居抜き物件は、前テナントの内装・厨房設備を“造作譲渡”という形でまとめて引き継ぎ、最小限の改修だけで飲食店を開業できる手法です。
以前営業していた飲食店が退去する際、店内に残るカウンターや排気ダクト、業務用冷蔵庫などをまとめて買い取る(=造作譲渡料を支払う)ことで、新オーナーはゼロから設備をそろえる必要がなくなります。
内装工事費や厨房機器の購入費は100万〜200万円以上の削減につながるケースも珍しくありません。
造作譲渡料は「設備の残存価値 × 売り手の希望」で決まるため、耐用年数・メンテ履歴を根拠に値下げ交渉するのが鉄則です。
スケルトン物件はコンクリートむき出しの“空箱”状態から自由設計できる反面、工事費・期間が膨らむ点が最大のハードルです。
壁材・床材・配管・電気配線を一から敷き直す必要があるため、内装・設備工事費は50万〜500万円、場合によっては500万円超に達します。ただし動線や客席数、コンセプトカラーまで思い通りに作りこめる自由度は魅力的です。特にブランドイメージを徹底したいハイエンド業態や独自レイアウトを重視するカフェなどには向いています。
ここまでで飲食店を開業する際に知って置かなければならない居抜き物件とスケルトン物件の違いを確認できたかと思います。
以下では、実際にそれぞれを使用した際にどのような違いがあるのかを具体的に表にしてみました。
数字は小規模店舗の事例をベースにした平均値で、物件の状態や業態によって上下しますが、スピードとコストを優先するなら居抜き、自由度とブランディングを優先するならスケルトンという住み分けが大きな判断基準になります。
次章では、居抜き物件を選んだ場合に得られる具体的なメリットと、その裏に潜むリスクをまとめて見ていきましょう。
居抜きを活用すると、前テナントが残したカウンターや業務用冷蔵庫をそのまま使えるため、内装工事費だけで100万〜200万円以上の節約になった事例が複数報告されています。
敷金・礼金などの固定費は変わらなくても、工事に充てるキャッシュが浮く分、運転資金や広告費に回せる。飲食店の開業資金は一般に500万〜1,000万円と言われますが、そのうち大きな比率を占める改装コストが削れれば資金繰りリスクを低減できます。
スケルトンが8〜12週間かかるところ、居抜きなら改修中心で2〜4週間に収まるケースも多く、最短で4〜8週間のスピードオープンが可能。家賃だけ払い続ける空白期間を短くできるのは大きな利点です。
残置機器が耐用年数を超えていると、開業後すぐに故障し追加で数十万〜数百万円の修理出費が発生するリスクがあります。事前に「どこまで使えるか」を点検しないと、節約どころか持ち出しが増えるケースも。
既存レイアウトを前提に厨房・客席が組まれているため、大きく改造すると結局コストがかさんでしまうことも。厨房比率を30〜40%に抑えたい小規模業態では、動線が合わずに回転率が下がる例もあります。
以前の店舗が閉店した理由や、接客・料理の評価が悪かった場合、その印象が物件に残っていることがあります。立地は良くても「前の店もすぐ潰れた」といった口コミが集客に影響することもあるため、過去の評判や閉店理由を事前に調べることが重要です。
次に居抜き物件を利用して飲食店を開業した場合のよくあるトラブルとその事前対策を紹介します。
せっかく準備した居抜き物件なので、トラブル無く気持ちよく飲食店を始められるように心がけましょう。
譲渡対象物や金額を口頭で済ませてしまい、退去時に「元に戻せ」「戻さなくていい」で争う例が典型例の1つです。必ず写真付きリストを添え、賠償範囲を契約書に明記しましょう。
飲食店物件は原状回復負担が大きいため、東京23区の路面店では家賃6〜12ヶ月分=90万〜180万円程度の敷金を求められるのが一般的です。改修条件を確認せずに入居すると、閉店時に多額の返還減額を受けるリスクがあります。
契約前に改修条件を隅々まで確認し、入居前に確認しておきましょう。
退去時に「造作を残してよい」と聞いていたのに、オーナーが変わり“スケルトン返却”を要求されることも。追加撤去費で数十万円規模の損失になるため、書面での合意と保証金の返金条件を必ず確定させておくのが鉄則です。
居抜き物件を「安く早く開業できる切り札」に変えるか、それとも「後からお金のかかる落とし穴」にしてしまうか――分かれ目は、残された内装・厨房設備をどう見極めるかにあります。
ここでは
(1)現状把握
(2)取捨選択
の2点から判断のポイントを解説します。
まずやるべきは「残置設備リスト」の作成です。
契約書に記載のない什器が後から故障すると、責任の所在が曖昧になりやすいからです。
型番と製造年を控え、国税庁の減価償却年数と実勢の寿命を照合しましょう。
たとえば業務用冷蔵庫は法定6年でも、実際には8〜10年で更新が推奨されます。業務用エアコンは10〜15年が目安ですが、油煙が多い厨房では短命になりやすい点に注意が必要です。
設備だけでなく、給排水管や電気容量、ダクトの経路も忘れず点検します。
「とりあえず動くから大丈夫」と見逃すと、開業後の水漏れやブレーカー落ちで営業停止に追い込まれる――そんな事例は珍しくありません。
点検結果がそろったら、各設備を
・残す
・替える
・追加する
のいずれかに振り分けます。
判断軸は 以下の安全・効率・コスト の3点です。
とりわけ厨房動線の最適化は、客席回転率とスタッフの稼働効率に響くため、レイアウト変更費が多少掛かっても「替える」価値が大きいケースが少なくありません。
開業費用をできるだけ抑えつつ、かつ開業後にトラブル無く飲食店営業を行っていくためにも、残置厨房設備の確認と新規設備の導入是非は念入りに検討しておきましょう。
いざ居抜き物件を探すとなった際、「どのように探せばいいのか」分からない人も多いと思います。
探し方の基本は、情報量を確保し、現地でリスクを潰すという二段構えです。
・全国型ポータル:掲載件数が多く、条件アラートを設定すれば新着を逃さない。一方で、人気物件は問い合わせが集中し、即日決まってしまうことがある。
・地域密着型仲介:半径1 km の競合状況や家主の人物像など“現場情報”を詳細に得られる点が強み。ただし、自社取り扱い物件が中心で、紹介範囲が狭いことが多い。
・厨房リユース一体型サービス:中古機器の仕入れやリース、補助金申請までワンストップで、初期投資を徹底的に抑えたい場合に最適。ただし地域密着型と同様、取り扱い物件の種類が少ないことがネック。
仲介手数料は宅建業法により賃料1か月分が上限だと定められています。
賃貸借部分と造作譲渡部分の費目を分け、追加で「情報提供料」「企画料」などが上乗せされていないか必ず確認しましょう。
以上の情報ソースをもとに、気になる物件を選定したら、内覧して物件が利用可能なのかどうかを確認しましょう。
特に注意すべき点をまとめ、以下の10項目のチェックリストにしましたので、ぜひ内覧の際にご参考ください!
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チェックポイント |
確認事項 |
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臭気・油臭 |
入店直後に嗅覚チェック—酸化油臭は清掃コスト増 |
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グリストラップ |
フタを開け汚泥量を見る—未清掃なら高圧洗浄が必要 |
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排気ダクト |
油滴・煤の蓄積と排気方向を確認 |
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冷蔵・冷凍庫 |
通電し設定温度になるか/異音の有無 |
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エアコン |
冷暖切替、ドレン漏れ跡 |
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給排水管 |
シンク下・床ピットを開け錆・漏水跡 |
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電気容量 |
分電盤の主ブレーカー(A)・空き回路を撮影 |
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ガス容量 |
メーター号数と厨房機器総消費量を突きあわせ |
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床傾斜・排水 |
水を流し逆流や溜まり水がないか |
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近隣クレーム |
仲介に臭気・音トラブルの有無をヒアリング |
居抜き物件は、初期費用の削減とスピード開業という大きなメリットを持つ一方、設備の老朽化やレイアウト制約、契約トラブルなどのリスクも抱えています。成功のカギは、現状把握(残置設備のリスト化と寿命確認)・契約管理(動作保証や原状回復範囲を明記)という2ステップを徹底することです。
さらに、物件探しでは「全国型ポータル」「地域密着仲介」「リユース一体型サービス」を併用し、現地内覧では臭気・水回り・電気・排気の4大ポイントを必ずチェックしましょう。こうした準備を怠らなければ、居抜き物件はコストパフォーマンスの高い開業手段になります。
居抜き物件は、初期費用を大幅に抑え、スピード開業を実現できる魅力的な選択肢です。しかしその一方で、老朽化した設備やレイアウト制約、契約条件など、気をつけるべき落とし穴も存在します。だからこそ、事前の情報収集と現地確認、そして判断の基準を持つことが成功のカギです。
「やっぱり自分だけで探すのは不安…」「条件に合う居抜き物件がなかなか見つからない」
そんなときは、飲食店用居抜き物件を多数取り扱う専門サービスに頼るのも賢い選択です。
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