今回インタビューしたのは、東京・恵比寿の日本料理店で働く“チョウさん”。
台湾出身の特定技能人材で、日本語能力試験はN1レベルと、語学力もずば抜けています。
15歳から料理の世界に魅せられ、調理学校、京料理の割烹、天ぷらが有名な日本料理店など、さまざまな環境に身を置いています。料理人の道をまっすぐ進むチョウさんに、15歳から現在までの歩みや、仕事のやりがい、将来のビジョンを取材しました。
日本でのキャリアを築く台湾出身のチョウさん。彼が料理人の道を歩み始めたのは、わずか15歳の時でした。母国の調理学校で学んでいた際、日本料理店を展開する企業がインターン生を募集するため学校を訪れたことが、彼の人生を大きく動かすきっかけとなります。
ーーーチョウさんが日本料理に興味をもったきっかけは何だったのでしょうか？
「母国の調理学校で学んでいた際、日本料理店を展開する企業がインターン生を募集するため学校を訪れたことが、全ての始まりです。昔から料理の世界に興味があった僕としては絶好のチャンスが来たと思い、面接を受けて正式なインターン生になりました。実際に日本料理店で働いてみると、日本料理の繊細さや美しさに感動して、『もっと本格的に学びたい』と強く思うようになりました」
日本料理への情熱を胸に、チョウさんは21歳の時に日本へ渡りました。日本の調理学校で幅広いジャンルを学んだ後、実際の現場での修行を決意します。そして、特定技能の在留資格を取得し、プロの料理人として働く道を選びました。
ーーーなぜ「特定技能」という在留資格を選んだのですか？
「『日本料理をもっと深く学びたい』という思いがあったからです。日本の調理学校で本格的に学ぶべく日本に渡りました。当時は21歳でした。日本料理を幅広く学んだ後、実際に日本にある日本料理店で修行することを決意して、東京の四谷三丁目にある京料理の店で修行を始めました。」
日本での生活は、チョウさんにとって料理人としての成長を支える貴重な時間となりました。日本に来てから6年間、東京を中心に3つの日本料理店で修行を重ね、それぞれの店舗で異なる料理哲学や技術を学びました。
ーーー日本で働く中で、特に印象に残っている経験は何ですか？
「京都で修行をしていた大将に、みっちり指導していただきました。そこで1年間ほど働いた後、恵比寿の日本料理店で修行をし、現在同じく恵比寿にある別の日本料理店に勤務しています。修行先の師匠からは「自分で学べ」という姿勢を教えられ、その教えは彼の料理人としてのスタンダードとなりました。この自律的な学習スタイルは、彼の探求心をさらに高め、独自の料理を生み出す原動力となっています。」
チョウさんが織りなす季節の八寸は、いつもお客様を感動させています。
チョウさんの仕事のやりがいは、日々の「料理の研究」にあります。出勤前の午前中には築地や豊洲の市場へ足を運び、自ら食材を吟味。そこで得たインスピレーションをもとに、新しい調理法を試すのが彼のルーティーンなのだとか。
ーーーチョウさんの「料理の研究」とは、具体的にどのようなことをするのですか？
「自分で魚を買い付け、思いついた調理法を試して食べる、いわば「料理の研究」が楽しいです。店主も僕の料理を食べてアドバイスをくれますし、実際にお客様に試作品としてお出しして感想をいただいたこともあります。午後1時出勤なので、午前中の時間を使って築地や豊洲の市場に行くのがルーティーンになっています。
最近では、あん肝、うに、ケガニに挑戦しました。うには、しそで挟んで天ぷらにしてみたら好評で、実際にお店の仕入れにも採用されました。1店舗目で出会った京料理の師匠が、「自分で学べ」というスタイルだったので、その姿勢を受け継ぎ、自分で調べて、考えて、工夫して生み出すことが僕のスタンダードになっています。」
中には、オーダーしてから1年半かけて作られる貴重なものも。どれもチョウさんの私物であり、愛用品です。
プロの料理人として、チョウさんは道具選びにも妥協がありません。包丁や盛り箸、食器など、仕事道具には深いこだわりと愛情が詰まっています。
ーーーチョウさんが特にこだわっている愛用品について教えてください。
「包丁が大好きでいろいろな種類を集めています。日本の調理学校で使っていた包丁もありますし、自分で購入した包丁もあります。盛り箸も持っています。これまで出会った師匠たちの影響を受けて、集めるようになりました。食器もこだわっているので、修行先やプライベートで出会った食器で気に入ったものは、自分で購入しています。」
カウンターでの所作もお客様に見られているため、1つ1つの動作まで意識を張り巡らせているそうです。
料理の技術だけでなく、接客にも心を配るのがチョウさんの流儀です。カウンター席での所作一つひとつにも気を配り、お客様に心地よい時間を提供することを大切にしています。
ーーーお客様への接客で一番大切にしていることは何ですか？
「お客様同士の関係性や会話の様子をしっかり観察して、どちらに料理を先に出すか、どのタイミングで説明を入れるかということです。無理に話しかけるのではなく、まずは観察して様子を伺います。
声ははっきり、説明は短めに。話を聞きたい方には丁寧に、お客様同士の会話に花を咲かせたい方にはシンプルに。デートなのか、接待なのか、産地など細かい情報に興味があるかどうかも見極めて、臨機応変に対応するようにしています。お客様に不快な思いをさせてしまうのが一番NGなので、そこは特に注意しています。」
チョウさんが日本で最初に直面した大きな課題は、住居の確保でした。外国人である彼は、賃貸契約に必要な保証人を立てることができず、大きな壁にぶつかりました。
ーーー日本に来てからどんな苦労がありましたか？
「最初に困ったのは「家の契約」です。家を借りるときには保証人が必要なんですが、僕にはいなくて…。当時は本当に大変でした。最終的には彼女が保証人になってくれて、なんとか契約することができました。」
もう一つの課題は、言葉の壁でした。特に券売機での注文など、日常の些細な場面でも戸惑うことがあったと言います。
ーーー日本語がわからない時、どのように乗り越えましたか？
「飲食店の券売機で注文するときに、日本語がわからなくて頼みたいものが頼めなかったり、後ろに人が並んでしまって焦って違うものを注文したり…（苦笑）現在では、事前に調べてから行動することで問題を回避しています」
採用初期の外国人材に対しては、日本語学習のサポートや、生活に関する情報提供など、きめ細やかなサポート体制を整えることが重要です。
チョウさんの将来の夢は、母国である台湾で自分の店を持つことです。特に憧れているのは、懐石料理や割烹の店。中でも「八寸」には強いこだわりを持っています。
ーーー 将来、ご自身のお店ではどのような料理を提供したいですか？
「特に憧れているのは懐石料理や割烹のお店です。中でも「八寸」は一番季節感が出せますし、芸術的な見た目でお客様の目を引くので、もっともこだわりたいところです。
味はもちろん大切ですが、お客様に最初に届くのは「ビジュアル」です。芸術的でじっくり眺めたくなるような、目でも舌でも感動できる八寸をお出ししたいです。
八寸が有名なお店には、プライベートでも通って勉強しています。器や盛り付けで季節や想いを表現できるのが魅力です。母国・台湾で、このようなお店を出すことができたら最高だと思っています。」
（インタビュイー：チョウさん / 取材・執筆：青山 )
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