総務省が2026年2月6日に公表した2025年12月の家計調査によると、二人以上世帯の消費支出は351,522円でした。
前年同月比では名目で0.3%の減少、物価の影響を除いた実質では2.6%の減少となっています。さらに前月比でも、季節調整済みで実質2.9%の減少となりました。
本来12月は、ボーナス支給や忘年会、帰省需要などが重なり、年間でも支出が伸びやすい月です。その12月で実質マイナスという結果は、単なる一時的な変動とは言い切れません。
飲食店経営にとっては、「年末だから大丈夫」という前提が通用しにくくなっていることを示す重要なシグナルといえます。
直近三か月の実質消費の動きを見ると、はっきりした回復基調とは言えない状況です。
10月は前年同月比で3.0%の減少。11月は2.9%の増加。そして12月は再び2.6%の減少となりました。
11月だけを見ると「消費が戻ってきた」と感じたかもしれません。しかし、翌月には再びマイナスに転じています。これは回復というよりも、上下に揺れている状態です。さらに、季節調整済みの実質消費指数を見ても同じ傾向が確認できます。11月は101.7でしたが、12月は98.7まで低下しました。わずか一か月で3ポイント下がっています。
この数字が意味しているのは、消費が安定して増えているわけではないということです。良い月と悪い月の差が大きく、振れ幅の大きい状態が続いています。
飲食店経営に置き換えるとどうなるでしょうか。ある月は客足が戻り、売上も前年を上回る。しかし翌月には来店数が落ち込み、再び厳しい数字になる。今起きているのは、このような「波の大きい市場」です。一時的な好調を「回復」と判断して固定費を増やしたり、人員を拡大したりすると、次の下振れ局面で一気に収益が圧迫されます。重要なのは、売上が戻った月を見ることではなく、三か月、四か月と並べたときに安定して伸びているかどうかです。現時点では、その安定感は確認できません。
つまり今の消費環境は、「回復局面」ではなく「不安定局面」と捉えるほうが、経営判断としては現実的です。
12月の食料支出は116,474円。前年同月比で実質2.4%の減少となりました。2か月ぶりのマイナスです。
注目すべきは、食品価格の高止まりが続く中で実質が減少している点です。これは価格が下がったのではなく、家計が購入量や利用回数を抑えている可能性を示しています。
飲食店の現場で考えれば、
外食の回数を減らす
一回あたりの注文額を抑える
追加注文を控える
といった行動が広がっている可能性があります。
これまでのように「値上げでカバーする」という単純な構造は通用しにくくなっています。今は、価格だけでなく、来店頻度や客単価の中身まで細かく見る必要がある局面です。
消費全体が弱含む中でも、伸びている分野があります。
教養娯楽は前年同月比で3.6%増加。教育は14.1%増加。保健医療も5.3%増加しています。
特に教養娯楽では、国内パック旅行費の押し上げ効果が大きくなっています。
ここから読み取れるのは、家計が単に支出を減らしているわけではないということです。日常的な支出は抑えながらも、自分にとって価値があると感じる体験にはお金を使っています。
いまの消費は、
日常は節約するが、意味のある体験には払う
という選別型の構造に変わりつつあります。
飲食店に置き換えると、なんとなく利用する外食は減りやすい一方で、記念日や特別な時間としての食事、ストーリーや演出のある体験型の店は選ばれる可能性が高まります。価格の安さだけではなく、「なぜここで食べるのか」という理由を持てるかどうかが、これまで以上に重要になっています。
勤労者世帯の実収入は1,207,545円。名目では増えていますが、実質ではほぼ横ばいです。
一方で、消費支出は実質3.6%の減少。さらに平均消費性向は63.3%まで低下し、前月より6ポイントも下がりました。
つまり、使えるお金が大きく減ったわけではないのに、「使わない」選択をしているということです。
飲食店にとって重要なのはここです。
いまは「お金がないから来ない」のではありません。
「優先順位が下がっているから来ない」のです。
この環境では、値下げだけでは動きません。
節約局面でも選ばれる理由を持てるかどうかが、売上を分けるポイントになります。
| 指標 | 11月 | 12月 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 消費支出(実質前年同月比) | +2.9% | ▲2.6% | ▲5.5pt |
| 季節調整指数 | 101.7 | 98.7 | ▲3.0 |
| 食料 | +1.8% | ▲2.4% | 減速 |
| 教養娯楽 | +2.2% | +3.6% | 加速 |
11月は回復の兆しがありましたが、12月は再び減速。
つまり、市場は「戻った」のではなく、反動的に揺れているだけです。
安定した回復トレンドとは言えません。
消費が不安定な環境では、来店客数を増やすことだけに依存するモデルは非常に脆くなります。景気や心理の変動で客数は簡単に振れます。
重要なのは、「なぜ来るのか」を設計することです。
来店理由が曖昧な店は、節約局面で真っ先に削られます。
一方で、目的が明確な店は優先順位が落ちにくい。
さらに、単価の正当化も欠かせません。値上げが悪いのではなく、「その価格である理由」が伝わっていないことが問題です。食材、調理技術、空間、接客、ストーリー。価格を構成する要素を言語化できているかが問われます。
そして滞在価値の設計。
同じ3,000円でも「食事」なのか「体験」なのかで、消費者の判断は大きく変わります。
客数を追うのではなく、選ばれる理由を積み上げるモデルへ移行できるかが分岐点です。
教養娯楽や旅行が伸びているという事実は、消費が消えたのではなく「選別されている」ことを示しています。
外食も、単なる食事ではなく「時間の使い方」として設計すれば、選ばれる余地があります。
例えば、
地域食材の背景を伝える
期間限定コースで希少性をつくる
体験型イベントで参加価値を高める
カウンター中心のシェフズテーブルで特別感を演出する
これらはすべて、「価格」ではなく「意味」で選ばれるための設計です。
なんとなくの外食は減ります。
しかし、記念日やご褒美、会話が弾む場としての外食は残ります。
日常利用の延長線上で戦うのか、特別な時間として位置付けるのか。立ち位置を明確にする必要があります。
平均消費性向の低下は、衝動消費の減少を意味します。思いつきで入る外食は減り、計画して使う支出が中心になります。
この環境では、平日の集客がより難しくなります。
だからこそ、平日に来る明確な理由が必要です。
曜日限定のテーマ設定
ターゲットを絞ったメニュー構成
一人客や少人数向けの価格設計
短時間利用に適した導線づくり
平日は「余った需要を取る日」ではなく、「設計して取りに行く日」に変わっています。
2025年12月の消費支出は351,522円。実質で2.6%の減少、前月比でも2.9%の減少となりました。実質収入は横ばい、消費性向も低下しています。消費はまだ戻っていません。
しかし、完全に止まっているわけでもありません。旅行や教養娯楽など、伸びている分野は確実にあります。
いま起きているのは「消費の縮小」ではなく「消費の選別」です。削られる支出と、選ばれる支出がはっきり分かれています。飲食店に求められるのは価格競争ではなく、「なぜここで食べるのか」を明確に設計すること。価値が伝わる店だけが選ばれる時代に入っています。