こだわりの食材や店舗造りで地球を守るフレンチレストラン「Nœud. TOKYO」【SDGs×飲食業界】

ちまたでよく耳にするようになったSDGs(持続可能な開発目標)。SDGsとは、環境問題や貧困などの国際的な課題について定めた国際目標なのですが、達成に向けての取り組みを行う飲食店が徐々に増えてきています。

 

その内の一つが、2020年7月に永田町(東京都千代田区)にオープンしたフレンチレストラン「Nœud. TOKYO(ヌー. トーキョー)」(運営/株式会社タガヤ、代表取締役/神田尚子氏)です。ミシュランの星を獲得したことがあるフランスのレストランで働き、高い技術を身に付けた二人のシェフを料理長とするダブルシェフ体制で、上質のフランス料理を提供しています。さらに注目なのが、同店が行っている環境に優しい取り組みです。食品廃棄への配慮や、地産地消・旬産旬消、駆除対象のジビエ利用、再生資源を用いた店内装飾など多岐に渡ります。今回は、同店の中塚直人シェフにSDGsに関連する取り組みについて伺いました。

 

―「Nœud. TOKYO」を出店した経緯を教えてください。

弊社はブライダルなどをメイン事業としているのですが、私が飲食店を出店したいと希望していたこともあり、東京でレストランをオープンすることになりました。2019年末ごろからオープンに向けての準備を開始し、2020年夏頃に出店を予定していました。ちょうど2020年7月から東京でオリンピックが開催されるはずだったため、インバウンド観光客の増加が予測されることから、食の多様性を意識した店舗づくりを構想していました。

しかし、出店の構想を始めた矢先、新型コロナウイルスが世界的に流行しイチから構想を練り直すことになりました。

 

―どのように構想を変更させたのですか?

元々は食の多様性をメインテーマとして考えていましたが、世間の注目は感染症対策に移ったため、免疫力を上げる食事についてフォーカスすることにしました。農薬や投薬が健康に悪影響であることを改めて認識し、食の安全性についてより知識を深めていたある時、頭の片隅にあったSDGsが思い起こされました。弊社の代表が、SDGsに関心を寄せていたことも要因の一つでしょう。食の安全性とSDGsには関連があるのではないだろうか、と思い至ったのです。しかし、当時は、名前を聞いたことがある程度の認識で、内容や取り組みなどに関しては漠然としか理解していませんでした。改めてSDGsと、飲食店との関わりを考えるようになりました。

 

Noeud. Tokyoシェフの中塚直人氏

―SDGsと飲食店に関わりはあったのでしょうか?

SDGsには17のゴールと、169のターゲットがあるのですが、最初はその事実も知らなかったので、具体的なゴールとターゲットの内容に関して調べました。169のターゲットすべてについて一つ一つどんなことができるかを考えていくと、飲食店ができることの多さに驚きました。

 

―例えば、どのようなことですか?

例えば、資源の再利用を心掛けることや、食材の仕入れに関して配慮することなどです。資源の再利用を意識して、入り口のドアは前店舗のものをそのまま利用しています。また、店内の壁は土壁なのですが、解体された京都の蔵で、実際に使用されていた土を再利用しています。将来的にまたこの土壁を再利用できるよう、科学的な原料などを混ぜることなく造りました。テーブルに使用している木材も愛知県のお寺で危険木として伐採された木です。木材として育てられていないため節が多かったり、色味が強かったり、通常飲食店でのカウンターとしては使用しにくいものです。

 

また、天井なども改装を加えることなく、コンクリートむき出しのままにしています。天井の配管を隠すための板などが不要なため、必要最低限の資源を用いて新店づくりを進めることができました。50年前の建物なのですが、当時は木材の型枠にコンクリートを流し込んで建設していたようで、天井には木目の跡が付いており、そのままでもいい雰囲気を出しています。

資源を再利用してつくられた店内

―食材の仕入れ方に関しては、どのような配慮をされているのですか?

前述したように食の安全性の観点から無農薬、無投薬の食材を仕入れるようにしました。食事をされる方の健康はもちろん、無農薬食材は持続可能な土壌を維持することにつながります。

 

また、旬産旬消や地産地消、食品ロスの削減も心掛けています。自然の力だけで生み出された旬の食材は、栄養価が高く、おいしさも際立ちます。現代は市場やスーパーに行けば年間を通じて野菜を手に入れられますが、実際にはそれぞれ旬があります。代表的なところでは、キュウリやナス、トマトなどは夏野菜、ホウレンソウやダイコン、ニンジンなどは冬野菜ですが、1年中手に入ります。旬以外のタイミングで収穫するためには、ハウス栽培でしっかり温度をコントロールするなど、たくさんのエネルギーを消費することになります。食材の旬に合わせて仕入れればエネルギー消費を抑制できるだけでなく、栄養満点でおいしい料理に仕上がります。

 

―食品ロス削減の取り組みについても教えてください。

不ぞろいな野菜などは市場への出荷が難しく、生産者の元で廃棄されてしまうことがあります。味は変わらないにもかかわらずです。私たちは食品ロス削減の観点から不ぞろいなものを含めて、旬の食材を生産者から仕入れています。

 

食品ロス削減の取り組みは、野菜だけではありません。魚は地産地消として千葉の房総半島から取り寄せているのですが、市場には出ない魚介に関しても一部仕入れています。2~3日に1回、仲卸業者から早朝にその日獲れた魚の情報が写真とともに送られてくるのですが、その中から選んでいます。

日々手に入る食材が異なるため、コースメニューの内容はほぼ毎日変わります。17時オープンなのですが、15時にメニューが決まることもよくあります。

 

食品ロスに関して詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができること-目標2.飢餓をゼロに-
地産地消に関して詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができること-目標13.気候変動に具体的な対策を-

 

―食材のおいしさだけでなく、その背景にもこだわっていらっしゃるのですね。

はい、それぞれの行動に意味を持たせたいと考えています。高級木材を使用したテーブルを据える、高い食材の料理を提供するというのではなく、一つ一つに選ぶ理由を与えたいのです。

 

例えば、提供しているジビエ料理の肉は、駆除対象のイノシシなどを使用するといった形です。実は、愛媛県・大三島ではミカン栽培が盛んなのですが、ミカンを食い荒らすイノシシはこれまで駆除後処分されていました。今はジビエ料理の食材として出荷されており、当店ではそれを利用しています。

 

店舗づくりでもそうですが、食材も資源の無駄を削減するように取り組んでいます。

駆除対象のジビエを使用した「みかんイノシシのロースト」

―そのような取り組みに関して、お客様からの評判はいかがですか?

当店が行っているさまざまなサステナブルな取り組みに共感して、ご来店いただくお客様がいらっしゃいます。そのようなお客様から、新たなサステナブルな活動や取り組みをご紹介いただくこともあります。ご紹介いただいたものの中から当店でも無理なく導入できそうなものなどは、実際に取り入れたことがあります。例えば、ゴミ袋はより地球に優しい素材のものに変更しました。

 

―オープン後もSDGsに配慮した取り組みを導入し続けているのですね。今後はどのようにお考えですか?

SDGsへの取り組みが現状で完璧にできているとは思っていないですし、今後もどんどん広げていこうと考えています。ただ強制したくはありません。取り組む必要があると感じているから私たちは実践をする、という意識でいます。だから飲食店の皆さんも、無理に何かを変える必要はないと私は思っています。

 

例えば、今使用している食器やタオルをサステナブルなものに変更すると、現在使っているものを処分して新たに導入することになります。それは持続可能とは言えないですよね。すでに導入している什器備品などの設備を大切に長く使うことも、十分持続可能な社会に向けた行動だと考えています。

私たちも自分たちができる範囲でSDGsに配慮した運営を行い、お客様にもっと当店のこと、SDGsについて知っていただくと同時に、発信できるような存在になっていきたいです。

 

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