「採用ができないから、オペレーションを楽にするためにメニューを減らそう」——採用難の立地を抱える飲食チェーンの本部会議で、こういった提案が出ることが増えています。方向性は正しいですが、「どのメニューを・どんな基準で・削るのか」を整理せずに動き始めると、売上が下がっただけで業務負荷はあまり変わらなかった、というケースが起きます。
メニューを削ることの目的は「オペレーションを楽にする」ことですが、実際に業務負荷に影響するのはメニューの数ではなく「仕込みにかかる作業時間」と「仕込みの複雑さ」です。注文数が少ないメニューを削っても、仕込みが複雑なメニューが残っていれば負荷はほとんど変わりません。
この記事では、メニュー削減を決める前に確認すべき3つの指標——作業時間・仕込み量・粗利——の見直し手順を整理します。「削るべきメニュー」を数字で特定してから判断することで、業務負荷の削減と利益維持を両立させる選択ができます。
メニュー数と業務負荷は比例しません。例えば、10品のメニューがあっても、そのうち8品が同じ仕込みベース(下味・煮込み等)を共有していれば、仕込みの種類は少ない。逆に5品でも、それぞれが全く異なる仕込みプロセスを持っていれば、負荷は高いままです。
メニューを削る前に「どのメニューが・どれだけの仕込み時間を占めているか」を把握することが、削減効果を最大化するための出発点です。
注文数が少ないメニューを削ると、確かに廃棄ロスは減ります。しかし注文数が少ないメニューは仕込みも少量であることが多く、削減による業務負荷の軽減は限定的です。むしろ「注文数は多いが仕込みが複雑」なメニューを見直す方が、業務負荷の削減効果は大きいケースがあります。
最初のステップは、各メニューの仕込みに実際にかかっている時間を記録することです。「だいたいこのくらい」という感覚値ではなく、実際にストップウォッチで計測することを推奨します。
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計測の手順 |
内容 |
注意点 |
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①仕込み工程の一覧化 |
各メニューの仕込み工程を「下処理・下味・加熱・盛り付け準備」等に分解して書き出す |
「仕込み」の定義を統一する。当日仕込みと前日仕込みも区別する |
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②工程ごとの時間計測 |
実際にスタッフが仕込みを行う場面でストップウォッチ計測(3〜5回の平均値を取る) |
習熟度が低いスタッフと高いスタッフで差が出る。平均的なスタッフで計測する |
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③メニュー別の合計時間算出 |
工程ごとの時間を合計し、「1日あたりの仕込み時間(人時)」をメニューごとに算出 |
1日の注文数に応じた仕込み量で計算する |
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④全体に占める割合を可視化 |
全メニューの仕込み時間合計に対する各メニューの割合を計算 |
仕込み時間の上位20%のメニューが全体の80%の負荷を占めていることが多い |
この計測を一度行うだけで、「どのメニューが仕込み時間の大半を占めているか」が明確になります。多くの店舗では、仕込み時間の上位2〜3品が全体の半分以上を占めているパターンが見られます。
メニューを削る前に、現在の仕込み量が適正かどうかを確認することも重要です。過剰仕込みの是正は、メニュー削減と同等かそれ以上の業務負荷削減効果がある場合があります。
・「ロスが怖い」という心理から、需要を上回る仕込みを継続している
・仕込み量の基準が「経験と勘」で設定されており、実際の注文数と照合していない
・曜日・時間帯による注文数の変動を考慮せず、一律の仕込み量を維持している
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計算ステップ |
内容 |
目安 |
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①過去4週間の曜日別・時間帯別の注文数を集計 |
POSデータから各メニューの注文数を曜日・時間帯別に抽出 |
同じ曜日でも季節変動があるため、直近4週間程度で集計 |
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②歩留まり率を考慮した適正量を算出 |
注文数×1.1〜1.2倍(ロス許容分)を適正仕込み量の目安とする |
業態・メニューによって歩留まり率は異なる。実態に合わせて調整 |
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③現在の仕込み量との差を算出 |
現在の仕込み量と適正量の差を「廃棄率」として記録 |
廃棄率が15%超のメニューは仕込み量の見直しが優先課題 |
仕込み量を適正化することで、廃棄ロスの削減・食材コストの改善と同時に、仕込みにかかる総作業時間を削減できます。「メニューを削らなくても、仕込み量の是正だけで業務負荷が20〜30%減る」というケースも珍しくありません。
業務負荷だけでなく、粗利(売上高-食材費)の観点からもメニューを評価することで、「削っても利益が下がらないメニュー」と「削ると利益が大きく下がるメニュー」を区別できます。
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計算項目 |
計算式 |
活用方法 |
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1品あたりの粗利 |
販売価格 − 食材原価(1品分) |
粗利が低いメニューは「売れても利益貢献が少ない」メニュー |
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月次の粗利貢献額 |
1品あたりの粗利 × 月間注文数 |
実際の利益への貢献度を比較する最重要指標 |
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粗利率 |
粗利 ÷ 販売価格 × 100(%) |
粗利率が低くても月次注文数が多ければ貢献額は大きい。両方で評価する |
粗利の計算は、食材費だけでなく「仕込みにかかる人件費」まで含めて計算するとより正確です。食材費が低くても仕込みに時間がかかるメニューは、人件費を含めた実質原価が高くなります。
作業時間・仕込み量・粗利の3指標を組み合わせることで、削減すべきメニューの優先順位が明確になります。
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分類 |
仕込み時間 |
粗利貢献額 |
判断の方向性 |
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①優先削減候補 |
長い |
低い |
業務負荷が高く利益貢献が少ない。削減の優先度が最も高い |
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②見直し候補 |
長い |
高い |
業務負荷は高いが利益貢献が大きい。仕込みの効率化・仕込み量の見直しを先に検討 |
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③存続候補 |
短い |
低い |
業務負荷が低く利益貢献も少ない。ラインナップの多様性として存続させるかを判断 |
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④主力メニュー |
短い |
高い |
業務負荷が低く利益貢献が大きい。削除しない。むしろ強化・展開を検討する |
まず「①優先削減候補」(仕込み時間が長く粗利が低い)から削減を検討してください。このカテゴリのメニューを削ることで、業務負荷と利益の両面でポジティブな効果が得られます。
数字上は削減候補でも、以下の要素がある場合は慎重に判断が必要です。
・常連客がそのメニューを目的に来店しているケース(削除後の離客リスク)
・そのメニューが他のメニューの注文を誘引しているケース(セット・コース等)
・季節限定で一時的に注文数が低い時期のメニューのケース(年間通算での評価が必要 )
これらの確認には、POSデータだけでなく店長・スタッフへのヒアリングが有効です。「このメニューを注文するお客様は他に何を頼むか」という購買パターンの分析も参考になります。
メニューを削減した後、実際に業務負荷が下がったかを数字で確認することが重要です。「なんとなく楽になった」という感覚だけでは、次の判断材料になりません。
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確認指標 |
測定方法 |
判断の目安 |
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1日あたりの仕込み総作業時間 |
削減前後でストップウォッチ計測を比較 |
削減したメニューの仕込み時間分が削減されているか |
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ピーク時の最少人員数 |
同じ売上規模の日で必要な人員数を比較 |
1人以上の削減、または同人数でもオペレーションに余裕が生まれたか |
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月次の粗利額・粗利率 |
削減前後3ヶ月の月次粗利を比較 |
削除したメニューの粗利貢献額より、オペレーション改善による効果が上回っているか |
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廃棄ロス額 |
月次の廃棄ロス額を比較 |
削除メニューの食材ロスが減少しているか |
注文数だけを基準に削減を続けると、「売れていないが仕込みが軽いメニュー」と「売れているが仕込みが重いメニュー」を取り違えるリスクがあります。3指標(仕込み時間・仕込み量・粗利)を組み合わせた4象限マトリクスで判断することで、主力メニューを誤って削除するリスクを防げます。
削除したメニューの食材が、他のメニューの仕込みと共有されている場合、そのメニューを削っても仕込み工程はほとんど変わりません。削除するメニューが「固有の仕込み工程を持つかどうか」を事前に確認してから削減を実行することが重要です。
本部主導でメニューを削減するとき、店長・スタッフへの事前説明なしに実施すると、現場の混乱とモチベーション低下につながります。「なぜ削るのか・削ることでどう楽になるのか」を伝えてから実施することで、変更に対する現場の協力を得やすくなります。
「自店のメニューをどう見直せばいいか整理したい」「業務負荷と利益のバランスを相談したい」という場合は、飲食店経営の専門家への相談が時間を大幅に短縮します。
まるっと飲食店ではコスト削減のために有効な記事を多く発信しております。「どこからコストが削減できるのか」という悩みから「○○について興味がある」という段階まで幅広くしております。
店長または本部の担当者が実施することを推奨します。スタッフが自分で計測すると、意識が変わって普段より早くなるケースがあります。また、習熟度が低いスタッフと高いスタッフでは大きく差が出るため、「平均的な習熟度のスタッフ」を基準に計測することが重要です。
削除するメニューによって異なります。注文数が少なく仕込みが複雑なメニューは、そもそも客の来店動機になっていないケースが多く、削除による離客リスクは低い傾向があります。一方、常連客が特定メニューを目的に来店しているケースや、そのメニューが客単価を引き上げている場合は慎重な判断が必要です。削除前に店長・スタッフへのヒアリングで「このメニューを目当てに来る客がいるか」を確認することをおすすめします。
仕込み量の適正化(過剰仕込みの削減)・仕込みの共通化(複数メニューで同じ仕込みベースを使う設計)・仕込み工程の標準化(マニュアル化による効率化)は、メニュー数を変えずに業務負荷を下げる有効な手段です。まずこれらを試してから、それでも不十分な場合にメニュー削減を検討する順番が合理的です。
技術的には可能ですが、一度削除したメニューの復活には再仕入れルートの確保・レシピの再確認・スタッフへの再研修が必要です。「試しに削ってみて駄目なら戻す」という判断は、現場の混乱コストが高いためおすすめしません。削減前に十分な分析と現場への説明を行ってから実施することが、「戻す」必要をなくす最善策です。
採用難の立地でオペレーションを楽にするためのメニュー削減は有効な手段ですが、「何を・なぜ・どの順番で削るか」を数字で判断することが成否を分けます。
削減前に確認すべき3ステップを再確認します。
①メニューごとの仕込み作業時間を計測する(負荷の大きいメニューを特定する)
②仕込み量の過剰がないか確認する(削減より先に適正化で対応できるかを見る)
③粗利貢献額を算出する(「削っても利益が下がらないメニュー」を特定する )
この3ステップを経た上で、仕込み時間が長く粗利貢献が低いメニューから削減することで、業務負荷の軽減と利益の維持を両立させた判断ができます。「削りすぎて売上が落ちた」「削ったのに楽にならなかった」という失敗を防ぐために、数字を先に揃えてから動き始めてください。