「家族を雇ってお店を手伝ってもらっているけど、給与や食費って経費にできるの?」
そんな疑問を持つ飲食店経営者は多いでしょう。
実は、家族への給与や食費の扱いには“税務署が注目するポイント”があるんです。
家族への給与には法人税法第34条および同施行令第71条に基づく厳しい法律のルールがあります。
税務署は「その給与が本当に“使用人としての仕事の対価”なのか?」を厳しく見ています。
この記事では、飲食店経営者が知っておくべき家族給与の税務ルールを、実際の裁決事例をもとにわかりやすく解説します。
飲食店では、家族を従業員として働かせるケースが多くあります。
しかし、安易に給与を支払うと税務署から「経費として不適切」と判断されるおそれがあります。
法人税法上、「役員給与」は原則として損金(経費)にできないというルールがあるためです。
法人税法第34条では、役員に支払う給与は原則として損金に算入できません。
つまり、社長や取締役である家族への給与は、経費として認められない場合が多いのです。
たとえば、毎月同じ日に同額を支払うことや、年度の初めに支給額を決定しておくことなどが必要です。
これらの条件を守らないと、税務署から経費否認を受け、追徴課税のリスクが生じます。
家族が役員であっても、実際にホールや厨房で働いている場合は「使用人兼務役員」として扱われることがあります。
この場合、使用人としての職務に対する給与部分は損金に算入できる可能性があります。
ただし、専務・常務・副社長など、経営に深く関与する立場の人は使用人とは認められません。
また、勤務実態を明確に分け、どの業務にどれだけ従事しているのかを記録しておく必要があります。
書面で職務内容を区分しておくと、税務調査でも説得力が高まります。
飲食店のように家族経営が多い業種では、勤務実態と給与額の整合性が特に重視されます。
税務署は「実際に働いているのか」「給与が仕事内容に見合っているか」を厳しく確認します。
そのため、勤務表やシフト表、給与計算書などをきちんと残しておくことが重要です。
また、株主総会や取締役会の議事録を整備し、形式的な決定手続きも忘れないようにしましょう。
形式と実態が一致していれば、税務リスクを大幅に減らすことができます。
家族に給与を払うとき、最もトラブルになりやすいのが「使用人兼務役員」の扱いです。
一見、家族が店舗で働いているように見えても、税務上は“使用人”ではなく“経営者”と判断される場合があります。
その結果、支払った給与や賞与が経費(損金)として認められず、追徴課税につながることも。
ここでは、実際に審判所で争われた「家族役員の給与否認」の事例を見てみましょう。
ある食品製造業の法人(飲食業に近い事業形態)が、自社取締役(社長の親族)に給与を支払い、その一部を「使用人兼務役員」として経費に計上しました。
しかし、税務署は「その取締役は実質的に経営層の一員であり、使用人ではない」として、損金算入を否認しました。
審判所(国税不服審判所)は、以下のように判断しました。
審判所は、取締役が「常務・専務」といった経営ポジションにあった場合、
たとえ営業などの実務を行っていても「使用人」とは認められないとしました。
具体的には、当該取締役は部長職を兼ねていましたが、
平成27年4月以降は実質的に部長職を外れ、経営判断にも関与していたため、「使用人兼務役員」には該当しないと判断。
その結果、家族役員に支払った賞与は損金不算入(経費にできない)とされました。
⇒裁決では、法人税法第34条・同施行令第71条を根拠に判断が下されています。
第34条は「役員に対する給与は原則として損金にできない」と定める規定です。
一方で施行令第71条は、「役員であっても使用人としての職務に対応する給与は損金算入できる」という例外を認めています。
この事例では、取締役が使用人としての実態を欠いていたため、例外が適用されなかったのです。
・「部長」などの肩書があっても、実際に使用人としての立場が明確でなければ認められない。
たとえ日常的に現場業務を行っていても、経営判断に関与していると見なされれば「役員」として扱われます。
職務内容や権限の線引きを社内で明確にしておくことが大切です。
・「常務」「専務」「副社長」などの職制上の地位は、法律上“使用人”とみなされない。
こうした役職は会社経営に直接関わる立場とされるため、実務に携わっていても「使用人兼務役員」の例外には入りません。
この点を理解せずに経費計上すると、税務署から否認されるリスクがあります。
・家族であっても、仕事の実態と給与決定の根拠が求められる。
勤務時間・仕事内容・支給額の算定基準などを明確にし、書面で残しておくことが重要です。
特に飲食店のように家族経営が多い業種では、「実際に働いている証拠」を示せるかどうかが信頼性を左右します。
飲食店経営では、家族に給与を支払うケースが少なくありません。
しかし、「家族だから」「一緒に働いているから」といって、すべてが経費として認められるわけではありません。
税務署は、実際の職務内容や給与の根拠を厳しくチェックします。
とくに、家族を「役員」として登記している場合には、給与が“役員報酬”として損金にできないおそれもあります。
ここでは、家族への給与を安全に支払うための実務上のポイントを解説します。
家族を役員にする場合は、その家族が現場スタッフなのか、経営判断に関わる立場なのかをはっきり区別しましょう。
この線引きが曖昧だと、税務署から「実質的には経営者」とみなされ、給与が経費として認められないリスクがあります。
就業規則や給与規程には、「使用人としての職務内容・勤務時間・評価基準」を具体的に記載しておくと安心です。
また、実際の勤務時間や仕事内容を日報やシフト表などで記録し、実態を示せるようにしておくことも重要です。
こうした書面の整備が「形式と実態の整合性」を証明する決め手になります。
役員報酬は、原則として毎月同じ金額で支払う「定期同額給与」でなければ損金に算入できません。
家族への給与を経費として認めてもらうには、「勤務実態に基づいている」と説明できる資料が必要です。
勤務表や指示書、給与査定の記録などを整えておくことで、税務署に対しても合理的な説明ができます。
また、家族が複数いる場合は、それぞれの「職務分掌(役割分担)」を明確にしておくと、給与の妥当性が認められやすくなります。
とくに飲食店では、ホール・調理・仕入れ・会計など、具体的な業務内容を文書化しておくことが信頼性を高めます。
家族役員に支払う賞与は、原則として損金算入が認められません。
使用人としての職務に対する正当な対価であることを証明できなければ、税務署から否認されるリスクがあります。
そのため、賞与を支払う際は「支給時期・査定基準・支給決定会議の議事録」をしっかり残しておきましょう。
また、賞与が毎期同じように支払われている場合でも、社内の決裁ルールや支給基準を明文化しておくと安心です。
こうした準備をしておけば、後から「家族だから特別扱い」と見なされる心配を減らせます。
飲食店で家族に給与を支払う場合、税務署から「経費として不適切」と判断されるケースがあります。
もし給与が損金不算入(経費として認められない)とされると、結果的に法人税が増額され、納税負担が一気に重くなります。
とくに「使用人兼務役員」としての実態が曖昧なまま給与を計上していると、否認されるリスクが高まります。
税務調査では、勤務記録や職務内容の証明書類を厳しくチェックされ、少しの不備でも指摘を受けることがあります。
さらに、過少申告加算税(国税通則法第65条)などのペナルティが課されることもあり、追徴課税額は数十万円から数百万円に達する場合もあります。
一度否認されると、過去数年分の修正申告を求められることもあり、経営に大きなダメージを与えかねません。
法人税の増額:損金不算入により、課税所得が増加し税額が上がります。
過少申告加算税の賦課:国税通則法第65条に基づき、原則10〜15%の加算税が課されます。
延滞税の発生:納期限から支払日までの期間に応じて延滞税が発生します。
修正申告の負担:否認が過去分にも及ぶと、3年〜5年分の修正を求められるケースも。
信用リスク:税務署に“経理管理が不十分な法人”と認識され、次回以降の調査が厳しくなることもあります。
ここでは、飲食店経営者が実践すべき“狙われないための家族経営のポイント”を紹介します。
・形式だけでなく「実態」を整えることが大切
書類上の整備だけでなく、実際に家族が働いている時間や業務内容を明確にすることが重要です。
勤務表や業務日報を残し、実態を裏付けられるようにしておきましょう。
・職務分掌・勤務時間・評価基準を文書化する
家族であっても、担当業務・勤務時間・給与評価の仕組みを文書化しておくと安心です。
就業規則や給与規程に具体的な基準を盛り込むことで、経費としての正当性を証明しやすくなります。
・家族であっても他の従業員と同様の労務管理を行う
出勤簿・給与明細・勤怠管理を一般従業員と同じ基準で運用することが信頼性のカギです。
特別扱いがあると「形式的な給与」と判断されるおそれがあるため注意しましょう。
・顧問税理士に相談し、給与の支払い方針を毎年確認する
税法は毎年のように改正されるため、最新の基準に合わせて給与の支払い方法を見直すことが大切です。
顧問税理士に定期的に相談し、税務調査に耐えられる体制を維持しましょう。
家族を役員にして給与を支払うこと自体は合法ですが、税務署は「形式」ではなく「実態」を重視して判断します。
特に、飲食店のように家族経営が多い業種では、役員と使用人の線引きを誤ると、経費が否認されるリスクがあります。
「うちは家族経営だから大丈夫」と油断せず、書類や勤務実態を整えておくことが、税務調査での最大の防御になります。
家族の力を“正しく”生かすには、法律のルールを味方につけること。
経営と税務のバランスを意識しながら、安心して続く“強いお店づくり”を目指しましょう。