「店長が毎日ラストまで残っている」「店長がいないと閉店できない」「店長が休日でも店から連絡が来る」――。
中小規模の飲食店では、このような店長のラスト依存が長時間労働につながるケースがあります。
店長の長時間労働は、単に「残業代が発生するか」という問題だけではありません。労働基準法上の時間外労働や休日労働、36協定との関係に加え、労働安全衛生法上の健康確保という観点からも、本部が管理する必要があります。
特に重要なのが、店長のラスト回数、閉店後作業時間、残業時間、深夜労働、連勤、休日取得状況を店舗任せにせず、本部が継続的に確認する仕組みです。
では、飲食店の店長の長時間労働を防ぐために、本部はどのようなルールを作ればよいのでしょうか。
ここまで、業務の分解や権限委譲、本部の管理基準について見てきました。ただし、そもそも店長の代わりにラストを任せられる人材がいない場合は、仕組みを整えても店長に業務が集中しがちです。人手不足が根本にある場合は、採用から体制を見直すことも選択肢の一つになります。
採用の際には、閉店業務の担当範囲や任せる権限をあらかじめ伝えておくことが大切です。入社後の役割のミスマッチを防ぎ、早い段階でラスト責任者として育成しやすくなります。
弊社では、飲食店向けに日本人正社員と外国人人材の両方の人材紹介を行っています。副店長・リーダー候補となる正社員の採用はもちろん、特定技能などの外国人人材の受け入れから定着まで、店舗の状況に合わせてご提案が可能です。
店長の長時間労働を人員面から見直したい場合は、自店に合った人員体制について、お気軽にご相談ください。
店長のラスト依存をなくすには、まず「なぜ店長がラストに入らなければならないのか」を分解することが重要です。
飲食店では、閉店時にさまざまな業務が発生します。
例えば、
・レジの締め作業
・売上確認
・現金管理
・店内の最終確認
・厨房・客席の確認
・清掃
・食材の確認
・翌日の引継ぎ
・戸締まり・施錠
・本部への報告
などです。
しかし、これらをすべて「店長しかできない仕事」としてしまうと、店長が毎日ラストに入らなければ店舗が回らなくなります。
本部がまず確認したいのは、「本当に店長本人でなければできない業務なのか」という点です。
例えば、清掃や備品確認、翌日の仕込み確認などは、一定の教育を受けた副店長やリーダーに任せられる可能性があります。
一方、金銭管理や重要な報告など、店舗の規程上、店長による確認が必要な業務については、権限や承認方法を整理する必要があります。
「店長は管理職だから、残業代を払わなくてもいい」と考えていませんか?
実は、店長という肩書きがあるだけで、残業代を払わなくてよいことになるわけではありません。
実際にどのような仕事をしているのか、どの程度の権限があるのか、勤務時間を自分で決められるのか、待遇はどうなっているのかなどを総合的に見て判断されます。
そのため、本部は「店長だから残業代は必要ない」と一律に決めるのではなく、その店長が実際にどのような働き方をしているのかを確認することが大切です。
さらに、仮に管理監督者に当たる場合でも、健康管理まで不要になるわけではありません。長時間労働が続いていないかなどを確認し、店長の健康を守るための対応が必要です。
つまり、「店長だから長時間働いても仕方ない」と考えるのではなく、残業時間や深夜労働、休日取得などを本部が継続的に確認することが重要です。
店長のラストばかりを減らすには、閉店業務そのものを分解して、誰に任せるのかを決めることがポイントです。
例えば、閉店業務を次の3つに分けます。
| ①作業する業務 | ②確認する業務 | ③承認・判断が必要な業務 |
| 清掃 | レジ金額 | 売上差異への対応 |
| 厨房機器の確認 | 食材在庫 | 事故・トラブルの報告 |
| ごみ処理 | 清掃状況 | 金銭上の異常への対応 |
| 備品整理 | 店舗設備 | 本部への重要報告 |
| 戸締まり | 翌日の営業準備 |
このように分けると、「店長が最後まで残らなくてもよい業務」が見えてきます。
本部は、閉店チェックリストを作成し、「誰が」「何を」「どこまで」行うのかを明文化するとよいでしょう。
権限委譲では、「任せる」と言うだけでは不十分です。
例えば、
| 副店長・リーダーに任せる業務 | 店長の判断を必要とする業務 |
| 閉店チェック | 高額な現金差異 |
| 清掃管理 | 重大な事故・クレーム |
| 備品確認 |
|
| 厨房確認 | 本部への重大報告 |
| 翌日の営業準備 | |
| 一定範囲の売上確認 | |
| 閉店時のスタッフへの指示 |
というように、権限の範囲を決めます。
さらに、店長が休みの日に「結局店長へ電話しないと何も決められない」という状態にならないよう、トラブル発生時の判断基準とエスカレーションルールも設定しておくことが重要です。
店長の長時間労働を防ぐには、個人の努力だけでは限界があります。そこで重要になるのが、補佐役の配置です。
本部は、店舗ごとに次のような基準を設定する方法があります。
例えば、
・店長以外にラスト責任者を最低1人育成する
・ラスト担当者を複数人登録する
・店長以外のスタッフが一定回数ラスト業務を経験する
・店長が休日の日は副店長・リーダーが責任者になる
・店長が一定回数以上ラストを担当した場合、本部がシフトを確認する
といったルールです。
特に重要なのは、「店長の代わりが1人しかいない」という状態を作らないことです。
1人だけに依存すると、その人が休んだときに再び店長へ負担が集中します。
「店長のラストは月○回まで」という一律の法律上の基準はありません。
そのため、会社ごとに店舗の営業時間や人員状況を踏まえて、社内の管理基準として設定するのが現実的です。
例えば、
店長のラスト勤務が月8回を超えた場合は本部が確認する
月12回を超えた場合はシフト改善計画を作成する
などです。
重要なのは、数字そのものよりも、一定回数を超えたら本部が原因を確認する仕組みにすることです。
「ラスト回数が多い=直ちに違法」ではありません。しかし、ラスト回数が多い状態が続けば、深夜労働や閉店後作業、残業、休日取得不足につながる可能性があります。
そのため、ラスト回数を長時間労働の早期発見指標として活用します。
店長の長時間労働を防ぐには、「残業時間」だけを見るのでは不十分です。
本部は、ラスト回数と合わせて複数の指標を確認しましょう。
労働基準法では、法定労働時間は原則として1日8時間・週40時間です。
ただし、臨時的な特別の事情がある場合の特別条項など、労働時間の管理には一定のルールがあります。実際の運用については、厚生労働省の最新情報を確認し、必要に応じて社会保険労務士などの専門家に相談しましょう。
ただし、36協定を結べば、従業員にいくらでも残業をさせられるわけではありません。時間外労働には上限があり、原則として月45時間・年360時間までとされています。
臨時的な特別の事情がある場合でも、特別条項には、
・年720時間以内
・時間外労働・休日労働の合計が月100時間未満
・時間外労働・休日労働の合計について、複数月平均80時間以内
・月45時間を超えられるのは年6か月まで
などの上限があります。
具体的な上限や適用条件は、業種や労働時間の状況などを踏まえて最新の制度を確認し、必要に応じて社会保険労務士などに相談しましょう。
したがって、本部は「36協定の上限ギリギリまで働いていないから問題ない」と考えるのではなく、月45時間を超えそうな段階で原因を確認することが重要です。
労働基準法では、原則として毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上の休日を与える必要があります。
※休日の設定方法や就業規則等との関係については、事業場の状況によって異なるため、厚生労働省の最新情報を確認するか、社会保険労務士などに相談しましょう。
ただし、本部が確認すべきなのは「法律上の休日を与えているか」だけではありません。
例えば、
・連続勤務が長くなっている
・店長が休日でも店舗から連絡を受けている
・休日に店舗へ出勤している
・休日の翌日にラスト勤務が続いている
といった状態も確認します。
「休日はあるが、実際には休めていない」という状態を放置しないことが大切です。
ラスト勤務では、営業終了後に30分、1時間と作業が続くことがあります。
例えば「23時閉店」としていても、
23時~23時30分 片付け
23時30分~24時 売上確認
24時~24時30分 本部報告
となれば、実際の退勤時刻は24時30分です。
本部はシフト上の終了時刻ではなく、実際の退勤時刻と閉店後作業時間を確認する必要があります。
また、深夜時間帯に労働させた場合には、深夜労働に対する割増賃金の問題も生じます。管理監督者に該当する場合でも、深夜労働の割増賃金まで当然に不要になるわけではありません。
店長のラスト依存をなくすには、現場に「店長が頑張らないように」と指示するだけでは足りません。
ラスト回数→労働時間→原因分析→人員・権限の見直しという流れを本部のルールにすることが重要です。
本部では、最低限次の項目を店舗ごとに確認するとよいでしょう。
| 確認項目 | 本部が見るポイント |
|---|---|
| 店長のラスト回数 | 特定の店長に集中していないか |
| 残業時間 | 月45時間を超える見込みがないか |
| 閉店後作業時間 | 退勤まで長時間かかっていないか |
| 深夜労働 | 深夜勤務が常態化していないか |
| 連勤 | 長い連続勤務になっていないか |
| 休日取得 | 法定休日・所定休日を確保できているか |
| 副店長・リーダー | ラストを代替できる人材がいるか |
| 店長の休日連絡 | 休日でも業務対応していないか |
労働安全衛生法では、長時間労働による健康障害を防ぐため、労働時間の状況を把握し、一定の長時間労働者について医師による面接指導などの健康確保措置を行う仕組みがあります。
そのため、店長の労働時間は「給与計算のためだけ」に把握するのではなく、健康確保のための管理データとしても活用しましょう。
本部は、法律上の上限だけでなく、長時間労働につながる兆候を早めに見つけることが大切です。
以下のチェックリストを使って、店舗ごとの勤務状況を確認してみましょう。
チェックが複数ついた場合は、「店長の頑張り」で解決しようとせず、シフト、人員配置、ラスト業務の分担、権限委譲の方法を本部が見直すことが重要です。
なお、月80時間という数字は「80時間まで働かせてよい」という意味ではありません。これは長時間労働による健康への影響を考えるうえでの重要な目安の一つです。法律上の上限を守ることはもちろん、できるだけ時間外・休日労働を減らすことが大切です。
店長のラスト依存を解消するために重要なのは、「店長にもっと早く帰ってもらう」という個人への呼びかけではありません。
本部が、
①ラスト業務を分解する
②任せられる業務を副店長・リーダーへ権限委譲する
③ラスト責任者を複数育成する
④店長のラスト回数を本部が確認する
⑤残業・深夜労働・連勤・休日取得を確認する
⑥問題があればシフトと人員配置を見直す
という仕組みを作ることが大切です。
特に、店長の長時間労働は「36協定を守っていれば問題ない」と考えるのではなく、労働基準法と労働安全衛生法の両面から管理することが重要です。
「店長が毎日ラストまでいる店」をなくすことは、単なる働き方改革ではありません。店長が休んでも営業できる体制を作り、店舗運営を特定の人に依存させないための経営課題でもあります。
まずは各店舗の店長のラスト回数、残業時間、深夜時間、閉店後作業時間、連勤、休日取得状況を確認し、「店長がいないと閉店できない業務」が何なのかを洗い出すところから始めてみましょう。