飲食店を経営していると、「保険って本当に必要?」「最低限でいいのでは?」と迷う方も多いでしょう。
しかし、飲食店は火災、食中毒、ケガ、クレームなど、トラブルが起きやすい業種です。
保険に入っていなかったことで、高額な損害賠償を自己負担するケースも珍しくありません。
本記事では、飲食店にはどんな保険があるのか、最低限入るべき保険は何かを、法律の条文も交えながら、わかりやすく解説します。
結論から言うと、飲食店に保険はほぼ必須と考えたほうが安全です。
法律で加入が義務づけられている保険もあれば、義務ではないものの、入っていないと経営が一気に傾く保険もあります。
ここでは、飲食店と保険の基本的な考え方を整理します。
すべての飲食店が加入を義務づけられている保険は多くありません。
ただし、従業員を雇っている飲食店は注意が必要です。
従業員を一人でも雇っている飲食店は、労働者災害補償保険(労災保険)への加入が義務です。
これは労働基準法第8条、労災保険法第3条などに基づく制度です。
アルバイトやパートでも、原則として加入が必要になります。
たとえば、
調理中に油が跳ねて火傷をした場合や、ホールで配膳中に転倒してケガをした場合でも、業務中であれば労災保険の補償対象となります。
飲食店は、刃物・火・重い食器などを日常的に扱うため、他業種と比べて労災事故が起こりやすい業種といえます。
万が一、労災保険に未加入のまま事故が起きると、治療費や休業補償を事業者が自己負担する可能性もあります。
従業員を守るためだけでなく、飲食店経営者自身を守る意味でも、労災保険への加入は必ず押さえておきましょう。
法律上の義務がなくても、実務上ほぼ必須といえる保険があります。ここからは、中小規模の飲食店がまず検討すべき保険を紹介します。
飲食店の保険で最も重要なのが、賠償責任保険です。
これは、第三者に損害を与えた場合の賠償金をカバーする保険です。
飲食店賠償責任保険は、お店の営業が原因で、お客さんにケガや損害を与えた場合に使う保険です。
たとえば、
・床が水や油で滑りやすくなり、お客さんが転倒した
・老朽化した椅子が壊れ、座ったお客さんがケガをした
・提供した料理が原因で、食中毒が発生した
このようなトラブルが起きた場合、飲食店側が損害賠償責任を負う可能性があります。
具体的には、
治療費や通院費だけでなく、仕事を休んだことによる休業損害や、精神的苦痛に対する慰謝料を請求されるケースもあります。
賠償責任保険に加入していれば、
これらの賠償金に加えて、示談交渉を保険会社が代行してくれる場合もあります。
飲食店側が直接お客さんと交渉する負担を減らせる点も、大きなメリットといえるでしょう。
飲食店賠償責任保険の保険料は、店舗の規模や業態にもよりますが、年間1万円〜3万円程度が一般的な相場です。
小規模な飲食店であれば、月あたりにすると数百円〜2,000円前後で、高額な賠償リスクに備えることができます。
飲食店賠償責任保険は、損害保険会社や保険代理店で加入できます。
たとえば、
東京海上日動
損保ジャパン
三井住友海上
など、多くの保険会社が飲食店向けプランを用意しています。
また、商工会議所や業界団体を通じて、団体割引が適用されるケースもあるため、加入前に一度確認してみるとよいでしょう。
飲食店にとって、食中毒は最も深刻なリスクの一つです。一度発生すると、営業停止や信用低下にもつながります。
食中毒が発生した場合、食品衛生法に基づき、営業停止処分を受けることがあります。
さらに、被害者から損害賠償請求を受ける可能性もあります。
このときに役立つのが、生産物賠償責任保険(PL保険)です。
PL保険は、提供した料理や飲み物が原因で、お客さんに健康被害が出た場合の損害賠償を補償する保険です。
食中毒による、治療費や慰謝料、示談交渉費用などが、補償対象になるケースがあります。
生産物賠償責任保険の保険料は、飲食店の規模や業態にもよりますが、年間1万円〜2万円程度がひとつの目安です。
多くの場合、
先ほど説明した飲食店賠償責任保険とセットで加入できるプランも用意されています。
月あたりにすると、数百円〜1,500円程度で、万が一の高額賠償に備えられる点が特徴です。
飲食店は火や水を扱うため、火災・水漏れリスクが高い業種です。
店舗や厨房設備が火災で損害を受けた場合、火災保険に加入していないと、修繕費は全額自己負担になります。
また、火災や水漏れによって、隣の店舗や建物全体に被害を与えた場合、賠償責任を問われる可能性もあります。
借家人賠償責任特約とは、借りている店舗を壊してしまった場合の賠償に備える保険です。
たとえば、
・厨房から出火して、壁や天井を焼いてしまった
・水漏れで床や内装を傷めてしまった
・消火活動で建物に大きな損害が出た
こうした場合、
建物のオーナー(大家さん)から原状回復を求められます。この原状回復費用を補償するのが、借家人賠償責任特約です。
賃貸店舗で営業している飲食店の場合、借家人賠償責任特約は、実質的に必須と考えてよいでしょう。
実際に、賃貸借契約書の中で、「借家人賠償責任保険への加入」を条件にしているケースも多くあります。
借家人賠償責任特約の保険料は、火災保険にオプションとして付ける形が一般的で、年間数千円〜1万円程度が目安です。
火災や食中毒で営業停止になると、売上がゼロになる期間が発生します。
そんなときに役立つのが、休業補償保険(利益保険)です。
休業補償保険は、営業できなかった期間の売上減少分や固定費を補償してくれる保険です。
家賃や人件費、光熱費は営業していなくてもかかりますが、保険があればそうした損失を一定額カバーできます。
たとえば、
・火災で数日〜数週間休業
・厨房設備の故障で営業不可
・事故による修繕で臨時休業
といった場合に、保険金が支払われます。
休業補償保険の保険料は、飲食店の規模や売上規模、補償内容によって異なりますが、年間2万円〜5万円程度がひとつの目安です。
この金額には、
・休業期間の日額補償額(1日あたりいくら補償するか)
・補償期間(最大何日まで補償するか)
・加入する保険会社
などによって幅があります。
たとえば、
・日額1万円補償・最大30日までのプラン
→ 年間保険料 約2万円前後
・日額2万円補償・最大60日までのプラン
→ 年間保険料 約4〜5万円前後
といった組み合わせが一般的です。
休業補償保険は、売上の大きい飲食店ほど高くなる傾向がありますが、中小規模の飲食店でも負担の少ない保険料で加入できます。
「保険料が高くなりすぎるのでは?」と心配する方も多いでしょう。大切なのは、すべてに入ることではなく、優先順位を決めることです。
中小規模の飲食店では、すべての保険に一度に入る必要はありません。
まずは、トラブルが起きやすく、影響が大きいリスクから優先して備えることが大切です。
多くのケースでは、次の3つを軸に考えるのが現実的です。
労災保険(従業員のケガや事故に備える)
賠償責任保険(お客さんへのケガ・食中毒などに備える)
火災保険(店舗・設備の損害や借家人賠償に備える)
これらは、
「入っていなかったことで経営に大きなダメージが出やすい保険」
とも言えます。
そのうえで、店舗の規模や立地、テイクアウト・デリバリーの有無、深夜営業やアルコール提供の有無などに応じて、
休業補償保険やPL保険などを必要に応じて追加していくのがおすすめです。
まずは基本の保険で土台を固め、無理のない範囲で補償を広げていきましょう。
最後に、飲食店経営者が最低限チェックしておきたい保険のポイントを一覧で整理します。
「自分の店はどこまで備えられているか」を確認する目安として活用してください。
[ ]従業員(アルバイト・パート含む)を雇っている
→ 労災保険に加入している
[ ] 労災保険の届出・更新を正しく行っている
[ ] 店内事故(転倒・ケガ)に備えた賠償責任保険に加入している
[ ] 食中毒リスクに対応できる補償内容になっている
[ ] 示談交渉サービスが付いているか確認している
[ ] 料理・飲み物が原因の事故に備える生産物賠償責任保険(PL保険)に加入している
[ ] テイクアウト・デリバリーにも補償が及ぶ内容になっている
[ ] 店舗・厨房設備を補償する火災保険に加入している
[ ] 賃貸店舗の場合、借家人賠償責任特約を付けている
[ ] 水漏れや消火活動による損害も補償対象か確認している
[ ] 火災や事故による休業に備える休業補償保険を検討・加入している
[ ] 日額補償額・補償期間が実際の固定費に見合っている
[ ] 店舗規模・売上・業態(深夜営業、酒類提供など)に合っている
[ ] 開業時から内容を見直していないままになっていない
[ ] 「入りすぎ」「不足」がないか定期的に確認している
このチェックリストで「[ ] が多く残った項目」は、経営リスクが高い部分とも言えます。
すべてを一度に完璧にする必要はありませんが、
優先順位の高い保険から順に整えていくことが、長く安定した飲食店経営につながります。
飲食店には、法律で義務づけられている保険と、実務上入っておくべき保険があります。
特に中小規模の飲食店では、一度のトラブルが経営に大きな影響を与えることも少なくありません。
まずは、
「うちの飲食店にはどんな保険が必要か」
を整理することから始めてみましょう。
飲食店の保険は、万が一に備えるためのコストではなく、経営を守るための投資です。