「最近、物価は少し落ち着いてきたらしい」
そんな空気を感じる経営者も多いかもしれません。
12月19日に最新の消費者物価指数(CPI)が総務省より発表されました。
実際、2025年11月の消費者物価指数(CPI)を見ると、総合指数は前年同月比2.9%と、10月の3.0%からわずかに減速しています。数字だけを見れば、インフレはピークを越えたようにも見えるでしょう。
しかし、飲食店経営の視点でこのデータを読み解くと、状況はまったく異なります。
むしろ今は、「物価が落ち着いた」という誤解こそが、経営判断を最も誤らせやすい局面だと言えます。
2025年11月のCPIで注目すべきなのは、表面的な総合指数ではありません。
生鮮食品を除く総合指数は前年同月比3.0%、さらに生鮮食品とエネルギーを除いた、いわゆるコアコアCPIも3.0%と、高い伸びを維持しています。
これは、天候やエネルギー価格といった一時的要因を除いても、物価上昇が経済全体に定着していることを意味します。
飲食店にとっては、原材料費や人件費、流通コストといった「構造的コスト」が、すでに元に戻らない水準にあるということです。
特に深刻なのが、食材費と外食価格のギャップです。
2025年11月時点で、生鮮食品を除く食料価格は前年同月比7.0%上昇しています。
中でも穀類の上昇は顕著で、うるち米(コシヒカリ除く)は37.0%の上昇。米を中心にメニューを構成する定食屋や居酒屋、丼業態にとって、この水準は「耐える」だけでは済まされない領域に入っています。
一方で、外食価格の上昇率は4.2%にとどまっています。
これは、原価が7%上がっているにもかかわらず、販売価格ではその半分程度しか転嫁できていない状態です。
「値上げをすれば客が離れるのではないか」
その不安から価格改定を先送りにした結果、忙しく営業しているのに利益が残らない、という店舗が増えています。
値上げをしないこと自体が、静かに利益を削る経営判断になっているケースも少なくありません。
食材費と並んで見逃せないのが、光熱費の動きです。
2025年11月は、光熱・水道全体で前年同月比3.0%の上昇となりました。特に電気代は4.9%上昇しており、飲食店にとっては再び無視できない固定費となっています。
厨房機器、冷蔵・冷凍設備、空調。
飲食店は構造的に電力使用量を減らしにくい業態です。そのため、電気代の上昇は、売上の増減に関係なく利益を圧迫し続けます。
人件費と同様、光熱費も「気合で削れないコスト」になっているのが現実です。
総合CPIがわずかに減速したことで、「もう少し様子を見よう」と考える経営者もいるでしょう。
しかし、今回の11月データが示しているのは、インフレの終息ではありません。
食材費は高止まりし、光熱費は再上昇し、価格転嫁は十分に進んでいない。
この構造は10月から何も変わっていないのです。
むしろ、「物価は落ち着いた」という空気だけが先行することで、価格改定や業態見直しといった意思決定が遅れやすくなっています。
その結果、気づいたときには利益率だけが確実に下がっている、という状況に陥りかねません。
これからの飲食店経営で重要なのは、「一時的な節約」ではなく、構造的に利益が残る形を作ることです。
原価については、仕入れ価格を嘆くだけでなく、米や穀類の使用量を前提から見直す、原価率の高いメニュー構成を再設計するといった視点が欠かせません。
光熱費についても、省エネは我慢ではなく、工程や時間帯を可視化し、利益改善につながる投資として捉える必要があります。
また、価格についても、単なる値上げではなく、「この価格でも納得される価値」をどう作るかが問われます。体験、利便性、ストーリー性、オペレーションの工夫。価格以外で選ばれる理由を積み上げることが、結果的に利益率を守ることにつながります。