「税務調査で間違いを指摘されたら、修正申告をすれば大丈夫」──そう思っていませんか?
実は、その修正申告のやり方によっては、あとから加算税(いわゆるペナルティ)を課されることもあります(国税通則法第65条・第68条)。
しかし、正しい手順を知っておけば、税務署とのやり取りも安心して対応できます。
この記事では、飲食店を経営する方が知っておきたい修正申告の注意点を、実際にあった裁決事例をもとにわかりやすく解説します。
税務調査で誤りを指摘され、「今すぐ修正申告をしてください」と言われることがあります。
しかし、焦って署名してしまうと後で取り返しがつかない結果になることも。
修正申告には、自発的意思があるかどうかで「加算税」が課されるかどうかが変わるという重要なポイントがあります。
まずは、修正申告の基本的な仕組みを理解しておきましょう。
修正申告とは、申告した税額が少なかった場合に、自分で訂正して再申告する手続きです(国税通則法第65条)。
たとえば、飲食店の売上計上漏れや経費の入れすぎなどを見つけたときに、納税者が自分の判断で訂正するのが本来の形です。
しかし、税務調査で職員から「間違っています」「修正してください」と指摘されて行う場合には、
それが「自発的な修正」なのか、それとも「指摘を受けて仕方なく行った修正」なのかという点が重要になります。
この違いによって、あとから課される「加算税」が変わってくるのです。
加算税とは?
加算税とは、申告漏れや誤りがあったときに課されるペナルティ(追加の税金)のことです。
たとえば、
単純なミスや計算違いで税金が少なくなっていた場合は「過少申告加算税」
売上をわざと隠したり、二重帳簿などでごまかしていた場合は「重加算税」
が課される仕組みになっています(国税通則法第65条・第68条)。
つまり、「自分の意思で訂正した」とみなされればペナルティは軽く済みますが、
「隠ぺいやごまかしをしたうえで修正した」と判断されると、重加算税という重い罰則が課されるおそれがあります。
税務調査では、調査担当職員から修正申告書を提示され、「ここに署名・押印してください」と求められることがあります。
このとき、内容をよく確認せずに署名してしまうと、
後で「税務署に言われて書かされた」と主張しても“自分の意思で申告した”と扱われてしまうのです。
実際に、そば・うどん店を営む飲食店経営者が、税務調査後に修正申告をした事案では、経営者が「職員に言われるまま署名した」と主張したにもかかわらず、国税不服審判所は「自らの自由意思に基づく修正申告である」と判断しました。
つまり、「調査官に言われたからやった」という説明は通用しません。修正申告はあくまで本人の判断と責任で行う行為とされるのです。
このケースのように、内容を理解せず署名してしまうと、不本意な加算税や重加算税を課されるリスクがあります。
そのため、税務調査の場では、すぐに署名せず、一度持ち帰って専門家(税理士など)に相談することが大切です。
飲食店では、毎日の売上や仕入れを現金で扱うことが多く、記帳ミスや伝票漏れが起こりやすいです。だからこそ、税務署から指摘されたときこそ、落ち着いて対応することが大切です。
ここでは、実際にそば・うどん店を経営していた方が経験した「修正申告のトラブル」をもとに、注意点をわかりやすく見ていきましょう。
あるそば・うどん店の経営者は、税務調査で「売上が申告より多い」と指摘されました。
職員に「修正申告をしてください」と言われ、その場で署名して提出しました。
ところが後日、税務署から「過少申告加算税」と「重加算税」という2つのペナルティを課されました。
経営者は「職員に言われて書いただけで、自分の意思じゃない」として不服を申し立てました。
この裁決(国税不服審判所・平成13年審決)では
・その修正申告が「本人の意思」で行われたのか
・売上を意図的に隠していたのか
・ペナルティを課す期間が過ぎていないか
の3つが争点となりました。
審判所(税のトラブルを審理する機関)は、経営者が修正申告書に署名・押印したことから、
「自分の意思で申告をやり直した」と判断しました。
つまり、「言われてやっただけ」という言い分は認められなかったのです。
税務調査では、職員に言われたとおりに書くこともありますが、
一度署名してしまうと『自分で納得して出した』と扱われるのが原則です。
だからこそ、調査のときはその場でサインせず
・数字の根拠をきちんと確認する
・「一度持ち帰って確認したい」と伝える
・不安があれば税理士に相談する
といった対応を心がけましょう。
「重加算税」とは、わざと売上や所得を少なく見せていた場合に課される重いペナルティのことです。
国税通則法第68条では、
「売上などの事実を隠したり、ごまかした場合」
に重加算税を課すと定められています。
この事案では、経営者が使っていたノートに日々の売上金額が細かく書かれていて、確定申告書の金額と大きく違っていました。
税務署はそのノートを「本当の売上帳」と判断し、経営者が売上の一部を除外していたとみなしたのです。
経営者は「ただのメモだ」と主張しましたが、ノートには数量・金額・月ごとの合計まできっちり書かれていたため、審判所は「意図的に売上を少なく申告した」と判断しました。
結果として、重加算税を課すのは正しいという結論になりました。
この事例から分かるのは、
「記録があるのに、それと違う内容で申告してしまうとリスクになる」ということです。
ノートや伝票は、本人にとっては「メモ」のつもりでも、税務署からは「裏帳簿」や「真実の記録」として扱われることがあります。
ですから、飲食店では
・ノート・レジ記録・伝票などの数字を申告内容と一致させる
・もし差が出たときは理由を説明できるようにしておく
・記録をつけるときは「あとで見返しても分かるように」整理する
といったことを意識するのが大切です。
この経営者にとって救いとなったのが、「時効(3年ルール)」です。
国税通則法第70条では、原則として申告期限から3年を過ぎた分は、税務署が修正を命じられないと定められています。
ただし、悪質な隠ぺいなどがある場合は、最長7年まで延びます。
この事案では、税務署が指摘したうちの古い2年分について、すでに申告期限から3年以上が経過していました。
そのため、税務署が課税するには「不正行為があった」と証明する必要がありましたが、十分な証拠を示すことができなかったのです。
結果として、古い2年分のペナルティ(加算税)は取り消しとなりました。
この判断は、税務署にも「証拠を示す義務がある」ことを明確にしたものです。
古い年度まで遡って請求される場合は、税理士に相談して確認しましょう。
税務調査のあと、「修正申告を出してください」と言われると、つい「言われた通りに出せば大丈夫」と思ってしまう方も多いでしょう。
しかし、修正申告の出し方を間違えると、加算税(ペナルティ)や追徴課税につながることもあります。
とくに飲食店は現金取引が多く、伝票やレシートの管理も大変です。
だからこそ、税務調査で修正を求められたときには、焦らず・納得して・根拠を持って対応することが大切です。
ここでは、修正申告の際に押さえておきたい3つの重要ポイントを紹介します。
修正申告は、最終的に納税者本人の責任で行うものです。
税務署の職員に「ここにサインしてください」と言われても、すぐに署名せず、数字の根拠や修正の理由をきちんと確認するようにしましょう。
税務調査の場では、職員の説明が早口だったり、専門用語が多かったりして、「よくわからないけど、とりあえず言われた通りに出せばいいか」と思いがちです。
しかし、署名・押印をした時点で「本人の意思で修正した」と扱われるため、あとで「言われて書いただけです」と主張しても通らなくなります。
納得できない点があれば、その場で質問したり、「一度内容を持ち帰って税理士に確認します」と伝えたりして問題ありません。
その場の勢いでサインしないことが、自分のお店を守る第一歩です。
税務調査では、帳簿や伝票の内容をもとに売上や経費を確認します。
もし売上伝票や仕入帳、レシートなどをなくしてしまうと、税務署側から「本当の売上を隠しているのでは?」と疑われることもあります。
国税通則法第68条では、
「売上などの事実を隠したり、ごまかした場合には重加算税を課す」
と定められています。
つまり、証拠がない=ごまかしている可能性があると見られてしまうのです。
逆に、きちんと帳簿を残しておけば、
「これは計上漏れではなく、レジの入力ミスでした」などと、正確な説明ができるようになります。
飲食店では、レシート・領収書・仕入れ帳を整理してファイルにまとめておくと安心です。
また、レジのPOSデータや売上ノート、手書きのメモなども残しておくと、万が一のときに「隠していない証拠」として役立ちます。
税務署がさかのぼって修正を求められるのは、原則として3年以内の分です(国税通則法第70条)。
ただし、意図的にごまかしていた場合は、最長7年まで延びることがあります。
先ほど紹介したそば・うどん店の事例でも、
古い2年分については「3年の期間を過ぎていたうえ、不正の証拠がない」と判断され、その部分のペナルティ(加算税)は取り消されました。
つまり、税務署にも「証拠を示さないと課税できない」というルールがあるのです。
もし税務調査で「5年前の申告内容を直してください」と言われたら、「それは3年以内の話ですか?」と必ず確認しましょう。
調査の対象期間が3年を超えている場合は、不正があったと判断されるケースでなければ追徴できないこともあります。
このあたりの判断は複雑なので、疑問があれば必ず税理士に相談するのが安心です。
税務調査で修正を求められても、焦らず冷静に対応することが大切です。
「とりあえず言われた通りに出せばいいだろう」と思ってしまうと、後から高い加算税を取られることにもつながります。修正申告をするときは
・納得してからサインする
・帳簿を正しく保存しておく
・時効の3年ルールを確認する
この3つを守るだけで、税務調査のリスクを大幅に減らせます。
正しい対応を知っておけば、税務署とのやり取りも怖くありません。
税務調査で誤りを指摘されても、慌てて署名するのは禁物です。
修正申告は、自発的に行ったかどうかで税負担が変わります。
また、加算税や重加算税の対象になる場合もあり、国税通則法第65条・第68条・第70条などの条文を理解しておくことが重要です。
そのため、「とりあえず修正しておけば安心」と考える前に、専門家へ相談を。正しい対応が、後のトラブルを防ぎます。
そして、税務調査はチャンスでもあります。日ごろの経理を整え、堂々と説明できる体制を整えておきましょう。