食から生まれるコミュニケーション。屋台村から地域を活性化

東京の人口一極集中や少子高齢化により、地方の人口減少と過疎化は深刻の一途です。地方特有の文化を残すのはもちろん、東京は全国一出生率が低い(参照:厚生労働省「令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況」)という現状を踏まえると、出生率改善のためにも地方の活性化は重要な課題の一つです。

 

そんな地方創生に取り組んでいる横丁スタイルのグルメスポットが熊本にあります。オープン直後から多くの方で賑わい、熊本県を盛り上げるスポットとして注目されている「熊本屋台村」です。

近年話題になっている世界全体で解決すべき課題に関して定められた国際目標のSDGs(※)とも深いかかわりのある地方創生。今回は熊本活性化のカンフル剤を目指す「熊本屋台村」の役割や誕生秘話について、運営委員会の本多周一会長に伺いました。

 

(※)SDGs(持続可能な開発目標)には、持続可能なまちづくり、雇用創出、海や陸の資源を大切にするといった環境問題など、計17の目標が制定されている。

 

―オープン直後から話題とのことですが、いつオープンしたのでしょうか? また「熊本屋台村」の特徴を教えてください。

オープンしたのは2022年6月3日です。熊本市内の路面電車の駅で最も乗降客数が多い通町筋駅の目の前で、上通商店街・下通商店街(西日本最大級と言われ、地元客・観光客でにぎわうアーケード商店街)と熊本城の間に位置しており、観光の際には必ず通るような場所です。熊本に観光に来た際にはまずここに立ち寄り「生の情報」を獲得してより地元を楽しんでもらえるような場にできると思い、こちらにしました。

 

熊本屋台村は地元で人気の飲食店をはじめとした18店舗が並ぶほか、熊本の焼酎ブランド球磨(くま)焼酎を試し飲みできるコーナーなどを備えた「食と遊びのランドマーク」で、「マチが、ヒトが活性化する」という基本理念のもと、熊本をもっと盛り上げる名所になることを目指しています。

ヤマメ
熊本屋台村では熊本・山都のヤマメを提供する店舗があるなど、地元の食材を使用した料理やお酒を楽しめる

 

―「熊本屋台村」をオープンしようと考えたきっかけを伺えますか。

企画しはじめたのは5年程前です。前年の2016年に甚大な被害を受けた熊本地震が発生し、町のシンボルである熊本城は倒壊、すべてが一変してしまいました。それもあり、「熊本県をもっと元気にしたい、盛り上げたい」と感じるようになったのです。会社の同僚などと「何かできないか」と話し合うようになりました。

 

話し合う中で、イベントを開催してはどうかという案が出ました。私は酒類販売会社に勤めているのですが、当社ではお客様においしいビールを知ってもらう・味わってもらう機会として、ビールを100円で販売する「100円ビールフェス」などのイベントを開催しています。その時の経験から、イベントでは人が集まっても一時的なものに過ぎないと感じていました。

 

熊本を盛り上げるためには、継続的に人を集めることができる観光案内所のようなものを作る必要があると考えるようになったのです。

 

―観光案内所という発想から、どのようにして「熊本屋台村」にたどり着いたのでしょうか?

現在はネット社会で、オンライン上に情報は溢れています。熊本の観光情報もネットでたくさん見ることができます。しかし、実際に住んでいる私たちからすると、もっと魅力的なものや場所がたくさんあります。観光案内所のようなものという発想は、地元住民の私たちだからこそ知っている「生の情報」を共有しあえる場を作りたいと思ったからでした。

ですが、単に観光案内所を作ったのでは人は集まりません。常に集客力を持つ場所として思いついたのが屋台村です。

屋台村とビール
熊本屋台村のロゴには、熊本のシンボル・熊本城がデザインされている

―集客力を持つ場所はほかにもあるかと思うのですが、どうして「屋台村」なのでしょうか?

私は酒販会社勤務なので飲食店についての知識があった、という部分はもちろん選択した大きな理由の一つとしてあります。ですが、最も大きな理由は、屋台村はコミュニケーションが生まれる場である、という点です。

 

横丁スタイルのお店でお酒を飲んでいると、自然と両隣の方々と会話することがよくあります。地元の方同士、地元の方と観光客、観光客同士が直接コミュニケーションをとる、つまりリアルに生きた情報=「生の情報」を共有し合うのです。これは、カフェや一般的な飲食店、イベントでは生まれにくい現象です。

会話を楽しんだそれぞれが刺激を受け良いシナジーが生まれるのはもちろん、地元の方も観光客もこれまでなかった新たなアイデアや興味が芽生え、人々の交流が活発化し、屋台村の理念である“ヒトが活性化”につながると考えました。

 

また、ここで得た「生の情報」をもとに人々が市内、県内の他エリアに出かければ、地域の活性化につながります。熊本屋台村が県内の他エリアへと送客する観光案内のハブになることも目標です。

熊本屋台村内の様子
屋台村内では、来店客同士で活発にコミュニケーションが行われている

 

―「観光案内のハブ」として実施されていることはありますか?

デジタル観光案内所を設置しています。熊本の観光・グルメの情報を地元の方が紹介するサイト「おるとくまもと」とも協力し、県内の各スポット、お店に関してのリアルな情報をチェックできるようにしています。

 

熊本には、人吉市球磨地域だけで作られる焼酎ブランド「球磨焼酎」があります。私は酒販会社に勤務しているので、ぜひ、球磨焼酎のおいしさを大勢の人に知ってもらいたいです。そのため、27の蔵元の個性豊かな銘柄を楽しめる「球磨焼酎のためし酒エリア」を設けました。

また、屋台村内の18店舗を2班に分けて、熊本の焼酎と日本酒を各班1種ずつ、計4種ずつを特別に安価で提供して気軽に試してもらえるようにしています。球磨焼酎を知るきっかけとなり、実際に蔵元への訪問などにつながればと考えています。

球磨焼酎ためし酒コーナーの様子
熊本の地酒、球磨焼酎27種類を試飲できる「球磨焼酎ためし酒」コーナー(自動販売機)

 

―今後の展開はどのようにお考えですか?

屋台村に併設されているイベントスペース「SDGs広場」を利用して、蔵元を紹介するイベントなどを開催しようと考えています。もちろん、県内のさまざまな特産品をPRできるイベントなども実施予定なので、各地域の魅力をここから発信していきたいです。

実は、蔵元や特産品を紹介するイベントの開催には、生産者さんと屋台村の各飲食店とのつながりを生む目的もあります。生産者さんは販路を拡大でき、飲食店側も直接仕入れられるようになるため、双方にとってメリットが大きいからです。

 

現在オープンから5日ですが、想像以上に多くの方にご来店いただいております。

オープンは金曜だったのですが、初日から日曜までの3日間は各日2500人、月曜と火曜は1500人ほどの方にご来店いただきました。売上でいうと想定の倍程度になっている状況です。この勢いのまま屋台村、そしてイベントを通じて、地元の方、観光でいらっしゃった方に熊本の魅力を知ってもらい、さまざなエリアに足を運んでもらえるようにしていきます。

熊本屋台村夜の様子
オープン以降、多くのお客様が来場している

 

e店舗運営会社GーFACTORYにて、地方創生をコンセプトにSNSを運営中!

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