飲食店の経営に資格は必要?知らないとマズい義務と、持っておくと得する資格まとめ
「資格のことはお店を開いたときに確認したし、もう大丈夫」——そう思っているオーナーさん、実はそこに落とし穴があります。
飲食店の資格や衛生管理ルールは、開業後も経営を続けるなかで何度も関わってくるものです。たとえばスタッフが辞めて食品衛生責任者が不在になったとき、2店舗目を出すとき、法改正があったとき——「あれ、どうすればいいんだっけ?」と焦る場面は、経営者なら一度は経験するはず。
この記事では、飲食店を経営し続けるうえで知っておくべき資格・衛生管理の義務と、「持っておくと経営が楽になる」資格を整理しました。ランチタイムや移動時間にサクッと読める内容にまとめているので、ぜひ最後まで読んでみてください。
食品衛生責任者って、飲食店スタッフが辞めたらどうなるの?
「食品衛生責任者は開業のときに取ったからOK」——でも実はここ、経営中にいちばんトラブルが多いポイントです。
食品衛生責任者は「人」に紐づく資格です。その人が退職したら、お店の食品衛生責任者は空白になります。保健所に変更届を出さないまま放置すると法令違反になるため、後任の確保と届出が急務になります。
-
食品衛生責任者が不在のまま営業を続けることは食品衛生法違反になります。スタッフ退職時は速やかに後任を選任し、10日以内に保健所へ変更届を提出しましょう(東京都江東区など各自治体より)。
オーナー自身が資格を持つのが最強の対策
スタッフに任せっきりにしてしまうと、退職や急病のたびに対応が必要になります。経営者本人が食品衛生責任者になっておけば、こういった人的リスクをゼロにできます。また、NECの調査でも「経営者自身が資格を持つことで人員配置の柔軟性が上がり、コスト最適化につながる」と指摘されています。
〈手続き一覧表〉
|
項目 |
内容 |
|
変更時の手続き |
新しい食品衛生責任者の資格証を持参し、変更日から10日以内に保健所へ「変更届」を提出 |
|
必要書類 |
営業許可申請書(変更)・営業許可書の原本・新任者の資格証明書(手帳など) |
|
修了証を紛失した場合 |
各都道府県の食品衛生協会で再交付可能。手数料は2,000円程度(地域による) |
|
兼任は原則NG |
複数の施設を1人で兼任することは原則禁止。店舗ごとに1名の選任が必要 |
2店舗目・3店舗目を出すとき、資格は何が変わるの?
多店舗展開をするときに意外と盲点になるのが、資格の「1店舗1人ルール」です。
食品衛生責任者は1つの施設に1名の選任が義務。オーナー本人が1号店の責任者になっていた場合、2号店の責任者は別の人を用意する必要があります。
-
「オーナーが全店舗を兼任」は原則NG!2店舗目からは、その店の常駐スタッフに講習を受けてもらうか、調理師・栄養士など資格保有者に選任するのがスムーズです(山梨県食品衛生施行条例など各自治体より)
多店舗展開を見据えるなら、「長く働いてくれそうな店長候補に講習を受けてもらう」という仕組みを早めに作っておくと、店舗を増やすたびにバタつかずに済みます。食品衛生責任者の講習は約1万円・1日で取得できるので、入社後の研修に組み込んでしまうのがおすすめです。
〈店舗数による必要な責任者の人数〉
|
店舗数 |
必要な食品衛生責任者数 |
ポイント |
|
1店舗 |
1名 |
オーナー自身でもOK |
|
2店舗 |
2名(兼任不可) |
2号店に別途選任が必要 |
|
3店舗 |
3名(兼任不可) |
各店舗に常駐できる人が前提 |
実務講習って受けないといけないの?資格の更新は必須?
食品衛生責任者の修了証自体に有効期限はありません。一度取れば失効することはないので「更新を忘れて失効した!」という事態は起きません。
ただし、「定期的な実務講習の受講」については注意が必要です。国の制度上は努力義務とされていますが、東京都など自治体によっては条例により受講が義務付けられている場合があります。
-
自治体によっては条例で実務講習の受講が義務付けられている場合があります(例:東京都)。「努力義務だから受けなくていい」とならないよう、必ず管轄の保健所または自治体のホームページで最新情報をご確認ください。
|
項目 |
内容 |
|
修了証の有効期限 |
なし(一度取得すれば永続) |
|
実務講習(フォローアップ) |
営業許可の有効期間内に1回以上受講することが推奨されている(努力義務) |
|
営業許可の更新 |
通常5〜8年ごとに更新が必要。保健所から事前に通知が来るケースが多い |
|
実務講習の目的 |
HACCPなど食品衛生に関する最新知識のアップデート。2021年の義務化以降、内容が改定されている |
「修了証に期限はないから何もしなくていい」は半分正解・半分間違いです。実務講習は自治体条例により義務となっているケースがあり、営業許可の更新時に受講履歴を確認する自治体もあります。最低でも許可の更新タイミングに合わせて1回は受けておくと安心です。
HACCPって今も義務なの?飲食店経営者が知っておくべきポイントは?
「HACCPって聞いたことはあるけど、うちの小さなお店には関係ない話でしょ?」——これは誤解です。
2021年6月から、個人経営のカフェや居酒屋を含む原則すべての飲食店で、「HACCPに沿った衛生管理」が義務化されています(食品衛生法改正・厚生労働省)。大手チェーンだけの話ではありません。
小規模飲食店が対象になるのは「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」
規模によって2種類あり、一般的な個人飲食店が対象になるのは「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」(旧・基準B)です。7原則12手順という複雑なものではなく、業界団体が作った手引書をもとに、自店舗に合った衛生管理計画を作って記録・運用すればOKです。
|
区分 |
対象 |
内容 |
|
HACCPに基づく衛生管理 (旧・基準A) |
大規模事業者・と畜場・食鳥処理場など |
コーデックスの7原則12手順に基づく詳細な管理 |
|
HACCPに基づく衛生管理 (旧・基準A) |
小規模な飲食店・個人店など |
業界団体作成の手引書をベースに衛生管理計画を作成・記録 |
要するに「毎日の冷蔵庫の温度記録をつける」「調理器具の洗浄・消毒のルールを決める」「食材の入荷記録をつける」といった、現場で普段やっていることを「見える化・記録化」する取り組みがHACCPの実体です。
HACCPに対応していないと、営業許可の更新が通らなくなるリスクや、万が一食中毒が起きた際に行政処分が重くなる可能性があります。厚生労働省・東京都保健医療局の資料でも注意喚起されています。
-
HACCPの衛生管理計画の作成・運用を担うのが食品衛生責任者の仕事です。責任者自身がHACCPの内容を理解していないと、いざ保健所の検査が入ったときに説明できません。実務講習ではHACCPの最新情報も扱われるので、定期的な受講が実質的に必要になってきています。
調理師免許って、飲食店経営中に持っていると何かトクするの?
「開業に必須じゃないなら、別にいらないでしょ」——でも、経営が軌道に乗ってきたときこそ、調理師免許が意外な武器になります。
多店舗展開のとき、食品衛生責任者をすぐ選任できる
調理師免許を持っている人は、食品衛生責任者の養成講習が免除されます。つまり、調理師免許持ちのスタッフがいれば、新店舗の食品衛生責任者をすぐ選任できるということ。2号店・3号店の立ち上げ時にスピードが変わります。
採用・定着に効く
「調理師を名乗れる職場」という点は、調理師免許を取得した料理人にとって大きなポイントです。将来的に調理師を採用したいなら、オーナー自身が取得していることで共感が生まれやすく、面接でもプラスに働きます。
専門調理師・料理長への道
調理師免許を取得後、実務経験を積むと「専門調理師」の受験資格が得られます。専門調理師は高度な技術認定であり、ホテルや高級レストランへの業態転換・ブランド価値向上に繋がります。
メニュー拡大・業態転換につながる関連資格
調理師免許を持っていると、関連資格の取得がしやすくなります。経営的なメリットが大きい資格としては、ふぐメニューの提供を可能にする「ふぐ調理師免許」や、スイーツ・製菓販売への業態拡張に必要な「製菓衛生師」が挙げられます。いずれも客単価アップや新規顧客獲得に直結するため、業態転換を検討している経営者には特に有益です。また、調理技術の向上は食材のロス率低下や原価コントロールにも貢献し、経営の安定化につながります。
-
調理師免許は実務経験2年以上あれば試験ルートで取得できます。合格率は全国平均約60%で難易度は比較的低め。経営の合間に勉強して取るオーナーも少なくありません
飲食店経営を安定させる「あると差がつく」資格って何がある?
法的な義務ではないけれど、「持っていることで経営がラクになる・強くなる」資格がいくつかあります。業態別に整理しました。
衛生・安全管理系
|
資格名 |
経営上のメリット |
|
食品衛生管理者 |
乳製品・食肉加工品など特定食品の製造に必要。メニュー拡大・製造販売に参入したいときに |
|
HACCP管理者(民間) |
HACCP対応の質を証明できる。取引先や投資家への信頼性が向上。日本食品保蔵科学会などが認定 |
|
食品安全マネジメント(FSMS) |
食品安全の国際規格。フランチャイズ展開・食品卸・輸出を視野に入れる場合に有利 |
サービス・ブランディング系
|
資格名 |
主な取得機関 |
こんな経営フェーズで効く |
|
ソムリエ |
日本ソムリエ協会(JSA) |
ワインメニューを武器にしたいとき・客単価アップを狙うとき |
|
唎酒師 |
日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI) |
日本酒ラインナップを強化したいとき・和食・日本酒バーへの転換 |
|
バリスタ技術者 |
日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)など |
コーヒー特化で差別化したいとき・テイクアウト強化 |
|
野菜ソムリエ |
日本野菜ソムリエ協会 |
健康志向メニューを打ち出したいとき・SNSブランディング |
|
フードコーディネーター |
日本フードコーディネーター協会(JFCA) |
メニュー開発・食イベント・メディア出演など活動を広げたいとき |
これらの民間資格は「SNSや求人でストーリーを語れる武器」です。特に飲食店の集客がSNS中心になっている今、「オーナーのプロフィール」がお店への信頼や来店動機に直結することが増えています。
飲食店経営者自身が資格を持つと何が変わるの?現場のリアルとは
資格は「あってもなくても大して変わらない」ものと思われがちですが、実際には経営の安定度に直結するケースがあります。具体的にどんなシーンで差が出るか、まとめておきます。
スタッフ急退職
食品衛生責任者がいなくなっても、オーナー自身が責任者になれるため営業を止めなくて済む
多店舗展開
新店舗の食品衛生責任者探しに困らない。調理師免許持ちスタッフへの選任もスピーディに
採用・ブランディング
オーナー自らの資格・実績がSNS・求人票での差別化につながり、応募数・客数に影響する
特に「食品衛生責任者はスタッフ任せ」にしているお店は、人材の入れ替わりが多い飲食業では何度もリスクに直面します。「経営者が自分で持つ」「長く働いてもらえそうなスタッフに研修として取ってもらう」——このどちらかの仕組みを整えておくことが、経営の安定につながります。
まとめ | 飲食店の経営に必要な資格、ここだけ押さえよう
飲食店経営ではまず、食品衛生責任者が常に在籍しているかを確認し、複数店舗の場合は各店舗ごとに適切に配置されていることが重要です。あわせて、HACCPに基づく衛生管理の記録が日々きちんと運用されているかも定期的に見直しましょう。
次に、経営を安定させるためには、オーナー自身が食品衛生責任者の資格を取得し、スタッフにも講習を受けさせる体制づくりが有効です。多店舗展開を視野に入れるなら、調理師免許を持つ人材の確保や育成も意識しておくとスムーズです。
さらに余裕があれば、ソムリエやバリスタなどの資格を活用し、ブランディングや採用強化につなげるのも有効です。資格は一度取得して終わりではなく、経営の中で管理・活用し続けることが、安定した店舗運営につながります。