2025年4月1日、顧客による迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」を防止するための条例が、東京都や群馬県、北海道、京都府などで全国初めて施行された。東京都では「何人(なんぴと)もカスハラを行ってはならない」と規定し、事業者や従業員にもカスハラ防止の対応を求めている。
カスハラは従業員の精神的負担を増大させる要因として近年社会問題化しており、飲食業界でも深刻な影響を与えている。東京都は3月にカスハラ対策のガイドラインや対応マニュアルを公表し、業界団体ごとに対策を促進する考えを示した。
条例の施行にあたっては、顧客の正当な権利が損なわれないよう、慎重な運用が求められる。罰則は設けられていないものの、東京都は実効性を確保するために、3月に対応マニュアルを発表し、業界ごとに自主的な対策を進めるよう促している。
東京都のカスハラ防止条例では、以下のような行為がカスハラに該当する例としてあげられている。
・物を投げる行為: 顧客が従業員に対して物を投げる行為。
・殴ること: 顧客が従業員に対して暴力を振るう行為。
・従業員やその家族に危害を加える発言: 顧客が従業員やその家族に対して暴力や危害をほのめかすような発言をすること。
・公共の場で従業員の名誉を傷つける言動: 顧客が他の人がいる前で従業員の人格を否定したり、侮辱する発言をすること。
・声を荒げること: 顧客が大声を出して威圧的に話しかけること。
・高圧的に要求を押し付けること: 顧客が従業員に対して、強引に自分の要求を通そうとすること。
・謝罪として土下座を強要すること: 顧客が従業員に対して、土下座をして謝ることを強要する行為。
・長時間にわたり叱ること: 顧客が従業員を長時間叱りつけ続ける行為。
・何度も電話をかけて要求を繰り返すこと: 顧客が同じ内容の要求を繰り返し電話で行うこと。
・長時間居座ること: 顧客が食事を終えても店内に長時間居座り、退店を拒む行為。
・退去を求められても居座ること: 店側が顧客に退店をお願いしても、顧客が強引に居座り続ける行為。
・従業員の人種や職業に関する侮辱的な言動: 顧客が従業員の人種や職業に基づいて侮辱的な言動をすること。
・わいせつな発言: 顧客が従業員に対して不適切な性に関する発言をすること。
・つきまとい行為: 顧客が従業員に対して不安を感じさせるようなつきまとい行為をすること。
・従業員の容姿に対する中傷: 顧客が従業員の容姿に対して侮辱的な言動をすること。
・従業員を無断で撮影し、SNSに公開すること: 顧客が従業員を許可なく撮影し、その映像をSNSに公開する行為。
東京都では、条例施行前に飲食店や小売業界向けに「カスハラ防止マニュアル」を作成し、事業者が具体的な対応策を講じられるよう周知していた。このマニュアルには、カスハラ発生時の対応フローや、従業員を守るためのマネジメント方法が詳しく記載されている。
また、条例では事業者に対し、カスハラ対策の研修実施を努力義務として求めている。東京都は、業界団体と連携しながら定期的な研修プログラムを提供することで、現場の負担軽減を目指している。
東京都の条例では、カスハラを未然に防ぐために、また、カスハラを受けた場合に事業者が適切な対応を取るよう求めている。具体的な例としては、下記があげられる。
組織のトップがカスタマー・ハラスメント対策の基本方針を示し、就業者に周知する。
方針例: カスタマー・ハラスメントは重大な問題で、放置せず、就業者の人権を尊重する。
自社の就業者がカスタマー・ハラスメントを行わない方針を明確にし、社内で周知。あわせて、ハラスメントを行った場合の処分についても明記。
カスタマー・ハラスメントを受けた就業者が相談できる窓口を設置し、広く周知。
■カスハラ相談窓口のポイント■カスタマー・ハラスメント発生時の初期対応方法を事前に準備。
対応は業種に応じて異なり、就業者の安全を確保する内容とする。
飲食店は、クレーム対応の基準を明確にし、スタッフが適切に対応できる環境を整えることが重要である。また、従業員の安全を守るため、防犯カメラの設置や警察との連携強化を進めることが必要となる。
飲食業界では、カスハラによる離職や人材不足が深刻な問題となり、過剰なクレームや理不尽な要求が業務の負担となっている。例えば、「土下座の要求」や「名札の撮影・SNS拡散」などはカスハラに該当する行為である。実際の事例として、料理が違うと無料提供を要求されたり、スタッフが注文ミスで土下座を強要されることもある。
東京都の条例では、特に飲食業や小売業に対して、定期的な研修の実施を求めており、ロールプレイ研修を導入する企業も増えている。飲食店経営者は、クレーム対応の明確化や従業員研修、安全確保の仕組みを整え、スタッフが安心して働ける環境作りを進めることが求められる。今後も法改正や自治体の動向に注目し、実効性のある対策を進めることが重要である。
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