2025年の外食産業は、訪日客回復や消費再拡大の追い風を受けながらも、居酒屋など中核業態にとっては厳しい環境が続いています。客数が戻るなかでも、売上増=利益増にならない構造変化が鮮明になっており、立地やコスト構造、客層の変化が勝敗を分けています。本記事では、居酒屋が「どこで勝ち」「どこで負けているか」を、業態別売上・倒産件数・駅前賃料・乗降客数などの指標から整理します。
帝国データバンクの公式統計によると、2025年の飲食店倒産は900件と過去最多となり、倒産件数は3年連続で増加しています。なかでも居酒屋を主体とする「酒場・ビヤホール」業態は204件と、飲食業態の中で最も多い倒産件数を記録しました。前年(212件)からはわずかに減少したものの、3年連続で200件超の高水準が続いており、居酒屋業態の経営リスクは依然として高い状態にあります。さらに2025年上半期だけでも、飲食店全体の倒産は458件、居酒屋主体業態は105件に達しており、高止まりが続いています。
これらの倒産データが示しているのは、一時的な景気要因ではなく、居酒屋業態が構造的な経営負荷を抱えているという点です。
具体的には、
① 原価・人件費の上昇(酒類・食材の使用点数が多く、深夜帯を含むシフト運営によりコスト増の影響を受けやすい)、
② 接待・宴会需要の縮小と短時間化(少人数化・一次会のみで解散する傾向が定着し、滞在時間や追加注文が減少)、
③ 新規出店増による競争激化(値引き・クーポン・広告費による消耗戦)、
④ 駅前立地に依存した高い賃料負担(売上が横ばいでも固定費が下がらず、わずかな客数減で赤字化しやすい)
といった圧力が同時にかかっています。その結果、「客数は戻っても利益が残らない」構造が生まれ、特に夜間需要・グループ利用に依存してきた居酒屋ほど、近年の消費行動の変化が経営に直撃しています。
飲食店経営において、駅前立地は集客性の高さゆえに魅力ですが、賃料・地価とのバランスが勝敗を決める要素でもあります。一般に、駅乗降者数の多い駅ほど、立地価格や周辺地価は高くなる傾向があります。例えば、東京・新宿駅や渋谷駅、大阪・梅田駅といった1日乗降客数が数十万人〜100万人規模の主要駅周辺は、店舗賃料・地価が極めて高く、家賃比率が利益率を圧迫しがちです。
こうした立地モデルの限界は、以下の点で顕著です:
つまり、立地の「集客力」は高いものの、立地コストを上回る収益設計ができない店は倒産リスクが高まっています。
▶ Yesが多い
→ 駅前賃料を吸収できる可能性あり
▶ Noが多い
→ 立地が集客力ではなく「固定費リスク」になっている
▶ Yesが多い
→ 駅前でも価格競争に巻き込まれにくい
▶ Noが多い
→ 通行量頼みの消耗戦に陥りやすい
▶ Yesが多い
→ 高賃料立地でも利益が成立しやすい
▶ Noが多い
→ 人は入っているのに儲からない典型パターン
▶ Yesが多い
→ 賃料の高さを「単価」で回収できる構造
▶ Noが多い
→ 回転が落ちた瞬間に赤字化するリスク大
▶ Yesが多い
→ 将来の移転・業態転換にも耐性あり
▶ Noが多い
→ 駅前立地が崩れた瞬間に集客が止まる
近年、SNSを起点に支持を広げる「ネオ居酒屋」と呼ばれる業態が、特定の立地で安定的に成果を上げています。
ネオ居酒屋とは、単なる低価格業態ではありません。
大衆酒場の価格帯を維持しながら、
といった“体験価値”を再設計した業態です。
では、なぜこの業態は特定の立地で強いのでしょうか。
ネオ居酒屋は「超一等地」で戦う業態ではありません。
重要なのは、人流はあるが賃料が過度に高騰していないエリアです。若年層は価格感度が高いため、家賃が重すぎる立地ではモデルが崩れます。準主要駅は、一定の乗降客数 × 過度でない固定費というバランスが取りやすく、利益構造が安定しやすい立地です。
ネオ居酒屋は「目的来店」だけでなく、
回遊導線の中で選ばれる業態です。
再開発エリアや複合商業施設周辺では、
といった流れの中で“軽く飲む選択肢”として機能します。視認性と回遊性が利益に直結する業態です。
観光地周辺やオフィス密集エリアなど、
滞在時間が長い立地も相性が良い傾向があります。
ネオ居酒屋は、
など、複数回転の入り口になりやすい業態です。
滞在型需要がある場所では、時間帯分散による安定稼働が実現しやすくなります。
共通しているのは、
「賃料」と「価格帯」のバランスが崩れにくいこと。
ネオ居酒屋は高単価で固定費を吸収するモデルではありません。
だからこそ、家賃が過度に高いターミナル一等地よりも、
人流はあるが賃料が抑えられるエリア
でこそ、回転と体験価値を両立しやすいのです。
2025年の倒産データと立地傾向を整理すると、居酒屋経営の成否は「立地コストと収益設計が噛み合っているかどうか」で明確に分かれています。以下は、実際に倒産や利益圧迫が起きやすいケースと、比較的安定して利益を確保できているケースの整理です。
駅前の超高賃料エリア(主要ターミナル)
固定費が極めて高く、宴会需要や客数だけでは賃料を回収しきれない構造になりやすい。客が入っても利益が残らず、売上変動への耐性が低い。
夜中心の営業で、昼・早い時間帯が成立しない
営業機会が夜に限定されることで、回転数が伸びず、客単価依存型の収益構造になりやすい。需要が少し落ちただけで利益が崩れやすい。
観光需要・インバウンド対応が弱い
多言語対応や分かりやすいメニュー設計が不足し、増加している訪日客需要を取り込めない。結果として、既存の国内需要だけに依存する形になっている。
駅徒歩5分前後の「賃料が許容範囲に収まる立地」
主要駅ほどの集客力はないものの、家賃率を抑えながら回転と単価を両立できる。固定費負担が軽く、利益を残しやすい。
多層客層を取り込む営業設計
地元客・観光客・昼飲み需要など、時間帯や客層を分散して集客できている。売上機会が夜に偏らず、安定した収益構造を作りやすい。
体験価値を意識した店舗設計
多言語対応、禁煙、ユニバーサルデザイン(UD)などにより、「選ばれる理由」が明確。価格競争に巻き込まれにくく、客単価とリピート率の両立が可能。
居酒屋が勝つためには、「集客力だけではなく利益を残せる立地設計」が不可欠です。
駅前賃料が高いエリアは集客が得られる反面、固定費が利益を圧迫しやすいことが倒産データからも明らかです。一方、ネオ居酒屋に代表される準主要駅エリアの立地では、家賃コントロールと回転・単価のバランスにより利益構造を成立させているケースが増えています。
この視点を持つことが、これからの居酒屋経営で“勝ち筋を描く”ためのポイントです。