飲食店を開業したばかりのオーナーが最初にぶつかる壁
それが「人件費のバランス」。
スタッフを増やせばサービスの質は上がる一方で、売上が安定しない初期は固定費が重くのしかかります。
この記事では、開業初期に理想とされる人件費率の目安や、人件費を抑えながらも現場を回すコツを具体的に解説します。
「人件費率」とは、売上に対して人件費が占める割合のこと。
以下の計算式で求められます。
人件費率(%)=(人件費 ÷ 売上高)×100
ここでの「人件費」には、
・スタッフの時給・給与
・社会保険料の事業者負担分
・交通費・まかない・制服などの諸手当
が含まれます。
一般的に飲食業界では、以下が目安とされています。
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業態 |
理想の人件費率 |
備考 |
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ファストフード・セルフ形式 |
20〜25% |
人件費が低め。効率重視型。 |
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カフェ・軽食店 |
25〜30% |
ワンオペ〜少人数運営が多い。 |
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居酒屋・レストラン |
30〜35% |
接客人数が多く、変動が大きい。 |
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高級店・コース料理店 |
35〜40% |
人数多・技術者雇用・サービス重視。 |
開業初期の目安としては「売上が安定していない=利益率が読めない」ため、
30%以内に抑えるのが現実的なラインです。
飲食店経営でよく聞く「FLコスト」とは、
Food(原材料費)+Labor(人件費)=FLコストのことです。
FLコスト率=(原価+人件費)÷ 売上高 ×100
理想とされるFLコスト率は 55〜60%以内。
例えば、原価率が30%なら人件費率は25〜30%以内に抑える、というバランスが目安です。
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項目 |
A店(理想) |
B店(人件費オーバー) |
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月売上 |
300万円 |
300万円 |
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原価 |
90万円(30%) |
90万円(30%) |
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人件費 |
75万円(25%) |
105万円(35%) |
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家賃・光熱費など |
60万円 |
60万円 |
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利益 |
75万円(25%) |
45万円(15%) |
➡ わずか10%の人件費率の違いで、利益が30万円も減少。
この差が積み重なると、半年後には180万円の資金ギャップになります。
開業直後は売上が読めないため、
「固定人件費」より「変動人件費(時給スタッフ)」を中心に組むのがリスク回避の基本です。
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人件費構成 |
メリット |
デメリット |
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正社員中心 |
品質・安定性が高い |
固定費が重い |
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アルバイト中心 |
調整がしやすい・コスト低 |
教育負担・離職リスク |
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開業初期におすすめ |
アルバイト中心+オーナー現場参加型 |
時間帯別の売上データを1〜2週間で記録し、
「1時間あたりの売上に対する人件費」を可視化します。
例:
・11〜13時 → 売上6万円、人件費3,000円 → 人件費率5%
・15〜17時 → 売上2万円、人件費3,000円 → 人件費率15%
このように“儲からない時間帯”を減らすだけで、
1か月あたり5〜10万円の人件費削減も可能。
ホールもキッチンも両方できる「兼任型スタッフ」を育成すれば、
少人数でもシフトの穴を埋めやすくなります。
教育コストは最初にかかりますが、長期的には人件費率を下げる効果が大。
InstagramやLINE公式で“混雑時間帯”を告知すると、
来店時間が分散し、ピーク時の人員配置が軽減できます。
皿洗い・会計・調理補助など、動線を短くするだけで
1人分の労働時間を減らせます。
▶ 具体策:レジをセルフ化、調理工程を写真マニュアル化、皿の種類を減らす。
人件費は単純に削減するだけでは、サービスの質が下がり、
結果的にリピーター減少→売上悪化につながります。
大切なのは「効率化」と「再投資の意識」です。
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視点 |
削減型 |
効率化型 |
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シフト削減 |
スタッフを減らす |
人数を同じにして作業効率を上げる |
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教育コスト |
教えない |
初期教育を体系化して育成時間を短縮 |
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テクノロジー |
導入をケチる |
POS・モバイルオーダーで労働削減 |
まとめると、開業初期の「安全圏」は次の通りです。
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指標 |
理想値 |
コメント |
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原価率 |
25〜30% |
高原価商品を出しすぎない |
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人件費率 |
25〜30% |
開業初期は30%以内をキープ |
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FLコスト |
55〜60%以内 |
利益確保ライン |
これを超える場合は、
・メニューの見直し
・ シフトの削減
・ 売上アップ施策(ランチ導入・SNS集客)
のいずれかで調整を行いましょう。
開業初期は、売上の波が激しい時期。
だからこそ「人件費をコントロールできるかどうか」が、黒字経営の分かれ道です。
理想は人件費率30%以内・FLコスト55%前後。
短期的には“削減”より“効率化”を、
中長期的には“人材育成”を意識していきましょう。
あなたの店の未来を支えるのは、コストではなく「人」なのです。