渋谷のとあるイタリアンレストラン。
ジュウッと焼ける肉の音と、ふわりと立ち上る香ばしい香りの中で、一人の青年が真剣な眼差しでフライパンと向き合っている。彼の名前はヴさん。ベトナム出身、そして日本で働き始めて6年目の料理人だ。
「笑顔を絶やさないこと。それが、僕のモチベーションなんです。」
そう語るヴさんは、母国・ベトナムで育った幼少期から料理に親しみ、アニメを通して憧れを抱いた日本へと渡った。様々な壁を乗り越えながら彼が見つけたのは、「料理で人を笑顔にする」というシンプルでまっすぐな喜びだった。
満面の笑顔で「笑顔を緊やさないことがモチベーションです」と語るヴさん。その笑顔の原点にあったのは、高校生の頃に出会った日本のアニメでした。
ーーー何のアニメが好きだったのですか?
ドラゴンボールやNARUTOなどのアニメや漫画が大好きでした。高校生の頃から日本に興味があり、もっと深く楽しみたいと思い、独学で日本語の勉強も始めていました。
ーーー実際に日本に行こうと決意したのはいつ頃だったのでしょうか?
高校を卒業した2019年に日本へ渡りました。経済的に余裕を持てるようになりたいという目標もあったため、海外で働くことは視野に入れていました。どこに行こうかな、と考えた時に、真っ先に思い浮かんだ国が「日本」でした。
日本語能力試験JLPTに基づいて考えると、現在日本語能力N2のレベルを持つヴさん。日本での暮らしの中で、徐々に日本語能力を習得していったそうです。
ーーーとっても日本語がお上手ですね!?
ありがとうございます。おそらく東京に来てから日本語が上達したんだと思います。
ーーーリアルな“生きた日本語”が飛び交う環境で、面白いと感じた言葉があれば教えてください!
前職は群馬県で働いていたのですが、群馬と東京では話す言葉が少し違くて。「本当に?」と言っていたのに、東京の人たちは「マジで?」と返してきた時がとても記憶に残っています。最初は意味が分からず、驚きました…!渋谷を歩いている若者たちが使う言葉を覚え始めてから、日本語ペラペラですね、と言われることが増えましたね。英語で言う“スラング”のようなものですよね。
「特定技能人材」って実際どこまで仕事ができるの?接客は可能?と不安に思う声もあるのが事実。ですが、そんな不安を大いに払拭する働きぶりで、スタッフからもお客様からも熱い信頼を寄せているのがヴさんです。
ーーー現在はどんなお仕事をしているのでしょうか?
渋谷のイタリアンレストランで、肉料理を主に担当しています。その日の仕入れによって、お客さんにおすすめしたい肉料理が変わるため、こちらも臨機応変に対応する必要があります。具体的には、「何分焼いたらひっくり返す」といったマニュアルがなく、肉の状態を観察しながら最高の状態に焼き上げるため、技術が必要です。自分で言うのは気が引けますが…お店から肉焼きを任されているので、実力を認めてもらえていると感じられてとてもやりがいを感じています!
ーーー実際に日本で働いてみて、ギャップを感じたことはありますか?
ポジティブなギャップがありました。ベトナムの日本語の先生から、日本人は勤務中にふざけたりしないし、仕事に責任を持っている真面目な人たちだと聞いていました。言語も技術も不慣れな僕は、緊張して硬い表情になってばかりだったのですが、スタッフの皆さんが明るく声をかけてくださる方々ばかりで、安心しました。
どんなに忙しくても笑顔を絶やさないのが、ヴさんのマイルールです。
ーーー働いていて「難しいな」とつまづいたことはありましたか?
当店はイタリアンレストランなので、食材やメニュー名の表記などちょっとしたところでイタリア語を使います。日本語もまだ完璧ではない中で、さらにイタリア語まで覚えるのは、本当に大変で…頭がパンクしそうでした(笑)。
ーーー今までで印象に残っているお客さんや、お仕事のエピソードはありますか?
70名くらいの団体様の予約が入った時のことですね。厨房のテーブルに料理が置ききれないほど大量の料理を作りましたし、僕もひたすら肉を焼きました。スタッフも総動員で、ドタバタしながらも力を合わせてお料理をお出しできたのが楽しかったです。
撮影日はヴさんがまかない担当!他のスタッフさんから「美味しい!」という声が上がっていました。
これまで学んできたレシピや調理技術を全て生かして、僕のオリジナルメニューを考案したいです。現在はキッチンがメインなので、ホールにもっと出てみたいです。自分でお客様に直接お料理をお勧めしたいです。家族が飲食店を経営しているため、両親に胸を張れるような結果を残したいです。
ーーーヴさんの今後の目標や、将来の展望を教えてください!
今はキッチンが主ですが、ホールにも出て、自分で自分の料理を薦めてみたいです!現在はホールスタッフの方達が料理を提供しているので、僕の料理をお客様に届けることはできているのですが、やはり生のお客様の声を直接聞けるのがホールの楽しみだと思いますので、僕もそれを味わいたいです。
これまで学んできたレシピや調理技術を全て生かして、僕のオリジナルメニューも考案したいです。賄い作りはメニュー考案の練習のようなイメージでいつも取り組んでいます!
ーーーゆくゆくはベトナムに技術を持ち帰るのでしょうか?
そうですね…まだ具体的にはイメージできてないです。というのも、僕は日本が大好きなので、今の環境でできる限り成長していきたいと考えています!
ですが、家族が飲食店を経営しているため、両親に胸を張れるような結果を残したいと常に闘志を燃やしております!(笑)
(インタビュイー:ヴさん / 取材・執筆:青山)
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