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モバイルオーダーは「全店」導入が正しい?飲食企業が保留すべき費用対効果と導入優先の考え方

作成者: 佐野 美涼|Jul 13, 2026 8:00:00 AM

「人手不足の解消にモバイルオーダーを導入したい」——そう考えている飲食企業・チェーン本部は多いです。しかし「とりあえず全店に導入する」という判断は、費用対効果の観点から見直した方がいいケースがあります。

帝国データバンクの調査(20261月)によると、飲食店の58.6%が非正社員の人手不足を抱えており、DX推進による生産性向上が業務改善の鍵とされています。一方で、システム導入後に「思ったより使われない」「スタッフの負担が増えた」という声も出ています。

この記事では、モバイルオーダーの費用相場と費用対効果の考え方、「どの店舗から・どの業態から・どの順番で」導入すべきかという経営判断の軸を整理します。

なぜ「全店一律導入」はリスクがあるのか?

導入効果は業態・客層・オペレーションで大きく変わる

モバイルオーダーの効果は「注文を受けるスタッフの工数を削減すること」が主な目的です。しかしその効果が大きく出るかどうかは、以下の要素によって変わります。

 

要素

効果が出やすい条件

効果が出にくい条件

業態・回転率

居酒屋・ファミレス・ファストカジュアルなど回転が多い業態

カウンター主体・高級店など接客そのものが価値の業態

客層

スマートフォン操作に慣れた20〜40代が主体の立地

シニア層・ファミリー(小さな子供連れ)が多い立地

人員配置

ホールスタッフが慢性的に不足している店舗

すでに少人数で効率的に回せている店舗

客単価・注文頻度

1テーブルあたりの注文回数が多い(追加注文が多い)業態

1回の注文で会計まで終わる業態(ランチ特化等)

立地

駅近・商業施設内など若年層の来店が多い立地

住宅街・ロードサイドなど客層が幅広い立地

 

全店に一律導入すると、効果が出にくい店舗でも月額費用・保守コスト・スタッフ研修コストが継続的に発生します。「導入したが使われない」という状態が一番コストパフォーマンスが悪く、スタッフのモチベーション低下にもつながりかねません。

 

「隠れコスト」を見落とすと費用対効果が崩れる

モバイルオーダーの費用として見落とされがちなのが、システム費用以外のコストです。以下はあくまで目安であり、選ぶシステムや店舗の環境によって異なります。

 

コスト項目

費用の目安

注意点

システム初期費用

0〜数十万円

「初期0円」でも周辺機器代が別途発生するケースが多い

月額利用料

0〜5万円程度

POS連携・顧客管理機能など拡張するほど高くなる

キッチンプリンター

1台2〜5万円程度

QRオーダー方式でも注文受信用に必要なケースが多い

Wi-Fi整備・強化

数万〜十数万円

既存Wi-Fiが弱い場合は別途工事が必要になる

スタッフ研修・マニュアル作成

数日〜1週間程度の工数

スタッフ全員が操作・案内できる状態にするまでの時間コスト

POS連携費用

システムによって異なる

連携できない場合は手打ち二重入力が発生し、逆に業務が増える

「初期費用0円」の落とし穴

・スタッフ用管理タブレット・キッチンプリンターは別途購入が必要なことが多い

・Wi-Fiが不安定な店舗では別途通信環境の整備が必要(注文できない状態は顧客満足度に直結する)

・POS未連携のシステムを選ぶと、注文データの手入力が発生して業務が逆に増える

・月額0円プランは機能が限定されており、実際に使いたい機能は有料オプションになるケースが多い

どの店舗から導入すべきか?優先順位の考え方

複数店舗を運営している場合、全店同時より「優先度の高い店舗から段階的に導入・検証」するアプローチの方が、投資リスクを抑えながら効果を確認できます。

 

導入優先度の判断軸

判断軸

優先度:高

優先度:低

人員不足の深刻度

ホールスタッフが慢性的に不足している・ピーク時に注文対応が追いつかない

現状の人員で余裕を持って回せている

客層のデジタルリテラシー

20〜40代が主体・インバウンド客が多い・商業施設や駅近立地

シニア層が主体・住宅街・ファミリー客が多い

客単価と回転率

追加注文が多い・席回転数が高い(居酒屋・ファミレス等)

1回の注文で会計まで終わる・高単価で接客が差別化要素

POSとの連携可否

現在のPOSがモバイルオーダーと連携実績がある

POSが古く連携に追加コストがかかる・全体更新が必要

Wi-Fi環境

安定したWi-Fiが整備済み

Wi-Fiが弱い・設備改修が必要

 

業態別の導入優先度まとめ

業態

優先度

主な理由

居酒屋・ダイニングバー

追加注文が多い・ピーク時のホール負担が大きい・客層がスマホに慣れている

ファミレス・ファストカジュアル

回転率が重要・メニュー数が多く注文ミスが発生しやすい

ラーメン・定食・カフェ(回転型)

注文頻度は低いが人手不足が深刻な場合は効果あり

高級レストラン・割烹

接客そのものがブランド価値・スタッフとのやり取りが体験の一部

カウンター主体の専門店

少人数で効率的に回せている・スタッフと客の距離が近い業態

シニア・ファミリー特化の店舗

低〜中

客層の操作ハードルが高い。紙メニューとの併用が必須

費用対効果をどう試算するか?

「導入すべきかどうか」を判断するには、月額コストと期待できる削減効果を比較することが基本です。以下は試算の考え方の例であり、実際の効果は店舗の状況によって異なります。

 

シンプルな費用対効果の試算例

項目

試算の考え方

例(20席・居酒屋の場合)

削減できるホール人件費

注文受付・呼び出し対応の工数削減分×時給

週末ピーク時にホール1名分(月20〜30時間)削減できると仮定→月3〜5万円相当

注文ミス・クレーム対応コスト削減

月の注文ミス件数×対応コスト(食材・時間)

月5件のミスが半減→月1〜2万円相当(業態・状況による)

客単価向上効果

追加注文促進(写真・おすすめ表示)による客単価アップ

客単価が平均100〜200円上がると月数万円の売上増も(業態による)

月額システムコスト

月額利用料+周辺機器の月割り

月額1〜3万円+機器代月割り5,000〜1万円=月1.5〜4万円程度

 

上記の試算はあくまで参考例です。実際の削減効果はオペレーションの改善度・スタッフの習熟度・客層の利用率によって大きく変わります。導入前に「何を目的に・どの数字が改善したら成功とみなすか」のKPIを先に決めておくことが重要です。

 

IT導入補助金の活用で実質コストを下げられる場合がある

2026年度もIT導入補助金が継続されており、対象ツールとして認定されているモバイルオーダーシステムであれば、ソフトウェア費用の2/33/4が補助される場合があります(デジタル化基盤導入枠)。

ただし補助金には申請スケジュール・要件があり、採択が確定してから導入するのが原則です。「補助金が取れたら導入する」前提で計画を組む場合は、採択されなかった場合のプランBも用意しておいてください。また、補助金の詳細・最新情報は中小企業庁の公式サイトで確認することをおすすめします。

 

5問の導入可否セルフ診断

以下の5問に答えて、自店舗の導入優先度を確認してください。

 

質問

Yes

No

Q1. ピーク時にホールスタッフが注文対応に追われ、他の業務が後回しになることが月に5回以上ある

導入優先度:高

現状では優先度低め

Q2. 来店客の主層が20〜40代で、スマートフォン操作に慣れていると感じる

顧客側の利用ハードル低

紙メニュー併用が必要なケースも

Q3. 1テーブルあたりの追加注文が平均2回以上ある(居酒屋・飲み放題等)

注文受付工数の削減効果が大きい

注文頻度が低い業態は効果が出にくい

Q4. 現在のPOSレジがモバイルオーダーと連携実績のあるシステムである

導入・運用コストを抑えやすい

→ POS更新も含めた費用試算が必要

Q5. 店舗全体で安定したWi-Fi環境が整っている(接続が途切れない)

通信トラブルリスクが低い

→ Wi-Fi整備コストも含めて検討が必要

【診断結果の読み方】

Yes が4〜5個:導入の費用対効果が出やすい環境。まず1〜2店舗で試験導入を検討するタイミングです。

Yes が2〜3個:条件を整えてから導入するか、導入効果が高い店舗に絞って先行検証することを推奨。

Yes が0〜1個:現時点では導入コストに見合う効果が出にくい可能性があります。まずオペレーションや人員配置の見直しを先行させることを検討してください。

導入後に「失敗した」と感じるケースと防ぎ方

 

失敗① スタッフへの説明・研修が不十分だった

モバイルオーダーは「入れれば終わり」ではありません。スタッフが操作方法・トラブル時の対応・お客様への案内方法を習得していないと、かえって現場が混乱します。導入前にスタッフ全員が説明・案内できる状態を作ることが前提です。

 

失敗② お客様が使えないケースへの対応を決めていなかった

スマートフォンを持っていない・操作が難しいというお客様は必ず一定数います。「モバイルオーダー一本化」ではなく、紙メニュー・口頭注文との併用体制を残しておくことが、顧客満足度を下げないための基本です。

 

失敗③導入目的が曖昧なまま進めた

「人件費削減」「注文ミス削減」「客単価向上」のどれを目的にするかによって、選ぶシステムも評価基準も変わります。「なんとなくDXしなきゃ」という動機で導入すると、効果測定もできず月額費用だけが積み上がります。導入前にKPI(何をどのくらい改善したら成功か)を決めてから動き始めてください。

 

「自店舗に合うシステムの選び方がわからない」「費用対効果を試算した上で判断したい」という場合は、専門家への相談が最短ルートです。

まるっと飲食情報局では、飲食店のDX・IT活用に関する情報を継続的に発信しています。モバイルオーダー以外にもコスト削減に関する記事も多く発信しておりますので、是非参考にしてください。

 

よくある質問

 

モバイルオーダーを入れると本当に人件費が下がりますか?

業態・導入方法・スタッフの習熟度によって効果は異なります。一般的にホール業務の工数削減(注文受付・呼び出し対応)によって同じ人数でも対応できる席数が増える、あるいはピーク時の人員を減らせるケースがあります。ただし「システムを入れれば自動的に人件費が下がる」ではなく、オペレーション全体の見直しとセットで考える必要があります。

 

シニア客が多い店舗でも導入できますか?

導入は可能ですが、紙メニューや口頭注文との併用が必須になります。完全移行するのではなく「モバイルオーダーを使えるお客様には使ってもらう」という補助的な位置づけで運用する方が顧客満足度を下げにくいです。シニア客が主体の店舗では、導入コストに見合う効果が出るかを慎重に試算することをおすすめします。

 

今使っているPOSレジとの連携は必須ですか?

連携なしでも運用は可能ですが、モバイルオーダーの注文データを既存POSに手打ちする二重入力が発生します。これでは業務効率化にならないどころか、入力ミスのリスクが増えます。導入前に「現在のPOSとの連携可否」を必ず確認し、連携できない場合はPOS更新も含めた費用試算をしてください。

 

補助金を使って導入したいのですが、注意点はありますか?

IT導入補助金など複数の制度が活用できる場合がありますが、申請スケジュール・対象要件・採択率はシステムや年度によって異なります。「補助金ありき」で計画を組むと、不採択時に予算が確保できないリスクがあります。補助金は「活用できればコスト削減になる」という位置づけで、採択されなくても導入できる資金計画を先に作っておくことが基本です。詳細は中小企業庁の公式サイトまたはIT導入支援事業者に確認してください。

 

何店舗から導入するのが現実的ですか?

初めて導入する場合は、まず12店舗で36ヶ月間試験運用し、効果と課題を把握してから全店展開を判断することを推奨します。全店同時導入は初期コスト・研修工数・トラブル対応が集中するリスクがあります。「まず効果が出やすい店舗で検証してから展開する」段階的アプローチが、投資リスクを抑えながら知見を積める方法です。

まとめ——「全店導入」より「正しい店舗から導入」が大事

モバイルオーダーは、正しい店舗に正しい目的で導入すれば、人手不足の緩和・客単価向上・注文ミス削減に貢献する有効なツールです。しかし「とりあえず全店に入れる」という判断は、効果が出にくい店舗でコストだけが積み上がるリスクがあります。

 

導入判断のポイントを3つにまとめます。

 

  • 「導入効果が出やすい業態・客層・立地」から優先導入し、検証してから展開する
  • ② システム費用だけでなく、周辺機器・Wi-Fi・研修の「隠れコスト」も含めて試算する
  • 「何を改善したら成功か」のKPIを先に決めてから導入に動く

 

人手不足への対応としてDXを検討することは正しい方向性です。ただし、ツール導入と並行して「オペレーションの見直し」「採用・定着の改善」を組み合わせることで、より持続的な効果が得られます。「まず何から手をつけるか」に迷っているなら、店舗の現状を整理することから始めてください。