SAKImoto bakeryの出店戦略|提携・ブランド進化・エリア最適化で進める多店舗展開

この記事からわかること
  • 分社独立からの再成長!上場企業との資本提携がもたらした「信用力と好立地獲得」の裏側とは? 
  • 累計6万個を売り上げたEC展開など商圏の壁を越える進化の手法を紹介 
  • 画一的な多店舗展開を脱却!新業態「and more」に見る立地・客層別のエリア最適化モデルの全貌 

「店舗数を増やしてきたが、事業をさらに拡大するための資金面や信用面にまだ不安がある」「新ブランドを展開したいが、既存店舗と客を奪い合うことにならないか」――規模拡大を目指す多くの飲食店経営者が、このような壁に直面しているのではないだろうか。

今回インタビューを実施した高級食パン専門店としてスタートし、現在は幅広いベーカリー商品を展開する株式会社SakimotoBakery(以下、SakimotoBakery)は、2017年の事業開始以降、市場の変化や事業再編を経て2023年に分社独立を果たした。現在(2026年10月2日時点)は国内11店舗(直営7店、FC4店など/海外は別法人で台湾展開)を構え、前年度年商6億5,000万円、来年度には10億円の売上目標を掲げて再成長に取り組んでいる。

本記事では代表の東 忠治 氏にインタビューを実施。同社の歩みや、ブランド価値を保ちながら新マーケットを開拓する店舗展開の考え方、強固な経営基盤づくりのポイントについて伺った。

OSGコーポレーションとの資本提携がもたらした「事業基盤の再構築」と信用力の活用 

自社単独の信用力だけでは、好立地の確保や資金調達、店舗展開に限界を感じる場面も少なくない。大手・上場企業との資本提携やアライアンスは、そうした自社の経営資源の不足を補い、事業拡大の基盤を整えるための有効な手段となり得る。この手法を活用して再成長の土台を整えた同社の事例について、まずは同社の成り立ちと歩みから紐解いていく。

紆余曲折を経た分社化と「嵜本」の成り立ち

同社の前身は、「焼きたてチーズタルト専門店 PABLO」を手掛けた株式会社ドロキア・オラシイタの一部門であった。2017年に「高級食パン専門店 嵜本」の事業を開始したのち、一時は約40店舗規模まで急速に拡大。しかし、その後のコロナ禍をはじめとする激しい市場環境の変化を受け、事業再編を余儀なくされた。

こうした厳しい状況を経て、事業の選択と集中を行うべく分社化・独立を果たし、2023(令和5)年に現在のSakimotoBakeryが設立された。

初號本店

SAKImoto bakery 大阪初號本店

ここからの再出発において、大きな成長の起点となったのが、家庭用・業務用浄水器などを手掛け、「銀座に志かわ」を運営している上場企業、株式会社OSGコーポレーションからの出資・資本提携である。

 上場企業のバックグラウンドがもたらす最大の利点=「信用力と資金面の後押し」 

独立・再編成を経た経営において、同社代表の東氏が「最大の利点」として挙げるのが、上場企業のバックグラウンドを得たことによる「外部からの信用度の向上」だ。

単独のベンチャー企業や中小飲食店が規模拡大を目指す際、大きな障壁となるのが信用力の不足である。しかし、上場企業の傘下・提携先というバックグラウンドを得たことで、同社には具体的な経営上のアドバンテージが生じている。

まず顕著なのが、優良物件の獲得と商談の円滑化だ。商業施設や好立地物件の確保において、貸主やディベロッパーからの信頼を得やすく、魅力的な物件情報の優先的な紹介や契約締結がスムーズに進行するようになった。

さらに、資金調達やFC加盟募集における優位性も挙げられる。金融機関との交渉において強い信用力が担保となるだけでなく、FCの新規加盟店募集においても、本部に対する高い信頼感が検討者の安心感と加盟意欲に直結している。

単に出資を受けるという資金面のメリットにとどまらず、「企業の信用力」という目に見えにくい資産を調達したことが、同社が確実な再成長を描くための足固めとなっているのだ。

ブランドの軸を守りつつ「進化」させる商品・店舗戦略

多店舗展開や長期的なブランド維持において、多くの経営者が「ブランドらしさ」と「市場変化への対応」のバランスに頭を悩ませる。「SAKImoto bakery」では、この2つのバランスをどう取り、事業を進化させているのか。

同社代表の東氏は、「長く愛されるブランドづくりは簡単なようで非常に難しい。『嵜本らしさ』という独自の世界観や軸を維持しながら、世の中の流れやトレンドに柔軟に対応していくことこそが自社の『戦略』である」と定義する。

単に過去の成功体験に固執するのではなく、顧客に対して常に新しい価値と驚きを提供し続ける姿勢。その「絶えず挑戦し続ける姿勢」こそが、結果として顧客から「嵜本らしさ」として認知されている。

この姿勢は、具体的に「商品の進化」と「戦略の進化」という2つの取り組みに表れている。

顧客を飽きさせない「商品」の進化

とろけるクイニーアマンアイス顧客の離脱を防ぎ、常に新鮮な食体験を提供するため、同社ではメイン商品以外のラインナップをスピード感持って入れ替える運用を行っている。

食パン部門では7月限定「レモンとレアチーズの食パン」といった月替わりメニューを投入し、リピーターが毎月店舗を訪れる明確なきっかけを創出。さらに夏場には「激辛フェア」など、トレンドや季節感を反映した話題性の高い商品をスピード感重視で投入している。「良いと思ったものはまず出してみる」という姿勢で市場の反応を素早く探り、店頭の新鮮さを保ち続けているのだ。

こうした挑戦の中で特に注目すべき例として挙げられるのが 、パン業界のオフシーズンとされる夏場に向けた取り組みである。一般的にパンの需要が落ち込む夏に対し、従来のパン屋の枠組みに囚われない「スイーツベーカリー」としての開発を強化。その中で生まれた「とろけるクイニーアマンアイス」は売り切れが続出するヒット商品となった。しかし、この需要拡大によって、同時に「店舗製造の限界」という新たな課題に直面することとなる。

 製造と配送の限界を突破する「戦略」の進化 

ヒット商品の誕生によって浮き彫りになった店舗製造の限界や、商圏の壁を乗り越えるため、同社では急速冷凍技術やOEM製造を組み込んだ戦略を展開している。

実際に人気EC商品などで完売が続出する中、店舗の製造ラインだけに頼っていては、こうした急増する需要を取りこぼしてしまうリスクがある。そこで同社では、自社のレシピと製造ノウハウを共有した「OEM製造」を並行して導入。自社製造と外部製造を組み合わせることで、品質を維持しながら製造効率と供給量を高める仕組みを体制の構築を進めている。

さらに、店舗の商圏外にいる顧客へ商品を届ける戦略として「冷凍技術」を活用したEC展開を推進している。焼き上げた塩トリュフパンを急速冷凍して配送することで、品質を落とさずに賞味期限を延ばす体制を確立。この冷凍塩トリュフパンの販売は非常に好調で、累計約6万個の販売実績を誇る主力商品へと育っており、店舗販売だけに依存しない広域な需要の取り込みに成功している。

塩トリュフパン

累計約6万個の販売実績を誇る塩トリュフパン

どれほど魅力的なブランドであっても、既存のやり方に固執していては変化の激しい飲食業界で生き残ることは難しい。軸となる世界観を守りながら、商品や戦略を柔軟に「進化」させていく姿勢こそが、事業の寿命を延ばし、新たな顧客層の開拓につながるのだ。

そして、この商品や戦略を柔軟に変えていく「守りと進化」の考え方を、実際の「店舗づくり」に落とし込み、更なる挑戦として生まれたのが、同社の新しいブランド「and more(アンドモア)」である。

新業態「and more」の事例から学ぶ、エリアマーケティングと出店ノウハウ

前章で紹介した新業態「and more(アンドモア)」の事例から、同社がどのように立地や客層に応じた店舗展開を進めているのか、そのポイントを整理する。

「and more」は、従来のパン屋の枠組みを超え、パンとスイーツを融合させた「ベーカリー×スイーツ」という新しい業態のブランドだ。単にパンをテイクアウトする場所にとどまらず、イートイン空間で質の高いスイーツやドリンクを同時に楽しめる空間として設計されている。

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「and more 大阪ビジネスパーク店」で提供される「スイーツデニッシュ ストロベリー」

多店舗展開において「売上を伸ばす」とは、単に同じ店を増やすことではなく「新しいマーケットを創出すること」に他ならない。「and more」は、まさにその思想を形にした店舗展開の最新モデルである。

同店では、かつての「高級食パン専門店」というテイクアウト中心の単一モデルから脱却。クロワッサンや塩トリュフパンといった商品ラインナップの拡充に加え、イートイン席の設置によってモーニング・ランチ・アフタヌーンティーといった時間帯ごとの新たな利用動機を創出した。看板であるパンを軸に、カフェやスイーツといった関連要素を掛け合わせることで、客単価の向上や滞在時間の延長、ひいては新規顧客層の獲得を実現している。

立地と客層に合わせた「画一化しない」店舗設計

同社では、新店舗を出す際に「決まったメニューや商品、コンセプト 」をそのまま当てはめるのではなく、その立地の特性や客層に合わせて商品やサービスを変化させるエリアマーケティングを徹底している。

 

店舗名

立地特性

ターゲット客層に合わせた具体的な対応(メニュー・商品)

大阪ビジネスパーク(OBP)店(2026年7月10日開業)

・約2万9000人が働くビル内(27坪・16席)

・客単価:約1,200円

・ビル内就労者の約6割が女性

女性客のランチ需要を狙い、パンと野菜、メインを蒸し上げる「せいろ蒸し」メニューを導入

扇町店(2024年9月14日開業)

・商店街とオフィス街が混在する立地(30坪・18席)

・客単価:約1,400円

単身の会社員層に加え、商店街を利用する地域住民の日常利用を取り込むメニュー編成

葛西店[ 2026年10月2日開業] 

・公園内[ 33坪店内19席+テラス席(席数変動有) ] 

・客単価:約2,000円

・公園で過ごすご家族を中心に、地域住民など幅広い層の利用が見込まれる

ファミリー層の利用を想定し、葛西店ではSAKImoto bakery全店で唯一となるキッズメニューを用意

通常のベーカリー商品に加えて、モーニングやランチ、カフェメニューも提供

 

従来のような「どの地域でも同じ商品を売る画一的な多店舗展開」ではなく、その地域の実情に合わせて店自体を「変化(and more)」させていく手法をとっている。

同社はこの「ベーカリー×スイーツ」という独自の業態を掲げ、東京への再進出をはじめ、今後は全国展開も見据えている。

自社の軸を守り変化し続ける飲食経営の選択――足場を固めた先に見据える出店戦略

店舗数を急激に増やすことだけが多店舗化の成功ではない。同社代表の東氏は、今後の出店方針について次のように語る。

「まずは直営店がしっかりと利益を出し、地域で『光り輝く店舗』となることを最優先に考えている。直営店の足場が盤石であってこそ、FC店舗の拡大やブランドの信頼も自然とついてくる」

自社単独での限界を感じたら上場企業などパートナーの「信用力」を活用して足場を固める。そして、軸となるブランド価値を守りつつ、地域のニーズに合わせて変化させながら新しいマーケットを開拓する。

この両輪を回すことこそが、変化の激しい飲食業界において、持続可能で再現性のある多店舗展開を実現するための鍵となる。

 

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飲食情報局_e店舗

店舗情報

店舗名 / 会社名

SAKImotobakery and more 葛西店/株式会社SakimotoBakery

業態

ベーカリー×スイーツ

最寄駅

総合レクリエーション公園前駅

アクセス

徒歩2分

住所

〒134-0085 東京都江戸川区南葛西3丁目23-1  ファミリースポーツ広場201棟

営業時間

電話番号

03-6808-0482

公式サイト

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豊嶋楓果
大学にて文化人類学や多言語・多文化理解を専攻。大学で培った視点を活かし、外国人のお客さまやスタッフの本音を捉えた、インバウンド集客と外国人雇用のヒントを共有していきます。現在は「まるっと飲食情報局」の専任ライターとして、外国人材の採用・定着から、売上拡大や店舗運営まで、飲食店経営者が抱える多様な課題とその解決策を多角的に取材しています。現場が明日から導入できる実践的なヒントから、長期的な視点での課題解決まで、全国の飲食店経営者のあらゆる悩みに寄り添う有益な情報発信を追求してまいります。
豊嶋楓果
大学にて文化人類学や多言語・多文化理解を専攻。大学で培った視点を活かし、外国人のお客さまやスタッフの本音を捉えた、インバウンド集客と外国人雇用のヒントを共有していきます。現在は「まるっと飲食情報局」の専任ライターとして、外国人材の採用・定着から、売上拡大や店舗運営まで、飲食店経営者が抱える多様な課題とその解決策を多角的に取材しています。現場が明日から導入できる実践的なヒントから、長期的な視点での課題解決まで、全国の飲食店経営者のあらゆる悩みに寄り添う有益な情報発信を追求してまいります。