2026/02/24

酒類売上5か月連続減少の衝撃。飲食店が今こそ「ドリンク戦略」を根本から作り直すべき理由とは?

国内の飲食店において、かつての利益の柱であった「酒類売上」の減少が止まりません。総務省の家計調査データによると、酒類および飲料の実質支出は直近で5か月連続の減少を記録しています。これは単なる一時的な景気変動ではなく、日本人のライフスタイルそのものが変容した「構造的な変化」と捉えるべき事態です。

かつてのように「お酒さえ出しておけば利益が出る」というモデルは、すでに終焉を迎えつつあります。本記事では、データから読み取れる消費者の変容を分析し、これからの飲食店が生き残るための「新・ドリンク戦略」を詳しく解説します。

注文点数の減少が示す「真の課題」とは?

売上減少の内訳を詳しく分析すると、そこには深刻な傾向が見て取れます。売上が落ちている最大の要因は「単価の低迷」ではなく、圧倒的な「注文点数(数量)の減少」です。

2019年以前と比較すると、外食における「乾杯の1杯」は維持されているものの、2杯目、3杯目とお代わりが続く「多杯注文」が激減しています。背景にあるのは、若年層を中心とした「ソーバーキュリアス(あえて飲まない派)」の台頭や、中高年層の健康志向の高まりです。さらに、コロナ禍を経て「深酒をせずに早めに帰宅する」という習慣が完全に定着したことも、注文点数を押し下げる大きな要因となっています。

仕入れ価格が高騰し、提供単価を上げざるを得ない中で、注文数そのものが減っている。この「ダブルパンチ」が、現場の経営を圧迫しているのが実情です。

滞在時間と回転率のバランスが変わった

顧客の行動変化は、店舗の「滞在時間」にも大きな影響を及ぼしています。以前は、滞在時間が長くなればなるほどドリンクの注文が重なり、客単価が上昇するというのが定説でした。しかし現在は、滞在時間が延びても「無料の水」や「少量のドリンク」で過ごす客層が増えたことで、「長時間滞在しているのに客単価が伸びない」という、飲食店にとって最も避けたい状況が生まれています。

一方で、短時間で食事を済ませる顧客層は、回転率の向上には寄与しますが、利益率の高いドリンクを注文する機会が極端に少なくなります。つまり、滞在時間が長くても短くても、従来のアルコール頼みのモデルでは利益が残りにくい構造になっているのです。今、飲食店に求められているのは、短い滞在時間の中でも確実に「価値」を感じてもらい、1杯の注文を促す、密度の高い接客とメニュー構成です。

「アルコール以外」を新たな収益の柱に育てる!

酒類売上の減少を補うためには、アルコール以外のカテゴリーを単なる「添え物」から「主役」へと昇格させる必要があります。ここで注目すべきは、単価を上げても納得感のある「高付加価値ドリンク」の導入です。

例えば、近年のトレンドである「モクテル(ノンアルコールカクテル)」は、その代表格です。単なるジュースやウーロン茶ではなく、自家製シロップやフレッシュハーブ、スパイスを駆使したモクテルは、お酒を飲まない層に対しても、アルコールと同等の価格帯(700円〜900円程度)で提供することが可能です。「お酒を飲まないから安く済む」という顧客心理を、「お酒を飲まなくても贅沢な時間を過ごせる」という満足感へ変換させることが、単価アップの鍵となります。

また、料理との「ペアリング」をドリンク戦略の中心に据えることも有効です。ワインに限らず、厳選された日本茶やクラフトソーダを特定の料理とセットで提案することで、顧客は迷うことなくドリンクを注文し、結果として体験価値と単価が同時に向上します。

飲食店が進むべき具体的な「新・ドリンク戦略」とは?

酒類売上の減少という荒波を乗り越えるためには、これまでの「待ち」の姿勢を捨て、攻めのドリンク戦略を展開する必要があります。具体的に着手すべき3つの柱を詳述します。

① 「妥協」を「期待」に変えるメニュー改革

まず着手すべきは、アルコールを飲まない、あるいは控えている顧客層を「退屈させない」メニュー作りです。 これまでのソフトドリンクメニューは、コーラやオレンジジュースといった、既製品をグラスに注ぐだけのものが大半でした。しかし、今の顧客が求めているのは「その店でしか飲めない価値」です。

  • プレミアム・ノンアルコールの開発: 自家製のフルーツシロップや、スパイスを漬け込んだビネガーなどを用いた「クラフト・ドリンク」を導入します。視覚的にも華やかな「モクテル」は、SNSでの拡散性も高く、800円前後の高単価でも「体験価値」として納得感を得られます。

  • 「低アルコール」という選択肢: 度数0.5%〜3%程度の「ローアルコール」カテゴリーを独立させます。翌日の仕事に響かせたくないが、場の雰囲気は楽しみたいという現代のニーズに合致し、2杯目以降の注文を繋ぎ止める防波堤となります。

② 「迷い」を消して注文率を上げる価格・構成戦略

顧客が「水でいいや」となってしまう最大の理由は、注文する動機(きっかけ)がないことです。店側から自然な形でドリンクを差し込む設計が求められます。

  • ペアリング・パッケージの導入: 「この料理にはこの1杯」をあらかじめセットにしたプランを標準化します。例えば、メイン料理の価格にプラス500円で、その料理の味を最大限に引き立てる「ハーフサイズのドリンク」を付けられるようにします。

  • テイスティング・コースの提案: 少量ずつ3種類のドリンクを楽しめる「飲み比べセット」をアルコール・ノンアルコール双方で用意します。これは客単価を維持するだけでなく、顧客の滞在中の「楽しさ」を増幅させ、再来店率(リピート率)の向上にも寄与します。

③ 接客を「作業」から「コンサルティング」へ

 

どんなに素晴らしいメニューも、現場のスタッフがその価値を伝えられなければ宝の持ち腐れです。短縮傾向にある滞在時間の中で、いかに「提案」を差し込めるかが勝負です。

  • レコメンドの言語化: 「お代わりはいかがですか?」という問いかけは、今の時代「No」と言われやすい言葉です。これを「次の料理は少しスパイシーですので、こちらの甘みを抑えたドリンクを合わせると非常に美味しいですよ」という、コンサルティング型の提案に変えるトレーニングが必要です。

  • ファーストオーダーの重要性: 滞在時間が短くなっている今、最初の一杯でいかに顧客の心を掴めるかが全てです。本日のおすすめドリンクを、ストーリー(産地や製法のこだわり)と共に伝えることで、その後の追加注文への心理的ハードルを下げることができます。

まとめ

酒類売上の5か月連続減少という数字は、もはや一時的な不況ではありません。しかし、これは顧客が「外食の楽しみ」を捨てたわけではなく、その楽しみ方が「酔うこと」から「味わうことや過ごすこと」へとシフトした結果だと言えます。時代の変化に合わせ、ドリンクメニューの価値を再設計し、アルコールに頼りすぎない柔軟な経営モデルを構築すること。それが、これからの時代に選ばれ、勝ち残る飲食店の絶対条件となるはずです。

 

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柴田彩
大学ではインターナショナルビジネスとマーケティングを専攻しました。多文化な環境で暮らす中で、「言葉で伝えること」の力と難しさ、そして面白さを日々実感してきました。 このサイトでは、日本の飲食業界における外国人材の受け入れや、「特定技能」制度に関する情報を中心に発信しています。制度や手続きといった堅いテーマも、できるだけわかりやすくお届けできたらと思っています。誰かの「なるほど」「知らなかった!」という気づきにつながる、そんな記事を目指しています。
柴田彩
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