2024/11/15
「のどぐろ専門店」によって高客単価と高い正社員比率を実現
今年6月、東京・銀座のコリドー街近くに「のどぐろ専門 銀座中俣 極」がオープンした。同店を経営するのは株式会社ザガット(本社/東京都中央区、代表取締役/栗原秀輔)で、アイキャッチの右が栗原氏、左は同社取締役副社長の中俣伸輔氏。二人は一卵性双生児で、栗原氏が会社の経営全般を担当、中俣氏は店舗運営を担当と、役割分担を行っている。
同社は2007年7月に会社設立。八丁堀に本社オフィスを構えて、「中俣」のブランドを付けた居酒屋を八丁堀2店舗、銀座5店舗、築地1店舗、新橋1店舗、そして鯛焼きの「神田達磨」を上野、新橋に各1店舗を展開している。
のどぐろを扱う業者との信頼を育む
まず、「のどぐろ専門 銀座中俣 極」の概要を紹介しよう。
同店は、長崎県対馬産の最高級ののどぐろ「紅瞳」を取り扱い、メインのメニューとして、紅瞳の姿造り、半身塩焼き、さつま揚げ、しゃぶしゃぶ、土鍋ご飯といった紅瞳尽くしのコース「柊」(ひいらぎ)8品、2万4000円(税込)を提供。客単価2万5000円前後ののどぐろ料理専門店(25坪・22席)である。
店内に「紅瞳」を掲げて、紅瞳専門店であることをアピールしている。
長崎県対馬は「のどぐろの聖地」と呼ばれている。海流の流れが速く、栄養豊富な海で育ったのどぐろを、傷がつかないようにはえ縄漁を改良した「地獄縄」という仕掛けを使い丁寧に釣り上げている。対馬ののどぐろは、他の地域で獲れるものよりも身が厚く太く、頭より体が大きく、外見が赤く光り輝いているのが特徴。高級魚ののどぐろは年々人気が高まっていて、中でも紅瞳は上質の脂と濃厚な旨味が凝縮されている。
ボリュームのある紅瞳は、のどぐろの中で希少な存在
同店は現在接待での利用が多いが、「のどぐろ専門店」は全国的に注目されていることから、遠方のお客が予約で来店するパターンもある。メインの客席はL字型のカウンター席で、料理人が丁寧な仕事ぶりを披露し、かつお客とのコミュニケーションを図っている。
「紅瞳」を食べつくすコースの一例
紅瞳は流通量が少ない魚種であるが、ザガットがこれを仕入れることができるようになったのは、いち早く「のどぐろ」の食味の高さに可能性を見出したことに始まる。まず、のどぐろの原始焼きをメニュー化し、さらに「のどぐろ専門店」を展開して、鮮魚の業者との関係性を深めて、のどぐろを取り扱う飲食店としての信頼を育んできたことが背景に挙げられる。
メインはL字型のカウンター席でお客とコミュニケーションをとりながら丁寧に接客する
母方の家業「中俣酒造」の焼酎を打ち出す
ザガットの経営者である秀輔・伸輔兄弟は、小学生のころから野球に親しみ、プロ野球選手を目指していた。しかしながら、秀輔氏が肘を痛めたことからこの道をあきらめることになった。そして、二人でふぐの料理人になるべく修業の道へ。そして、ふぐ調理師免許を取得する。
会社名の「ザガット」は、レストランの格付け本である『ザガット・サーベイ』が由来となったもの。二人は独立・起業を目指して、この本を参考にしながらニューヨークのレストランを視察して回った。ここから、海外出店を目指す想いを抱くようになった。
創業は2007年9月で、高円寺にふぐ料理専門店を開業。2008年9月に鯛焼き店を開業。そして2010年9月八丁堀にそばをメインとした居酒屋を開業。ここから、築地市場に毎朝仕入れに通うようになり、鮮魚に対する見識を高めていった。
2012年11月に「中俣酒造 茂助」をオープン。焼酎をはじめとした酒とのマッチングを提案した。ちなみに、二人の母方の家業は鹿児島県指宿市で明治37年(1904年)から焼酎製造業を営んでいる中俣酒造株式会社で、ザガットの店ではここで製造している焼酎を提供している。中でも、「桐野」「中俣」が人気ブランドとなっている。
2014年10月に「中俣酒造 館」をオープン。ここではのどぐろの原始焼きを看板商品に位置付け、400gほどの大振りののどぐろを当初1980円で提供していたという。原価率は70~80%で人気商品となり、のどぐろの認知を高めていった。
翌年の2015年から、店名に「のどぐろ専門」を冠にした店舗を展開するようになった。これらで同社の店は客単価7000円から2万5000円前後となり、また天然とらふぐの店も擁してこちらは3万円程度となっている。
「自転車で移動できる距離」で店舗展開
ザガットの特徴は、従業員にとって働きやすい環境を整えていること。それによって正社員比率が高いことが挙げられる。現在、正社員は平均年齢27歳前後で56人、アルバイトは25人で、正社員比率は70%となっている。これによって、クオリティの高い店の展開を可能にしているようだ。
前述のとおり、同社が展開しているエリアは八丁堀、銀座、新橋と「自転車で移動できる距離」(栗原氏)にある。これによって、各店舗の稼働状況に合わせて人材を流動させることが容易になっている。そして、社員間のコミュニケーションが密接となり、管理者としても店の状況に目が行き届き、店舗では専門性を極めることができるようになっている。筆者が、これらの店を体験して感じたことは、働く人たちにお客をもてなすことへの連帯感が存在することであった。
また、店舗は日曜日と祝日を完全定休日としている。店によっては土日を連休にしているところもある。年末年始は8連休にしている。社員にとって休む日が明確になっていることから勤務にメリハリがつくようになり、店舗での作業効率が高まるようになった。栗原氏はこう語る。
「飲食業に就職したところで、本来休むべき日に休むことができないということから別の業界に移るという事例は多々あることです。家族ができたらなおさら休日は重要。また、いつが休日なのか明確になっていることから仕事に集中することができて、飲食業の楽しさを体験できるようになり、これが正社員比率の高さと、定着率の高さにつながっていると思います」
また、ザガットが八丁堀、銀座、新橋といった土日祝日が休日となるオフィス街を背景にしたエリアで店舗を展開していることが、このような環境をもたらしている要因に挙げられるのではないだろうか。
秀輔・伸輔兄弟の母方の家業が焼酎を製造する中俣酒造であることを前述したが、ザガットでは土日祝の三連休を利用して、従業員が中俣酒造で焼酎造りを体験する機会を設けている。これによって、東京の店舗でラインアップしている中俣酒造の焼酎がどのようにつくられているのかをよく理解して、さらに「自分がつくった焼酎」としてお客に自信を持って推奨できるようになっている。
社員は鹿児島県指宿市にある中俣酒造で酒造りを体験
「のどぐろ」という専門性も食味も高い食材を提供し、おもてなしの連帯感がある丁寧な接客によって高い客単価を実現しているザガットでは、店舗展開を進めてきた過程で、これらの要素を仕組み化してきている。