2024/08/19
加盟店から直営店展開に移行しZ世代に人気の「爆安居酒屋」をつくる
「均タロー」という居酒屋が都心で店数を増やしている。場所は下北沢(路面)、大宮(2階)、高田馬場(地下1階)、溝の口(2階)、上野(地下1階)、渋谷(4階)。カッコの中に出店している階数を書いたが、基本は地下1階、1階、2階と、ファサードをつくることができる階に出店している。そして、ファサードには「唐揚げ棒99円」「ドリンク各種199円」という低価格の数字をアピールしている。そして「お通し、席料0円」。店名の冠は「爆安99酒場」。これは、可処分所得に限りがある若者にとっては、入店するきっかけに大いに成り得るであろう。
この店名からは「オール均一価格」が連想されるが、均一なのは「ドリンク」で、ビール以外の約20種類が「199円」(税込218円/以下同)で提供される。「フード」は、例えば「焼き餃子299円(329円)、「ポテトフライ399円」(439円)、「チャーシューエッグ599円」(659円)となっていて、税別表記の「99」で眼を引き付けている以外は至って普通の価格である。アイキャッチは、これらの店舗を展開している株式会社ジュネストリー(本社/東京都大田区)の代表、東明遼氏である。
筆者は、こちらの上野店を訪ねた。アメ横に面した地下に続く階段を降りると鉄の扉に行き着く。「入口」とシンプルに書いてあり、扉を開けると細長い客席フロアに、20代前半の若者客がいっぱい。瞬間、筆者(還暦越え)は「お呼びじゃない」といった違和感を抱いた。そして、新しい「大衆居酒屋」の時代を感じた。
目次
22歳で独立開業した後、加盟店の道へ
ジュネストリーという社名の由来は、フランス語で「若い人々」を意味する「ジュネス」に「物語」の「ストーリー」を合体したもの。自分たちの「若さ」で新しい商売を切り拓いているという躍動感がある。
代表の東明氏は1994年3月生まれで30歳。高校時代から焼鳥居酒屋でアルバイトを行い、高校卒業後の同業態を展開する飲食企業に就職。「独立して起業する」ことを念頭に掲げてコツコツと貯金をする。そして22歳で600万円が貯まった。
これを開業資金として、横浜のJR鶴見駅から徒歩8分のところに創業店をオープン。12坪16席で家賃12万円。お通しなし、焼鳥1本100円、16時にオープンして深夜2時まで営業した。客単価2700円で、地元のお客に愛される店となった。そして、安定した経営体質をつくろうと2号店を京浜急行の平和島駅から徒歩30秒の場所に2号店をオープン。9坪26席で家賃30万円。詰め込んだ空間で奮闘した。この店も繁盛するようになったが、東明氏が2号店に集中することで、1号店のクオリティが低下していった。仲間と一緒に立ち上げた居酒屋であったが、この路線から引き上げることになった。
飲食業の新しい路線を検討していたときに、“ドリンク50円”と低価格をアピールする「鶏ヤロー」と出合った。きっかけは、仕事を終えて友人と居酒屋でスマホを探索していたときに「鶏ヤロー」を見つけたこと。「加盟金50円」「ロイヤリティ50円」(いずれも当時)という打ち出し方に引かれて、早速北千住の店を訪ねた。
同店のお祭り感覚に似た雰囲気に感銘を受けて「鶏ヤロー」に加盟することを決断。そこで東明氏の地元・大森に近い蒲田に物件を確保して、2019年10月に「鶏ヤロー」の蒲田店をオープンした。開業当初は、苦戦したというが、コロナ禍となってから繁盛するようになる。そして、「鶏ヤローの加盟店として店舗展開をしていこう」と、練馬、下北沢、横浜と展開していく。
都心で展開できる自社業態を開発
さてジュネストリーの「鶏ヤロー加盟店」の路線は安定していき、業容拡大を図ることを考えた。そのためには、都心やマーケットが豊富な場所に出店したい。このような意向を「鶏ヤロー」の代表である和田成司氏に相談したところ、「鶏ヤローの直営店は、都心で展開したい」とのこと。そこで東明氏は「自社業態をつくろう」と考えた。社内的にも「自分たちの業態を持ちたい」という気運が高まっていた。
このような経緯で誕生したのが「均タロー」である。1号店は2022年7月、下北沢にオープンした。下北沢にオープンしたのは、自社業態を出店する場所としてマーケット的に適地だと考えたからである。下北沢には既に自社が加盟店となっている「鶏ヤロー」が存在していて、土地勘がある。
とは言っても、冒頭で紹介した通り「均タロー」の路線は低価格で、「鶏ヤロー」のコンセプトに近い。客観的に、下北沢で似たような業態を出店すると「鶏ヤロー」の売上が割れるのではないか、という懸念もあった。
そこで東明氏は、こう考えた。
「下北沢に『均タロー』が出店することで、下北沢の『鶏ヤロー』に影響が及ぶとなったら、それは当社の問題に過ぎない。これから同じパターンが生まれることを想定して、一度下北沢で検証してみよう」
下北沢の「鶏ヤロー」は21坪で、2021年当時のコロナ禍まっただ中にあって客単価2000円で月商800万円を売っていた。この勢いが「自分たちで業態をつくることができる」という自信をもたらした。そこで、念願の自社業態を同じ下北沢にオープンすることは、社内の気運の高まりに拍車をかけた。
果たして「均タロー」下北沢店は26坪で月商600万円。開業当初は客単価1800円あたりで推移したが、定着していくにつれて、高くなる傾向を見せている。これが「均タロー」の展開に自信をもたらして、2年足らずに直営6店舗(ほかにFC店舗)という陣容となっている。
食べ飲み放題で市場性を推し量る
東明氏が語る「均タロー」のモデル店舗は次のような内容。売上構成費は、フードが30%、ドリンク25%、この他は2980円(税込)の「食べ飲み放題」(2時間制)が占めている。これで客単価は2000円。F(原価)は30%、L(人件費)30%とFLコストが60%となっている。店舗面積30坪弱、客席数80、社員3人、アルバイトがシフトに加わり7~8人の体制で営業。月商900万円とのこと。
東明氏は「均タロー」の出店場所や、顧客層の動向からこのように語る。
「学生が多い街では食べ飲み放題の『2980円』という価格が高いと感じられているようで、客単価が下がる傾向がある。溝の口のような勤め人が多い街では客単価が上がる傾向がある」
「食べ飲み放題が多い店ではフードコストが下がる傾向が見られる。学生が多い街に対し勤め人が多い街の『均タロー』では、たくさん召し上がらない人が少なからずいるようだ」
このように食べ飲み放題「2980円」は、立地特性を推し量ることが出来る存在のようだ。
また、フードの人気ナンバーワンは「唐揚げ棒99円」(税込109円)で、1店舗あたり月間3000本、1日あたり100本の注文がある。この商品は、サプライヤーが鶏肉を一本ずつ手差ししてもので、食味が柔らかく、一度食べると記憶に残る味わいである。価格の安さだけではなく、リピーターを育てるための商品設計も考えられている。
ジュネストリーは「鶏ヤロー」の加盟店として、Z世代に人気となる業態設計を学び、それを磨き込んだ自社業態「均タロー」を展開している。これこそこれからの顧客に受け入れられる商売の道を堅実に歩んでいるといえるだろう。