居酒屋経営が安定してくると、「次は2店舗目を出すべきか」「同じ業態で広げるか、別の切り口に挑戦するか」と悩む方は多いはずです。
近年、注目されているのが、料理や空間、参加型の演出を価値にする体験型居酒屋です。
体験型という言葉に魅力を感じつつも、多店舗展開と相性が良いのか、不安を抱く経営者も少なくありません。
この記事では、体験型居酒屋が2店舗目・3店舗目に向いているのかを軸に、収益構造、運営の難しさ、法律面の注意点まで、実務目線で整理します。
体験型居酒屋は、単に料理やお酒を提供する場ではなく、「来店体験そのもの」を価値として提供する業態です。味や価格だけで勝負する従来型の居酒屋と異なり、来店前から来店後までの体験が記憶に残る点が大きな特徴です。
例えば、
料理のライブ調理やスタッフとの交流、店内装飾や音楽など、五感を使った体験が顧客の印象に強く残ります。
この特性は、集客力や客単価、リピート率に大きく影響します。
SNSでの拡散や口コミによる新規顧客獲得が期待でき、体験価値が高ければ価格への納得感も増し、単品より高いコースやオプション販売も受け入れられやすくなります。また、記憶に残る体験はリピーター化の大きな要因となり、安定した収益にもつながります。
体験型居酒屋とは、料理やお酒の提供に加え、演出や参加型サービス、統一された世界観まで含めて「体験」を売りにする居酒屋です。
たとえば、
調理工程を目の前で見せるライブ感のある演出、スタッフが参加客を巻き込むイベント型接客、テーマに沿った空間演出などがあります。
来店客は食事をするだけでなく、その場にいること自体を楽しむ構造になっています。
この体験型の仕組みは、単に「美味しい居酒屋」では得られない満足度を提供します。顧客は料理やお酒だけでなく、「来店して楽しんだ思い出」にお金を払うようになるため、客単価やリピート率が向上しやすいというメリットがあります。
また、体験価値は口コミやSNS投稿に直結しやすく、自然な形で新規顧客を呼び込む力も持っています。
体験型居酒屋が注目される背景には、SNSの普及があります。写真や動画で「楽しそう」「行ってみたい」と感じさせやすく、広告費をかけずに認知が広がるケースも少なくありません。
また、料理の安さや量だけで勝負する従来型の居酒屋と異なり、体験価値で選ばれるため、価格競争に巻き込まれにくい点も経営上の大きな魅力です。
さらに、消費者の嗜好が「体験型」にシフトしていることも要因です。単なる食事ではなく、思い出や話題性を求める客層が増えており、特に20〜40代のSNS利用者からの支持が高くなっています。飲食業界のトレンドとしても、体験型は差別化がしやすく、今後も注目が続く可能性が高いでしょう。
体験型業態でも、再現性の高い体験設計ができていれば多店舗展開は可能です。
しかし、特定のスタッフのスキルや個性に依存した体験設計になっている場合、店舗数を増やした途端に品質が崩れるリスクがあります。
そのため、体験をマニュアル化し、誰が担当しても一定水準を保てる仕組みを作れるかが、成功の鍵になります。
また、各店舗の結果を分析し改善策を全店舗で共有することで、ブランド体験の一貫性を維持できます。
既存店があるからこそ、感覚ではなく数字で設計できるのが最大の強みです。
体験型居酒屋は「面白い」だけでなく、どこで売上を作るかを明確に決められる業態でもあります。
飲食店の売上は、基本的に次の式で分解できます。
売上 = 客数 × 客単価
客数 = 席数 × 回転数 × 稼働日
2店舗目で体験型を出す場合、
「客数の立ち上がり」を既存店が支えてくれるのが大きなメリットです。
たとえば
既存店のSNSフォロワー
LINE会員
常連客
を新店舗のオープン時から送客できれば、回転数が多少低くても、稼働率を最初から高めやすい。
体験型は「空いている時間」が致命傷になりやすいため、この初期集客の安定は、1号店にはない明確な強みになります。
体験型居酒屋は、一般的な居酒屋と比べて
・滞在時間が長くなりやすい
・回転数は落ちやすい
・その分、客単価を上げやすい
という特徴があります。
つまり、
体験型は「回転で勝つ」のではなく「客単価で勝つ」業態と割り切った設計が重要です。
具体的には
体験付きコース(〇〇体験+料理)
体験連動ドリンクセット
追加体験・オプション販売
などを組み込むことで、「客数 × 高単価」という形で売上を作りにいけます。
既存店があるからこそ、原価感・人件費感を把握したうえで、現実的な単価設定ができるのもポイントです。
体験型居酒屋は、単なる飲食ではなく「何を体験できる店か」が価値になります。
そのため、
周辺居酒屋との単純な価格比較が起きにくい
「安いかどうか」ではなく「行きたいかどうか」で選ばれやすい
という構造を作れます。
多店舗展開を考える場合も、同エリア出店でもブランド被りしにくい、イベントや季節体験で再来店理由を作りやすい
など、長期的に売上を積み上げやすい設計が可能です。
このように体験型居酒屋は、構造的に回転数が伸びにくい一方で、客単価を高めやすいという特徴を持つ業態です。
だからこそ2店舗目では、「回転で勝つのか」「客単価で勝つのか」を最初に決め、売上=客数 × 客単価のどこを伸ばすかを設計することが重要です。
既存店があるからこそ、この設計を“勘”ではなく“数字”で考えられる点が、体験型居酒屋を2店舗目に出す最大のメリットと言えるでしょう。
店舗数が増えるほど、規模の拡大に伴う見えにくいリスクも増えていきます。1店舗目や2店舗目では気づかなかった運営課題が、複数店舗になると顕在化するため、戦略的な管理体制が欠かせません。
体験型居酒屋では、接客や演出の質がそのまま売上やリピーター獲得に直結します。
しかし店舗数が増えると、1号店を支えていたエーススタッフやキーマンが常に各店舗にいるとは限りません。
特に3店舗目以降では、
1号店のエースが異動・退職した途端に体験品質が崩れる
新店舗では「雰囲気だけ真似て中身が再現できない」
といった問題が起きやすくなります。
そのため、
「できる人がいるから回る」状態から、「誰でも一定水準で再現できる」状態へ
移行する必要があります。
具体的には、
体験演出の流れを動画マニュアルで統一
新人でも再現できるトーク例・動線の明文化
店長任せにしない研修・チェック体制
など、属人化を防ぐ仕組みづくりが不可欠です。
同じブランドでも、店舗ごとに体験や接客の差が生まれると、顧客満足度や口コミ評価に直接影響します。
特に注意すべきなのは、
店長の価値観によって体験の力の入れ方が変わる
忙しさを理由に演出が省略される
といったケースです。
売上だけを評価指標にすると、「体験を削って回転を上げる」「手間のかかる演出を省く」といった判断が現場で起こりやすくなります。
そのため、売上評価と同時に「体験品質の評価軸」を持つことが重要です。
入店時の挨拶・案内トークの統一
体験演出の順序・タイミング
料理・ドリンク提供時の説明や演出
スタッフの表情・声量・身だしなみ
安全・衛生管理の確認
体験内容の満足度(5段階評価)
スタッフ対応の印象
「印象に残った体験は何か」
改善してほしい点(自由記述)
再来店意向・知人へのおすすめ度
これらを店舗別に集計することで、売上では見えない「体験の劣化」を数値で把握できます。
体験型居酒屋は、演出設備や人手が必要な分、通常の居酒屋より固定費が高くなりやすい業態です。
3店舗目以降では、
人を増やさないと回らない
でも人件費が利益を圧迫する
というジレンマに陥りやすくなります。
そのため、
「人を増やす」のではなく「人に依存しない設計」が求められます。
材料管理の徹底
仕入れ量を予約数に応じて調整
食材のロスを減らすための冷蔵庫・冷凍庫の管理ルール
使い回し可能な食材や調味料の在庫チェック
スタッフシフトの最適化
予約状況に合わせた最小人数配置
混雑予測データを基にしたピークタイムの配置調整
スタッフ間で作業分担を明確化し、無駄な動きを減らす
体験演出の標準化
体験に必要な時間や作業フローを明確化
1人で対応可能な演出や設備を増やし、スタッフ依存を減らす
演出道具や備品の共通化で準備・片付け時間を短縮
予約・注文システムの活用
オンライン予約で来店人数や体験オプションを事前把握
注文管理や材料発注の自動化
ピークタイムの混雑予測をシステムで可視化
こうした対策を組み合わせることで、体験型居酒屋でも3店舗目以降の運営コストを抑えつつ、体験価値を維持できます。
体験型居酒屋では、料理やドリンクだけでなく演出や参加型企画など体験要素が増えるため、関係する法律や規制も多くなります。
見落とすと営業停止や罰則のリスクがあるため、事前確認と準備は必須です。
調理工程を見せる演出や、客が料理に参加する企画でも、食品衛生法に基づく衛生管理義務は変わりません。
例えば、生食を扱う場合は温度管理や衛生手順の徹底が求められますし、調理器具や食器の共用には消毒ルールを明確にする必要があります。
食品が汚染されるリスクを最小化する工夫をあらかじめマニュアル化しておくことが重要です。
演出用の照明・火器・大型設備の設置や、内装の変更によっては消防法に基づく届出や規制に抵触する場合があります。
特に、火を使った演出や煙を発生させる仕掛け、テーブル数の増加などは、防火設備や避難経路の確認が必要です。
安全確認を怠ると、営業停止や罰金の対象になるため、専門家への相談も検討すべきです。
ショー性の高い演出や深夜営業を行う場合、風俗営業等の規制(風営法)が関わるケースがあります。
例えば、ステージでのパフォーマンスや深夜0時以降の営業で、許可や届出が必要になる場合があるため、事前に所轄警察署や専門家に確認しておくことが安心です。
体験型居酒屋は、2店舗目・3店舗目としての可能性を秘めていますが、準備不足での出店は思わぬトラブルやコスト増につながるリスクがあります。
そのため、再現性のある体験設計やスタッフ教育の仕組み、法律や許可の理解まで含めて、慎重に準備を整えることがまず大切です。
一方で、これらをしっかりと整えた上で戦略的に出店すれば、競合との差別化や客単価アップ、ブランド拡大など、次の成長フェーズにつながる有力な一手になります。
勢いだけで決めるのではなく、自店の現状やリソースに合った判断を行うことで、体験型居酒屋は安定した成功と成長の両立を実現できるのです。