飲食店の青色申告で失敗しない!始め方から取り消されない帳簿管理までやさしく解説!

青色申告に関する記事のアイキャッチ

はじめに

「青色申告は節税になるからお得」と聞いたことはありませんか?
たしかに青色申告には多くのメリットがありますが、所得税法に基づいて正しく帳簿を整え、申告を行わなければ、承認を取り消されるリスクもあります。

特に飲食店経営者の場合、現金取引が多く、帳簿の記録やレシート管理をおろそかにすると、税務署から「不備がある」と判断されることがあります。
場合によっては、帳簿が不十分だと税務署が売上を推定して税額を計算する「推計課税(国税通則法第24条)」が行われることもあり、思わぬ追徴課税につながるケースもあります。

この記事では、青色申告を安全に続けるための実務ポイントを、所得税法の規定や実際の裁決事例(国税不服審判所・平成13年審決)を交えて初心者にもわかりやすく解説します。

頭を抱える女性


青色申告とは?飲食店にどんなメリットがあるの?

青色申告とは、正しい帳簿をつけて申告することで、さまざまな税の優遇を受けられる制度です。
所得税法第143条に基づき、一定の帳簿や書類を備え付け、正確に申告している人に認められます。

 

主なメリットは3つ

  1. 青色申告には、白色申告にはない3つの大きなメリットがあります。
    どれも飲食店のように日々の取引が多いお店にとって、経営を安定させるうえで欠かせない制度です。

    青色申告特別控除(最大65万円)

    正確な帳簿をつけて申告すると、最大65万円を所得から差し引けます(所得税法第25条の2)。
    つまり、同じ売上でも課税される所得が減り、結果的に税金が安くなる仕組みです。
    たとえば年1000万円の売上があっても、65万円分は“利益がなかった”とみなされるため、節税効果が大きいのが特徴です。

    赤字を3年間繰り越して相殺できる(純損失の繰越控除)

    もし1年の経営で赤字が出ても、その損失を翌年以降3年間、黒字と相殺できます。
    たとえば開業初期や設備投資で赤字になっても、翌年黒字が出たときにその分を差し引けるので、長期的な資金計画が立てやすくなります。
    飲食業では新店舗の開業費用や人件費負担が大きいこともあるため、この控除は経営の安定に大きく貢献します。

    家族への給与を経費として計上できる(青色事業専従者給与)

    家族が一緒にお店を手伝っている場合、その給与を“経費”として認めてもらえます。
    白色申告では上限が決まっているのに対し、青色申告なら実際の勤務内容に応じた金額を全額経費にできます。
    たとえば、奥さんやお子さんが調理補助やレジを担当している場合、その労務分を給与として支払えば、所得を減らして節税できます。


    このように、青色申告は「帳簿をきちんとつける」ことを条件に、経営を支える強力な節税手段を与えてくれる制度です。

    飲食店のように経費の出入りが多く、日々の取引が細かい業種ほど、正確な帳簿を残すことで節税効果が大きくなります。


飲食店で青色申告が認められるための条件とは?

青色申告を続けるには、「ただ申告するだけ」では足りません。
帳簿の整備・保存・説明できることがすべて揃って初めて、青色申告として認められます。
つまり、税務署から「信頼できる記録を残している」と評価されることが大前提なのです。

飲食店の場合、現金取引が多く、経費や仕入れの金額も頻繁に変動します。
だからこそ、日々の記帳と書類保存を正確に行うことが、青色申告を守る最大のポイントになります。

クエスチョンマークと男性

 

帳簿の備付けと保存が必須

青色申告をするには、帳簿書類の備付けと保存が欠かせません。
これは所得税法第148条および施行規則第63条で明確に定められています。

帳簿や領収書、売上伝票などには7年間の保存義務があります。
飲食店では、売上日報・レシート・仕入帳などを毎日記録し、誰が見ても確認できる形で残しておくことが大切です。

また、保存方法は紙でもデータでも構いませんが、税務調査で「すぐに提示できる状態」にしておくことが求められます。
たとえば、レジの日報やPOSレジの売上データをクラウドに保管しておくと、紛失リスクを防げます。

さらに、帳簿の内容は単なる数字の羅列ではなく、取引の中身がわかるように書くことが大事です。
たとえば「仕入れ10万円」だけではなく、「○○商店から野菜・肉類を仕入れ」と具体的に記載すれば、経費の妥当性が明確になります。

こうした記録があることで、税務署も「正しい経理処理をしている」と判断しやすくなり、青色申告の信頼性が高まります。

 

飲食店でよくあるミスとは?

  • ・手書きノートしか残していない
    ・レシートをまとめて捨ててしまう
    ・POSレジのデータを保存していない

    これらは税務調査で「記録不備」と判断され、青色申告の承認を取り消されるおそれがあります。

    特に飲食店では、現金のやり取りが多く、書類の紛失が発生しやすいため、日々の記録を自動化する工夫が効果的です。
    クラウド会計ソフトを使えば、レシートをスマホで撮影するだけでデータ保存できるため、ミスを防ぎながら記録を残せます。


青色申告の取消しはどんなときに起こる?

青色申告の承認は、帳簿が適正であることを前提に与えられています。
もし帳簿が保存されていなかったり、虚偽の記載があったりすると、税務署は承認を取り消すことができます(所得税法第150条)。

 

青色申告が取り消される主なケース

  • ・帳簿がまったく保存されていない
    ・売上・仕入の記録に大きな不備がある
    ・実際と違う数字で申告している
    ・税務署の質問に対して説明ができない


    こうした場合、青色申告のメリットがすべて失われ、最悪の場合、白色申告に戻されることもあります。
    白色申告になると、青色申告特別控除(最大65万円)や赤字の繰越控除、専従者給与などの優遇が使えなくなり、税負担が一気に重くなります。

    そのため、日ごろから「誰が見てもわかる帳簿」を心がけ、取引の記録と証拠書類をしっかり残すことが大切です。

     


国税不服審判所の事例から学ぶ!青色申告取消しの実態

ここで、実際に起きた裁決事例を紹介します。
この事案は、飲食店(焼肉店)を営む経営者が青色申告を取り消されたケースです。

国税不服審判所・平成13年審決

 

事案の概要

経営者は、仕入帳や売上帳などの帳簿をほとんど保存していませんでした。
また、仕入先から受け取ったリベート(割戻金)や現金取引の一部も記録されておらず、税務署は「申告内容が信用できない」と判断しました。

その結果、税務署は推計課税(帳簿以外の資料からおおよその税額を算出する方法)を実施し、青色申告の承認を取り消しました。
これは、帳簿が正しく残っていない場合に行われる“最後の手段”ともいえる処分です。

経営者は「帳簿がなくても実際の売上は間違っていない」と主張しましたが、審判所はこれを退け、税務署の判断を支持しました。
つまり、「記録がない=信頼できない」と見なされたのです。

 

審判所の判断

審判所は次のように述べています。

「請求人は、帳簿書類を備え付けず、保存もしなかった。したがって、青色申告の承認を取り消した原処分は適法である。」

この判断は、青色申告の“根本条件”を改めて示したものといえます。
いくら実際の取引が正しくても、記録や証拠がなければ「正しい」と証明できないというのが税法上の原則です。

つまり、帳簿がなければ税務署はあなたの申告を信用できないということです。
飲食店のように日々の取引が多い業種では、こうした「記録の欠落」こそが最大のリスクになります。

 


飲食店で帳簿がないとどうなる?推計課税とは?

推計課税とは、帳簿が不完全な場合に、税務署が他の資料や統計データなどをもとに所得を推定して計算する方法です(国税通則法第24条)。
つまり、帳簿が正しく残っていないと、税務署が独自に“あなたの売上や利益”を計算してしまうということです。

飲食店では、現金取引や仕入れが多く、記録漏れが起こりやすいため、推計課税の対象となるケースが少なくありません。
帳簿を整えていないと、「本当の数字ではない金額」で課税されてしまうリスクがあるのです。

仕事が山積みの人


税務署はどうやって売上を計算したの?

この焼肉店の事例では、税務署が割り箸の仕入れ数量をもとに売上を推計しました。
「1膳=1人分の来店」として、来店者数を計算し、そこから平均単価をかけて年間売上を算出。
結果、申告していた金額よりも高い所得が算出され、追加の課税処分が行われました。

税務署はこのように、帳簿がなくても仕入れ伝票、光熱費、仕入業者の請求書、POSデータなどを使って推計を行います。
そして、その推計が「明らかに不合理」と認められない限り、納税者がそれを覆すことは非常に難しいのです。


つまり、帳簿がないとどうなるのか?

・税務署の独自計算で課税される(あなたの売上より高くなる場合も)
・異議申立てをしても「証拠がない」として認められにくい
・結果的に青色申告の承認を失うリスクもある


飲食店経営者にとって、日々の帳簿記録は「節税のための書類」ではなく、自分を守るための証拠です。
推計課税を防ぐには、「記録」「保存」「説明できること」の3点を徹底することが欠かせません。


青色申告を守るために飲食店が今できること

帳簿を整えておくことが、青色申告を守る最も確実な方法です。
日々の売上や経費を正確に記録し、証拠となる書類をきちんと保存しておくことで、税務署からの信頼を得ることができます。
ここでは、飲食店が今日から実践できる4つのポイントを紹介します。

 

帳簿・領収書・伝票を7年間保存

青色申告では、帳簿や領収書などの保存期間が7年間と法律で定められています(所得税法第148条)。
紙でもデータでもかまいませんが、税務調査で「すぐに見せられる状態」にしておくことが大切です。

特に飲食店では、仕入伝票・レシート・売上日報などが毎日大量に発生します。
これらをそのまま放置すると紛失や破損の原因になるため、月ごとにファイルへ整理するか、クラウドでデータ保存しておくと安心です。
また、領収書は「何を・どこで・いくら使ったのか」が分かるようメモを添えておくと、調査時にスムーズに説明できます。

 

会計ソフトやクラウドレジを活用

手書き帳簿やExcelだけで記録を続けるのは、忙しい飲食店にとって現実的ではありません。
そこでおすすめなのが、クラウド会計ソフトやPOSレジの自動連携です。

たとえば、会計ソフトを使えば、レジの売上や銀行取引を自動で仕訳に反映できるため、入力ミスを防げます。
また、クラウドレジを導入すると、日次・月次の売上をリアルタイムで確認でき、数字のずれも早期に発見できます。

システムを使うことで「誰が見ても分かる正確な記録」を残せるため、青色申告の信頼性が高まり、税務調査でも安心です。

 

家族への給与や副収入も正しく記帳

飲食店では、家族が手伝うケースも多いですよね。
青色申告では、家族への給与も「青色事業専従者給与」として経費計上できますが、支払いの実態を帳簿に明確に記録しておく必要があります。

また、仕入れ業者からのリベートや現金での支払いなども、漏れなく帳簿に残すことが重要です。
「少額だから大丈夫」「メモだけで残している」などの曖昧な管理は、税務署から“隠ぺい”と誤解されるリスクがあります。

振込・現金問わず、すべての取引を記録しておけば、税務署から質問された際にも自信を持って説明できます。

 

税務調査時は焦らず専門家に相談

税務調査で誤りを指摘されても、焦ってその場で署名するのは禁物です。
修正申告を求められた場合は、必ず内容を確認して納得したうえで提出しましょう。

調査担当者の説明が理解できない場合や不安を感じるときは、税理士に同席してもらうのが安全です。
専門家の立ち会いがあるだけで、税務署とのやり取りもスムーズになり、不当な課税リスクを防ぐことができます。

税務調査は、適正な帳簿と冷静な対応があれば怖くありません。
日ごろから正しい記録と専門家との連携を意識しておくことで、安心して青色申告を続けられます。

まとめ|飲食店の青色申告は「信頼の証」。正しい記帳でお店を守ろう

青色申告は、ただの節税制度ではなく、「あなたのお店の信頼を示す制度」です。
正しい記帳と帳簿管理を続けることで、税務署からの信用を得て、経営の安定にもつながります。

帳簿をつけない、レシートを残さないといった小さな油断が、青色申告の取消しや追加課税につながることもあります。
日々の売上や経費を丁寧に記録し、数字に裏づけのある経営を続けることが、トラブルを防ぐ最善の方法です。

そして、青色申告をきちんと維持することは、お店の成長を支える大きな武器にもなります。
正しい申告があれば、金融機関や取引先からの信頼が高まり、融資や出店のチャンスも広がります。

「経理は苦手だから…」と思わず、今日から少しずつ帳簿を整えていきましょう。
青色申告の継続は、あなたの努力とお店の誠実さを“見える形”で証明する力になります。

豊幡佳乃
立命館大学 法学部 大学で法律を専門的に学び、法的知識を基盤に飲食業界向けの記事を執筆。食べることが大好きという自身の関心を活かし、飲食店経営者やスタッフの方々が直面しやすい法律問題や制度のポイントを、専門用語をかみ砕きながらわかりやすくお届けしていきたいと考えています。
豊幡佳乃
立命館大学 法学部 大学で法律を専門的に学び、法的知識を基盤に飲食業界向けの記事を執筆。食べることが大好きという自身の関心を活かし、飲食店経営者やスタッフの方々が直面しやすい法律問題や制度のポイントを、専門用語をかみ砕きながらわかりやすくお届けしていきたいと考えています。