飲食店の経営で最も怖いのは、売上が少し落ちただけで赤字に転落する状況です。特に、家賃・光熱費・設備費などの固定費が大きい店舗では、売上の変動がそのまま経営を直撃します。
この記事では、統計データと実務視点を組み合わせ、「どこまでなら安心か」を明確に示します。さらに、自店で即計算できる損益分岐点の具体的な計算式も紹介します。
売上が10%落ちたら赤字?まず確認すべき「固定費比率」
飲食店経営でまず押さえておきたいのが、固定費比率です。これは「売上に対して、どれだけ固定費がかかっているか」を示す割合で、経営の安全性を測る基本的な指標のひとつです。
固定費とは、売上の増減に関わらず毎月必ず発生するコストのことです。具体的には以下のようなものがあります。
- 家賃:立地や広さで変動、交渉で削減可能
- 水道光熱費:厨房稼働量や営業時間で変わる
- 減価償却費:設備や改装費の費用化で計上
- 最低限の人件費:フルタイム給与・社会保険料、シフト次第で調整可能
-
固定費比率の計算式

固定費比率(%)=(固定費合計÷売上高)×100
つまり、売上高のうち、どのくらいの割合が「売上がなくても必ず出ていく費用」かを示す数字です。
具体例で考える
例えば、月間売上が500万円の店舗で、固定費の内訳が以下だったとします。
- 家賃:20万円
- 水道光熱費:15万円
- 減価償却費:10万円
この場合、固定費の合計は 45万円 です。
計算すると、
固定費比率=(45÷500)×100
=9%
つまり、売上500万円のうち9%は、売上がゼロでも必ず出ていくお金ということになります。
もし同じ売上で家賃が50万円、光熱費20万円、減価償却15万円だった場合、固定費合計は85万円。
固定費比率=(85÷500)×100
=17%
同じ売上でも、固定費比率が2倍近くになり、売上が落ちたときの赤字リスクが大きく変わることがわかります。
固定費比率が経営に与える影響は?
固定費比率が高いほど、売上が少し減っただけで経営に直撃します。逆に低ければ、売上が多少落ちても黒字を維持できる余裕が生まれます。
ポイント:
- ・固定費比率が低い店 → 売上変動に強く、繁忙期・閑散期の波にも耐えやすい
- ・固定費比率が高い店 → 売上が少し落ちただけで赤字転落のリスク大
つまり、固定費比率は「売上が減ったときの耐久力」を測るバロメーターです。
飲食店経営者におすすめのチェック方法
- 1.
毎月の固定費をすべて書き出す
家賃、水道光熱、減価償却、フルタイムスタッフ給与など、細かい項目も漏れなく
-
- 2.
- 売上高で割る
月ごとに固定費比率を計算すると、繁忙期・閑散期の安全ラインも見える
-
- 3.
- 固定費の内訳を分析
家賃が高すぎないか、光熱費を削減できる余地はないか、人件費が適正かを確認
-
- 4.
- 過去の売上減少ケースに当てはめる
「売上が10%落ちたら黒字か」「20%落ちたら赤字か」を確認しておく
この作業だけで、自店の「売上が減ったときに耐えられるライン」が明確になります。
固定費とは何か?家賃・光熱費・人件費の“本当の固定部分”は?
中小企業庁や法人企業統計、帝国データバンクの倒産データを見ると、飲食店の固定費比率はおおむね20〜30%が平均です。
- 20%未満 → 安全圏。売上が少し落ちても赤字になりにくい
- 30〜40% → 注意圏。売上10〜15%減で赤字転落リスク
- 40%以上 → 危険圏。売上の少しの落ち込みでも即赤字
-
「平均より低ければ安全」と考えがちですが、店舗ごとの売上規模や変動費率によってリスクは変わります。数字でシミュレーションすることが大切です。
固定費比率の差が、店の生死を分ける理由とは?
固定費比率だけでは、売上がどこまで落ちたら赤字になるかはわかりません。そこで使うのが損益分岐点売上高です。

損益分岐点売上高=固定費÷(1−変動費比率)
- 変動費比率:売上に比例して増える費用(食材費・ドリンク原価など)
- 固定費:売上の有無に関係なくかかる費用
-
例:
- 固定費:100万円
- 変動費率(食材・ドリンク原価):35%
- その他変動費なし
-
損益分岐点売上高=100÷(1−0.35)
=153.8万円
つまり、売上が約154万円未満になると赤字。
売上500万円の店舗なら、31%売上が落ちると赤字転落です。
営業利益率と安全ラインはどこか?

中小飲食店の営業利益率の中央値は、おおよそ5%前後と言われています。
一見すると「黒字だから問題ない」と思いがちですが、経営の現場ではこの5%は非常に薄い利益です。
なぜ5%は危ういのか?
営業利益率5%とは、売上500万円の店舗なら営業利益は25万円ということです。
つまり、
- 売上が 10%(50万円)落ちる
- 原価や固定費がすぐには下げられない
この状況になると、利益25万円は一瞬で消えます。
営業利益率5%の店は、「売上が1割落ちたらほぼ赤字」という状態です。
営業利益率10%の店はどうか?
同じ売上500万円でも、営業利益率10%なら利益は50万円。
この場合、
- 売上が10%落ちても、まだ黒字
- 売上が20%落ちてようやく利益が消える
つまり、安全マージンが倍になるのです。
営業利益率が5%と10%では、単に利益額が違うだけでなく、「売上減少への耐久力」がまったく違うということです。
固定費比率との関係は?
営業利益率が薄くなる最大の原因は、固定費比率の高さです。
固定費が高い店舗は、
- ・売上が増えても利益が残りにくい
- ・売上が落ちたときに一気に赤字化する
という特徴があります。
-
特に、
- ・家賃が売上の15%以上
- ・人件費固定部分が大きい
- ・減価償却負担が重い
こうした店舗は、営業利益率が自然と圧迫されます。
経営者が本当に見るべきライン
飲食店経営で意識すべきは、単なる黒字ではありません。
✔ 営業利益率5% → ギリギリ経営
✔ 営業利益率8% → やや安全圏
✔ 営業利益率10%以上 → 売上減にも耐えられる安定経営
特に今のように、
・原価高騰
環境では、営業利益率5%はほぼ“無防備”な状態です。
営業利益率とは、「今いくら儲かっているか」ではなく、「売上が落ちたとき、どこまで耐えられるか」を示す指標です。そしてその土台にあるのが、固定費比率です。固定費が重い店ほど、営業利益率は薄くなり、売上が少し落ちるだけで赤字に転落します。
だからこそ経営者は、
- ・固定費比率を把握する
- ・損益分岐点を計算する
- ・営業利益率を最低8〜10%に引き上げる戦略を持つ
ここまで落とし込んで初めて、「安全圏」が見えてきます。
売上が10%落ちても大丈夫?自店の“赤字ライン”を5分で確認する方法
「固定費が高い気がする」「利益が薄い気がする」
この“気がする経営”をやめて、数字で安全圏を確認するのがこの5ステップです。

① 固定費の合計を出す
まずは、毎月必ずかかる固定費をすべて洗い出します。
- ・家賃
- ・水道光熱費(基本料金含む)
- ・減価償却費
- ・固定的な人件費(正社員・最低保証分)
ここで大事なのは、
「なんとなく」ではなく、直近3か月平均で出すこと。月によってブレるため、単月で判断すると誤ります。まずは“毎月絶対に回収しなければならない金額”を確定させる。
② 変動費率を出す
次に、売上に比例して増減するコストを計算します。
変動費率=(食材費+ドリンク原価+変動型人件費)÷売上
ポイントは、「人件費のどこまでを変動費と見るか」を明確にすること。
・シフトを減らせる部分 → 変動費
・減らせない固定スタッフ → 固定費
ここを曖昧にすると、損益分岐点がズレます。
③ 損益分岐点売上高を計算する
損益分岐点売上高=固定費÷(1−変動費率)
これが、赤字にならない最低売上ラインです。
例:
120÷(1−0.6)=300万円
→ 月商300万円を下回ると赤字。
ここで初めて、自店の「本当の最低ライン」が見えます。
④ 現状売上との差を確認する
ここが重要です。たとえば現在の月商が350万円なら、
350万 − 300万 = 50万円の余裕
つまり、約14%売上が落ちると赤字ということです。
この「%」で把握することが大切です。
・10%落ちても大丈夫なのか
・ 5%落ちたら危険なのか
数字で見れば、恐怖の正体が明確になります。
⑤ 売上減少シナリオをシミュレーションする
次にやるべきは、仮定のシナリオです。
- 客数が10%減ったら?
- 客単価が500円下がったら?
- 平日売上が弱くなったら?
売上を
・−5%
・−10%
・−20%
と落としてみて、利益がどう動くかを確認します。
ここまでやると、「うちは意外と危ない」「思ったより耐えられる」というリアルな経営体力が見えてきます。
さらに精度を上げる工夫
ここからが一段上の分析です。
ピーク・オフピーク別に損益分岐点を出す
昼営業だけで見ると黒字でも、夜営業を含めると赤字、というケースは珍しくありません。
時間帯別に
を分けて計算すると、「削るべき時間帯」や「強化すべき時間帯」が見えます。
平日・週末で固定費比率を確認する
固定費は同じでも、売上は日によって違います。
平日は固定費比率が30%を超えているのに、週末は15%、という店もあります。
この場合、問題は“固定費”ではなく“平日集客”と判断できます。つまり、打ち手が変わります。
最終的に見るべきもの
この5ステップで見るべきなのは、「売上が何%落ちたら赤字か」この数字です。
✔ 5%で赤字 → 非常に危険
✔ 10%で赤字 → 要改善
✔ 20%まで耐えられる → 安定
飲食店経営は「売上最大化」よりも、
“売上減少に耐えられる構造”を作ることのほうが、実は重要です。
まとめ 「売上が落ちても潰れない店」をつくれているか
飲食店経営において本当に怖いのは、売上が下がることそのものではありません。売上が少し下がっただけで赤字に転落する“構造”を放置していることです。固定費比率を把握し、損益分岐点を計算し、営業利益率から安全マージンを確認する。
この3つを押さえるだけで、自店が
・売上5%減で危険な店なのか
・10%減まで耐えられる店なのか
・20%減でも生き残れる店なのか
がはっきり見えます。経営は感覚ではなく構造です。好調なときにこそ、自店の“耐久力”を点検することが重要です。売上を追いかける前に、まずは守りを固める。固定費を見直し、利益体質を強化し、営業利益率を8〜10%以上へ引き上げる設計を持つこと。それが、価格競争や原価高騰の時代でも生き残る店の条件です。
最後に、ぜひ一度問いかけてみてください。
「売上が10%落ちたら、うちは本当に大丈夫か?」
この問いに即答できる経営者だけが、次の不況を乗り越えられます。
