「求人を出しても応募が来ない」「やっと採用できても数ヶ月で辞めてしまう」——そういった声が飲食業界で増えています。
しかし今の人手不足は、採用活動を強化すれば解決できる話ではなくなっています。東京商工リサーチの調査では、2026年1〜5月の飲食業倒産件数は411件と30年間で過去最多を記録。そのうち「人件費高騰」による倒産は前年同期比566.6%増という急激な伸びを示しています。
人手不足の問題は「採れない」だけでなく、「採れても人件費で利益が消える」「人が足りないまま回し続けて既存スタッフが疲弊する」という複合的な構造になっています。この記事では、採用以外の視点から人手不足を乗り越えるための3つの切り口を整理します。
東京商工リサーチの調査によると、2026年1〜5月の飲食業倒産件数は411件で、1997年以降の30年間で過去最多だった2024年の408件をすでに超えました。前年同期比でも2.2%増と増加傾向が続いています。
2025年通年でも飲食業の倒産は1,002件と、1996年以降初めて1,000件を突破しています。居酒屋・バー・カラオケなど「夜の街」業態を中心に、インバウンド需要の恩恵が届かない小規模店の脱落が続いています。
注目すべきはその原因の内訳です。2026年1〜5月の「人手不足」倒産28件のうち、「人件費高騰」が主因の倒産は20件で、前年同期比566.6%増——つまり前年の約6.6倍に急増しています(東京商工リサーチ)。
また2025年度通年でも「人手不足」倒産は飲食業で64件、前年度比178.2%増と3倍近い伸びを示しました。「人が集まらないから倒産する」だけでなく、「賃上げしたことで資金繰りが破綻する」という倒産パターンが急増しているのが2026年の特徴です。
・倒産した飲食店の90.7%が資本金1千万円未満の小・零細規模(東京商工リサーチ 2026年1〜5月)
・「値上げすれば客が離れる」「値上げしなければ原価・人件費を吸収できない」というジレンマ
・コロナ禍の資金繰り支援(ゼロゼロ融資等)の返済が重なり、賃上げ原資を確保できない
・大手チェーンとの賃金競争に巻き込まれ、採用しても定着しないサイクルに入っている
以上のパターンに当てはまっている方は要注意です。
求人広告費・人材紹介費・採用後の教育コストを合計すると、1人あたりの採用コストは数十万円規模になることも珍しくありません。採用しても早期離職が続くと、採用コストだけが積み上がり利益を削り続けます。
特に最低賃金が上昇し続ける中で、「採用できたとしても人件費率が上がり、利益が残らない」という状況に陥っている店舗が増えています。採用数を増やすことが、そのまま収益悪化につながるという構造的な矛盾が生まれています。
人手不足の状態でオペレーションを回し続けると、既存スタッフへの負担が集中します。残業・シフト増・休憩取れない、という状態が続くと、次に辞めるのは「まだ頑張っていた人」です。採用が追いつかないまま離職が続き、さらに人手不足が深刻化するという負のスパイラルは、多くの飲食店が経験しているパターンです。
採用活動を強化することは必要ですが、それと並行して「今いる人数で無理なく回せる仕組み」を作ることが、この悪循環を断ち切る第一歩です。
人手不足の解決策として最初に取り組むべきは「採用を増やすこと」ではなく、「今のオペレーションで本当にその人数が必要なのか」の見直しです。
飲食店のオペレーションは、長年の慣習で「ずっとやっていること」が残りがちです。しかし実際には、なくしても品質が変わらない業務、頻度を減らせる作業、まとめて処理できる工程が混在しています。
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見直しの視点 |
具体例 |
期待される効果 |
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なくせる業務 |
不要になった日報・手書きの在庫管理・慣習的な仕込み量 |
スタッフの時間と精神的負担の軽減 |
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減らせる業務 |
ピーク時以外の清掃頻度・過剰な仕込み量の見直し |
非ピーク時間帯の人員コスト削減 |
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まとめられる業務 |
発注・仕込み・清掃のまとめ作業化 |
1人が担当できる業務範囲を広げる |
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外注できる業務 |
定期清掃・経理・給与計算 |
スタッフを本来業務に集中させる |
メニュー数が多いほど仕込みの種類が増え、食材管理が複雑になり、スタッフのトレーニング時間も長くなります。「売れていないメニューを削る」「季節限定を定番に絞る」といった選択が、必要スタッフ数の削減と食材ロスの削減を同時に実現します。
メニュー絞り込みは客単価の維持・向上とも両立できます。品数より「この店にしかない一品」の価値を磨く方向に転換することで、オペレーション効率と収益性を同時に改善した事例は多くあります。
人件費を「削る」ことと「構造を変える」ことは違います。単純に時給を下げたり人数を減らしたりすることは、採用難・離職加速という逆効果につながりかねません。人件費率を適正に保ちながら収益を確保するには、コスト構造そのものを見直す必要があります。
飲食店の人件費率の目安は売上の25〜35%とされています。この数字から大きく外れている場合、原因がどこにあるかを分解して考える必要があります。
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人件費率が高い原因 |
確認ポイント |
対応の方向性 |
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ピーク・閑散の人員配置が固定 |
時間帯別の売上と人員数を照合しているか |
フレックスシフト制の導入・変動シフトへの切り替え |
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売上が人件費の増加に追いついていない |
客単価・回転率は改善できているか |
価格改定・高単価メニューの開発 |
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正社員比率が高い |
業務内容に対して正社員が適切か |
業務分解によるパート・アルバイトへの役割再分担 |
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早期離職による採用コストの繰り返し発生 |
直近1年の離職率と採用費用を算出しているか |
定着率改善への投資(環境・評価・キャリアパス) |
2026年の最低賃金引き上げや春闘の流れを受け、飲食業でも賃上げ圧力は続きます。賃上げ自体を避けることは難しいですが、賃上げの原資を「削る」のではなく「作る」視点が重要です。
価格改定(メニュー値上げ)・客単価の向上・原価率の改善・業務効率化によるコスト削減——これらを先に実行してから賃上げするか、少なくとも並行して進めることが、賃上げしたことで資金繰りが破綻するケースを防ぐための基本です。
採用と定着は表裏一体です。「定着率が低い職場」は、採用活動を強化しても慢性的な人手不足から抜け出せません。逆に定着率が高い職場は、採用コストが下がり、スタッフの習熟度が上がり、サービス品質と生産性が向上するという好循環が生まれます。
離職理由のアンケートで「一身上の都合」と書かれていても、その背景には職場への不満が潜んでいることが多いです。飲食業の離職理由の上位として繰り返し挙げられるのは以下の要素です。
これらは採用手法を変えても解決しません。「職場をどう設計するか」という経営判断が必要な問題です。
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仕組み |
具体的なアクション |
なぜ定着に効くか |
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評価・昇給の基準を見える化する |
スキルマップ・等級表を作り、何をすれば給与が上がるかを明示する |
「頑張れば報われる」という見通しが長期就業意欲につながる |
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シフト管理に柔軟性を持たせる |
希望シフト優先ルールの明文化・急な欠員時の対応フローを決める |
生活設計が立てやすくなり、長期継続しやすくなる |
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キャリアパスを示す |
アルバイト→リーダー→店長補佐→店長のルートを明示する |
「この店で成長できる」という実感が離職を防ぐ |
「全部一気にやる」は現実的ではありません。リソースが限られる中で優先順位をつけるとすれば、以下の順番が現場への負担が少なく、効果も出やすいです。
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優先度 |
取り組み |
理由 |
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高 |
オペレーションの棚卸し(なくせる業務・メニュー見直し) |
投資ゼロで始められる。現場の負担軽減効果がすぐに出やすい |
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中 |
定着率改善(評価基準・シフトルール・キャリアパスの整備) |
採用コストの削減と既存スタッフの安定化に直結する |
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並行して行う |
人件費構造の見直し(シフト最適化・価格改定) |
収益改善の原資を作ることが、採用・賃上げへの投資を可能にする |
採用活動は「必要な人数を絞り込んだ後」に強化するのが理想です。現状のオペレーションのまま採用人数を増やすと、人件費だけが増加して収益が悪化するリスクがあります。
賃上げは必要ですが、それだけでは職場の根本的な課題(評価の不透明さ・シフトの固さ・成長の見えなさ)は解決しません。時給を上げても離職が止まらない場合、問題は金銭的な待遇ではなく職場環境にあることが多いです。
「誰でもいいから早く採りたい」という状態での採用は、早期離職率を高め、結果的にコストと時間を無駄にします。採用基準を下げるより、オペレーションを見直して「必要な人数」を減らすことの方が先決なケースもあります。
人手不足は、価格設定・オペレーション・人件費構造といった経営上の問題が表出している場合があります。採用が解決しても、収益構造が変わらなければ「人件費高騰による倒産」という別の問題に直面します。採用活動と並行して、収益改善の視点を持つことが必要です。
「3つの視点のどこから手をつけていいかわからない」「オペレーション改善と採用を同時に動かしたい」という場合は、専門家への相談が最短ルートです。飲食業界の人材採用に特化したGF WORKSでは、採用チャネルの見直しはもちろん、「採用・定着・店舗運営をまとめて改善したい」という段階からご相談いただけます。
また、まるっと飲食情報局では人手不足・採用・経営改善に関する記事を多く挙げています。以下から一覧を確認できますので是非ご覧ください!
まず時間帯別の売上と人員数を照合し、閑散時間帯の過剰配置がないかを確認してください。次に、ピーク時以外に削減できる業務(仕込み量の見直し・清掃の頻度等)を整理することで、シフト時間を削減せずに稼働効率を上げることができます。価格改定(値上げ)はその後の段階で、客単価向上と組み合わせることで効果が出やすいです。
値上げに対する顧客の反応は、値上げの「幅」より「納得感」に左右されることが多いです。品質の変化なく単純に値段を上げると離れますが、「素材を変えた」「提供方法を変えた」「付加価値を加えた」という文脈を伴う値上げは受け入れられやすい傾向があります。また、まず客単価を上げるメニュー設計(サイドメニュー・セット化)から始め、段階的に価格水準を引き上げる方法もあります。
むしろ小規模店の方が、改善の効果が出やすいです。スタッフ数が少ないため、1人の業務範囲の整理が直接的に稼働効率に反映されます。まずは「今週1週間で一番時間がかかっている業務は何か」をスタッフと一緒に洗い出すだけでも、改善のヒントが出てきます。
最も即効性があるのは「評価と給与の連動を見える化すること」です。「何をすれば給与が上がるか」がわからない職場は、頑張っても報われないという感覚を生み、離職につながります。複雑なシステムは不要で、「この業務を習得したら時給がいくら上がる」という簡単な基準を作るだけでも効果があります。
採用を完全にやめる必要はありません。ただし、採用と並行してオペレーション・定着率の改善を進めることが前提です。採用だけに集中して仕組みが変わらないと、採用しても離職が続く状態から抜け出せません。「採用活動の強度はそのまま、同時に職場改善も動かす」が現実的なアプローチです。
2026年の飲食業倒産過去最多という数字が示しているのは、「採れない」だけでなく「採れても持続できない」構造になっている店舗が急増しているということです。人件費高騰による倒産が前年同期比566.6%増というデータ(東京商工リサーチ 2026年1〜5月)は 、採用活動の強化だけでは乗り越えられない壁があることを示しています。
人手不足を本質的に解決するには、採用活動と並行して以下の3つを動かす必要があります。
①オペレーションの見直し:必要な人数そのものを減らす③定着する職場の設計:採用コストを下げ、スタッフの生産性を上げる
倒産している店舗の90.7%が資本金1千万円未満の小・零細規模であることを考えると、この問題は「大手には関係ない話」ではありません。今の経営規模で人件費高騰と人手不足の両方を乗り越えるには、採用以外の視点を持った経営の見直しが不可欠です。
「何から手をつければいいか」に迷っているなら、まず現状のオペレーションを棚卸しすることから始めてください。投資ゼロで始められる改善が、店を守る最初の一手になります。