物価や人件費の上昇が止まらない中、「そろそろ価格を見直さないと利益が残らない」と感じている飲食店経営者は多いのではないでしょうか。
しかし、いざ値上げに踏み切ろうとすると「お客様が離れてしまうのでは…」という不安が頭をよぎります。
実際、飲食業界は“価格に敏感な業界”と言われます。
隣の店がランチを100円安くするだけで客足が流れてしまう。
そんな経験をした方もいるかもしれません。
けれども、現実には価格を上げてもファンを増やし、安定した売上を保っているお店も存在します。
それらに共通するのが、「高くても選ばれる理由を作っている」という点です。
この記事では、そんな“選ばれるお店”が実践しているメニュー設計・見せ方・価値づくりの考え方を、実例とともに解説します。
まず覚えておきたいのは、「高い=悪い」ではないということ。
多くの人は“価格”を気にしているようで、実際には“価格に見合う価値があるかどうか”を判断しています。
たとえば同じ¥1,200のランチでも――
・写真映えしてSNSに載せたくなるような盛り付け
・「地元農家の野菜を使用」といったストーリー性
・スタッフの笑顔と気遣いで居心地の良さを感じる
このような体験が伴うと、「この価格なら納得」「むしろお得」と感じてもらえるのです。
つまり、お客様が払うのは“価格”ではなく“納得感”。
メニューや空間、接客を通して「このお店だからこの値段でいい」と思わせる仕掛けを作ることが、単価アップの第一歩です。
まずは「このお店にしかない理由」を打ち出すことから始めましょう。
どんなに味が良くても、他店と同じ土俵に立ってしまえば“価格競争”に巻き込まれます。
たとえば:
「発酵バターと地元小麦の専門ベーカリー」
「旬の食材を主役にした週替わりコース」
「農家直送の野菜を使ったヘルシー定食」
このように、一言で伝わるコンセプトを持つと、「このお店にはこの理由で行く」という選ばれる動機が生まれます。
価格ではなく“世界観”で勝負できるお店になるのです。
次に重要なのは「伝え方」です。
どれだけ良い素材や技術を使っていても、それが伝わらなければ“ただの高い料理”で終わってしまいます。
たとえば、
「ステーキ定食 ¥1,800」
と書かれているよりも、「黒毛和牛を塊で焼き上げ、旨味を閉じ込めたステーキ ¥1,800」
と書かれている方が、明らかに印象が違いますよね。
同じ価格でも、“体験”を感じさせる言葉を添えることで、お客様の心理的ハードルが下がります。
これは「フレーミング効果」と呼ばれる心理法則で、「どう伝えるか」で価格の感じ方が変わるのです。
すべてを値上げするのではなく、まずは「プレミアム枠」を設けるのがおすすめです。
たとえば:
通常メニューに+αの素材を加えた上位モデル
限定5食の特別メニュー
「シェフおすすめ3品コース」など選ばれる導線づくり
お客様の心理には「せっかくだから少しいい方を選びたい」という“松竹梅効果”があります。
一番高いものがあることで、真ん中の価格帯が自然に選ばれるのです。
この構成を意識するだけで、平均客単価は約10〜20%上がることもあります。
人は「高いもの」を選ぶのではなく、「意味のあるもの」を選びます。
つまり、単価アップを成功させる鍵は、“物語”を持つことです。
たとえば:
「このカレーのトマトは、契約農家から朝採れ直送」
「ソースは季節ごとに変わる限定仕立て」
「シェフが○○で修行した味を再現」
お客様はこうした背景を知ると、“価格ではなく体験”でその料理を判断します。
SNSでシェアされやすくなり、口コミ効果も期待できます。
実際に、「この食材を使っているからこの値段」という根拠があると、
お客様はむしろ高い方を信頼する傾向があります。
“安い=不安、高い=安心”という心理を味方につけましょう。
「味は美味しいけど、店の雰囲気が雑」
「料理は上品なのに、接客が軽い」
――こうした“体験のズレ”があると、お客様は無意識に「この価格は高い」と感じてしまいます。
だからこそ、価格に見合う体験をトータルで設計することが大切です。
たとえば:
器やカトラリーの統一感
音楽・照明・香りなど五感に訴える空間演出
スタッフの一言コメントで“料理の背景”を伝える
こうした積み重ねが「このお店ならこの値段で当然」という納得感を作ります。
料理・空間・接客の一貫性=価格の説得力です。
単価アップを検討する際は、次の3点をチェックしてみましょう。
| 視点 | 質問 | 改善のヒント |
|---|---|---|
| メニュー | 価格の理由を説明できるか? | 食材・生産者・調理工程をストーリー化 |
| 接客 | 料理の価値を言葉で伝えているか? | 「このソースは…」など一言トークを用意 |
| 空間 | 世界観と価格が一致しているか? | 照明・BGM・器のトーンを統一 |
見せ方を変えるだけでも、印象は大きく変わります。
コストをかけずに「価値を伝える工夫」から始めてみましょう。
1. 価格を上げる前に価値を伝えている
値上げではなく「なぜこの価格なのか」という納得を先に提供しています。
2. 物語性と限定性で差別化している
季節・地域・数量など“今だけ”の要素を設けることで、特別感を演出しています。
3. 店全体で体験価値を作っている
メニュー・空間・接客すべてが一貫し、ブランドとしての信頼を築いています。
これらが揃うと、お客様は「価格」ではなく「満足感」で判断します。
結果、リピート率が上がり、安定的な売上を実現できるのです。
スイーツを“地元いちご農家とのコラボ”として打ち出したところ、客単価が約300円上昇。
「生産者の顔が見える安心感」でリピーターが増加しました。
通常メニューに加え「職人おすすめ3品セット(+¥800)」を新設。
“せっかく来たなら”の心理を刺激し、4割以上の顧客が選択。
料理長が直接説明する「五感で味わうコース」を導入。
単価が¥1,000アップしたにもかかわらず、予約率は1.3倍に上昇。
価格競争に巻き込まれず、長く愛されるお店になるために大切なのは、
「値段」ではなく「理由」を作ることです。
お客様が「少し高いけど、また来たい」と思える仕掛けを――
料理、空間、接客のすべてで作り込むこと。
それが“高くても選ばれる”お店の共通点です。
単なる値上げではなく、価値を育てる価格設計へ。
今日から少しずつ、自分のお店の「納得の理由」を見直してみましょう。