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飲食店経営者が知るべき「固定費比率の安全圏」【損益分岐点で赤字リスクを見える化】

作成者: 柴田彩|Mar 28, 2026 1:00:00 AM

飲食店の経営で最も怖いのは、売上が少し落ちただけで赤字に転落する状況です。特に、家賃・光熱費・設備費などの固定費が大きい店舗では、売上の変動がそのまま経営を直撃します。

この記事では、統計データと実務視点を組み合わせ、「どこまでなら安心か」を明確に示します。さらに、自店で即計算できる損益分岐点の具体的な計算式も紹介します。

売上が10%落ちたら赤字?まず確認すべき「固定費比率」

飲食店経営でまず押さえておきたいのが、固定費比率です。これは「売上に対して、どれだけ固定費がかかっているか」を示す割合で、経営の安全性を測る基本的な指標のひとつです。

固定費とは、売上の増減に関わらず毎月必ず発生するコストのことです。具体的には以下のようなものがあります。

  • 家賃:立地や広さで変動、交渉で削減可能
  • 水道光熱費:厨房稼働量や営業時間で変わる
  • 減価償却費:設備や改装費の費用化で計上
  • 最低限の人件費:フルタイム給与・社会保険料、シフト次第で調整可能

  •  

固定費比率の計算式

固定費比率(%)=(固定費合計÷売上高)×100

つまり、売上高のうち、どのくらいの割合が「売上がなくても必ず出ていく費用」かを示す数字です。

具体例で考える

例えば、月間売上が500万円の店舗で、固定費の内訳が以下だったとします。

  • 家賃:20万円
  • 水道光熱費:15万円
  • 減価償却費:10万円

この場合、固定費の合計は 45万円 です。


計算すると、

固定費比率=(45÷500)×100

     =9%

つまり、売上500万円のうち9%は、売上がゼロでも必ず出ていくお金ということになります。

もし同じ売上で家賃が50万円、光熱費20万円、減価償却15万円だった場合、固定費合計は85万円。

固定費比率=(85÷500)×100

     =17%

同じ売上でも、固定費比率が2倍近くになり、売上が落ちたときの赤字リスクが大きく変わることがわかります。

固定費比率が経営に与える影響は?

固定費比率が高いほど、売上が少し減っただけで経営に直撃します。逆に低ければ、売上が多少落ちても黒字を維持できる余裕が生まれます。

ポイント:

  • ・固定費比率が低い店 → 売上変動に強く、繁忙期・閑散期の波にも耐えやすい
  • ・固定費比率が高い店 → 売上が少し落ちただけで赤字転落のリスク大

つまり、固定費比率は「売上が減ったときの耐久力」を測るバロメーターです。

飲食店経営者におすすめのチェック方法

  1. 1.
    毎月の固定費をすべて書き出す
    家賃、水道光熱、減価償却、フルタイムスタッフ給与など、細かい項目も漏れなく
  2.  
  3. 2.
  4. 売上高で割る
    月ごとに固定費比率を計算すると、繁忙期・閑散期の安全ラインも見える
  5.  
  6. 3.
  7. 固定費の内訳を分析
    家賃が高すぎないか、光熱費を削減できる余地はないか、人件費が適正かを確認
  8.  
  9. 4.
  10. 過去の売上減少ケースに当てはめる
    「売上が10%落ちたら黒字か」「20%落ちたら赤字か」を確認しておく

この作業だけで、自店の「売上が減ったときに耐えられるライン」が明確になります。

固定費とは何か?家賃・光熱費・人件費の“本当の固定部分”は?

中小企業庁や法人企業統計、帝国データバンクの倒産データを見ると、飲食店の固定費比率はおおむね20〜30%が平均です。

  • 20%未満 → 安全圏。売上が少し落ちても赤字になりにくい
  • 30〜40% → 注意圏。売上10〜15%減で赤字転落リスク
  • 40%以上 → 危険圏。売上の少しの落ち込みでも即赤字
  •  

「平均より低ければ安全」と考えがちですが、店舗ごとの売上規模や変動費率によってリスクは変わります。数字でシミュレーションすることが大切です。

固定費比率の差が、店の生死を分ける理由とは?

固定費比率だけでは、売上がどこまで落ちたら赤字になるかはわかりません。そこで使うのが損益分岐点売上高です。

損益分岐点売上高=固定費÷(1−変動費比率)

  • 変動費比率:売上に比例して増える費用(食材費・ドリンク原価など)
  • 固定費:売上の有無に関係なくかかる費用
  •  

例:

  • 固定費:100万円
  • 変動費率(食材・ドリンク原価):35%
  • その他変動費なし
  •  

損益分岐点売上高=100÷(1−0.35)

        =153.8万円

つまり、売上が約154万円未満になると赤字。
売上500万円の店舗なら、31%売上が落ちると赤字転落です。

営業利益率と安全ラインはどこか?

中小飲食店の営業利益率の中央値は、おおよそ5%前後と言われています。

一見すると「黒字だから問題ない」と思いがちですが、経営の現場ではこの5%は非常に薄い利益です。

なぜ5%は危ういのか?

営業利益率5%とは、売上500万円の店舗なら営業利益は25万円ということです。

つまり、

  • 売上が 10%(50万円)落ちる
  • 原価や固定費がすぐには下げられない

この状況になると、利益25万円は一瞬で消えます。

営業利益率5%の店は、「売上が1割落ちたらほぼ赤字」という状態です。

営業利益率10%の店はどうか?

同じ売上500万円でも、営業利益率10%なら利益は50万円。

この場合、

  • 売上が10%落ちても、まだ黒字
  • 売上が20%落ちてようやく利益が消える

つまり、安全マージンが倍になるのです。

営業利益率が5%と10%では、単に利益額が違うだけでなく、「売上減少への耐久力」がまったく違うということです。

固定費比率との関係は?

営業利益率が薄くなる最大の原因は、固定費比率の高さです。

固定費が高い店舗は、

  • ・売上が増えても利益が残りにくい
  • ・売上が落ちたときに一気に赤字化する

という特徴があります。

  1. 特に、

  1. ・家賃が売上の15%以上
  2. ・人件費固定部分が大きい
  3. ・減価償却負担が重い

こうした店舗は、営業利益率が自然と圧迫されます。

経営者が本当に見るべきライン

飲食店経営で意識すべきは、単なる黒字ではありません。

✔ 営業利益率5% → ギリギリ経営
✔ 営業利益率8% → やや安全圏
✔ 営業利益率10%以上 → 売上減にも耐えられる安定経営

特に今のように、

・原価高騰
  • ・光熱費上昇
  • ・消費の波が大きい

環境では、営業利益率5%はほぼ“無防備”な状態です。

営業利益率とは、「今いくら儲かっているか」ではなく、「売上が落ちたとき、どこまで耐えられるか」を示す指標です。そしてその土台にあるのが、固定費比率です。固定費が重い店ほど、営業利益率は薄くなり、売上が少し落ちるだけで赤字に転落します。

だからこそ経営者は、

  1. ・固定費比率を把握する
  2. ・損益分岐点を計算する
  3. ・営業利益率を最低8〜10%に引き上げる戦略を持つ

ここまで落とし込んで初めて、「安全圏」が見えてきます。

売上が10%落ちても大丈夫?自店の“赤字ライン”を5分で確認する方法

「固定費が高い気がする」「利益が薄い気がする」
この“気がする経営”をやめて、数字で安全圏を確認するのがこの5ステップです。

① 固定費の合計を出す

まずは、毎月必ずかかる固定費をすべて洗い出します。

  • ・家賃
  • ・水道光熱費(基本料金含む)
  • ・減価償却費
  • ・固定的な人件費(正社員・最低保証分)

ここで大事なのは、
「なんとなく」ではなく、直近3か月平均で出すこと。月によってブレるため、単月で判断すると誤ります。まずは“毎月絶対に回収しなければならない金額”を確定させる。

② 変動費率を出す

次に、売上に比例して増減するコストを計算します。

変動費率=(食材費+ドリンク原価+変動型人件費)÷売上

ポイントは、「人件費のどこまでを変動費と見るか」を明確にすること。

・シフトを減らせる部分 → 変動費
・減らせない固定スタッフ → 固定費

ここを曖昧にすると、損益分岐点がズレます。

③ 損益分岐点売上高を計算する

損益分岐点売上高=固定費÷(1−変動費率)

これが、赤字にならない最低売上ラインです。

例:

  • 固定費:120万円
  • 変動費率:60%

120÷(1−0.6)=300万円

→ 月商300万円を下回ると赤字。

ここで初めて、自店の「本当の最低ライン」が見えます。

④ 現状売上との差を確認する

ここが重要です。たとえば現在の月商が350万円なら、

350万 − 300万 = 50万円の余裕

つまり、約14%売上が落ちると赤字ということです。

この「%」で把握することが大切です。

・10%落ちても大丈夫なのか

・ 5%落ちたら危険なのか

数字で見れば、恐怖の正体が明確になります。

⑤ 売上減少シナリオをシミュレーションする

次にやるべきは、仮定のシナリオです。

  • 客数が10%減ったら?
  • 客単価が500円下がったら?
  • 平日売上が弱くなったら?

売上を

・−5%
・−10%
・−20%

と落としてみて、利益がどう動くかを確認します。

ここまでやると、「うちは意外と危ない」「思ったより耐えられる」というリアルな経営体力が見えてきます。

 

さらに精度を上げる工夫

ここからが一段上の分析です。

ピーク・オフピーク別に損益分岐点を出す

昼営業だけで見ると黒字でも、夜営業を含めると赤字、というケースは珍しくありません。

時間帯別に

  • ・売上
  • ・人件費
  • ・原価率

を分けて計算すると、「削るべき時間帯」や「強化すべき時間帯」が見えます。

平日・週末で固定費比率を確認する

固定費は同じでも、売上は日によって違います。

平日は固定費比率が30%を超えているのに、週末は15%、という店もあります。

この場合、問題は“固定費”ではなく“平日集客”と判断できます。つまり、打ち手が変わります。

 

最終的に見るべきもの

この5ステップで見るべきなのは、「売上が何%落ちたら赤字か」この数字です。

✔ 5%で赤字 → 非常に危険
✔ 10%で赤字 → 要改善
✔ 20%まで耐えられる → 安定

飲食店経営は「売上最大化」よりも、
“売上減少に耐えられる構造”を作ることのほうが、実は重要です。

まとめ 「売上が落ちても潰れない店」をつくれているか

飲食店経営において本当に怖いのは、売上が下がることそのものではありません。売上が少し下がっただけで赤字に転落する“構造”を放置していることです。固定費比率を把握し、損益分岐点を計算し、営業利益率から安全マージンを確認する。
この3つを押さえるだけで、自店が

・売上5%減で危険な店なのか
・10%減まで耐えられる店なのか
・20%減でも生き残れる店なのか

がはっきり見えます。経営は感覚ではなく構造です。好調なときにこそ、自店の“耐久力”を点検することが重要です。売上を追いかける前に、まずは守りを固める。固定費を見直し、利益体質を強化し、営業利益率を8〜10%以上へ引き上げる設計を持つこと。それが、価格競争や原価高騰の時代でも生き残る店の条件です。

最後に、ぜひ一度問いかけてみてください。

「売上が10%落ちたら、うちは本当に大丈夫か?」

この問いに即答できる経営者だけが、次の不況を乗り越えられます。