「お客さんは来てるし、売上もそこまで悪くない。でもなぜかお金が残らない…」
そんな違和感を感じている飲食店オーナーは、実は少なくありません。
実際、飲食店の倒産の中には「黒字なのに潰れてしまうケース」が一定数存在します。
つまり、“売れている=安心”ではないのが飲食店経営のリアルです。
この記事では、黒字倒産が起きる仕組みをわかりやすく整理しつつ、飲食店に多い典型パターンとその対策までを具体的に解説します。
「なぜかお金が残らない…」という状態から抜け出すヒントとして、ぜひ参考にしてください。
帝国データバンクの「飲食店倒産動向調査(2024年)」によると、2024年の飲食店倒産件数は894件となり、コロナ禍の2020年(780件)を上回って過去最多を更新しました。
また東京商工リサーチの調査でも、2024年度(〜2025年2月末)の倒産件数は907件に達しており、過去最多だった2023年度を上回るペースで推移しています。
特に注目すべきなのは、その内訳です。
つまり、倒産の多くは大規模チェーンではなく、地域に根ざした中小規模の飲食店で起きているのが実態です。
東京商工リサーチは、倒産増加の主な要因として以下の3点を挙げています。
コロナ禍の「実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)」を利用した企業の倒産は、2020年7月から累計1,787件(東京商工リサーチ、2024年調査)。コロナ禍でなんとか生き延びても、返済が始まった瞬間に資金繰りが崩れるケースが続出しました。
歴史的な円安を背景に食材・光熱費が高騰。2024年上半期だけで「物価高倒産」は32件(前年同期比45.4%増)と、集計開始以来の最多を更新しています(東京商工リサーチ)。
人材確保のための賃上げが経営を直撃。2024年上半期の「人手不足関連倒産」も28件(同33.3%増)と最多を更新しました。
そして、これらすべての問題に共通しているのが「売上はあるのに手元資金がない」という構造です。
黒字倒産とは、帳簿上は利益が出ているにもかかわらず、手元の現金が不足し支払いができなくなることで発生する倒産を指します。
東京商工リサーチのデータによると、倒産企業の約3社に1社が黒字倒産(倒産の32%が赤字以外の理由)とされており、決して珍しくありません。
飲食店では現金商売のイメージが強いものの、実際にはクレジット決済の増加などにより入金にタイムラグが生じるケースも多くあります。このズレが積み重なることで、帳簿上は黒字でも資金が不足する状態が発生します。
【具体例】クレジットカード払いによる入金ズレ
1.お客様が3,000円の食事をカードで支払い→売上3,000円(現金は入ってこない)
2.食材の仕入れ代500円を現金で支払い→コスト発生(現金▲500円)
3. カード会社からの入金(1〜2ヶ月後)→+3,000円
つまり、「利益が出ている=安心」というわけではなく、「現金が手元にあるかどうか」が経営の安定性を左右する重要なポイントになります。
実際に倒産に至る飲食店には、いくつかの共通点があります。
代表的なのは、日々のレジの売上はチェックしているものの、月次の資金繰り表(キャッシュフロー計算書)を作っていないケースです。
1. 売上帳と損益だけを見て「黒字だから大丈夫」と思い込む
2. 実際には来月の家賃・食材仕入れ・給与の支払いに充てる現金が不足している飲食業では月初に材料費を仕入れ、月末に家賃・人件費が集中するケースも多くあります。キャッシュフロー計算書を月次で管理していなければ、資金ショートは突然やってきます。
売上が増えていても、原価率(食材費÷売上)が高ければ利益は消えてしまいます。
飲食業の適正原価率は一般的に30〜35%とされているが、昨今の物価高でこの水準を維持できていない店は多くあります。仕入れコストが上がっても値上げを躊躇している店では、売上が増えるほど損失が膨らむ「逆効果」が起きています。
原価率30%の店と38%の店の利益差(月商200万円の場合)
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項目 |
原価率30% |
原価率38% |
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売上 |
200万円 |
200万円 |
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食材費 |
60万円 |
76万円 |
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差額(食材費のみ) |
— |
▲16万円 |
月に16万円の差は年間で192万円。これが毎月積み重なれば、たとえ「売上が伸びていても」じわじわと手元資金を食いつぶしていく事になってしまいます。
損益計算書に「返済」は費用として計上されません。そのため、毎月の返済額が帳簿に見えにくいという落とし穴があります。
例)
合計で月30万円がキャッシュとして消えていきますが、損益計算書上はこれらが「費用」として明示されないため、経営者が気づかないまま資金が枯渇していくケースがあります。
実際に2023〜2024年にかけてゼロゼロ融資の返済が本格化したことで、売上は戻ってきたのに返済でキャッシュが足りないという飲食店が急増しました。
飲食店の固定費の代表は家賃です。一般的に売上の10%以内が適正とされているが、駅近・好立地の物件を高家賃で借りているケースでは、この比率が15〜20%に達することもあります。
月商100万円の店で家賃が20万円(20%)の場合
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項目 |
金額 |
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売上 |
100万円 |
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食材費(35%) |
35万円 |
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人件費(35%) |
35万円 |
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家賃(20%) |
20万円 |
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その他光熱費等 |
10万円 |
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合計費用 |
100万円 |
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手残り |
0円 |
これに借入返済が加われば、毎月赤字確定になってしまいます。売上があっても固定費の割合が高すぎれば、いくら頑張っても利益は出ることはありません。
消費税・法人税・社会保険料は、売上が上がれば上がるほど後払いで大きな現金が出ていく仕組みになってます。
特に消費税は、毎日お客様からお預かりしているにもかかわらず、申告・納付は年1〜2回のまとめ払い。「消費税分を使ってしまっていた」という経営者は非常に多いです。
これらは「売上がある」にもかかわらず「現金がない」典型例です。
1店舗目が好調なので2店舗目を出店した。厨房設備を新しくリニューアルした——こうした設備投資・多店舗展開がキャッシュを急激に減少させるケースがあります。
損益計算書では、設備の「減価償却費」として毎月少しずつ費用計上されますが、実際の現金は購入時に一気に出ていきます。帳簿上の利益とキャッシュの乖離が最も大きくなるのが、このタイミングです。
好調な時期に拡大路線を取り、投資した設備の減価償却期間中に売上が落ちると、あっという間に資金ショートが起きてしまいます。
やや耳の痛い話ですが、潰れる飲食店の多くに共通するのが経営者が数字から目を背けているという事実です。
「美味しいものを作れば繁盛する」という信念は大切ですが、経営とは「数字を読んで意思決定する」総合格闘技です。数字から目を背け続けた結果、気づいたときには手遅れになっているケースが後を絶ちません。
上記の特徴が重なったとき、どんな流れで倒産に至るのか。典型的なシナリオをまとめました。
【STEP 1】開業・順調期(〜1年目)
新規客が入り、売上は好調。資金繰りは問題なし。ただし原価率・キャッシュフロー管理はあいまい。
【STEP 2】売上維持・コスト上昇期(1〜2年目)
物価高で食材費・光熱費が上昇。値上げをためらい、利益率が静かに下落。帳簿上はまだ黒字。
【STEP 3】借入返済・資金圧迫期(2〜3年目)
開業融資・ゼロゼロ融資の返済が本格化。毎月のキャッシュアウトが増え、手元資金が減り始める。
【STEP 4】資金ショート直前期(3年目〜)
消費税の納付、家賃の更新、厨房機器の修理が重なり、手元資金がほぼゼロに。銀行への追加融資も難しくなる。
【STEP 5】倒産・廃業
給与・家賃・仕入れ代のいずれかが払えなくなり、事業継続を断念。帳簿上は「黒字」のまま幕を閉じる。
前兆に気づいた段階で行動すれば、まだ間に合うかもしれません。
キャッシュフロー計算書(資金繰り表)を毎月作成し、「来月・再来月の入金と出金」を可視化することが最重要です。
最低限チェックすべき項目:
月末の予測残高がマイナスになりそうなら、翌月の仕入れを絞る・早期入金交渉をするなど、早めに手を打つ事ができます。
飲食店経営の基本指標がFLコスト(Food+Labor)です。
これが65〜70%を超えている場合、売上があっても利益は出ません。毎月FL比率を計算し、超えていれば即座にメニュー・シフトを見直す事が重要です。
売上が発生した時点で、消費税分(売上×10/110)を別口座に移す習慣をつけると、納税時の資金ショートを防げます。「消費税は預かっているお金」という意識を徹底することが大切です。
損益計算書に表れない「返済額」を毎月の支出として資金繰り表に組み込み、実際の手元資金の増減で経営状態を判断します。
「P/L(損益)では黒字」でも「CF(キャッシュフロー)ではマイナス」という乖離を早期に発見するのがポイントです。
一人で抱え込むほど判断が鈍ります。以下の支援機関は無料または低コストで経営相談が受けられます。
商工会議所・商工会:無料の経営相談・専門家派遣
中小企業支援センター:財務・資金繰りの専門アドバイス
事業再生ADR・中小企業活性化協議会:深刻な資金繰り問題への対応支援
G-FACTORYなどの飲食店専門コンサルティング:業界特化型の経営改善支援
飲食店経営で一番大事なのは「いくら売れたか」ではなく「いくら残ったか」です。黒字倒産は特別な話ではありません。むしろ、ちゃんと対策していないと普通に起きます。
まずは一度、自分のお店の「お金の流れ」を見える化することから始めてみてください。