2021/04/13
レモンサワー60分550円の業態の中で「ローカル立地発」をアピール
テーブルにレモンサワーのタップが付いていて飲み放題60分550円(税込、以下同)、食事は焼肉・ホルモン――この業態が今ブレークしている。立ち上がったのは2019年ないし2020年で、それぞれの本部は今大きな展望を掲げて店舗展開に邁進している。
ここで紹介する「焼肉ホルモン たけ田」(以下、たけ田)もその一つだ。現在、埼玉県入間市と東京都立川市の直営店、そして4月中旬埼玉県さいたま市(北浦和)にオープンするFC店を加え計3店舗となっている。
たけ田を展開しているのは株式会社ミナモト(本社/埼玉県入間市、代表/細田源太氏=冒頭写真)。代表の細田氏は1979年7月生まれ。20歳で起業して中古車販売店やwebデザイン業などを営んできて、本格的に飲食業を展開しようと2010年6月、30歳の時に現在の会社を設立した。
細田氏は埼玉県入間市で生まれ育ち、事業も地元で営んできた。そんな細田氏が「本格的に飲食業を展開しよう」と決断したのは、これまで育んできた地元意識がある。
「入間市のローカルマーケットで地元が盛り上がるような飲食店をつくりたい。飲食店を通じて地元の人が楽しむことができる場を設けたい。こうして入間市の人々の日常の中に彩りをつくっていきたい」と構想を抱いた細田氏は、西武池袋線の武蔵藤沢駅近くでドミナント展開を行っていく。
現在は、前述のたけ田の3店舗をはじめとして計6店舗とセントラルキッチン(CK)を擁している。CKは2017年に開設し、高級弁当、仕出し弁当、パーティケータリングを行っている。デリバリーは5ブランドを擁していて、バーチャルレストランの先駆けと言える。
目次
属人的な事業経営から脱却することを決意
さて、たけ田が誕生したきっかけは「ホルモン焼きの店をやろう」と考えたこと。2018年3月ごろのことだ。その背景にあったものは「人材不足と生産性向上を解決する」ということだった。当時、武蔵藤沢で居酒屋を展開していて、焼き鳥を手刺ししてフルオペレーションで営業していた。そこでだんだんと「この業態は属人的で、このままでは社員を幸せにすることができない」(細田氏)と考えるようになった。「では、この業態に変わるものはどのようなものか」とイメージをつくり上げることに努めていたのだが、オープンしたばかりのイタリアン業態の店長が入院する事態となった。新店は一時休業を余儀なくされたが、この時に「属人的な事業経営は止めよう」と決断した。
新業態のポイントはドミナントではなく、点の展開ができること。武蔵藤沢駅がある西武池袋線やそれと並行する東武東上線沿線で一定のシェアを取ることができること。また、当時は客単価3000円以下で、ネオ大衆酒場と言われる居酒屋がどんどんと広がっていたことから、このマーケットを狙いとした。
「客単価3000円は空白マーケットです。ここでおじさんだけではなく、ファミリーも女性も安心して利用することができる雰囲気、おしゃれ感、きちんとしたクレンリネスを備えて、なおかつトレンド的な要素が絡み合うことによって、たくさんのお客様から支持をされて店舗展開が速くできる。そして、おいしいお肉がたくさん食べられて、お酒もたっぷりと楽しむことができる業態をつくろう」
このように細田氏の新業態の構想は、生産性向上と空白マーケットという二つの観点から具体化していった。生産性向上を追求するためにセルフ化を推進する。オーダーも、飲み放題もセルフにするというものにまとまっていった。
セルフサービスと高い生産性を追求する
飲み放題は当初ドリンクバーを考えていた。しかしながら、顧客にとってドリンクバーで何回も席を立つのは面倒なことだ。だんだんとドリンクバーは現実的なことではないと考えるようになった。
そこで大阪で体験したことのある生ビールを卓上のタップから注ぐスタイルで自前のホルモン焼きを食べてもらう形にすると、インパクトも生産性も高くなるのではないかと考えた。
このような構想をまとめて、2018年の夏ごろからメーカーと交渉してイメージを形にしていった。2019年に入り既存の焼き鳥居酒屋をリニューアルし、2月にたけ田の1号店をオープンした。
前述した通り、キラーコンテンツの「レモンサワー」は60分550円、これが延長30分で330円、最長2時間制となっている。焼肉・ホルモンは約20品目で、ほとんどが418円、一皿約100gのボリューム。“名物”として「アカミックス」「シロホルモン」の2枚看板が掲げられている。「タン塩」「牛カルビ」「牛ロース」「上ミノ」といった人気部位も418円である。さらに“売切れ御免”をうたった「和牛切り落としカルビ」「和牛ロースさっと!《8秒炙り》」858円と“数量限定”の「本日の和牛」「やわらか赤身ヒレロース」1078円がご馳走感を掻き立てる。これらで客単価は3000円となっている。
肉の業者は今後の多店化を見据えて大手と業務提携を結んだ。店内での手切りの作業が発生しないように、業者にカットしてもらい真空パックにして冷凍状態で配送している。店舗では解凍して肉をもむだけで済むようにしている。これをはじめとして店内のオペレーションは効率化が図られている。
「食べ放題」をしない「焼肉酒場」のコンセプト
冒頭で述べた一連のブレークしている業態は焼肉・ホルモンを食べ放題にしているところが多い。しかしながら、たけ田では食べ放題は行っていない。その理由について、細田氏はこう語る。
「『食べ放題』をうたうと大手焼肉チェーンと比較をされてしまう。たけ田は、それらとは一線を画したファミリーや女性も楽しく食事ができる『焼肉酒場』。お客様が好きなものを食べられることがポイントなのです」
また、メインの価格が418円であるから客単価を3000円に着地させるための食べ放題メニューをつくらなくても客単価は3000円に収まる。
このお値打ち感は1号店をオープンしてたちまちに大きな反響を呼んだ。
同店を立ち上げた、同社経営企画本部長の吉井佳代氏はこう語る。
「これまでさまざまな業種の立ち上げに携わってきたが、たけ田のお客様の反響が抜群に良かった。オペレーションを簡素化していたのでスタッフも働きやすく、スムーズに立ち上げることができました。お客様も本当に喜んでくださいました。焼肉を食べてお酒を飲んだらこれくらいの金額というイメージがありますが、客単価3000円のたけ田はこれを完全に下回っていて、お客様はみなレジで驚いて帰る、という感じです。またオペレーションを簡素化していたのでスタッフも働きやすく、その分接客サービスを充実していることも高いリピート率につながっていると思います」
筆者は3月10日の夕方16時に立川の店を訪ねた。同店には筆者の他に、同社の担当者からFC加盟の説明を受ける数人しかいなかった。一人食事をしていて17時を回った瞬間に地下1階の同店には、たちまちたくさんの顧客が入店して15分ほどで満席になった。同店を一度体験した顧客は、新しい顧客を連れてやってきて同店での飲食を楽しんでいる様子が伝わってくる。
ローカルで出店できるからこそ多店化できる
細田氏は、これからFC店を中心にたけ田の出店攻勢をかけていくという。
「今年度は20店舗の出店、目標は5年間で300店舗です。これは店舗数を追求していくのではなく、この業態を広げたいという感覚です。理由はビジネスモデルとして三方良しだから。お客様は家族4人で食べて1万円で収まる。従業員にとって、仕込みやオペレーションの負荷が少なく生産性が高い、だから収入も上がっていきやすい。お客様も従業員も会社も幸せです」
数あるレモンサワー飲み放題、焼肉ホルモン業態の中で、細田氏がたけ田の強さとしてアピールするところはこのようなポイントだ。
「たけ田はローカル立地で展開を始め、地域のお客様に愛されて店舗展開の手応えをつかみました。ローカルに出店できるパッケージだからこそ300店舗を射程に入れることができます」
これからは郊外ロードサイドに積極的に展開したいと考え、直営で検証を重ねる方針だ。ローカル立地でドミナント展開をしてきた同社が、生産性向上に向けて舵を切ったことがきっかけとなり、大きな求心力となる業態をつかみとることができたようだ。
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