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飲食店経営を圧迫する人件費以外の要因とは|光熱費・エネルギー価格上昇が利益を削る構造をデータで解説

作成者: 柴田彩|Feb 1, 2026 1:00:00 AM

飲食店経営を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。人件費や原材料費の高騰はすでに多くの経営者が実感している課題ですが、近年とくに見過ごせなくなっているのが電気・ガス・水道といったエネルギーコストの上昇です。光熱費は従来から必要経費として認識されてきましたが、現在は利益構造そのものを左右するレベルにまで影響力を持つコストへと変化しています。本記事では、公的統計や業界データをもとに、光熱費が飲食店経営に与える影響と、その対応策を整理します。

飲食店のコスト構造における光熱費の変化

飲食店のコスト構造は、原材料費、人件費、家賃、光熱費、その他の販管費で成り立っています。この中で光熱費は、売上が減っても一定水準で発生する固定費的な性格が強いという特徴があります。

これまで飲食店の光熱費は、売上高の5〜7%程度が目安とされてきました。しかし近年は、エネルギー価格の上昇を背景に、光熱費率が8〜10%に近づく店舗も増加しています。総務省の消費者物価指数を見ても、電気代・ガス代は高止まりの傾向が続いており、飲食店が実際に負担するエネルギーコストは、明確に以前より重くなっています。

この結果、売上が回復しても利益が残らない、あるいは売上横ばいでも利益率だけが低下するという状況が多くの店舗で起きています。

データが示す飲食店のコスト上昇実態とは?

帝国データバンクの調査によると、飲食業では9割以上の企業が「仕入単価が上昇している」と回答しています。この結果が示しているのは、単なる食材価格の高騰ではありません。ここでいう仕入単価の上昇には、電気・ガスといったエネルギーコスト、物流費、さらには厨房機器や設備関連費用の増加まで含まれており、コスト上昇が複合的に進行している実態が浮かび上がります。

これまでの飲食店経営では、「原材料費が上がったらメニュー価格を見直す」「人件費が上がったらシフトを調整する」といったように、個別のコストに対して個別に対応することが可能でした。しかし現在は、複数のコストが同時に、しかも継続的に上昇しているため、どれか一つの改善だけでは吸収しきれない局面に入っています

特に問題を深刻にしているのが光熱費です。原材料費はメニュー原価として比較的説明しやすく、一定の価格転嫁が可能である一方、光熱費は「見えにくいコスト」であり、値上げ理由として消費者に伝えにくい性質を持っています。そのため、エネルギー価格が上昇しても、経営者側で吸収せざるを得ないケースが多くなっています。

さらに光熱費は、売上に完全には連動しない固定費的な側面を持っています。客数が減っても、営業時間中は一定水準の電気・ガス・空調を使用する必要があり、売上が落ちる局面ほど利益を圧迫しやすい構造になっています。この点が、同じコスト上昇でも原材料費とは決定的に異なるポイントです。

こうした背景から現在の飲食店経営は、「原価が高いから苦しい」のではなく、「複数のコスト上昇が重なり、かつ転嫁しにくい費用が増えているから苦しい」状態にあると言えます。帝国データバンクの調査結果は、飲食店が直面している課題が一時的なものではなく、構造的な経営リスクへと変化していることを示しています。

 

エネルギーコストの影響を強く受ける業態とは?

光熱費の影響は、すべての飲食店で一律に表れるわけではありません。特に影響を受けやすいのは、調理工程そのものが高いエネルギー消費を前提としている業態です。こうした店舗では、売上の増減にかかわらず一定量のガス・電気を使い続ける構造を持っており、エネルギー価格の上昇がそのまま利益を圧迫する要因となります。

たとえば焼肉店や鉄板焼き店では、営業中は常に高火力の調理設備を稼働させる必要があります。加えて、煙や熱を排出するための換気設備、室温を一定に保つための空調も同時に稼働するため、調理・換気・空調が連動して光熱費を押し上げる構造になっています。客数が多少減ったとしても、設備を止めることが難しく、固定費に近い形でエネルギーコストが発生します。

中華料理店や揚げ物を主力とする居酒屋も同様です。中華鍋やフライヤーは高火力・長時間使用が前提であり、ガスや電気に加えて給湯コストも重なります。これらの業態では、原価率だけでなく、光熱費率が利益構造を左右する要素になりやすい点が特徴です。

さらに、席数が多い大型店舗や宴会需要を前提とした店舗では、調理以外の部分でもエネルギー消費が増大します。広い客席空間を冷暖房で管理する必要があり、稼働率が下がった時間帯や閑散期でも一定水準の光熱費が発生します。その結果、売上が落ちた局面ほど光熱費の負担感が相対的に重くなり、利益を急激に圧迫するという問題が顕在化します。

このように、エネルギーコストの影響は業態特性と密接に結びついており、「売上が戻れば自然に解消するコスト」ではない点に注意が必要です。特に高エネルギー消費型の業態では、光熱費の上昇を前提とした経営設計そのものが求められる局面に入っていると言えるでしょう。

 

原価率・人件費率と比較したときの光熱費のインパクト

飲食店経営では、原価率や人件費率が重要な管理指標として定着しています。一般的に原価率は30〜40%、人件費率は25〜35%が目安とされます。一方で光熱費は、「5〜7%程度だから大きな問題ではない」と認識されがちでした。

しかし、光熱費率が5%から8%に上昇した場合、営業利益率への影響は非常に大きくなります。たとえば営業利益率が10%の店舗であれば、光熱費の上昇だけで利益の2〜3割が失われる計算になります。原価や人件費を1%改善することが難しい中で、光熱費の増加は静かに、しかし確実に利益を削っていく要因となっています。

光熱費上昇が生む経営課題とは?

光熱費の上昇によって最も顕在化しているのは、利益率の慢性的な低下です。売上が回復しても利益が残らない状況が続けば、設備投資や人材育成に回す余力は失われます。

さらに、光熱費は価格転嫁が難しいため、値上げを先送りにした結果、資金繰りが悪化するケースも少なくありません。一方で、光熱費削減を優先しすぎると、空調や厨房環境の質が下がり、顧客満足度や従業員の働きやすさに悪影響を及ぼすリスクもあります。

飲食店が取るべき現実的な対応策は?

エネルギー価格が高止まりする中で重要なのは、光熱費を単なる節約対象ではなく、継続的に管理すべき経営指標として捉えることです。短期的な我慢ではなく、数字をもとにした判断が求められます。

  • ・光熱費率を月次で把握し、売上との関係を見る
    光熱費の金額だけでなく、売上に対する割合を毎月確認することで、季節要因なのか構造的な問題なのかを判断できます。感覚ではなく数値で管理することが、適切な対策につながります。

  • ・省エネ設備や運用改善で中長期的に負担を下げる
    高効率空調や調理機器の導入、設備の使い方の見直しは、初期費用はかかるものの、エネルギー価格が高い環境では効果が出やすくなっています。特にエネルギー消費の大きい業態ほど検討価値があります。

  • ・メニュー構成や営業時間を業態に合わせて見直す
    調理負荷の高いメニューや稼働率の低い時間帯を見直すことで、売上を大きく落とさずに光熱費を抑えられるケースがあります。売上重視から、利益重視の運営設計への転換が重要です。

  • ・価格改定時は理由を丁寧に伝える
    単なる値上げではなく、快適な店内環境やサービス品質を維持するためのコストであることを伝えることで、顧客の理解を得やすくなります。長期的な信頼関係づくりにもつながります。

まとめ:光熱費は経営判断の軸になった

人件費や原材料費に加え、光熱費・エネルギーコストは飲食店経営における重要な意思決定要因になっています。帝国データバンクの調査が示す通り、多くの飲食店がコスト上昇を実感しながらも、十分な価格転嫁ができていません。

だからこそ、光熱費を感覚ではなく数字で捉え、戦略的に向き合うことが求められています。光熱費を含めたコスト構造を正しく理解し、業態に合った対策を積み重ねることが、これからの飲食店経営を安定させる鍵になります。