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【須藤剛氏にインタビュー】「鉄板五十六」新立地に店舗を出店した「一致団結」の社風とは?

作成者: 千葉 哲幸|Oct 8, 2025 2:46:26 AM

 

8月12日、東京・八重洲の大型複合ビル・戸田ビル2階に「鉄板五十六(いそろく)」というお店がオープンした。店名通りに、鉄板焼きのお店で約22坪、30席。飲食店フロアの通路側にオープンキッチンと、それを囲む形のカウンター席が見えて、調理のパフォーマンスを楽しむ趣向の店づくり引かれる。「入ってみたい」と思わせる。同店を運営するのは、株式会社スマイルリンクル(本社/東京都千代田区、代表/須藤剛氏)である。

実は、この鉄板焼きのお店は、同社にとって、「久々の」「異例づくめ」のお店なのである。

アイキャッチが代表の須藤氏である。

ビル2階の飲食店ゾーンの通路から、店内の全体を見渡すことが出来て、「入ってみたい」動機を誘う

 

二つとない個性派の店舗を同一エリアで営業

スマイルリンクルを創業したのは森口康志氏(59歳)、1994年、東京・神田にお好み焼き店を開店したことに始まる。以来、同社は快進撃を見せて、都内のさまざまなエリアに多様な飲食店を展開していく。その数は30店舗ほど。しかしながら、閉店する事例も多くなっていく。

 

そこで、同社では「再編」に挑んだ。閉店する事例があるが、唯一店舗が閉店しないエリアがあった。それは「神田」。「自分たちが得意な町は、神田」と確信し、このエリアの5店舗に絞り。神田ドミナントの運営をしていく。また、「商業施設は、営業時間をはじめ制約が多い」と、商業施設内に出店しない方針を立てた。

 

神田の5店舗とは、以下のような内容だ(カッコ内は、その業種)。

 

・「Big-Pig」(お好み焼き)

・「酒場ゴロー」(肉酒場)

・「酒場五郎」(大衆酒場)

・「Tchin-Tchin GORO」(和食×フレンチ)

・「ラムゴロー」(羊肉料理)

これに、「小籠包マニア」(小籠包)が加わった。

創業の店舗である神田の「Big-Pig」。広島球場の中にいるような雰囲気でストーリー性が高い

神田ドミナントで、町場の路面ないし地下1階に、それぞれ特徴のはっきりとした店舗を構えている。そこで、スマイルリンクルの顧客は、これらの店舗を巡ることを楽しんでいる。

 

これらの方針を打ちたてたのは、現代表の須藤剛氏(42歳)。2020年4月代表に就任したところ、いきなりコロナ禍となった。神田は1日の乗降客が22万人というオフィス街であるが、リモートワークとなって、街は閑散となった。

 

「コロナの影響が少ない、住宅地に移転しようか」と、考えることもあったが、JR神田駅近くの4階建て1棟の物件を確保し、ここに本社機能を集中させ、前述した「ラムゴロー」と、新事業となるセントラルキッチンを構えて、神田ドミナントに集中するようになった。

 

コロナ真っ最中に営業したことで「一致団結」

神田ドミナントの同社が勢いを付けたのは、コロナの真っ最中であった。

同社の店舗は、休業要請がある中で「振り切った形で、営業した」(須藤氏)。

須藤氏は、こう語る。

「ディナー帯の休業要請があったときに、『夜になるとウイルスが強くなるのか』と疑問を感じて、『そんなことはないだろう』と。きちんとした指標の裏付けがなく、休業要請がなされるならば、われわれば正々堂々と商売をやろう、と決断しました。これによる『過料』も支払いました」

 

コロナの中で営業をしていると、お客は次々とやって来た。そのことが話題となって、遠方からもやって来た。たちまち、神田の各店舗は2時間待ちの状態になった。

 

このような中で、同社では社内的にルールをつくった。須藤氏はこう語る。

「一つは、休業要請がある中で、われわれが営業することを、全員で納得すること。これがないと『やらされ感』が生まれてしまいます。もう一つは、来店されたお客様を無下に扱わないこと。この繁盛現象はわれわれの力ではない、と。そこで、『次につなげるためには、どのようにすればいいかを一生懸命考える』ということです」

 

このような方針で営業を続けていた同社では、いまにつながる社風が出来つつあった。

「それまで、従業員さんは『自分の店が勝てばいい』という発想をしていました。これはこれで大切なことですが。それが、同じエリアで仕事をしている以上、6店舗で働いているすべての人が、きちんとかみ合っていないともったいないことだ、と考えるようになりました」

 

そこで、同社では、業種が異なる店舗間で従業員のシャッフルを行うようにした。そのために、従業員のすべてがオープンにコミュニケーションを取ることが出来るコミュニケーションツールをつくった。これによって、「一致団結」の社風を培っていった。

こうして、同社の売上高は2019年比で130%の状態になったという。

 

八重洲の店舗によって、新しい客層を獲得する

そして、スマイルリンクルではこの8月八重洲の商業施設の中に「鉄板 五十六」をオープンした。「神田ドミナントで、商業施設に出店しない」という同社の方針を超えた、新しいチャレンジである。須藤氏はこう語る。

 

「八重洲に出店することを決断したのは、デベロッパー様がわれわれが提示した出店に際しての条件をのんでくれた、ということが一番ですね。つまり、ランニングコストが極力抑えられて、自由度がある、ということです」

「そして、これまでの「神田エリア」で出店するということを、もう少し広い視点で捉えてもいいのではないか、と。これからは、秋葉原も神田エリアと捉えていいかもしれません」

 

新規出店の業態を「鉄板焼き」にしたのは、同社創業の業態が鉄板焼きである「お好み焼き」ということに由来しているという。同社には鉄板焼きが出来る人材がたくさんいて、「鉄板焼きが得意な会社」ということを自負している。さらに、「未来型」の店づくりについて、こだわりがあった。

 

「これからの飲食店は、『おいしい』ということだけでは差別化することが出来ません。『シズル感』をはじめとした『体験価値』というものがとても重要ではないか、と。そして、お客様とのコミュニケーションですね。食事をおいしくするのは会話です」

 

現状、客単価はディナー帯で、6000円から7000円あたり。いわゆる従来の鉄板焼きだと、「A5和牛」とか「ロブスター」といった食材を焼いて提供する形で、これだと2万円、3万円のお店となる。同社の場合は、お客が日常的に親しんでいる食材を鉄板焼きで表現して、これをミドルの価格帯で提供しようと考えた。

「鉄板 五十六」の接客のテーマは「コミュニケーション」で、テーブル席のお客にもお声掛けは欠かさない

八重洲のお店には、神田には見られないちょっと敷居の高い感じの客層が来店しているという。これらのお客は、食事をして「ちょっと、安すぎるんじゃない」とコメントする人もいるという。同社としては、ステータスを感じ取っているようだ。

 

スマイルリンクルという会社は、コロナ禍の経験によって、新しいことにチャレンジする企業文化を築き上げた。新規出店の立地が、神田から遠く離れた場所ではなく、隣りの街である。神田ドミナントの概念が広がったと捉えていいのではないか。「一致団結」のこれからの歩みを注目していきたい。

鉄板焼きのオープンキッチンではパフォーマンスが披露されて、食事をする人を飽きさせない