのではなく、店舗での感動体験を通じて「お茶を飲む」という体験を人々の日常へ浸透させていくこと——。これこそが、同社が目指す本来の姿なのです。
目的である「お茶の日常化」を達成するため、同社では店舗体験から自宅での習慣化までを一貫して設計しています。
まず店舗展開においては、接点の深さに応じた役割分担を行っています。
このように店舗ごとの役割を明確に分けることで、気軽な接点からより深い興味へと客の関心を段階的に引き上げる構造を作り出しています。
さらに、店舗での体験を自宅での習慣へ繋げるため、全店共通で以下の施策を展開しています。
店舗での体験はあくまで「知るきっかけ」です。持ち帰ったティーバッグや茶器を通じて自宅でもお茶を楽しむようになってこそ、目的である「日常化」が完成します。店舗展開も商品展開も、すべては「人々が日常的にお茶を楽しむ文化をつくる」という1つの目的に向かって設計されているのです。
ビルの11階という立ち寄り客が見込めない立地からスタートした株式会社WaveOneの取り組みは、飲食店における集客やブランドづくりのあり方に大きなヒントを与えてくれます。
ポスティングやクーポンといった従来型の販促施策が不発に終わる中で、同社が確立した「人が人を呼ぶ仕組み」は、以下の3つの独立した軸によって支えられていました。
そして同社では今後、お茶の魅力をさらに深める次なる展開として、現代版の「茶室」を再定義した高価格帯の専門空間(第3のブランド)の立ち上げを構想しています。ビジネスの打ち合わせや深いお茶の体験ができる場として、会員制なども視野に入れたリピート型モデルを計画中です。
単なる値引きや一時的なプロモーションに頼るのではなく、お客さまが熱量を持って周囲に思わず伝えたくなるような集客モデルの構築と、ブレない目的を見据えた一貫性のある店舗経営。店舗の立ち上げや集客に悩む飲食店経営者にとって、多くの学びと気づきが詰まった貴重な事例と言えます。
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