飲食店経営が軌道に乗り、「次の店舗を出したい」と考えるオーナーは少なくありません。
しかし、実際に2店舗目・3店舗目の出店に踏み切ったオーナーの多くが「思ったより大変だった」と口を揃えます。
なぜなら、1店舗経営と多店舗経営では求められる“経営の仕組み”がまったく違うからです。
本記事では、多店舗展開で失敗しやすいポイントを整理しつつ、「2店舗目の壁」を乗り越えるための組織づくり・資金計画のコツを解説します。
1店舗目では、オーナー自らが現場に入り、料理・接客・仕入れ・会計といったあらゆる業務を把握しているケースが多いでしょう。
しかし、2店舗目を出すと物理的に全てを自分で見ることはできなくなります。
このときに多くのオーナーが直面するのが以下の3つの課題です。
信頼できる店長候補や副店長が育っていないまま2店舗目を出すと、品質の維持が難しくなります。
「1店舗目の成功は店長(自分)の力量だった」と気づくのはこのタイミングです。
店舗ごとに味や接客の基準が違うと、ブランドの信頼を損ないます。
特に常連客が「前の店の方が美味しかった」と感じた瞬間に、リピート率が下がる危険があります。
出店費用・人件費・教育コスト・仕入れ増加などにより、キャッシュフローが一時的に厳しくなるのが2店舗目の特徴です。
融資や資金繰りの計画を慎重に立てないと、黒字倒産に陥るリスクもあります。
「属人経営」とは、店長やオーナーの経験や勘に頼った経営のこと。一方「仕組み経営」は、誰が運営しても同じ品質・利益を出せるように、業務をマニュアル化・可視化する考え方です。多店舗展開や人材不足の時代こそ、個人の力に依存しない“仕組みづくり”が生き残りの鍵になります。
多店舗展開の第一歩は、「オーナーの力に依存しない経営体制」を作ることです。
接客マナー、調理工程、仕込み、発注ルールなどを標準化することで、誰がどの店舗に入っても同じ品質を保てます。
マニュアルは文字だけでなく、写真や動画を活用すると新人教育にも効果的です。
「任せられる店長」を育てることが、2店舗目以降の鍵。
経営数字・人材マネジメント・顧客対応を含めた教育プログラムを設計しましょう。
社内で月1回の勉強会を開く、数字報告ミーティングを習慣化するなど、学ぶ仕組みを作るのがポイントです。
売上・原価・人件費などのデータをリアルタイムで把握できるようにすることも重要です。
オーナーが全店舗の数値を一元管理できる仕組みを整えると、問題の早期発見につながります。
理想は出店費用の30〜40%を自己資金で用意し、残りを融資でまかなう形です。
1店舗目の実績をもとに金融機関との関係を築いておくと、スムーズに融資が進みます。
ただし、返済負担が月次利益の30%を超えるとキャッシュフローが不安定になりやすいため注意が必要です。
オーナー自身や本部スタッフにまだ余裕があるうちに出店するのが理想です。
「もう1店舗見られる人材がいない」「現場がギリギリ」という状態で出すと、トラブルが連鎖しやすくなります。
家賃・人件費・仕入れ・ロイヤリティ(あれば)を含めた損益計算を複数パターンで試算しましょう。
特に「売上が想定より20%下回った場合」の赤字幅を把握しておくことが、リスク管理につながります。
店舗ごとに孤立させず、月1回の「店長会議」で情報を共有することで、現場同士の学びが生まれます。
数字報告だけでなく、「成功事例の共有」や「課題解決のディスカッション」を行うと効果的です。
新店舗立ち上げ時に頼れるのが「育成担当者」の存在。
オープニングスタッフ教育を任せられる人を育てておくと、出店スピードが安定します。
3店舗目以降を見据えるなら、「店舗運営」と「管理業務」を分ける発想が必要です。
経理・採用・広報などを本部に集約し、現場は売上・顧客満足に集中できる体制を作りましょう。
「味」「サービス」「オペレーション」を誰がやっても再現できる状態にすること。
1店舗目を“モデル店舗”としてマニュアル・レシピ・教育動画を整備します。
「売上・原価・人件費」を店長が理解していないと、どんなに努力しても利益は安定しません。
数値管理を習慣化することで、現場が“経営者マインド”を持つようになります。
多店舗展開の最大の落とし穴は「拡大によるブランドの希薄化」。
出店スピードよりも、1店舗ごとの顧客体験の質を最優先にしましょう。
2店舗目の壁を超えるには、「自分が全部やる」から「任せる仕組みを作る」への転換が不可欠です。
人に任せることで、オーナー自身が次の戦略や新しい挑戦に時間を使えるようになります。
多店舗展開は一見難しく見えますが、
・マニュアル化で品質を標準化する
・人材育成に投資する
・数字で経営を判断する
この3つを徹底すれば、安定した拡大が可能になります。
「2店舗目の壁」を乗り越えたその先には、地域で愛されるブランドとしての新しいステージが待っています。