開業者必見:他人名義で飲食店を経営すると“税務署が狙うリスク”とは?

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はじめに

「自分では営業許可が取れないから」「家族や知人の名義を借りれば大丈夫」と考えて、他人の名義で飲食店を経営しているケースは少なくありません。

しかし、税務署はこうした“名義のすり替え”を厳しく見ています。
名義を借りて実際の利益を得ていた「実質経営者」こそ、最終的に重い責任を負うことになるのです。

今回は、実際の裁決事例(国税不服審判所 公表裁決事例)を交えながら、
他人名義で経営するリスクをわかりやすく解説します。

虫眼鏡を覗く男性


飲食店で「名義を借りて経営する」とはどういうこと?

飲食店では、営業許可・店舗契約・事業主登録などを家族や知人の名義で行い、実際の経営は別の人が行うという形態が見られます。

たとえば次のようなケースです:

  • 資金繰りや信用上の理由で、自分名義では営業許可を取れない

  • 税負担を軽く見せるために、家族名義で売上を分散している

  • 店舗契約を避けるために、他人名義で賃貸契約を結ぶ

こうした行為は、表向きは「名義人=経営者」と見えますが、実際の利益を得ているのは別の人という構図になります。
税務署はこのような状況を「実質所得者課税の原則(所得税法第12条)」に基づき、実際に経営して利益を得た人=課税対象者と認定することができます。


飲食店で他人の名義を借りている?税務署が見抜く“実質経営者課税”とは

「他人の名義を使っているから自分は関係ない」と思っていませんか?
実は、飲食店の実質経営者こそが本当の課税対象になるケースが多いのです。税務署は、名義よりも“実際に誰が経営し、利益を得ているか”を見ています。

つまり、たとえ店舗の許可証や契約書が家族・知人の名義になっていても、実際にあなたが運営して利益を得ているなら、課税の矛先はあなたに向かうということです。

では、その根拠となる法律はどのように定められているのでしょうか?

 

所得税法第12条がポイント

飲食店の名義借り経営をめぐっては、税法上の大原則である「実質所得者課税の原則」が重要になります。

所得税法第12条では、次のように明記されています:

「所得税は、その所得を実際に享受する者を納税義務者とする。」

この条文は非常にシンプルですが、意味は深いです。
要するに、名義が誰であっても、実際にその利益を得た人が税金を払う義務を負うということ。

たとえば、飲食店を家族名義で営業していたとしても、仕入れ・人件費の支払い・売上の管理などを実質的にあなたが行っていれば、税務署は「あなたが経営者」と判断します。

ここで重要なのは、「税務署は形式より実態を見て判断する」という点です。
つまり、「名義人が誰か」ではなく、「経営判断をしていたのは誰か」が問われます。

税務署は、帳簿・銀行口座・仕入れ伝票・給与支払い記録・従業員の証言など、あらゆる証拠から「実質的に誰が経営していたのか」を徹底的に調べます。

たとえば次のような点が重視されます:

  • 売上入金口座は誰の名義か

  • 店舗家賃や光熱費を誰が支払っているか

  • スタッフ採用・メニュー決定などを誰が行っているか

  • 仕入先との取引・支払い責任者は誰か

こうした実態を総合的に見て、名義上の人物ではなく「実際に経営していた人」こそが課税対象となります。


飲食店の「名義借り経営」はバレる?税務署が見抜いた“実質経営”の真相

「名義を借りているだけだから大丈夫」──そう思っていた経営者がいました。
しかし、税務署はその実態を見逃しませんでした。
結果、実質経営者として課税されるという厳しい結末を迎えたのです。

お金に悲しむ男性

 

本当にあった!飲食店の名義借りで“税務署にバレた”実例

実際に、国税不服審判所の公開事例(kfs.go.jp)では、他人の名義を使って飲食店を経営していた人物が、税務調査の結果「実質的な経営者」と認定され、法人税・消費税・源泉所得税まで追徴課税を受けています。

どんなことをしていたのか?

この経営者は、複数のバーやラウンジを元妻や知人の名義で営業していました。

表向きは「他人の店」でも、実際の運営はすべて本人が行っていたのです。

  • 店舗の営業許可は、知人や家族の名前で取得

  • 仕入れ・改装・スタッフの給与計算・売上金の管理まですべて本人が担当

  • 売上伝票や日報も自分が保管し、必要に応じて内容を修正

  • 店舗の賃貸契約には本人が連帯保証人として署名

  • 売上金を自分で回収し、帳簿の内容を操作していた

つまり、名義だけ他人にして、実質的には自分が経営していたのです。

 


審判所の判断

審判所は、この経営実態を徹底的に調べました。
そのうえで、次のように判断しています

「名義人は形式的に許可を取っていただけにすぎず、実際に経営の実権を握っていたのは本人である。
よって、収益は名義人ではなく本人に帰属する。」

つまり、「名義を借りて経営していた側」が課税の中心とされたのです。

 


税務署が注目したポイント

税務署は、“誰が名義人か”ではなく、“誰が実際にお金を動かしていたか”を見ています。
このケースで重視されたのは次の4点です。

  1. 経営の実権を握っていたか
     → 売上・経費・スタッフ採用・店舗の改装など、すべて本人の決定だった。

  2. お金の流れが名義人と一致しているか
     → 売上金の入金口座や給与の支払いは、名義人ではなく本人の口座だった。

  3. 帳簿や伝票の管理者は誰か
     → 売上日報・領収書などを本人が管理し、内容を修正していた。

  4. 税金の申告・納付は誰が行っていたか
     → 名義人ではなく本人が実質的に納税をコントロールしていた。

  5.  

結果どうなったのか?

  • 法人税・消費税・源泉所得税を中心に追徴課税

  • 帳簿の不備が指摘され、青色申告の承認も取り消し

  • さらに、「虚偽の売上報告」「帳簿隠し」などが認定され、重加算税(本税の35〜40%)まで課されました。判所の結論は厳しいものでした。

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この事例からわかること

  • ・「家族や知人の名義だから大丈夫」は通用しない

  • ・実際にお金や経営を動かしていた人が“本当の経営者”として課税される

  • ・名義借り経営は、税務署に必ず見抜かれる

税務署は、帳簿・銀行口座・仕入れ伝票・給与明細など、ほんの少しのズレからでも「実質経営者」を突き止めます。

 


ワンポイントまとめ

飲食店の名義借り経営は“節税の裏ワザ”ではなく“脱税リスク”そのもの。
名義を借りて経営すれば、名義人だけでなく実際に動かしていた本人にも課税されます。

 

飲食店の実質経営者が負う「税金トラブル」と法的リスクとは?

「名義を借りているだけ」と思っていても、税務署から実質経営者と認定されれば、重い税金の支払いや営業停止など、さまざまなリスクを背負うことになります。

実際に利益を得ていたのが誰かを基準に、税法上の責任は“名義人ではなく経営の実態を持つ人”に課されるのです。
ここでは、特に注意すべき3つのトラブルを見ていきましょう。

 

追徴課税・重加算税の怖い現実

もし税務署から「あなたが本当の経営者ですね」と認定されると、申告していなかった分の税金をあとからまとめて請求されることになります。
これが「追徴課税(ついちょうかぜい)」です。

さらに悪質とみなされると、本来の税金に加えて最大40%もの“重加算税”が上乗せされます。
つまり、100万円の税金を逃れたと判断されれば、最大で140万円を支払わなければならない計算です。


関連法令:国税通則法第68条(重加算税)

納税者が仮装または隠ぺいを行った場合、35%または40%の重加算税を課す。


たとえ「名義人に頼まれただけ」「書類を借りただけ」というつもりでも、実際にお金の管理をしていたり、利益を受け取っていた場合には、脱税の中心人物として扱われることがあります。

税務署は、帳簿や口座の動きを細かく追跡します。
“仮装”や“隠ぺい”と判断されれば、過去数年分の確定申告までさかのぼって再調査されることもあります。

その結果、数百万円単位の追加納税を求められるケースも少なくありません。
一度「重加算税」が課されると、今後の税務調査でも常に“要注意人物”としてマークされるおそれがあります。

 


名義ズレで起きる消費税トラブル

飲食店の経営では、仕入れや家賃などにかかる消費税の一部を控除(差し引き)できます。
これを「仕入税額控除」といいます。

でも、請求書や領収書の名義が実際の経営者と違っていると、税務署は「取引の当事者が違う」と判断し、
その控除を認めてくれないことがあります。


たとえば、こんなケースです

  • 仕入れ先からの請求書が、実際の経営者ではなく名義人の名前で発行されている

  • 店舗の家賃の領収書が名義人宛てになっている

このような場合、
「実際にお金を払った人と、書類上の名義が一致していない」と見なされ、消費税の控除ができなくなることがあります。

つまり、税務署からはこう言われるのです。

「あなたの名前で支出した証拠がないので、経費とは認めません。」

その結果、想定より多くの消費税を払わされることになります。


さらに厳しい場合には、
税務署がこのズレを「わざと名義を使い分けて隠した」と判断し、“仮装”や“隠ぺい”行為とみなすこともあります。

一度そう判断されると、重加算税の対象になるリスクもあるのです。

 


融資・許認可トラブル

名義を借りて飲食店を経営していると、税金だけでなく、お金を借りる・営業を続けるといった場面でも大きなトラブルになります。

銀行や保健所、補助金の審査窓口など、どの機関も「名義と経営の実態が一致しているか」を非常に重視しています。
少しでもズレがあると、“信用がない経営者”と見なされてしまうのです。


たとえば、こんなことが起こります

  • 保健所の調査で“名義だけの経営”が発覚した場合

     → 「実際の経営者が別人」と判断され、営業許可が取り消される可能性があります。

  •  
  • 銀行や公的機関への融資申請時
     → 名義人と申込人が違うと、虚偽申請扱いになり、審査に通らなくなります。

  •  
  • 補助金・助成金の申請時
     → 名義と実態の不一致がわかると、支給済みの補助金を返還命令されることも。


一度でも「信用に問題がある」と記録されると、その後、正しい名義で許可を取ろうとしても、審査は非常に厳しくなります。
特に金融機関は、過去の名義借り経営を「リスクのある経営」と判断するため、新しい融資やリース契約を断られるケースもあります。


飲食店の名義借りは通用しない!税務署が“実質経営者”を突き止める方法とは?

お金に困る男性

税務署が見るのは、「名義上の経営者」ではなく「実際にお金を動かしていた人」です。
次のような点を丁寧に確認して、
「実際に経営していたのは誰か」を特定します。

  • 売上・入金口座は誰の名義か
     → 売上金が名義人ではなく他人の口座に入っていないかを確認します。

  • 店舗の家賃・光熱費は誰が支払っているか
     → 経費の支払者が名義人と違えば、“実質経営者”と判断されやすくなります。

    従業員の給与支払い者は誰か
     → 給与明細や源泉徴収票から、実際に従業員を雇っていた人物を特定します。

  • 原材料の仕入れ先・発注者は誰か
     → 取引先や請求書の名義を調べ、実際の取引主体を確認します。

  • 経営方針やメニュー決定を誰がしているか
     → 店舗スタッフや取引業者への聞き取りで、最終判断者を割り出します。

  •  

これらの情報をすべて突き合わせることで、税務署は「実際の経営判断者=実質経営者」を明確に特定します。つまり、“名義だけ他人”というやり方はほぼ通用しません。

 

飲食店で名義借りトラブルを防ぐには?“実質経営者”と見なされないためのポイント

「一時的に名義を借りただけ」「知人のお店を少し手伝っているだけ」──
そう思っていても、実際の経営に深く関わっていると、税務署から“実質経営者”と判断されることがあります。

名義借りが疑われるケースでは、お金の流れと経営判断の線引きをはっきりさせておくことが重要です。
以下のポイントを守ることで、「単なる協力者」と整理される可能性が高まります。

 


飲食店できる!実質経営者と見なされないための具体的な対策

  • ・資金の流れを名義人側の口座に一本化する
     → 売上や経費の入出金が自分の口座を経由すると、実質的に“経営している”と判断されやすくなります。

  •  
  • 契約・支払いは名義人の名義で行う
     → 店舗契約、仕入れ、光熱費など、すべての契約書類や請求書を名義人の名前で統一しましょう。

  •  
  • 経営判断には直接関わらない(顧問・相談役にとどめる)
     → メニューや価格設定、人事の決定などに関わると、「実質的に経営している」と見なされるリスクが高まります。

  •  
  • 従業員の給与は名義人が支払うようにする
     → 給与の振込主や源泉徴収票の名義が誰かは、税務署が最も重視する部分です。

  •  
  • 帳簿・会計記録は名義人が保管・管理する
     → 帳簿やレジデータが自分の手元にあると、経営実態の証拠と見なされるおそれがあります。

  •  

これらのルールを守ることで、税務署に「経営の主体は名義人だ」と説明できる明確な根拠が残せます。
逆に、どれかひとつでも曖昧なままだと、「実態はあなたが経営していた」と判断されるリスクが高まります。


まとめ:飲食店の名義借り経営は“必ず見抜かれる”

他人の名義で飲食店を経営することは、一見すると小さな抜け道のように見えて、実際は税務署が最も厳しく追うリスク行為です。

名義人ではなく、実際に利益を得ていた人が課税対象となり、重加算税や営業停止など、深刻な処分を受ける可能性もあります。税務の原則はシンプルです。

名義は形式、見るのは実態。

もし事情があって名義を借りざるを得ないなら、税理士や行政書士に相談し、契約や帳簿を透明に管理しましょう。

名義を守ることは、あなたの飲食店を守ること。安心して続けられる経営の第一歩です。

 

 

 

豊幡佳乃
立命館大学 法学部 大学で法律を専門的に学び、法的知識を基盤に飲食業界向けの記事を執筆。食べることが大好きという自身の関心を活かし、飲食店経営者やスタッフの方々が直面しやすい法律問題や制度のポイントを、専門用語をかみ砕きながらわかりやすくお届けしていきたいと考えています。
豊幡佳乃
立命館大学 法学部 大学で法律を専門的に学び、法的知識を基盤に飲食業界向けの記事を執筆。食べることが大好きという自身の関心を活かし、飲食店経営者やスタッフの方々が直面しやすい法律問題や制度のポイントを、専門用語をかみ砕きながらわかりやすくお届けしていきたいと考えています。