【明神丸の森下幸次氏にインタビュー】カツオで六次化を推進する企業が、飲食店展開を活発に進める

株式会社明神丸(本社/高知県高知市、代表/森下幸次)は、1999年7月に会社設立、飲食店および食品販売店の経営・企画・運営を行っている。グループ企業に一本釣りカツオ漁の漁船を擁する明神水産株式会社が存在し、カツオ漁から、カツオの加工・販売、カツオ料理の飲食業を展開する、いわゆるカツオの六次化企業である。

ちなみに、明神丸グループはカツオの漁獲高日本一を誇る。

アイキャッチは明神丸代表の森下幸次氏(55歳)。カツオ漁で知られる高知県黒磯町の明神家の外孫として生まれ育った。16歳でカツオ漁の道に入り、12年間船上でカツオの一本釣りを行う生活を過ごしていたが、28歳のときに陸(おか)に上がることになった。

 

それはカツオ漁の会社が「カツオの藁焼きたたき」を製造・販売する株式会社明神食品を立ち上げたことがきかっけ。そこで森下氏は、1999年より工場勤務となった。

 

さらに同社では、2000年5月に「ひろめ市場」に同社商品のアンテナショップを開設することになった。森下氏はかねがね「食」に関わる仕事がしたいと考えていて、その店長就任を申し出たところ、店長を任されることになった。ここから、森下氏はさることながら会社が大きく転換することになった。森下氏が代表に就任したのは2018年である。

2ー船s

明神丸ではグループ会社でカツオ漁船を持ち、カツオの漁獲高日本一を誇る

 

「ひろめ市場」に出店し「藁焼き」パフォーマンスを考案

高知市の「ひろめ市場」とは、フードコートと土産品売り場が同居した(約70店舗)高知のランドマーク的存在である。地元の人はさることながら、観光客は必ず立ち寄る施設となっている。

 

明神丸が「ひろめ市場」にオープンしたのは2000年のゴールデンウイーク。森下氏も会社にとっても物販や飲食店営業の経験はなく、厨房設備はとても粗末な状態だったという。

それでも、ここのお店は大層繁盛した。しかしながら、ゴールデンウイークが過ぎると、客足はぱったりと途絶えた。

 

当時の同社には、飲食業の経営者が皆無で、調理や店舗運営のノウハウもない。

森下氏にとっても初めての店長業務で、ビジネスの経験すらない。相談できる相手や頼れる人もいなく、売上がほとんどない日が続いた。

 

「このままでは店が潰れてしまう。自分でなんとかするしかない」と考えた森下氏は、限られた設備の中で、「おいしい料理を提供する方法」の試行錯誤を繰り返すようになった。

 

2001年に入り、同店では「藁焼き」のパフォーマンスを行うようになった。藁焼きは炎が一気に大きく燃え盛り、一本釣りカツオ漁の雄大なストーリーを盛り上げてくれる。この様子が評判を呼んで、このお店は「ひろめ市場」の名物となった。オープンした当初は年商3000万円であったが、藁焼きのパフォーマンスを行うようになってから、1億円を突破するようになった。

3ー藁焼きs

藁焼きの高温でカツオの表面を一気に焼き上げるパフォーマンスは明神丸が発祥

 

同店は12坪だが、通常の月商は3000万円を超えていて、繁忙期の8月には4000万円を優に超えるようになった。「カツオの藁焼き」のパフォーマンスは、いまやカツオ料理店の定番となっているが、明神丸の森下氏は、そのパイオニアである。

 

当初は苦労の連続であったという。藁焼きの炎は一気に広がることから、何よりも安全面への対策は必須であった。耐火ガラスはもちろんのこと、天井の高さや素材、空調にも気を配り、リニューアルを繰り返して進化していった。

 

「カツオ塩たたき」を発案し、名物に育てる

さらに、「藁焼き」のカツオ料理の工夫も行った。

当時の「カツオたたき」はポン酢で食べることが一般的であったが、森下氏は「ほかにもっとおいしくなる調味料がないか」と試行錯誤していた。マヨネーズや豆板醤はもとより、「あんこ」と組み合わせてみたりした。

 

このような過程を経て「塩たたき」を開発した。森下氏は、漁師時代に釣り上げたカツオに塩を振りかけて食べていたことを思い出し、地元の「土佐黒瀬町」の天日塩を取り寄せてかけて食べてみたところ、これが「抜群にうまい」と。これを、早速メニューにのせたところ大好評。メディアにも取り上げられ、「明神丸」の看板商品となった。同社は「カツオの藁焼き」のパイオニアであると同様、「カツオ塩たたき」のパイオニアとなった。

4ーカツオs

「カツオ塩たたき」も明神丸がつくった食べ方

 

こうして「ひろめ市場」で不動の繁盛店の地位を築いた「明神丸」は、店舗展開を進めていった。

2008年8月に飲食店の2号店となる「料理 漁師明神丸」を高知市本町にオープン。フードコートのショップであった「ひろめ市場」の店舗に対し、初めてのテーブルサービスである。お客にとって心地よい接客、食欲をそそるメニューの開発等のトライアンドエラーを繰り返し、リニューアルも重ねていった。その後、店舗は拡大して2018年7月「明神丸 本店」となった。

 

高知から、本州へ、そして東京で展開進める

その後の店舗展開の概要について、以下に紹介する。

・2012年4月、高知市帯屋町おびさんロードに「土佐のいごっそう亀次」をオープン。初代佐賀明神丸の船頭であり、明神水産の創業者の名前を付けた。

・2014年7月、高知市帯屋町商店街に「明神丸 帯屋町店」をオープン。ここで初めてランチ営業に挑戦。いまでは「明神丸」の旗艦店となっている。

・2014年12月、「明神丸 イオンモール岡山店」をオープン。高知県外での初出店となる。これによって、通販を含めた「おいしいカツオを全国に届ける」ための足掛かりとなった。

同店は「ひろめ市場の明神丸」としてオープン前から評判となり、オープン初日から大行列となった。

・この2014年には、高知市ひろめ市場が観光客におすすめする飲食店「高知家の食卓県民総選挙2014年」の第1位を獲得した。

・2015年12月、岡山2号店となる「明神丸 岡山本町店」をオープン。

・2016年2月、高知市内に「明神丸 大橋通り店」をオープン。ギフト商品の発送が可能な体制を整えた。

・2016年11月、「明神丸 西新宿店」をオープン。東京初出店となった(2020年10月閉店)。

・2017年7月、「明神丸 竹橋パレスサイドビル店」をオープン。東京2号店。

・2018年3月、「明神丸  GEMS茅場町店」をオープン。東京3号店

・2018年9月、「明神丸 松山二番町店」をオープン。愛媛県下では「明神丸」として初進出。

・2019年4月、「明神丸 高松店」をオープン。香川県初出店。

・2019年6月、「明神丸 はなれ」を高知市本町にオープン。お客に「藁焼き体験」が出来るようにした。

・2020年に、株式会社明神丸に社名変更。

・2024年7月、「KITTE大阪店」をオープン。大阪初進出。

・2025年3月、「土佐みょうじん」を東京・日本橋にオープン。

 

500tのカツオ漁船を建造中で、活気に拍車かける

明神丸では、さる6月20日に「藁焼き鰹たたき 明神丸 吉祥寺店」をオープンした。JR吉祥寺駅から徒歩2分、吉祥寺PARCOの裏、レンガ通りの路面で、同社15店舗目、東京4店舗目である。1階と2階の2層で45.18坪、76店舗の規模。

これまで同社の東京での店舗はオフィス街立地であったが、今回は郊外で若者から高年世代に至る幅広い生活圏である。多種多様な飲食店が出店している中で、「藁焼きカツオ」の専門店は異彩を放っている。

5ー外観s

吉祥寺店の外観。吉祥寺PARCOの真裏の路地にある

 

筆者は、7月10日(木)の夜、この吉祥寺店を訪ねた。東京は線状降水帯に見舞われ土砂降りであったが、店内は予約のお客で満席。筆者は2人用のテーブル席を確保できた。1階はカウンター席がオープンキッチンを取り囲み、四六時中「藁焼き」の炎のパフォーマンスが展開されている。劇場のような高ぶりが店内に漂っていた。

 

そして、若い女性スタッフの接客が丁寧であった。「藁焼きカツオ」の専門性が、飲食店のQSCを高めているものと感じた。

 

同社では現在500tのカツオ漁船を建造中で、来年には完成する予定とのこと。完成した暁には、同社の六次化は一層活発になり、それを誇りとして同社の飲食店は、さらに活気に満ちた存在になることであろう。

6ー店内s

店舗は1階と2階の2フロア。従業員の丁寧な接客が心地よい

 

店舗情報

店舗名 / 会社名

株式会社明神丸

業態

飲食店及び食品販売店の経営・企画・運営

開店・設立日

1999年07月08日

公式サイト

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千葉 哲幸
千葉哲幸(ちば てつゆき) 外食ジャーナリスト 『月刊食堂』(柴田書店)編集長と、そのライバル誌の『飲食店経営』編集長(商業界、 当時)を歴任するなど、外食産業記者歴40年。2014年7月よりフリーランス。外食産業の 歴史を語り、最新の動向をレポートする。取材、執筆、書籍プロデュース、セミナー活動 を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。 ■メール:chibatetsuyuki@gmail.com
千葉 哲幸
千葉哲幸(ちば てつゆき) 外食ジャーナリスト 『月刊食堂』(柴田書店)編集長と、そのライバル誌の『飲食店経営』編集長(商業界、 当時)を歴任するなど、外食産業記者歴40年。2014年7月よりフリーランス。外食産業の 歴史を語り、最新の動向をレポートする。取材、執筆、書籍プロデュース、セミナー活動 を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。 ■メール:chibatetsuyuki@gmail.com