地産地消と“もったいない”を減らす取り組みを促進する「ウェロニカ・ペルシカ」【飲食業界×SDGs】

地元の野菜やお肉などを使った料理を提供する飲食店が増えてきています。地産品を利用する地産地消はフードマイレージ(※1)の観点から環境に優しく、持続可能な社会をつくるために定められたSDGs(※2)においても重要になります。

単に地元食材を使用するというだけでなく、徹底して「地産地消」にこだわる飲食店があります。埼玉県入間市のフランス料理店「ウェロニカ・ペルシカ」です。同店では地産地消だけでなく、店舗の庭の植物や人工林の間伐材(※3)の利用など、資源を余すことなく使用するサステナブル(持続可能)な取り組みもされています。

今回は、シェフの横田哲也氏に地産地消や無駄をなくす取り組みについてお伺いいたしました。

 

(※1)フードマイレージとは、「生産地から食卓までの距離が短い食料を食べた方が、輸送に伴う環境への負荷が少ないであろう」という考え方を前提に、食料の輸送量に輸送距離をかけることで算出される指標。

(※2)SDGsとは、2015年に採択された持続可能な社会を目指すための国際目標。ジェンダー平等や貧困、気候変動など地球全体で取り組むべき17の目標と169の指標が定めれらている。

(※3)間伐材とは、人工林において、十分な栄養や光を与えて立派な木を育てられるよう、計画的に木々の一部を伐採した際にでる材木のこと。

 

フードマイレージと地産地消について詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができることー目標13.気候変動に具体的な対策をー

食材から菌や食器にまで地産地消を追求する

―どうして地元の食材に着眼するようになったのですか?

独立する前は東京・名古屋・スイスの大都市にあるホテルやフレンチレストランで修業をしていたのですが、それらの都市では珍しい野菜・肉・海鮮などもすべて店舗近くの市場で簡単に仕入れることができていました。

ですが、生まれ育った埼玉県・入間で独立したところ、これまでは簡単に仕入れられていた魚介類や輸入食材などを手に入れることが大変でした。

個人店では大きなロットで仕入れられず、コストといった意味でもこれまで通りのやり方で料理をつくることは難しいと感じました。幸い入間は自然豊かで、農業が盛んなエリアです。手に入りにくい物は無理をして仕入れず、地元や周辺地域の食材を使用しておいしいフレンチを提供できるのではないか、と考え始めたのがスタートです

域の食材を知っていくと、まだまだ認知度の低いすてきなものがたくさんあることに気付きました。

何でも簡単にそろうような場所ではないからこそ、“ここでしか食べることのできない味”を追求したいと考えるようになりました。

 

―“ここでしか食べることのできない味”ということは、食材は主に入間産を使用されているのでしょうか?

近隣からも食材を集めています。例えば、東京・奥多摩町で育てられたヤマメや埼玉・日高市で作られている国産牛乳のギリシャヨーグルト、埼玉・三芳町のさつまいもといった形です。他にも、近隣の東京・日の出町では障がい者の就労支援の一環として山中にある人口海水でアワビを育てているのですが、そのような社会貢献につながる食材も利用しています。

最近は菌も地産を意識しています。

 

-“菌も”とは、どういうことですか?

埼玉県・坂戸に生ハムの製造・販売をしているセラーノというお店があるのですが、こちらの代表の方が自宅の納屋で熟成させています。

以前はヨーロッパ産の生ハムを使用していたのですが、同店の生ハムを食べたところ、海外産とは異なり、しょう油など日本独自の発酵食品を連想させるような味わい深いおいしさがあったのです。生ハムに限らず、きのこなども菌の違いにより風味が異なるので、発酵する際に味に影響を及ぼしているのではと着目しました。

徹底した地産地消を意識した結果、“菌”にまでたどりついたという感じです。

 

ウェロニカ・ペルシカのシェフ、横田哲也氏

 

―どのように地域の食材を探されているのですか?

お客様からご紹介いただくことが多いです。

エリアの特性からご来店いただくお客様は年配の方が多く、ほとんどが地域に長く住んでいらっしゃるので地元食材の知見も豊富です。食材の生産者さんだけでなく、木製やガラス製の食器などを制作している近隣の工房も紹介していただいきました。

カトラリープレートは三芳町の森で伐採された間伐材を使用し、近隣の工房で当店用に制作していただいた物です。食器なども地元産にこだわりたいと考えていたところに、伐採した間伐材があるということを聞き、資源の無駄をなくすことにつながるのではと感じ、それらを使用することにしました。

 

三芳町 循環型農業で伐採された間伐材製のオリジナルカトラリープレート

 

“ここでしか食べられないもの”ということを感じてもらうためにも、山の食材は杉の皮を燻したもの、川の食材は川原の石などとあわせて提供しています。今ある資源を無駄にすることなく、ここでしか食べられないものをお皿でも演出しているのです。

中には、当店の庭に生えている植物も食材や食器として利用しています。

 

川原の石や伐採した庭の木(中央)などを盛り付け時に使用し、「ここでしか食べられない」料理をお皿でも表現

「もったいない」という思いから、資源を余すことなく使用できるメニューを開発

―庭の植物とは、例えばどのようなものを使用されているのですか?

例えば、庭に生えているスギナです。スギナとオイルを撹拌(かくはん)してペースト状にし、それをこしたスギナオイルを提供しています。

毎年庭に生えてくるスギナを雑草として処理していたのですが、「もったいない」と感じて使う方法を考えたのです。スギナはお茶などで風味を楽しまれるくらい香りが良いです。加えて、パセリオイルなどのハーブオイルはフレンチで一般的に提供されており、スギナのフレーバーをオイルに付けられれば、味わいも増すのではないかと開発しました。

 

また、現在の店舗は元々祖母宅だったのですが、祖母が庭に植えていたビワやブドウ、ウメなどの木が、特段、手入れをしているわけではないのに現在でも毎年たくさんの実を付けます。果実栽培は専門でないため、やはり販売されているものよりも味は落ちます。ですが、家族では食べきれず、無駄にするのは「もったいない」ですよね。

お客様にも楽しんでいただけるよう、ビワ茶や梅酒、レーズンにするなど手を加えて提供しています。捨てるものの中にも、おいしい料理にできるものがたくさんあります。

坂戸市 セラーノさんの生ハムで香り付けした春キャベツのスープ(左) 庭で摘んだスギナのオイル(右)添え

 

―一見、雑草と認識し、見過ごしてしまいそうなものでも「もったいない」と感じることができたのはどうしてだとお考えですか?

その場にある資源を工夫することは、前職のホテルでの経験に加え、祖母の影響があると思います。

ホテルでの修業中にビュッフェの調理を担当していたのですが、そこでは大量調理、大量廃棄が当たり前でした。ビュッフェが良くないというわけではないのですが、多くの廃棄が出ていることに対して疑問を抱えていました。

また、今思い返すと、雑草などを含めて資源を可能な限り利用することを、祖母は当たり前のように行っていました。祖母は食べることもままならないという状況を生き抜いています。どのような工夫をして乗り越えたのかなど、当時の話をよく聞いていました。

祖母の時代は「もったいない」と再利用できるものは最大限利用していましたが、物があふれている現在は当たり前のように捨てています。一方で、私のように「もったいない」と感じている方はたくさんいらっしゃるはずです。その「もったいない」は、祖母の時代の発想に戻れば工夫次第で減らすことができるのです。

庭の木々。白樺(中央)は剪定時に切ったものを食器として利用している

 

―今後の展開を教えてください。

地産地消や「もったいない」をなくす取り組みを深めていきたいと考えています。コロナ禍で外食が制限されるなど通常通りの営業ができなくなり、新たな取り組みとしてテイクアウトなどの導入を一度は検討しました。ですが、新しいことに挑戦していくよりもこれまでやってきたこと、当店の強みをより深く突き詰めていくことが大切だと感じ、生産者さんの情報を伝えるために木製のQRコードタグを料理と一緒にお出しするようにしたのです。

QRコードをスマートフォンなどで読み取っていただくと、使用している食材の生産者さんのお名前や紹介、産地の特徴などが表示されます。地産品の提供を追求するにあたり、地元のすてきな食材や製品そのものだけでなく、生産者さんとそのストーリーを含めてお伝えしていきたいと感じ開始しました。

料理をより多くの方に楽しんでもらうことで、当店だけでなく生産者の方にも喜んでもらえると考えています。さまざまな方法で、当店の料理と地域の食材を多くの人に広めていきたいです。

料理には、読み取ると産地や生産者の情報が表示されるQRコードのタグが付く。日高市にある醤油蔵のもろみを混ぜ込んだバター(右)と飯能市“シーズニングラボ”(※4)さん調合のデュカタイムオイル(※5、左)。タグが付いているグラスは装飾

(※4)シーズニングラボとは、埼玉・飯能にあるシーズニング(スパイスなどを混ぜてつくる調味料のこと)の調合を行う専門店。

(※5)デュカタイムオイルとは、デュカタイムというシーズニングとオイルを混ぜたもの。

 

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